今回は久しぶりの複数クロスです。
ではどうぞ~
川神市。
実は、県庁所在地ではない政令指定都市の中では人口が最大だったりする。そのためなのか、地方都市ではかなり活気のある町だと俺は思う。
名物、名所は色々あるが、なんと言っても一番は川神院だろう。武神として名高い川神百代の生家であり、川神流総本山。噂では、某国が軍事衛星で監視しているとかいないとか。その影響でカーナビだとかの表示がすれると聞いたことがある。ま、都市伝説の類だが。
今日はその川神院のトップ、川神鉄心さんからの依頼だ。さ、仕事仕事。
「いやーすまんかったの。
久しぶりに連絡した途端こんなもの頼んでしもうて。用意するの面倒じゃったろ?」
かっかっかと笑う鉄心さん。こうしていると、陽気な普通のお爺さんだ。とても武術の達人には見えない。
「いえいえそんなことは。
それに、子どもたちのためでもありますから」
今回頼まれたのは、鉄心さんが学園長を務める学園の授業で使う資料の用意だった。子どもたちにはなるべく本物を体感させたいとのことで、時たまこうやって雑貨の取り寄せを頼まれることがある。
そんな話をしていると、ふいに背後の扉ががらっと開いた。入ってきたのは、長い黒髪の美少女――いや、もう美女と言うべきだろうか。その後に続いて、ポニーテルの活発そうな女の子。
「あ、客が来てたのか。
……あれ?井之頭さん?」
「あ、本当だ。五郎おじさん!」
次々に俺に気づく姉妹。どうやら覚えていてくれたらしい。
「百代ちゃんに一子ちゃんか。二人とも大きくなったなあ。それに美人になった」
ふふーん、えへへー、とそれぞれ違う反応をする。性格はかなり違うが、本当に仲の良い姉妹だ。
「お久しぶりです。お爺様の法事の時以来ですから、数年振りですか?」
「そうだなあ。鉄心さんに何か用事があるみたいだし、俺はこれで失礼するよ」
そう言うと姉妹揃って、特に一子ちゃんの方がしゅんとした顔になった。
「すいません。追い立てるようになってしまって」
「いやいや。
それじゃあ、二人ともまたね」
「また来てね五郎おじさん!」
川神一族三人に見送られて部屋を後にする。冷静に考えてみるとすごいことだな、これ。
――さて、何を食うか。
川神院から仲見世通りをゆっくりと歩く。午後からはまた東京に戻って事務仕事だから、さっと食べられてぱっと店を出られるようなやつがいい。
となると、あんまり油が多くないものがいいだろうか。中華やパスタは除外して……ここはやっぱり和食系か?でも、和食にも色々あるぞ。とりあえず、油からいくと天ぷらはパスだ。どうする?
――焦るんじゃない。俺は腹が減っているだけなんだ。
落ち着け。深呼吸をして、自分のペースを取り戻すんだ。先に呼吸を乱した方が負けると爺さんも鉄心さんもよく言っていた。
頭をぶんぶんと振る。すると、懐かしい顔が目に入った。
「釈迦堂さん?」
最後に会った時から比べれば少し歳を重ねているが――間違いなく釈迦堂さんだ。
「ん?おお?ゴローじゃねえか。久しぶりだなあ、おい」
急な呼びかけにも笑顔で返事をしてくれた。素行も顔も雰囲気も悪役のそれな釈迦堂さんだが、昔から妙な愛嬌があって何故か嫌いになれない。
「お久しぶりです。
こんなところで何してるんです?師範代の仕事、またばっくれたんですか?」
俺がそう言うと、がしがしと後頭部を掻く釈迦堂さん。
「ああ、いや……。
俺、破門になっちまってな。これからバイトなのよ」
バイト!?あの釈迦堂さんが、バイト!?
