孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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48時間孤独のグルメ生放送を見てたら書きたくなりました。ただそれだけです。笑


第一話 東京都世田谷区三軒茶屋のボロネーゼ

 

 ……とにかく腹が減っていた。

 公園のベンチに座って缶コーヒーを飲むが、これでは腹はふくれない。

 もうすぐ新年度ということもあってか、4月に入る前に家具やインテリアを揃えたいという人が多いようで、最近はそこそこ忙しい。今日も朝早くから東京中を駆け回っていた。

 午前中に練馬で一件、杉並で一件。午後からも新規の客の予約が一件入っている。世田谷の花屋で、店頭に見本として花を活ける花瓶が欲しいという相談だった。場合によっては、そのまま花を買いにきた客に売ることも考えているらしい。

 いまどき珍しいほどに気持ちの良い人だった。決して好景気とは言えないこのご時勢にはありがたい新規の客。すきっ腹のだらしない姿を見せるわけにはいかない。

 

 ――さて、何を食うか。

 

 改めて考えてみると、途端に空腹が加速した気がする。これは早急に決めないとまずそうだ。

 今朝は鮭と味噌汁だったから、和食はパスだ。となると、中華か、洋食か……。最近ではタイとかベトナム、インドネシアだとかの料理の専門店も増えてきたが、がっつりいきたい今の気分にはちょっと合わない。

 和食、中華、洋食。俺の個人的な考えだが、結局のところ日本人はその分類に落ち着くものだ。とはいえ、中華にも洋食にも色々ある。北京か、四川か。上海か、広東か。イタリアンか、フレンチか。思考をぐるぐると回してみても、中々俺の腹は一所に止まってくれない。胃袋が中国とヨーロッパで迷子になっている。

 

 あせるんじゃない。俺は腹が減っているだけなんだ。

 考えるな。感じろ。神経を研ぎ澄ませ、胃袋の声に耳を傾けるんだ。

 そうすると脳裏にある光景が浮かんできた。昨日事務所で作業をしながらなんとはなしに点けていたテレビ。再放送していたアニメ映画での、大泥棒の孫とその相棒の食事のシーン。

 

 ごろりとした大きめのミートボールがたっぷり入った、山盛りのスパゲッティ。

 

 ――いいじゃないか。

 

 ハンバーグやステーキと並ぶ、ド直球の『洋食』。

 

「店を探そう」

 

 立ち上がり、空き缶をゴミ箱へ。

 かばんを引っ掴んで大またで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 三軒茶屋の駅前を歩く。さすがに駅前だけあって店が多い。種類も様々だ。

 どの店にするか。

 いくつかファミレスが目に入るが、こんな時間に男が一人でファミレスはちょっと厳しい。滝山あたりはきっと気にせず飛び込むんだろうが。

 そんなことを考えながら15分ほど歩くと、いかにもなイタリアンのピザ屋があった。表にある看板を見ると、パスタも各種あるようだ。

 ひょいっと中を覗きこむ。カップルや女性のみが多いせいか、カウンター席が空いていた。

 

 ――いいじゃないか。喫煙可なのも、俺好みだ。

 

 ここにしよう。

 ひとつうなずいて店の中へ。すぐそこにカウンター席だ。ファミレスの大きなテーブルに一人で座っていると、なんだか少し後ろめたい気持ちになるが、この店はそんなことはないようだ。

 背中とはいえ外から丸見えではあるのだが、どうせ一人飯だ。誰に気兼ねすることもなし。

 

「いらっしゃいませ。

 こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 

 店員からメニューを受け取って眺める。といってそこにあるのは2種類だけだった。

 本日のお勧めピッツァと、本日のお勧めパスタ。

 

 ――追加料金これだけでサラダとドリンクが付くのか。

 値段は全て税込みのようだから、この量で千円弱。悪くない。

 

 裏面を見てみる。お誂え向きに、そこにはボロネーゼの文字と写真が載っていた。間違いない。これにしよう。

 

「「すいません」」

 

 注文しようと声を上げると、俺から見て斜め前の席に座っている男と声が被った。思わず顔を見合わせる。

 まだ若い。20代だろう。だというのに、先ほど被った声は年不相応の落ち着きと渋さだった。少し戸惑っている顔を見て、男の向かいに座っている、おそらくは女子高生であろう連れがくすくすと笑っている。

 

「……お先にどうぞ」

 

 男がそういうので、俺は遠慮なく先に注文することにした。

 

「ああ、どうも。

 じゃあ……この本日のお勧めパスタを、ドリンクサラダのセットでお願いします」

 

 俺は注文する時はできるだけ物怖じせずはっきりと言う。聞き返されるのは厄介だ。

 

「パスタを、ドリンクとサラダのセットですね。お飲み物は何になさいますか?」

 

