孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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お久しぶりの更新です。
最近は忙しいのとオリジナルのプロットを組み立てたりしてまして。ちなみにオリジナル「ヒーローがいっぱい!」も最近3話目を更新しましたのでよかったら読んでやってください。
今回はクロス先は1つだけですね。
それではどうぞ~


第十九話 愛媛県新居浜市のやきとんとチャーシュー生卵丼

 

 新居浜市。

 悪口のつもりはないが、よくある程良い田舎の地方都市といった感じだ。しいて言うならば、電車が街の中を通っていないところが田舎具合を増しているのかもしれない。

 その一方で、東京に暮らしている俺が小耳に挟んだことがあるくらいには知名度がある。なにせ日本人なら誰もが聞いたことのある大企業グループの発祥の地だ。今でも元気に工場が動いている。

 今日ここに来たのはその企業の重役さんが趣味で集めている欧州の家具を納品しに来たからなんだが。

ところがこの人話が長い。延々とコレクションの家具自慢をされ1時間以上……空はすっかり暗くなってしまった。

 

 

 ――兎に角腹が減っている。

 

 先程から歩きまわって店を探しているんだが……なかなかこれと感じる店が見つからない。

 

 

 

 やはり東京と比べると街全体が暗い。まあ、夜が来ない町とも言われる場所がある東京と比べるのが間違っているのかもしれないが。

 こういう時、街中に電車が走っていないのが不便だ。真っ暗な道を街灯や店の明かりを頼りに歩くことになる。そもそもその明かりが少ないのに。

 先程もなるべく明るい大きな道を選んで歩いていると、飯屋ではなく本屋についてしまった。そこの店員に飲食店が多い大通りはまだすぐ横の道を真っ直ぐ歩いていけばいいと教わったんだが……遠い。まだ真っ暗な細道だ。

 なんだか猛烈に米の飯が食いたくなってきた。米粒をかっ込んで胃袋の中へと流し込みたい。おかずが漬物とかだけでもいいから兎に角ライスが欲しい。今ならライス定食なんてものがあっても食えそうだ。

 そんな現実味のないメニューを思い浮かべながら歩いていると、真っ直ぐ続いている道の少し先が明るくなっているのが見えた。下から簡単なライトで照らされている看板には――麺屋と書いてある。

 

 ラーメン屋だ。

 

 もう此処でいい。いや、此処がいい。此処しかない。ラーメン屋なら、きっとチャーハンかなんかがあるだろう。即決だ。

 俺みたいな中年がやるとちょっとみっともないが、小走りで店へと向かう。体裁なんか気にしていられないくらい空腹で、正直もう限界だった。

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!お好きな席にどうぞー!」

 

 店に入ってすぐ発せられた元気の良い声。あまり元気の良すぎる声は正直ちょっと苦手だが、ここは丁度良い声量だった。

 入ってすぐ右手に券売機。夜は直接店員にお申し付けくださいと書いた紙が貼ってある。昼は忙しいから食券制にしているんだろうか。

 ざっと店内を見渡すと、カウンターに2人、3つある奥のテーブルのうち1つに5人が座っている。運良くテーブルに近い奥の端が空いていた。これで片方の肘は自由だ。

 立てかけてあるメニューを手に取ると、なんと一番最初に載っているのはやきとんだった。それでいいのか、ラーメン屋。まあ、俺もラーメンじゃなくてチャーハン目当てで入ったんだから人のことは言えないんだが。

 右から左へとメニューを流し読みする。やきとん、やきとり、串かつ、じゃがバター……そして左端に酒類。どう見てもラーメン屋じゃなくて居酒屋のメニューだ。もしかしたら、最近増えてきたという昼は酒なし、夜は居酒屋というタイプの店なのかもしれない。

 下段に移ってようやくラーメンが現れた。申し訳程度に3種類書かれたラーメンの横に、ごはんものの文字。これも3種類だけだった。

 ごはん、チャーシュー丼、チャーシュー生卵丼。おいおい、これだけか。

 ラーメン屋ならチャーハン。もしくは焼き飯があってしかるべきだと思うんだが。まあ、今は空腹非常事態だ。米粒が食えるならなんでもいい。

 

「すいませーん」

 

 

「はい!ご注文お決まりですか?」

 

 

 すぐさま返される元気の良い声。

 

 

「やきとんの、カシラ……ハラミ、テッポウ……ナンコツ。全部塩で1本ずつください。あとチャーシュー生卵丼」

 

 

「はいかしこまりましたー!少々お待ちください!」

 

 

 ふう。

 

 注文し終えると、ようやく一息ついた。最初に出されていたお冷を一口。腹が減りすぎて、水を飲むのも忘れていた。

 ちびちびと水を飲みながら改めて店内を見渡す。若干薄暗い照明、つけっぱなしのテレビ。背後に置かれた本棚には、油が染みてヨレヨレになったコミックや週刊誌が乱雑にしまわれている。こういう良い意味で小汚い感じ、嫌いじゃない。

 俺以外の客は、カウンターの2人も、奥のテーブルの5人も酒を飲んでいるようだった。つまみも充実してるし、飲み屋街からの帰りの2軒目に良いのかもしれない。きっと最後にラーメンを食べて帰るんだろう。よく見ると、カウンターの2人は両方ともカッターシャツにネクタイだった。いかにもなサラリーマンスタイルだ。