「そうだ。お前もう昼食ったか?」
釈迦堂さんがいい事を思いついたという風に手を打つ。
「あ。いえ、まだですが……」
「ならついてきな。昼飯くらい奢ってやるよ」
釈迦堂さんに引っ張られるようにして歩くこと暫く。連れて来られたのはごく普通の丼屋だった。というか、川神院師範代の力で一般人を引っ張らないでください。
で、目の前にはチェーン店らしい制服を着た釈迦堂さんがいる。正直、全く似合っていない。
「ここは豚丼がうめえんだよ。んでとろろな。あと豚汁」
そして勝手に決められた注文。ま、この人に何言ったって無駄だからいいんだけど。
釈迦堂セレクション
豚丼
濃いめのタレで焼かれた豚バラがどっさり。上にのった梅肉で思ったよりあっさりいける。
とろろ
出汁が入ったさらさらとろろ。豚丼にかければ最強タッグ。
豚汁
具沢山の熱々で。こいつだけでも充分おかず。
「いただきます」
「おう。食え食え」
まずは豚丼からだ。
箸を丼の端からゆっくりと刺し入れる。ここで適当にやってしまうと、せっかくの最初の一口でご飯と上に載っているものが一緒に食べられなくなる。個人的にそれは許せない、俺。
梅肉の部分は避けて、最初はご飯と豚肉だけで。こぼさないように一気に口に入れる。
――美味い。
豚肉にかなりタレの色がついていたから、しつこい味なのかとも思っていたが、そんなことはない。肉についたタレがご飯にも絡みつく。それでも丁度良い味加減だ。俺、チェーン店、侮ってたかも。
今度は真ん中からだ。梅肉がついた豚肉と、ご飯を一緒に。梅肉だけが先に舌に触れないように、豚肉の位置を調整してから……まとめて口の中に放り込む。
――梅肉、助演男優賞受賞です。
ほんの少ししかつけていないのに、こうもがらっと口の中の風景が変わるとは。梅の木の浮世絵を初めて見たゴッホも、こんな風に驚いたんだろうか。
再びご飯と普通の豚肉。もう一回。思ったよりも梅が効いていて、これだけでもばくばくいける。そして、ここいらでまた違った変化球が欲しいところだ。
――そこでとろろちゃんですよ。
出汁を合わせてあるから、器に口をつけてそのままずずっと一口。個性の強い梅とはまた違う、丼を惹きたてる優しい爽やかさ。梅肉が助演男優賞なら、こっちはいい味出してる名脇役だ。
「……あんた、美味そうに食うな」
うんうんうなずいていると、突然横から声を掛けられた。とろろを持ったまま振り返ると――真っ赤な覆面がいた。
「ぶふぉっ!」
思わずむせる。
なんだこいつは?釈迦堂さんなんて目じゃないくらいうさんくさい。その覆面でここまで来たのか?通報されなかったのか?というか店内ではフルフェイスはご法度じゃないのか?
「おう、レッドか。まあ座れや。
いつものでいいのか?」
無言のままうなずきながら席に座る赤覆面。釈迦堂さんは勿論、他の客も誰も驚いていない。
もしかしてこいつは常連なのか?川神ではこれが普通なのか?
「どうよ最近は」
手際よく丼をこしらえながらカウンターに座る覆面男と気軽に話す釈迦堂さん。奇妙だ。これ以上ないくらい奇妙な光景だ。
「面倒くさい、だな。
あいつら最近川神院で合同稽古なんてしてやがるし。あんた師範代だろ。どうにかしてくれよ」
「元、だ。今は関係ねーよ。
しかし頑張るねえヴァンプの野郎も」
ごく普通に会話を続ける釈迦堂さんと赤覆面。どうやら深く考えても無駄らしい。
落ち着け。豚丼に豚汁。掟破りの豚のだぶりで、現状を打破するんだ。
――あ。これ、バター入ってる。
なんだか、少しほっこりした。今までなんとなく敬遠していただぶり、案外悪くないのかもしれない。
「また来いよー」
店の中から聞こえる釈迦堂さんの声。ありがたいが、正直またあの赤覆面と並んで飯を食うのは遠慮したい。次に来るのはいつになることやら。
その後、あの赤覆面は天体戦士サンレッドとかいうヒーローで、世界征服を目論む悪の組織と日夜戦っていると聞いたのだが……それはまた別の話だ。
如何でしたでしょうか?
今回は『真剣で私に恋しなさい』から川神百代、川神一子、川神鉄心。『天体戦士サンレッド』からサンレッドです。
実はこの2つ、真剣で私に恋しなさいで公式クロスしてたりします。ヴァンプさんが合同稽古申し込んでたり。笑
18禁ゲーですが個人的にかなりお勧めなのでよかったらやってみてください。ちなみに作者が一番好きなのはマルさんです。笑
感想お待ちしております。