ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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別に……(ヤク中並感)


sequence88 真っ赤な拳

 

 

 騒がしい喧騒が外で響く中、彼女はまだ殻に閉篭もる。恐ろしい獣のような男に怯え、身を震わせ、頭を抱え。彼女はただただ終わりが来るのを待つ。その終わりも、彼女が救われるエンドとは限らない。むしろ、バッドエンドの方が可能性としては高かった。

 背後の気配すらも無視し、彼女はただ閉篭もるしか術を知らない。これがつい先日まで勇猛果敢に戦っていた少女だと、誰が気付くだろう。

 

「琉希」

 

 背後の亡霊が声をかける。その声色には多少の諦観も混ざってはいるものの、それはバッドエンドに対する諦めではない。単純に、少女に対して抱いた感情だろう。

 亡霊はいよいよ親友である自分すらも無視するようになった少女に話しかける。

 

「もう、やめにしないか」

 

 少女はその言葉を、額縁通りに受け取った。悲痛な表情で振り返り、唯一信じていた友という都合のいい存在を見つめる。

 

「やめるって、死ねってこと!?それともあの男の物になれってこと!?」

 

 錯乱した少女の声は鼻声で、聴いているだけでも痛々しい。だがリリィは首を横に振った。悲観的な彼女の考えを、一切否定したのだ。

 

「戦うのじゃ、琉希」

 

「それでどうなったかは知ってるでしょう!?翠星石は殺されたの!次は私!」

 

 忌々しい記憶がフラッシュバックする。二人で挑み、無様に負け、相棒である翠星石が殺された上に取り込まれ。次は自分の身体を狙ってきている。

 だがそんな彼女の思考を知っても、リリィは引き下がらない。亡霊は部屋の隅にある木箱を指差した。

 

「あれを開けるんじゃ、琉希」

 

 言われて、彼女は時間をかけながらも恐る恐るその木箱を開けた。そこに入っていたのは……大量の爆薬。白い粘土状の、プラスチック爆薬だった。

 

「え、これ」

 

「なぁ琉希よ」

 

 亡霊は、戦うことに諦めたのではない。彼女は友である少女を背後から抱きしめる。同時に、悪寒が走った。次に言うであろう言葉が容易に想像できてしまったのだ。

 

 

「死ぬのであれば、せめて戦って死のう。生きても死んでも、儂はお前と共にあるのだから」

 

 亡霊が指を重ねる。甘い、甘すぎる死刑宣告。どちらにしろ死ぬのであれば、勇ましく死ねと。彼女はそう言うのである。

 意識は乗っ取られない。重く苦しい判断は、まだ高校生の少女に委ねられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠れているジュンくんの周辺に弾丸が飛んでくる。亜音速で飛んでくる弾丸はソニックブームこそ発生させはしないが、着弾すればそれなりに大きい音を発てた。まるで小石がガラスに当たったような音だった。

 礼と彼の兄が戦って数分、分が悪いと判断したのか、まずは狙撃支援をしていたジュンくんから殺しにきたのだ。これまで射撃訓練こそしてきたが、こうして本格的な戦闘はした事がなかった。それ故に、明確な殺意に晒されることに彼は慣れていない。

 

「クソ……!僕じゃなくて弟を狙えよ……!」

 

 その弟が強すぎた。幸いジュンくんの正確な位置は分かっていないらしく、至近弾こそあるものの当たるような物はない。だがこちらから撃てば確実に位置を特定されるだろう。それに、この暗闇のせいで敵である河原兄の場所すらもよくわからないのだ。

 ライフルに搭載されたサーマルスコープで確認しようにも、ひっきりなしに弾が撃ち込まれていれば本能的に姿勢を低くしてしまう。どうするか。

 

「おい、ジュンくん」

 

「ッ!」

 

 突然背後から声がした。伏せながら銃口を向けようとすれば、見知った男が慌てたように銃を掴んだ。隆博だった。

 

「待て待て、味方だ。今のところはな」

 

 含んだような言い方でジュンくんを警戒させる隆博は、匍匐しながら彼の横まで這う。

 

「なんでここに?琉希さんは?」

 

