孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

25 / 40
随分とお久しぶりになってしまいました。
最近リアルが忙しくてなかなか執筆が進みません。その上また新しくラブライブ!のクロスオーバーなんかにも手を染めてしまいまして。笑
待たせてしまったかたがいましたら今回もどうぞいっぱい腹をすかせてください。
そして最後に!祝!孤独のグルメ新season決定!
ではどうぞ~


第二十三話 奈良県奈良市春日野町の豆腐御膳

 

 奈良。

 かつて都、平城京が置かれた古都であり、『奈良時代』という時代の名前にもなった都市だ。けれども、奈良と聞いてパッと平城京が思い浮かぶ人は少ないかもしれない。なにせ、鹿のイメージが強すぎる。実際には、もっと色々あるんだが。

 鹿が我が物顔で闊歩する氷室神社の境内をのんびりと歩く。冷静に考えてみると、天然記念物がなんの心配もせずに人里で暮らせる光景って、すごいのかもしれない。

 お賽銭箱の前に着く。財布から5円を出して放り投げて、と。2礼、2拍手、1礼。

 

 ――旨い飯が食えますように。

 

 縁結びだとか学業成就だとかはよく聞くが、俺みたいな願いはどんな神様に頼めばいいんだろう?……ま、祈った後に考えても仕方ない。もうお賽銭、あげちゃったし。

 さて、お仕事しますか。

 

 

 

 

 

 奈良というと京都に次いでの和の都の印象だが、実は全部が全部そうというわけでもない。東部の山間地である部分。文化財を多数抱え、国際観光都市としての顔を持つ中東部の市街地。大阪の衛星都市としての性格を持ち住宅街として開発が行われてきた西部。同じ市内でありながら複数の顔を持っていて、街の雰囲気はずいぶん違う。

 一般的なイメージは市街地のそれだが、西部には洋風の建物も数多く存在するし、教会だってある。その教会が、今回の仕事先だった。

 その教会の牧師さん――プロテスタントなので神父ではなく牧師だそうだ――はドイツから布教にやってきた父と日本人の母とのハーフだそうだ。その牧師さんも日本人の女性と結婚して、今長男が副牧師となっているらしい。今回はその長男の発案で復活祭のイベントに使うドイツの雑貨を取り寄せたいということだった。

 神社仏閣が多いこの奈良での布教は決して簡単ではなかっただろう。それでも同じく息子さんが主導して行った復活祭での賛美歌をメタルバンドで歌ったライブイベントは大成功だったらしい。ご近所からも多くの奥さんや子どもたちが詰めかけたとか。しっかりと地域に根ざした教会なんだろう。

 その長男さんにも会ってみたかったのだが、今は友人2人と出かけているという。ちなみに次男は教会には全く興味がなくて、外国でインコかなにかの研究をしているとか。本当に、興味の尽きないご家族だった。

 

 

 

 この後説教があるのでよかったら参加していかれませんか、というお誘いをまだ用事があるのでと断って外へ出る。俺が無信心という理由もあるが、神社にお参りした後で教会の説教を聞くのはなんだか気が引けた。ま、宗教に関しちゃなんでもありの日本人だ。あんまり気にしなくてもいいのかもしれないが。

 それに、俺には確かに大事な用があるのだ。昼飯を食うという、大事な用事が。

 いかん。意識すると、余計に。

 

 ――腹が、減った。

 

 店を探そう。

 

 大きくうなずいて歩き出す。最後に眺めておこうと教会を振り返った時、ふと気になることを思い出した。

 

 ――そういえば、言峰神父ってどういう宗派の人だったんだろう。

 

 本人はただの代行者だとか言っていたが、子どもの頃は意味がよくわかっていなかった。もしかすると、実は結構偉い人だったのかもしれない。亡くなってしまった今となっては、確かめようもないが。故人の冥福を祈って十字を切る。なんだかしんみりとした気分になって、その場を離れた。

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 とりあえず店を探して市街地の方へと移動する。少しずつ見慣れた『奈良』の風景が戻ってきた。どうやら俺の頭と胃袋は流されやすいたちのようで、こういう町並みを眺めているだけでなんだか『和』なものが食べたくなってくる。

