孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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今回もスイーツだけなので特別編ちょっと短めです。コーヒーブレイクみたいな感じ。
うーん。モデルになった店ではあるんだけど、清瀬ってだけでわかる人いるのかな?
ではどうぞ~


特別編 東京都清瀬市のヨーグルトワッフル

 

 清瀬市。

 のどかな町だ。市域の4割を農地が占めていると聞いたことがあるが、なるほど、深呼吸をしてもどことなく緑の香りが強い気がする。酒を飲まない俺にはわからないが、栽培が盛んなにんじんで作られた『にんじん焼酎』はちょっとした名物だそうだ。

 ちなみに酪農も行われているらしい。なんと清瀬市役所周辺に集中して立地しているとか。スーツ姿で通勤する公務員さんの背景に、牛。実に牧歌的だ。

 今日ここに来たのは、得意先の喫茶店に飾る西洋雑貨を納品するためだ。牧歌的な風景の中にぽつんとあるレンガ造りの建物で、青い屋根だから遠目にも目立つ。まるでイギリスの田舎貴族の別荘のようだ。

 

 ――着きました。喫茶ポレポレ。

 

 さあ、お仕事しますか。

 

 

 

 

 

「さすがです井之頭さん!俺が欲しかったのそのまま!」

 

 満面の笑みでサムズアップする五代さん。俺としては曖昧に笑うことしかできない。

 彼が手にしてためつすがめつしているのは美術室なんかで見かける石膏像をのっぺらぼうにしたものだ。材質も石膏じゃない。色々な場所に筆記体でサインが書き込まれたそういうアート作品なのだ。やがて彼はそれを目立たない店の端の床に直接置き、少し離れてその様子を眺めた後大きくうなずいた。

 やっぱり彼は変わってる。まあ、初対面の人に渡す名刺からして変わっていたんだが。『夢を追う男、2000の技を持つ男』だし。

 

「よかったら何か食べていってください。ご馳走しますよ」

 

 そう言って朗らかに笑う五代さん。うーん、実に爽やかだ。

 

 

 しかし、そう言われると。

 

 

 小腹が、減った。

 

 

「では、お言葉に甘えます。

 ……何かお勧めはありますか?」

 

 郷に入っては郷に従え。ここはバイトしている五代さんに任せてみよう。

 

「うーん、そうですねえ。この時間だと、もうお昼は済ませているでしょうし。

 今丁度3時ですから、おやつにワッフルなんてどうでしょう?」

 

 ワッフル。

 

「それでお願いします」

 

 思わず即答即決しちゃったよ。

 

 

 

 

 五代さんが少し待ってくれと言い残して厨房に下がると、ようやく少し落ち着いた。こりをほぐすためにぐるりと首を回して、ついでに店内を見渡してみる。相変わらず、良い雰囲気の店だ。ちょっと見て回るか。

 立ち上がり、大きく背伸びして天井を見上げる。天井扇がクルクルと回っていた。その横から下げられた、ステンドグラスの照明。それとは高さ違いに下げられた、蝋燭を刺すための円形の照明器具。魔法学校にでもありそうだな。

 暫く店内のアートを色々と見て回る。俺みたいな輸入雑貨商には、ここは天国だ。他の客もすっかり寛いでいる。居心地の良い空間とは、こういう場所のことを言うんだろう。

 そうやってアートを眺めて歩いていると、近くのテーブルの団体客に目が留まった。年齢も性別も点でばらばら。強いて言えば学生くらいの若い男女が多いが……どういう集まりだ?

 手近なアート作品を手にとって眺めながら、不自然じゃない程度に耳を澄ましてみる。

 

「シロ君がこんな素敵なお店知ってるなんてねー」

 

「意外祭りだぜ!」

 

 そう言ったのは妄想すれすれの爆発的なグラマーの女性と、いかにもな体育会系の青年だった。その二人の言を受けて、目つきの悪い三白眼の青年は眼鏡を不機嫌そうに持ち上げる。

 

「僕は別に引きこもりじゃありませんから。喫茶店くらい来ますよ」

 

「まあまあシロ先輩。

 でも、本当に良いお店ですね。僕も今度デートで来ようかなあ」

 

 腹黒そうな眼鏡の青年を宥めてのほほんとした声で喋るのは、なんというか子犬っぽい少年だ。というか少年よ。隣のお姉さんがそんなに引っ付いているのにデートの話なんかしていいのか?

