孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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お久しぶりの更新です。
今回は皆大好きアームロックの出番です。大変長らくお待たせ……したのかな?笑
ではどうぞ~


第十八話 京都府北区衣笠のハンバーグサンド

 

 鹿苑寺。

 この名前を聞いてピンとくる人って、案外少ないんじゃないんだろうか。金閣寺という通称の方がよっぽど有名だ。やっぱり見た目のインパクトって大事だ。

 それにしても見事としか言い様がない。できれば再建する前に見たかった。これに放火するなんて罰当たりな人がいたものだ。

 

 ――さて、お仕事しますか。

 

 ぱん、と手を合わせてからお祈りする。もちろん、仕事がうまくいきますように。そして、美味い飯が食えますように。

 

 ……あれ?これって神社だったっけ?

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

 そう言ってことりとテーブルに置かれたガラスコップの中に入っているのは、水だ。何の変哲もない、ただの水。先ほど目の前にいる少年が蛇口を捻って出した水道水だ。

 

「……ありがとうございます」

 

 俺としては曖昧に笑うことしかできない。この少年、相変わらず変わっている。

 ついでに言えば住んでいる場所も変だ。明治以前から存在するのでは、と思えるほどのボロアパート。木造3階建ての四畳一間。隣の部屋の音が聞こえてくるほどの薄い壁に裸電球。トイレ共同の風呂なし。その代わり、家賃はなんとびっくり一万円だそうだ。大家さんの顔が一度見てみたい。

 

 ――でも、この少年はそれ以上だ。

 

 以前から贔屓にしてもらっている浅野さんの紹介だが、正直そうじゃないならお断りさせて頂きたいところだった。

 

「ありがとうございます。

 ……これでエイトクイーンをやってみたくなりまして」

 

 少年がぼそぼそと言う。

 今回俺が用意したのはフランス製のクリスタルチェスセットで、エイトクイーンとは8つのクイーンをお互いが倒されないようにチェス盤に配置する遊びだったはずだ。鹿鳴館大学に通っているというこの少年、実はかなりの切れ者なのかもしれない。

 

「はあ……」

 

 しかし落ち着かない。何故だかわからないが、この少年と一緒にいるとひどく落ち着かない気分になるのだ。いや、落ち着かないというよりは。

 

 

 腹が、減る。

 

 

「では、これで失礼します」

 

 結局水には手を付けず一礼して部屋を出る。なんでだろう、こんなに猛烈に腹が減ったのは久しぶりだ。

 そんな俺の様子を、少年は死んだ魚のように温度のない目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 日本が世界に誇る古都、京都。なら和食かなんかを食べるのが普通なんだろうが……なんだか今日はその気になれない。普通が普通じゃなくなっているというか。上手く言えないけれど、そんな感じだ。

 となると、和とは正反対のものがいい。でも、なんか洋食って感じじゃないんだよな。

 最近世界遺産にも登録されたという和食。その特徴というか基本は、繊細な出汁とつゆの文化なんだとか。その反対というと……良い意味で大味な、アメリカンだ。さらにアメリカといえばこれという食べ物は?

 

 ――晩飯、ハンバーガーに決定。

 

 以前佐世保で食べた日本ナイズされたやつじゃない。ケチャップとマスタード味の、アメリカンハンバーガー。それでいきたいんだが……。

 日が沈んでいく北区の街並みをぐるりと見渡す。どこを見ても、ハンバーガーのハの字も見えない。確か京都では、街の景観を著しく損なうようなものは建ててはいけないと聞いたことがある。そうすると、アメリカンな見た目の店がないのも道理だ。探せば大手チェーン店ぐらいはあるんだろうが、そういうガキっぽい店には入りたくない。

 

 ――ちょっと早まったかなあ、こりゃ。

 

 腹はすっかりハンバーガー気分なのに、歩けども歩けども一向に店は見つからない。猛烈に腹が減っているのに、これままずい。

 暫くそうやって歩いていると、突然俺の目に明るい横文字が飛び込んできた。

 

 バール?

 

 カタカナでバールと書かれたネオン。一瞬バーのことかと思ったが、雰囲気がそれっぽくない。酒がある感じはするが、なんかレストランっぽくもあるというか。

 とりあえず、食べ物を出すのは間違いなさそうだ。腹が減りすぎて、この際どこでもいい。入っちまおう。

 

「いらっしゃいませー」

 

 中に入ると、席はカウンターだけのようだった。奥に向かってずらっと一直線。客は俺の他に2人。両方とも個人客のようだ。

 

「こちらメニューです」

 

 カウンターの向こうのマスター?がメニューを手渡してくれる。こうやって、客が来るたびに奥から出してくれるところはいい店が多い気がする。ま、俺の個人的な意見だが。

 パラパラと手作り感満載のメニューを捲る。一番最初に大きな写真入りでやたらと目立っている料理がある。本格スペイン風オムレツ。

 

 ――あ、思い出した。

 

 確かバールってスペインの言葉だった気がする。がっつり食事もできる、イギリスのパブみたいな。それでスペイン風オムレツか。

 オムレツ、揚げ物各種、牛のスペインワイン煮込み……いかにも洋酒に合いそうなメニューがずらりだ。俺は酒を飲まないから写真写りだけでそう思ってるだけだが。そんな風にメニューを捲り続けていると、最後の軽食のページにあるものを見つけた。

