孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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今回から普通に戻ります。
恋姫英雄譚にダカーポディアレストマリッジとやることが多くて大変です。笑
ではどうぞ~


第九話 東京都渋谷区宇田川町のオムライス

 

 渋谷。

 一口に渋谷と言っても、様々な顔がある。若者の町としての渋谷。IT企業が集まる町としての渋谷。レストラン街としての渋谷。俺が主に関わるのは前者と後者だ。

 前者は言わずもがな、ファッションや店の飾りとして諸外国の雑貨を並べたがる店が多い。後者は自分のオフィスに何か箔付けとして高級な輸入品を揃えたがるIT企業の重役たちがお相手だ。どちらも40代の小市民には聊か疲れる相手だ。

 ただ、今日客は俺よりも相手の方が緊張していた。あれでも昔と比べればましになったらしいが、視線が合うとすぐにそらしてどもりだす。とても数年前、意思を持つ検索エンジン『クルーク』の開発者としてもてはやされた人物には見えなかったというのが正直な感想だ。

 とはいえその実力は本物らしい。本人は断ったらしいが、最強最悪の電脳犯罪者集団、通称『チーム』にトップ直々に歓誘されたこともある、と仲間の一人が言っていた。人は見かけによらないものだ。

 渋谷の顔筆頭、センター街に向かう。そういえば、最近名前が変わったんだっけ。なんて言うんだったかな……。

 

「ほらほら黒子っち!火神っち!あそこ、バスケットボールストリートって言うらしいっすよ!」

 

 突然響いた元気の良い声思わずそちらを振り返る。すると、そこには色彩豊かな少年の集団がいた。どうやら声を上げたのはその内の一人、黄色い少年のようだ。

 

「……バスケットの成分が欠片もないですね」

 

「おう。なんだってそんな名前にしたんだよここ」

 

 若者らしい実に率直な意見を述べたのは、やたらと影と幸が薄そうな小柄な少年と、その横にたつ大柄な青年だった。歳はそう離れてはいないのだろうが、青年と呼びたくなるほどなんというか野性味がある。

 

「まあ、センター街は若者の町の代名詞のような場所だからね。

 活気に溢れている一方で、不良と呼ばれる若者や、それを食い物にしようとする怪しい外国人なんかが一時期多かった。それでついてしまったマイナスイメージを払拭しようということで改名したんだよ」

 

 これは赤の少年なんだが……この少年も、また別の意味で子どもらしくない。歳不相応な落ち着きが垣間見える。

 

「若者の持つ情熱やエネルギー、スポーツの持つクリーンなイメージ。それらを結びつけ、渋谷の『若者・ファッション・音楽・文化・国際性』という持ち味を全て表現できるのはバスケットボールだ、という理由なのだよ。

 ……後一応、バスケットボールの聖地国立代々木競技場第二体育館に通じる道だという理由もある」

 

 これは緑の少年だ。言ってることは格好良いんだが、片手に招き猫を持ったままではどうにもしまらない。

 

「それ知ってる。こじつけって言うんだよねー」

 

 紫の少年よ。歩きながらお菓子を食べるのはやめなさい。

 

「つーかそこでバスケやるためにわざわざ集まったんだろーがよ。こんなところでだべってないで早く行こーぜ」

 

 青色の服を着た、一際浅黒い少年がうんざりという風に言う。鋭い目つきも相まって、豹のような印象を受けた。

 

「その前にマジバ行かねーか?腹減っちまった」

 

「火神君、さっきお昼食べたでしょう」

 

「賛成っす!」

 

 マジバ。確かマジバーガーの略だったか。最後にファーストフードのハンバーガーを食べたのは、もう随分前のような気がする。

 若い頃は、友人とならどこへ行っても楽しかった。地元の飯屋を片っ端から行ってみる、なんてこともやったっけ。今はもう、そんな体力はないんだが……思い出すと。

 

 

 腹が、減った。

 

 

「店を探そう」

 

 

 くるりと方向転換。背後から、楽しそうな青春の声が聞こえていた。

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 久しぶりの行き当たりばったりな昼飯だ。最近は食いたいものがすっぱり決まることが多かったが、今日は今の俺が何腹なのかから探らなくちゃいけない。

 この前渋谷で食ったのは、スペアリブと黒チャーハンだった。ということは中華はパスだ。海老しんじょと焼きおにぎりなんてのも食ったよな……。ということは、今日は洋食か?

 そうだ。洋食がいい。それもフレンチみたいなお上品なものじゃなくて、ハンバーガーみたいにがっつり食べられる洋食。日本ナイズされた、洋食らしい洋食。

 気持ち急いで街中を駆ける。どこだ。どこなんだ。俺の胃袋のセンターはどこだ?