 

「そういえばにゃん太班長は?」

 

 今度はその犬少年に引っ付いている女性が声を上げる。

 

「今日は欠席するって連絡あったよー。

 『年寄りは遠慮しておくのですにゃ。若人同士で楽しんでくるといいのですにゃー』、だって」

 

 なんなんだ、その名前と語尾。すごくあってみたいぞ、そのにゃん太って人。

 

「お待たせしました!……って、井之頭さーん?」

 

 自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、いつの間にか五代さんがお皿を持って俺の席に来ていた。いかんいかん。早く戻らないと。

 

「お待たせしました。ヨーグルトワッフルのセット、メイプルシロップです」

 

 

 ヨーグルトワッフルセット(ドリンク付きで珈琲か紅茶が選べる)

 たっぷりのヨーグルトをふわふわワッフルでサンドしてる。

 ヨーグルトのソースはお好みで。クウガセレクトはメイプルシロップ。

 

 

 こりゃまた、店もお洒落ならおやつもお洒落だ。

 

「いただきます」

 

 とりあえず、割ってみよう。

 コンビニなんかで良く見る、一枚の丸いワッフルを半分に折ったやつだ。それをまた中心で半分にする……って、なんだこれ。切ってる感触がしないぞ。ナイフが当たってるのはわかるんだけど、ふわふわすぎて本当に切れてるのは不安になる。抵抗なくどんどん進んじゃうし。

 でもまあ、何とか半分に切り分けることができた。真ん中から、ちょっと粘り気の強いヨーグルトとソースのメイプルシロップがとろりと垂れる。その角を、もう一度切り分けて……一口。

 

 美味い。

 

 こういうスイーツって、甘いだけで味は頼りないかと思ってたけど、想像してたのかなり違う。この、ちょっと酸味の利いたヨーグルトが良い。ワッフル自体の甘さにも、激甘のメープルシロップにも全然負けてない。

 ワッフルも良い。ふわふわなんだけど、しっかり生地の味がする。牛乳と、卵と、小麦粉がきちんと1つになってる味。噛めば噛むほど、しっかり味わえる。ちょっと固めのベルギーワッフルとは、また別の世界だ。こういうの、アメリカンワッフルって言うんだっけ。

 

 ――下品だけど、ごめんなさい。

 

 切り取ったワッフル生地で、切った時に皿にこぼれたメープルシロップを全部拭い取る。だって勿体無いし。こうするの美味しいし。たっぷりとシロップを吸わせてから、ナイフでヨーグルトを上に乗っけて……。

 

 ――こういうべたべたな味、好き。

 

 物凄く味が濃い。噛んでる間ずっとじゅわっとシロップが染み出してくる。でも美味い。ヨーグルトの酸味がすごく爽やかだ。それでまたシロップが美味い。この美味さ、どこまで続くんだろう。終わって欲しいような、欲しくないような。

 結局皿のヨーグルトとシロップを舐め尽くすように全部食べてしまった。

 

 

 甘いものを食べ終わった後、温かいコーヒーを飲む幸せ。俺って今、満たされてる。

 最近はコンビニの100円コーヒーで満足する人が増えたらしいけど、こういう喫茶店で飲むコーヒーって値段じゃないんだよなあ。食後の余韻というか、空気というか、そういうものも一緒に飲んでる気がする。それが、心地良い。

 

 ――今度来る時は、昼飯にポレポレカレー食べてみよう。

 

 間違いなく、また来ることになる。仕事抜きでも、充分にそう思わせる店だった。

 

 

 

 その後、先程のテーブルのグラマーな彼女が突然小田原にかまぼこを食べに行こうと言い出し、眼鏡君を文字通り引きずり始めた。なんやかんやで全員が同行することになり、大惨事になったらしいのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は『仮面ライダークウガ』より五代雄介と、『ログ・ホライズン』より放蕩者の茶会の面々です。最近脱税やらなんやらで向かい風のログホラですが、作者は結構好きです。設定とか政治経済云々よりも、ネットゲーマー特有の心理描写とかに共感できるというか。
ちなみに一番好きなシーンは『報酬は此処に立つ一人の大地人の敬意である』(なんでアニメで省かれた)と『ウィリアム・マサチューセッツの独白』です。どちらも胸を打つシーンだと個人的には思ってます。
感想お待ちしております。

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