「蒼星石とみっちゃんが一緒だ。逃げようにもここであいつをどうにかしねぇと逃げられねぇだろ」

 

 そう言いながら、隆博は腰のポーチを漁る。取り出したのはスモークグレネードだ。

 

「こいつを投げたら後ろに下がれ。そんでもってまた狙撃に徹しろ。そいつで近接戦闘は無茶だ」

 

 ジュンくんの持つライフルを顎で指す。彼が狙撃に使っていたのは銃身長が長い中距離狙撃用のライフルだ。強力な7.62mm弾を使用するこのライフルは威力こそあるものの、近接戦闘には酷く向かない。中学生という成長期の少年なら尚更だ。

 

「隆博さんはどうするんです?」

 

「あいつを止めるのは俺だってそれ一番言われてるから」

 

 言うや否や、隆博はスモークグレネードを投げる。同時に射撃が来る方向へと手にしたライフルを撃ちまくった。

 

「行けッ!」

 

 言われると同時にジュンくんは走り出す。すぐそばを銃弾が掠めるが、それを気にしている余裕はなかった。今はただ、やるべきことをやるだけだ。

 走っていくジュンくんを背に、隆博は射撃をやめて友を待つ。弾倉を交換し、身を低くして待ち構える。そのうち相手からの射撃が止み、走ってくる音が聞こえた。それも二つ。

 

 一つの足音が近くに寄ってくる。隆博はライフルを脇に抱え、腰だめで勢いよく飛び出した。目の前に、全力でこちらへ走ってくる友がいた。

 

「警察だッ!(大嘘)」

 

「なんだお前(素)」

 

 いつも通りのやり取りに、ただ殺し合いがくっついてくるだけ。隆博はセレクターをフルオートにして引き金を引く。連発して発射されたライフル弾は友を貫こうと迫った。

 

「マジかお前ッ!」

 

 間一髪それをかわした友だったが、無傷では済まなかった。彼の手にしたライフルが弾丸を受けて破損したのだ。

 友はすぐさま隆博のライフルを破損したゴミで払って拳銃を抜こうとする。だが隆博も蹴りで腕を払うと、ライフルのストックで思い切り殴った。

 

「いでッ!」

 

 運良く腕でブロックしたが、まず間違いなく骨折しただろう。そのまま構え直すように銃口を振り抜き打撃を加えようとするが、

 

「ぐっ!」

 

 今度は隆博が声をあげた。そのまま友がタックルをかましてきたからだ。二人はみっともなく転げまわり、マウントを取ろうと取っ組み合う。まるで逆シャアの1シーンみたいだが、二人はあそこまでイケメンではないし様になってもない。

 そのうち隆博が友に馬乗りにされる。身長は隆博の方が高いのに、体重はやや筋肉質な友の方が多いせいで中々退いてくれない。

 

「この!この!ついでにお前も死ねっ!」

 

 隆博の顔面を何度も殴りつける。隆博はブロックしつつ、痛みに耐えながら何とか打開策を探した。探して、友の腰のポーチに目をつける。無理やり手を伸ばしてそのポーチを開こうとすると、

 

「やめろバカ!」

 

 友が邪魔をしてくる。

 

「うっせぇテメェが死ね!」

 

 咄嗟に隆博は背中に反対側の手を伸ばし、ナイフを抜いた。逆手に持ったナイフを友の肩に突き立てる。肉を裂いた感触がよく伝わったが、それに酔いしれずに友のポーチの中身を掴んだ。

 そして、それに付いているピンを抜いた。手榴弾だった。

 

「ぐぉのっぉおおお!」

 

 心底悔しそうで痛々しい声を上げ、友は起爆寸前の手榴弾を投げ捨てる。ほぼそれと同時に、爆風と破片が彼らを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雛苺を追跡していた雪華綺晶の動きが止まった。更に言えば、それを追っていた水銀燈も思わず止まらざるを得なかった。

 いきなり動きを止めた末妹の動きを怪しむのは最もだろう。なにせ雪華綺晶はローゼンメイデン最強最悪の末妹なのだから。水銀燈は雛苺の下へ回り込み、二人で動きを止めた雪華綺晶と対峙する。

 

「何……?どうしたの?」

 