 和といっても色々ある。寿司、天ぷら、うどんにそば……何にするか。

 とりあえず、うどんはこの前食ったからパスだ。そうすると、麺繋がりでそばもパス。寿司もいいが、奈良で回転寿司っていうのもなんだか違う。かといって、知らない土地で回らない寿司屋に入る度胸もない。……なんだか、思いついた和食がことごとく潰されてしまった。思いついてるのも、それを潰してるのも俺なんだが。

 和食、和食、和食……何か、何かないのか。古都奈良にふさわしい、これぞという美味い『和』。行き詰まって周りを見渡す。こういう時は、店先にヒントが転がってることがある。

 思った通り、チェーン店ではなかなか見られない味な幟がいくつか見える。きっと染め物とかだ。その幟を、端から順に見ていって、目に止まったのが。

 

 ――豆腐御膳。

 

 海外ではほとんどお目にかかれない、和の食材、豆腐。起源は中国らしいが、そんなことはこの際どうでもいい。食いたい俺が日本食だと思って入れば、問題なし。

 大股でずかずかと店に近寄る。渋い紫色の暖簾をくぐって年季の入った引き戸を開けると、そこはもう和の世界だった。

 奥に向かって続くカウンターと、その反対側に座敷席。テーブル席はない。そういうところに、一種の潔さを感じる。ま、俺の勝手な妄想だが。

 客は俺の他にはカウンターの一番奥に多分定年過ぎの爺さんが一人だけ。真っ昼間から刺し身で旨そうに酒を飲んでいた。それを横目でみながら真ん中あたりに適当に座る。

 貰ったおしぼりを広げたところで、包丁を研いでいた大将が声をかけてきた。

 

「何にしましょう?」

 

 以前はここでメニューの森に迷い込むことが多かったが、最近はそれも少なくなった気がする。俺も少しは成長したということだろうか。

 

「表の幟に書いてあった豆腐御膳をお願いします」

 

「はい。少々お待ちくださいね」

 

 大将が早速きびきびと動き始めるのを眺めながら出された茶を啜る。うん、さすが奈良、茶も美味い。ちびちびと茶を啜りながら改めて店内を見渡してみると、何か違和感を感じる。なんだか、不自然なほどに綺麗だ。と、ここで違和感の原因に思い至った。

 居酒屋にはよくある、壁に貼られた手書きメニュー的なものが一切ない。ところどころに品良く民芸品の類が置かれているだけだ。よくある居酒屋というよりは、小料理屋っていったほうがいいのかもしれない。よくよく考えてみれば、豆腐御膳ってのも居酒屋には似つかわしくないし。

 

 きっと、京都とかで修行したんだろうなあ、こういう店の主人って。

 

 ぼんやりと大将を眺めながらそんな想像にふけっていると、いつの間にできたのか飯がきたようだった。

 

 

「お待たせしました。うちのお勧めの豆腐御膳です」

 

 

 

 豆腐御膳

 

 冷奴

 見た目も綺麗な絹ごし豆腐。出汁の中でお上品に泳いでるタイプ。ネギと生姜はお好みで。

 

 

 豆腐ステーキ 

 ちょっと固めの木綿豆腐。こんがり焦げ目をおろしポン酢で。

 

 揚げ出汁豆腐

 ふわふわ豆腐にふんわりころも。ころもが出汁を吸ってもまた美味い。

 

 ご飯と味噌汁

 出汁が聞いてる味噌汁にも豆腐たっぷり。ついでにお揚げもたっぷり。

 

 

 

 おお。

 見事な豆腐尽くしだ。豆腐御膳。その名前にちっとも負けてない。

 

 ――さて、何から食おうか。

 

 どれも美味しそうなものばかりで、メインのステーキ以外もかなりの存在感だ。正直、迷う。迷うんだが……。ここでためらっていては、敵に先手を取られてしまう。

 ここは、先手だ。いきなり本陣を攻め取るんだ。

 

 箸を構え、豆腐ステーキの中央に差し入れぶった切る。豆腐ではあるけれど、意外としっかりとした手応えがあった。真ん中で縦に半分に割って、それからまた横に半分に割る。おろしが落ちないように軽く押さえ、四半切れを口の中へ。

 

 ――美味い。

 

 なんだろう、これ。確かに豆腐なんだけど、ただの豆腐じゃない。なんていうか、しっかりタンパク質の味がする。こんなに食べごたえのある豆腐、初めて。

 

 ――メインにいったら、次はあっさりだな。

 