 飯のことで頭がいっぱいになったまま歩いていると、少し前方から景気の良い声が聞こえてきた。

 

「旦那!今日はうちのオムライス食っていってくれよ!」

 

 オムライス。

 

 足がぴたりと止まる。いいじゃないか、オムライス。最近は、卵もそんなに食べてなかった気がする。贅沢に卵を2、3個使ったオムライス。俺の気分のセンターに、どんぴしゃ。

 人ごみを掻き分けて進むと、すぐそこに洋食屋の看板があった。さっきの声も、きっとここの店主だろう。ひとつうなずいて扉を開ける。店の中に入る時に聞こえたカランカランというベルの音が、試合開始のホイッスルだ。俺、今から戦闘体勢。

 

 

「いらっしゃい!開いてる席どうぞー」

 

 厨房に立つ店主の声に促されるままに手近なカウンター席へ。出されたお冷とおしぼりで一息ついて、店内を見渡す、んだ、が……。

 

 

 なんだこいつは。

 

 

 一言で言うと、でかい。

 身長もそうだが、肩幅、腕幅、脚、そのすべてが太い。ガタイが良いとはこの男のためにある言葉じゃないだろうか。そんな気さえしてくる。

 高級品だろう真っ白いスーツから出ている顔や手には無数の斬り傷。ところどころ銃で撃たれたような傷も見える。明らかに堅気じゃない。

 そんな男がミニチュアに見えるスプーンをつまんで小さなオムライスを上品に食べている。異様な光景だった。

 

「ご注文は?」

 

 店主がにこやかに聞いてくる。この客がいることになんの疑問も恐怖も抱いていない顔だ。もしかして常連なのか?俺、やばい店に入っちゃった?

 

「あ、ああ。じゃあ、この、オムライスを……」

 

「はいよー。オムライスひとつねー」

 

 そう言ってまた厨房に戻る店主。一体何なんだ、この店。

 

 見てはだめだ。頭ではわかっているのに、どうしても顔が横に向いてしまう。だって、シュール過ぎるし。

 無言のまま、どこまでお上品にオムライスを食べる傷の大男。表情は一切動いていないが、どうやら美味しいと思っていることは雰囲気でわかる。……可愛げがあるだなんて思ってしまった俺はおかしいんだろうか。

 

「はいよ!オムライスお待ちどお!」

 

 来た来た。

 飯が来たら、ヤクザだろうがなんだろうが関係ない。

 

 

 オムライス

 昔ながらのチキンライスin薄焼き卵!上からケチャップを好きなだけ!

 

 付け合わせ

 ごろっと切られたじゃがいもとボイルしたブロッコリーきちんと焦げ目もついてる

 

 

 いいじゃないかいいじゃないか。

 昔ながらの正統派オムライス。最近はやたらとトロトロ卵を強調したり、ややこしいソースをかける店も増えたが、俺が食いたいオムライスとはこれですよ、これ。

 まずはケチャップをたっぷりかけて、と。こういう時、変に文字やマークを書いたりはしない。ただ好きなだけかける。

 

「いただきます」

 

 スプーンで上から卵ごと切って、ライスと一緒にすくって一口。

 

 

 美味い。

 

 

 ソースだの何だのが邪魔してない、ちょっと酸味のあるケチャップの美味しさ。チキンライスの具、チキンと玉葱とグリーンピースの味もはっきりわかる。みじん切りの食感も、また良し。

 卵も良い。変なことをしていない、王道の薄焼き卵。これぐらいしっかりしていたほうが食べ応えがあると俺は思う。所々、黄身の部分と白身の部分がわかるくらいなのが、グー。

 

 ――ここいらでいっとくか。

 

 再び卵の上からケチャップをかける。そして……そのケチャップを、スプーンの背で薄く伸ばす。

 オムライス。中身も外も、ケチャップまみれ。

 子どもの頃は親に叱られてあまりできなかった。大人になってから開拓した、オムライスの新境地。たまりません。

 付け合わせのじゃがいもとブロッコリーにもケチャップをつけて。丁度欲しかった噛み応えをきちんと満たしてくれる。いい仕事、してるじゃないの。

 スプーンを動かすスピードが上がる。皿の上のケチャップで汚れちゃったけど、綺麗に空っぽになった。

 

 

 

「花山の旦那!また来てくれよ!」

 

 背中に掛けられた声に、振り返ってひとつうなずく。あの男、案外根は悪くないのかもしれない。……どうみてもヤクザだけど。

 さて、俺も行くか。

 

「お会計お願いします」

 

 晩飯は何食うかな。

 

 

 

 その後、祖父の法事に来てくれたお礼を言いに訪ねた渋川先生に、洋食屋で会った男は日本一喧嘩が強い極道だと教えられたのは、また別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は『黒子のバスケ』よりキセキの世代の面々と、『バキシリーズ』より花山薫と渋川先生です。最初に秋葉原@DEEPだったり戯言シリーズも混ざってますが。。
感想お待ちしております。

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