 

 ――スペインワインソースで煮込んだ、ハンバーグサンド。

 

 サンド。サンドと来ましたか。いいじゃないの、ハンバーグサンド。

 

「すいません。

 このハンバーグサンド1つください」

 

 似てるから、問題なし。

 

 

 

 

 

「お待たせしました。ハンバーグサンドです」

 

 さあ、飯だ。胃袋よ、準備はいいか。

 

 バールのハンバーグサンド

 ソースがたっぷり!肉汁がジュワ~!耳付き焦げ目のパンがいい感じ。

 

「いただきます」

 

 大きめのハンバーグ1つを2枚の食パンで挟んで、半分に切ったやつだ。パンの背中にある茶色の縞模様がいい。

 手がソースで汚れないように、パンの部分だけを持って……かぶりつく。

 

 旨い。

 

 旨すぎるぞ、これ。噛めば噛むほど肉の味がする。仙台のタンシチューとか、焼き肉とかとはまた違う。肉の良いところだけ集めたような、肉々しい旨さだ。

 このソースがまた良い。ともすれば肉が強すぎてしまうこの料理を、調度良い酸味が上手いこと引き締めている。これがスペインワインの効果なんだろうか。

 

 ――こいつは期待できるかもしれないぞ。

 

 ハンバーガーやサンドイッチにはお馴染みの、端のパンだけが余ってしまう失敗。いつもなら中の具の食べ具合を調整するんだが、今回はそうしなかった。

 皿に垂れてしまったソースに、この余ったパンをつけて……丸ごと口に放り込む。

 

 ――これだけでも十分メインはれちゃうぞ?これ。

 

 焦げ目をつけたちょっと香ばしいパンが、控えめなソースとよく合っている。パンをこんなに上手く食うの、久しぶりだ。あんなに大きかったのに、あっという間に半分食べちゃったよ。いつもより腹が減っていたせいだろうか。

 

 ――残りの半分は、もう少しゆっくり味わって食おう。

 

 久しぶりの、ゆったりとした晩飯だった。

 

 

 

 

 

 

「ふうっ」

 

 一言許可を求めてから一服する。最近は禁煙ブームだとかで喫煙者には何かと肩身の狭い世の中になっている。食後の一服をそのまま店内で吸える店はありがたい。

 そのまままったりと時間が流れる。メニューと同様に灰皿もカウンターの向こうから持ってきてくれた。市販の品なんだろうが、センスもいい。食事が終わったらすぐ追い出すような雰囲気もないし、ほんとうに当たりの店だ。

 

 ――と、思っていたら。

 

「ちゃんと聞いてんのかこらあ!」

 

 横から怒声が聞こえてきた。

 恐る恐る声のした方へ振り向くと、頭にネクタイを鉢巻きのように巻いた4,50代のスーツの男。髪を白だか銀だかに染めた若い男にからんでいる。

 

「何いきなり話しかけてきてるわけ?」

 

 おいおい。

 若者のほうも無愛想に煽るような返事をする。もう暴力沙汰一歩手前だ。折角いい気分だったのに。

 

「あのー。お店に迷惑がかかりますし、やめませんか?」

 

 俺が遠慮がちに声を掛けると、ネクタイ鉢巻のオヤジがぐるりと振り返った。

 

「んだとこらあ!お前もやるのか?

 俺は空手3段だぞこらあ!」

 

 ……それはいつの話なんだろうか。スーツの上からでもわかるほどにでっぷりとした腹では、とても強者には見えない。

 

 ――などと思っていると。

 

「3段とか言ってる時点でお前が俺の相手にならないことは証明されたな。本当に強い奴は強さを口で説明したりはしないからな」

 

 おいおい。何言っちゃってるの君。

 

「んだとお!?」

 

 その一言に反応したオヤジが殴りかかってくる。おい、言ったのは俺じゃないんだが。仕方ない。

 元は空手3段だったのかもしれないが、今は酔っぱらいの中年太りのおっさんでしかない。よろよろと突き出された右腕を取ってアームロックを決めた。

 

「いて!いてえ!折れる折れる!」

 

 そんなに強く極めてはいないんだが。折れるというので離してやる。が、それがいけなかった。

 オヤジが若者に向かってよろけながら進んで殴りかかる。

 

 ――危ない!

 

 心の中でそう叫ぶのと、若者の拳がオヤジの顎を的確に射抜くのは同時だった。

 オヤジがどう、と崩れる。若者はというと、なんてことはない、というような顔をしていた。

 

「俺はリアルではモンクタイプ。パンチングマシンで100とか普通に出すし」

 

 ……それは強さを口で説明してるんじゃないのか?

 

 

 

 後日、東京で再び若者を見かけた。どう見ても日本人な彼は、周囲から何故か『ブロントさん』と呼ばれ大人気だったのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は『戯言シリーズ』から『ぼく』と『FFXI』より『ブロントさん』の登場です。雷属性の拳が見事にヒットしました。笑
感想お待ちしております。

おまけ 余談ではありますが、オリジナル作品『ヒーローがいっぱい!』を投稿しました。ゴローちゃんが飲めない人なので、酒を飲むシーンはオリジナルで書いてしまえという感じで。笑
 よかったらそちらも読んでやってください。

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