月末月初で忙しいこと。。明日は法事だし。。
なので次回はちょっと遅れるかもです。
ではどうぞ~
駅から出て、空を見上げる。ぐーっと伸びをする。
どこであれ、普段生活している場所から遠く離れた地に降り立つのは、なんだか年甲斐もなくわくわくする。一緒に電車を降りてきた変な頭の少年も同じのようだった。
「俺、仙台ってもっと田舎だと勝手に思ってましたよ承太郎さん」
強烈なインパクトを与えるリーゼントのような変な髪形。それに学ラン。君、学校はどうした。
「東北最大の都市であり政令指定都市だからな。ミュージシャンのツアーが東北を通るときは十中八九ここだ」
「はあー……グレートですよ。こいつぁ……」
引率者であろう身長190は超えるコートの男の解説に感心する少年。
実際に体験することに勝る勉強はないぞ、若者よ。
仙台。
杜の都の異名の通り、なんだかひっそりという言葉が似合う。街中の空気にも、木や水の香りが漂っているような気がする。ま、俺の気のせいなんだろうが。
今日仙台にやって来たのは、七夕祭りで展示するブラジルの雑貨をみつくろってほしいと頼まれたからだ。東北四大夏祭りのひとつである仙台の七夕祭りとブラジル。一見関係ないようにも思えるが、実はブラジルでは七夕祭りが盛んだという。サンパウロにある旧日本人町で例年七月に開催されるサンパウロ仙台七夕祭りは、日系ブラジル人社会の枠を超えてサンパウロ市のイベントカレンダーに載るほどの規模だそうだ。広場や歩行者天国になった通りには出店が並び、仙台市の七夕飾り製作業者から技術指導を受けたくす球付きの大きな吹流しが多数飾り付けられる。この祭りがきっかけとなり、今ではブラジル国内の三十以上の都市で七夕祭りが開催されているそうだ。国土のほとんどが南半球のブラジルでは、七夕祭りはすっかり冬の風物詩となっているという。
そんなわけで、本家である仙台七夕祭りでも都市友好の証としてブラジルの文化などが紹介されたりもする。屋台のブラジル料理であったり、民芸品であったり。そこで紹介する雑貨の手配を今回頼まれたわけだ。
商談はつつがなく終了。やはりブラジル人の生の意見を予め聞いておけたことが役に立った。群馬の先輩と、その奥さんに感謝。
さて、後は東京に帰るだけなんだが。予約した電車にはまだ時間がある。
となれば……。
腹が、減った。
「店を探そう」
自然と駅に向かっていた足を、くるりと方向転換。さて、俺の腹は仙台の何処に辿り着くんだろうか。
普段は名物だのなんだのにあまり拘らない俺だが、別にそういうものを全く食べないわけじゃない。せっかく遠出したんだから、そこでしか食べられないものを食べたいという思いはある。静岡おでんだって、本当は静岡で食べたかったし。
今回はどうするか。仕事でいうと、仙台かブラジルなんだが……ブラジルは、群馬のブラジルで食べたばっかりだ。となると、自ずと仙台になる。仙台飯って、何だろう。
真っ先に思いつくのは牛タンだ。けれど、ここで焼肉に行って牛タンを食べるのはなんだか違う気がする。流行に負けた気がする、とでも言おうか。
牛タン。牛タン、牛タン。何かないのか。ありきたりなタン塩でもなく、焼肉でもなく。牛タンを使った、一味違う『料理』。
そんなことを考えながら街中を歩いていると、なんの変哲もない雑居ビルの二階、真っ赤な看板が目に入った。
――当店自慢のタンシチュー。
きた。きたぞ。ティーンときたぞ。
まさしくこれだ。俺の腹が求めていたものはこれだったんだ。今日の晩飯、決定。
そのままビルに直行する。ぱっと見では料理を出す店が入ってるようには見えないところでも、俺には桃源郷に見えていた。
「いらっしゃいませー」
いわゆる隠れ家的な雰囲気の店かと思っていたのだが、意外にも店内は普通だった。カウンターが少しと、テーブルがいくつか。こぢんまりとした良い店だ。
「こちらお冷とメニューです。
ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
腹はもうタンシチューに決まっているが、一応はパラパラとメニューを捲ってみる。洋食屋としては割りとオーソドックスな品が並んでいた。それとは別に、途中でお勧めセットメニューが一枚挟んである。
一番上にタンシチュー。ステーキ、カツレツ、クリームシチュー、グラタン。タンシチュー以外は、皆一度は食べたことがあるような料理だ。それぞれにライスかパン、食後のコーヒーが付く。
なら、迷うことはない。
「すいませーん」
「はーい」
「タンシチューを、パンのセットでお願いします」
タンシチューパンセット
タンシチュー
真ん中に大きな牛タンがごろっとしてる。ソースはとろとろふかーい茶色。
パン
良く見る斜めに切られたフランスパン。軽く焦げ目がつけてある。
シチューに浸せばパリパリジュワーでこりゃたまらん!