 こうなると、奥の客が気になってくる。仕切りに遮られて顔は見えないんだが……どんな話をしているのか。目を閉じて耳を澄ます。

 

 

「おい岩鬼。肉ばっかり食ってないでちょっとは野菜も食え」

 

 

「無駄だって三太郎。まあ自己管理はしっかりしてるから大丈夫だよ」

 

「けどな里中……」

 

 

「サンマが食えなかったから拗ねてるだけづら」

 

 

「ちゃうわいとんま!」

 

 

「そういえば殿馬。奥さんはよかったのか?」

 

 

「大丈夫づら。今は男だけの時間づらぜ」

 

 

 わいわいがやがやとなんとも騒がしい。しかもかなり口が悪いというか遠慮がない。けれど、決して嫌な感じはしなかった。同窓会か何かのような雰囲気で、気心の知れた仲間同士だからこその軽口だ。この5人、きっと強い絆で結ばれているんだろう。

 

 

「お待たせしました。

 やきとん4本、全部塩です。それと、生卵チャーシュー丼です」

 

 

 おおう。目を閉じて聞いていたから、飯がきたのに気付かなかった。いかんいかん。

 

 

 

 やきとん(五郎の塩セレクト)

 1本1本丁寧に直火で焼き上げた豚。油がぷつぷつ浮いている。

 

 生卵チャーシュー丼

 白ご飯の上にチャシューがドン!ネギがドサッ!一番上には生卵。

 

 さあ、胃袋よ。飯が来たぞ。

 

「いただきます」

 

 まずは、やきとんからだ。

 これがナンコツ。この柔らかそうなのがハラミか。ちょっと固そうなのがカシラで、最後のこれがテッポウだな。

 じゃあ、最初はこれだ。一番右、カシラの串の端をつまんで、先からぱくり。

 

 旨い。

 

 予想通りにちょっと固め。ぎにゅって感じの食感だ。噛みごたえがある分、噛んでる間に肉の味がしっかりする。塩だけの、余計なものが入っていない肉本来の味。胃袋が喜んでいる。ついつい1本一気食いしてしまった。

 次はハラミだ。カシラとは真逆の、優しい感じ。でもしっかり肉だ。憎々しいくらい肉々しい。これも1本一気食いして、お冷を飲んで大きく息を吐く。ようやっと胃袋が落ち着き始めた。

 

 ――ここで、真打ち登場ですよ。

 

 丼というよりはお茶碗といった感じの器を持ち上げ……箸を黄身の真ん中に突き刺す。とろとろと流れだした黄身をご飯全体に行き渡らせてかき混ぜてから、茶碗に口をつけてかっこんだ。

 

 美味い。

 

 食感は卵かけごはんみたいなんだけど、なんか違う。醤油のかわりにご飯に直接かけてあったこのタレが良い仕事をしている。きっとチャーシューのタレなんだろう。卵がかかったチャーシューやネギと相性グンバツだ。

 甘辛のタレと、生卵、ごはん、ネギとチャーシュー。放っておくといつまでも食べ続けてしまうような丼だ。が、一度で食べきるのはさすがにもったいない。俺にはまだ手付かずのナンコツと、切り札のテッポウが残っている。

 

 ――君がいてくれて、よかった。

 

 ナンコツを上から2つ一辺に食う。ゴリゴリとした食感がたまらない。今の俺にぴったりの、おかず感満載だ。

 続いてテッポウなんだが……これは、もしかして内臓系か?まあ、食べてみないとわからない。恐る恐る1つだけ齧ってみると。

 

 ――馬鹿みたいに旨いぞこれ。

 

 確かに内臓系なんだけど、あんまりやわやわな感じじゃない。しっかり食べごたえがある。それなのに脂肪分たっぷりで、ホルモンの良い所もきちんとある。こんなの、初めて。

 おかず感が満たされたところで、再びチャーシュー丼に戻る。丁度良い具合に卵感が薄れてきて、真っ白なご飯とタレの味。なんだか安心する。やっぱり俺たちは、なんだかんだ言っても米と大豆で生きている島国の農耕民族なのだ。

 おかずを食い、ご飯を食べる。器が空になった時は、胃袋も心もしっかり満たされていた。

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

 店を出ると、あたりはますます真っ暗になっていた。入った時はついていた他の店の明かりがいくつか消えてしまったのだろうか。でも、今は悪く無いと思える。

 今度来る時は、滝山でも連れてくるか。きっと、あの5人みたいに話せるはずだ。

 

 

 

 その後、奥のテーブルで聞いた声と同じ声をテレビで聞くことがあった。たまたまつけっぱなしにしていたテレビでやっていたのはプロ野球のオールスターだった。そしてあの5人は目覚ましい活躍をするのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は『ドカベン』から明訓5人衆の登場です。会話でもわかるように殿馬結婚後すぐぐらいですね。
感想おまちしております。


おまけ 以前恋姫の方で「ルキスラ英雄伝説」というS.W.2.0キャンペーンが終了したという話を書きました。するとそれを友人が読んでしまいまして。笑
 かつて人間の女を愛し人間に味方したノスフェラトゥの息子のラルヴァの二刀流フェンサー&二丁拳銃使いがノスフェラトゥを狩っていくというキャンペーンが始まってしまいました。しかしまだキャンペーン名が決まっていません。誰かいい名前を思いついた方がいましたら提案していただければ感謝感激であります。笑

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