「オレンジジュースでお願いします」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 注文をしてしまうと、少し店内を見渡す余裕ができた。とはいえ、気になるのはやはりあの男だ。カップルにしては少し歳が離れているように見えるが、一体何を頼むのか。

 

「この……本日のお勧めピッツァを。ドリンクとサラダのセットでお願いします」

 

「私はパスタで同じセット」

 

 ほう。ピッツァでいくのか。

 

「かしこまりました。お飲み物は何になさいますか?」

 

「……コーラでお願いします」

 

「私はオレンジジュースで」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 ピッツァにコーラとは、わかってるじゃないか。イタリアのピッツァにメキシコのタバスコをかけて、アメリカのコーラで流し込むのが日本流だ。それを心得ているとはあの男、中々侮れない。

 

「アンタがこういうお店知ってるって意外。

 よく食べるし、もっとがっつり系に行くかと思ってた」

 

「……そちらの方が、よかったのでしょうか」

 

 男が全く表情を変えないまま問う。口調は丁寧で穏やかだが、目つきの悪さと声の渋さが相まってかなりの迫力だった。見る人が見れば、変質者として連れて行かれかねないくらいに。

 

「まさか。

 私だって女の子だもん。おしゃれなお店の方がいいに決まってるよ。

 ただ、ちょっとイメージと違うかなって」

 

「そうでしょうか。

 食には……関心があります」

 

 連れの女の子が吹き出す。正直俺も喉元まで出かかったが、どうにか堪えた。

 

「あー、おかしい。

 ……なんだか、ちょっとデートみたいだね」

 

「あの……今、なんと?」

 

「何でもなーい」

 

 そんな声が聞こえたところで、ようやくお待ちかねのパスタがきた。

 

「お待たせいたしました。

 本日のお勧めパスタ、ドリンク&サラダセットです」

 

 

 本日のお勧めパスタセット

 ボロネーゼ 

 ちょっと大きめのミートボールを崩したような挽き肉がたっぷり!最初からソースと絡めてあるタイプ。三角のフォカッチャが二枚添えてある。

 

 サラダ 

 彩り鮮やかに赤緑黄。お好みのドレッシングをかけて。

 

 ドリンク

 100%オレンジジュース。一口飲めばフレッシュな気分に。

 

 

 実に美味そうだ。

 というか美味い。確実に美味い。見ただけで美味さが伝わってくる。

 

「いただきます」

 

 言うが早いかフォークを一刺し。そのままクルクル。たっぷりと巻きつけて、口いっぱいになる量を放り込む。

 

 ――美味い。 

 

 期待を裏切らない、見た目通りの肉々しさ。噛めば噛むほどに美味さがほとばしる。

 絡めてあるソースも良い。しっかりと挽き肉の旨味が溶け込んでいる。ナポリタンの大雑把なケチャップ味も好きだが、こういうしっかりとした味も、また良し。

 

 ――お次はサラダだ。

 

 ドレッシングをどれにするか迷ったが、結局無難なシーザーにした。今日の主役はパスタだ。サラダはそれを引き立てる脇役でいい。

 

 でもこの脇役、いい味出してます。

 

 パスタソースの濃い味を一旦サラダでリセットしてから、つけ合わせのフォカッチャへ。このもっちりとした食感と、微かな塩気、嫌いじゃない。

 若かった頃は、ファミレスのモーニングでおかわり自由だった。腹がぱんぱんになるまで食べたものだ。なんであれはなくなってしまったんだろうか。

 オレンジジュースで喉を潤して、再びメインのボロネーゼへ。後はもう、掻き込むように食べ続けた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」

 

 店員の声を背中に受けながら店の外へ。

 会計を済ませている時、またあの男と目が合った。お互い会釈はしたのだが、笑顔がどうにもぎこちない。連れの女の子もそう思っていたようで、両の人差し指で男の口の端を無理やり上げていた。歳は離れているが、案外いいコンビなのかもしれない。

 

「さて!もう一仕事するか。

 渋谷生花店、だったよな」

 

 ボローニャ地方の花瓶とかあったら勧めてみるか。

 

 

 

 

 

 腹ごなしに少し歩いてから着いたその店で、アイドルをしているという娘さんが、先ほど店で見かけた子だったのは、また別の話だ。

 

 

 

 

 

 ボロネーゼ

 玉葱、セロリなど刻んだ香味野菜と炒め合わせて風味をつけた挽き肉と、トマトを素材として合わせたイタリア、フランス料理のソースである。フランス語読みでボロネーズとされることもある。発祥はイタリア、ボローニャ地方。スパゲッティと和えることが多く、日本ではナポリタンと並んで馴染みの深いスパゲッティメニューの一つである。

 (Wikipediaより引用)

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
少しでも皆さんにボロネーゼ食べたいと思わせることができていたら嬉しいです。笑
感想お待ちしております。

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