ほほう。こういうタイプか。
シチューといえば、もっとごろごろ具が入っているものだと思っていた。こういういかにもなビーフシチュータイプは久しぶりだ。
「いただきます」
スプーンを手に取り、真ん中で存在感を主張する牛タンに一刺し。感触は、思ったよりもかなり軽かった。
元が弾力のある食材な分、タレントとかがテレビで言う簡単に切れるとか溶けるようだとかとは違う。繊維がすんなりずれたとでも言うのか、特に抵抗もなく斜めに掬うことができた。
ソースをたっぷりつけて、一口。
美味い。
俺が今まで食べてきたシチューとも、牛タンとも全く違う未知の世界だ。牛タンって、こんな食感と味だったっけ。
ソースも美味い。目には見えないけれど、きっと色々な旨味が溶け込んでいるのがわかる濃厚な味だ。ま、俺には何が入っているのかなんてさっぱりわからないんだけど。でも、このソースならいける。
――これはこうしろっていう食の神様の思し召しでしょう。
セットのフランスパンを千切って皿に押し付ける。そのまま根こそぎ拭い去る気持ちでパンを動かして……こぼさないように一気に口に入れる。
――フランスパン、シチューに浸すの、大正義。
なんだか硬くて食べにくいと思ってたフランスパンだけど、これはいける。もしかして、フランスパンってシチューに浸す為に生まれてきたんじゃないだろうか。
でもこれ、タンも一緒に食べるとバランスが崩れちゃうんだろうな。シンプルにパンとソースだからこそ、どこまでも行ける。
――で、肉はやっぱり肉だけだ。
暫く食べ進めても未だ大きな塊のタンをスプーンで丸ごと持ち上げて……思いっきりかぶりつく。噛めば噛むほど感じる、焼肉とはまた違った肉の味。内臓や舌なんて肉じゃないと言う人もいるけれど、俺は嫌いじゃないよ、君のこと。
再びパンをソースに浸して半切れを一口で食べる。おかずが美味けりゃ主食も美味い。仙台だろうが東京だろうが、ブラジルだろうが変わらない世の真理だ。久々の、かっ込むことなくゆっくりと味わう晩飯だった。
「ありがとうございましたー」
店員の声に見送らて、店という桃源郷からビルの中という現実に戻る。戻っても、俺の腹、大満足。
階段をとととっと降りて大通り合流する。
すると――。
「おっさん!しゃがめ!」
急に響いた大声。反射的に頭を下げる。すると、その直後に頭の上を何かが通り過ぎた。
「クレイジーダイヤモンド!」
再びの大声。どこかで聞いたことのある声だ。
恐る恐る顔を上げてみると、少し離れたところに駅で見た変なヘアースタイルの学ラン少年が立っていた。横にはコートに帽子の男もいる。
手に持っているのは――カラス?
「ようやくですよ承太郎さん。
光る物集めるのが好きだからって例の矢なんか触るなよもー」
「……カラスの本能だ。仕方ないだろう」
そんな会話をすると、俺に会釈をして去っていく。
……何なんだろう、あの二人は。
その後、用意した雑貨を納品しに再び仙台に訪れた帰り、杜王町という町のレストランで再び少年に逢うことになるのだが……それはまた別の話だ。
如何でしたでしょうか?
今回は勿論『ジョジョの奇妙な冒険』から東方仗助と空条承太郎です。
カラスのスタンド攻撃を間一髪でかわしたゴローちゃん。古武術やっててよかったね!
感想お待ちしております。