 横の小鉢に入れてあるネギと生姜の千切りをぱらっと載せて、上からそっと箸を冷奴に差し入れる。こういう出汁に浸かってるタイプって、実は結構久しぶりだ。見た目通りの、上品なお味。

 

 ――さて、次は。

 

 実はメインの豆腐ステーキより楽しみだったりする、揚げ出汁豆腐。豆腐料理の中では、一番好きかもしれない。これもまた、真ん中に箸を割り入れて……と。

 ぱりっぱりっと小気味の良い音がする。箸を進める度に上に載ったネギとかつぶしが踊るのも、良い。半分に割った欠片を、これまた丸ごと口の中へ。

 

 豆腐、美味し。

 

 豆腐ステーキも美味かったが、やはりどちらかと言えばおろしポン酢であっさり系に入る。この、ちょっと濃い目の出汁と油のジューシーさには及ばない。がっつり食える豆腐、揚げ出汁。最強です。

 

 ――でも、ちょっと休憩。

 

 一息ついて、味噌汁をズズッと啜る。玉ねぎの自然な甘みが、ちょっと嬉しい。

 玉ねぎ、ネギ、油揚げ、豆腐。どれも気持ち大ぶりに切られている。こういう食べごたえのある具が入っていると、やっぱりご飯が欲しくなるんだ。

 お茶碗を持ち上げ、ご飯をかっ込む。2口、3口。で、また味噌汁。俺、日本人に生まれて、よかった。

 

 ――さあ、エンジンかかって参りました。

 

 ステーキ、ご飯、味噌汁。冷奴。ステーキ、ご飯、揚げ出汁。味噌汁、ごはん、ステーキ、冷奴。

 ボリュームがあるといっても豆腐だからなのか、次々に胃袋の中へと消えていく。いや、むしろ食えば食うほど空腹が加速しているのかもしれない。あっという間にステーキも冷奴もなくなってしまった。で、最後に残った揚げ出汁の一欠片……。

 揚げ出汁の器を持ち上げ、それをお茶碗の上に持ってきて……ひっくり返す。出汁と一緒に御飯の上に流れ込む豆腐。それをちょっと行儀が悪いが箸でぐちゃっと潰して……一気にかっ込む。

 たっぷり出汁をすってふにゃふにゃになった揚げ出汁豆腐には、最初のぱりっとした1口とはまた違った美味さがある。出汁もそれだけではちょっと辛いが、こうやってご飯と一緒に流し込んでやると絶妙に美味い。

 

 ――俺的〆揚げ出汁豆腐丼、最高。

 

 出汁に浸った米粒を一粒残らず流し込み終えると、大きくほうっと息が出た。

 

 

 

 

 大将に一言断ってからタバコを吸う。昼間から酒を飲む客がいるだけあって、喫煙も大丈夫な店だった。俺みたいなオヤジにぴったりの店なのかもしれない。

 なんてことを考えていると、そんな俺とは正反対の若々しい3人組がわいわいと店に入ってきた。先頭で入ってきたのは――お坊さん!?

 頭はつるつるだが、なかなかの男前だった。続けて入ってきた友人だろう2人も、かなりの爽やかな顔だ。

 

「孝仁君ってこういうお店来るんだねー。豆腐料理かあー」

 

 黒髪ののほほんとした青年が言うと、先頭のお坊さんが苦笑いする。

 

「まあ、一応副住職だからな。最近は肉や魚食べてもそんなに言われないけど。冬木の一成君だって、友達の弁当の唐揚げもらってるって言ってたし」

 

「副宮司も副牧師もそういう決まりはないからね。恭太郎君は甘いもの食べ過ぎだけど」

 

 茶髪のイケメン君があははと笑う。

 

「工君、それは言わないでよー。君だってワイン大好きじゃない」

 

 堪えきれずにお坊さんが吹き出す。一瞬固まった後、また3人で笑っていた。きっと、本当に仲の良い親友なんだろう。そう思わせる笑い声だった。

 

 

 

 その後、その3人が同じ街の副住職、副宮司、副牧師と知って驚くことになるのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は漫画「さんすくみ」から主人公の3人です。少女漫画レーベルですが聖職者さんたちの事情が色々わかって面白いですよ!
そして前書きでも触れましたが最近ラブライブのクロスオーバーも書き始めました。よかったらそちらも読んでやってください。(ダイレクトマーケティング)。
感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。