「知らないわよぉ……」

 

 しばらくして、動きがないなら攻撃しようとした時だった。雪華綺晶がため息を零した。艶のある吐息は白い。ため息すらも絵になるとは、ローゼンメイデンは美しい。

 雪華綺晶は月を見上げる。

 

「月はあんなに綺麗なのに、私はこんなにも醜いの」

 

「は?(威圧)」

 

 末妹の意味不明な発言に思わず水銀燈が零した。

 

「だって、そうでしょう?お父様に唯一ボディを与えられず、精神世界を彷徨って。今こうして姉妹を手にかけてまで至高の少女にならんと足掻くのですから」

 

 詩のようにすらすらと語り出す末妹。

 

「攻撃していいかしら?」

 

「待って雛苺、罠かもしれないわ」

 

 落ち着いて相手の出方を待つ。

 

「でもいいの、私は命を得る。命を得て、初めて私は生きたことになるのです。生きとし生けるものはすべて生き残るために醜いもの。それこそが、魂の輝きなのだから」

 

 スッと、雪華綺晶は二人を指差す。

 

「もう手段を選んでいる時間はありませんの、お姉様方。マスターもお疲れのようですし、追いかけっこは終わりにして」

 

 水晶の、大きな剣が指差す手に握られる。

 

 

 

「そろそろ死んでくださいな」

 

 

 同時に、剣の切っ先からレーザーが放たれた。あまりの瞬間的な速さに避けるよりもまず耐える事を選んでしまう。

 水銀燈は雛苺を庇うように翼を展開すると、それを盾にレーザーを受ける。ジリジリと焼けるような熱さが翼越しに伝わった。

 

「あっづぅぅうううううッ!」

 

「す、水銀燈!」

 

 レーザーの照射は止まらない。今出ていけば、雛苺もレーザーに巻き込まれる。その間にも、レーザーは確実に水銀燈の命を焼いていた。

 痛くて熱い。目眩もする。だが、それでも逃げる気にはなれなかった。妹を見捨てて逃げるという事を、プライドが高くて本当は優しい水銀燈ができるはずがないのだ。

 

「ああ、綺麗……命が焦げて、最期の瞬間までお姉様は熱くなれるのね。素晴らしいわ」

 

 でもね、と。

 

「それすらも、私は手に入れたい。雛苺の無垢さも、金糸雀の愛しさも、真紅の気高さも、翠星石の烈しさも、蒼星石の切なさも、そして水銀燈の燃え上がる誇りも、みぃーんな、手に入れたいの!」

 

 レーザーの出力が上がる。その頃にはもう、水銀燈の膝は地に着いていた。守っているのがやっとだった。いや、受けているのがやっとだ。

 

「れ、い……」

 

 少女は最愛の男の名を呟く。思えば、この数ヶ月は彼女が生きてきた中でも一番輝いていた。孤独ではなく、自分を満たしてくれる相手と生活し、アリスゲームという宿命ではなく初めて人間として生きるためにアリスを目指し。

 彼と添い遂げることはできなくても、満足はしていた。惜しむならば、家庭を築いて共に死にたいということ。

 

 水銀燈は、初めて死というものを理解した。永遠に生きる人形が、初めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ッ!?」

 

 雪華綺晶に何かが迫る。顔をそちらに向けるのが精一杯だった。白雪のような頬に、硬いなにかが突き刺さるのと同時に、彼女はレーザーを消して吹っ飛ぶ。木々に激突し、へし折りながらも彼女は数百メートルは吹っ飛んだ。

 

「え、なに!?」

 

 急に背中の痛みが消え、慌てる水銀燈。唯一その一部始終を見ていた雛苺だけが安堵したように腰を抜かした。

 

「来るのが遅いのぉ……」

 

 へたり込み、雪華綺晶を撃退した何かを見つめる。紅のドレス。流れるような金髪をツーサイドアップに絞り、硝子細工の瞳は青い。

 撃退した彼女は拳をヒラヒラと振るうと言った。

 

 

「待たせたわね……ちょっと本気で殴りすぎたかしら」

 

 

 ローゼンメイデン一の武闘派、真紅が登場した。

 

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