今日からまた孤独のグルメseason5で松重ゴローちゃんに会えるということでどうしても更新したくなりました。
今回は複数クロス。ではどうぞ~
……とにかく腹が減っていた。
もしかしたら今までの人生で一番腹が減っているかもしれない。徹夜で事務作業を時間ギリギリまでして、朝飯も食わずにすぐさま仕事へ。予定では昼前に終わって、外で朝飯昼飯を一緒にして食べて帰る……はずだった。
どうして趣味人ってのは皆あんなに自慢話が長いんだろうか。まあ、届けたものはいいやつのはずだ。仕入先もそう言っていた。けれど、それを延々3時間も喋り続けるのはどうなんだろうか。
そういうのは同好の士だけでやってくれ、とは言えない。だって仕事だから。個人で商売をしていると、よくある上下関係でのわずらわしさはないが、やっぱり取引先には気を使う。商売はどんなものでも必ず相手がいるものだから、こればっかりは仕方ないんだが。
とはいえ、今日は流石に疲れた。腕時計を確かめると、もうすぐ2時になろうかというところだった。早く栄養欲しいと胃袋が悲鳴を上げている。もう何時間胃にものを入れてないんだっけ。
今になって冷静に考えてみると、この時の俺は空腹のあまり色々と鈍っていたんだろう。首都、東京。新宿区。飯が食えるところなんていくらでもあるだろうに、あれこれ悩むのが面倒くさいからと、すぐそこにあったファミレスに入ってしまった。よりにもよって、あの店舗に。
「いらっしゃいませ!1名様ですか?」
無言で人差し指を立てる。なんだかもう、喋るのも面倒だ。無駄なカロリーは少しでも消費したくない。
「禁煙席と喫煙席どちらがよろしいでしょうか?」
「喫煙席でお願いします」
「かしこまりました!こちらげどうぞー」
流れるようなスピード対応。そのマニュアル的な速さが、今は嬉しい。
ソファー席にどっかと腰を下ろすと、大きな息が出た。ようやくちょっと落ち着いたかな。
「ご注文お決まりになりましたらベルでお呼びください」
「あ、もう決まってます」
俺がそう言うと、店員さんは一瞬固まったあと携帯端末を取り出した。笑顔は全く崩れていない。素晴らしいプロ意識。
「ミックスグリルを和食セットでお願いします。ご飯大盛りで」
「かしこまりました!少々お待ち下さい!」
俺はファミレスに入る時はいつもミックスグリルと決めている。ファミレスは地方によってそのチェーンがあったりなかったりするし、そのチェーンの中でもメニューが少し違ったりする。その点、ミックスグリルはどのチェーンのどの店舗にも必ずあるから迷わなくてもいい。ご飯を大盛りにすれば、おかずのバリエーション的にも全体のボリューム的にもそこそこ満足できる。それに、なんといっても当たり外れがない。浅見さんが言っていた、『カレーとラーメンは全国どこにいってもあんまり外れがない』理論のファミレスバージョンだ。
そんなことを考えながら上着を脱ぎ、水を取りに行く。無理だとはわかっているが、水だけテーブルの上に用意してほしいとこの時だけは思ってしまう。
心の中でぼやきながらお冷用のグラスを手に取った時。後ろから懐かしい声がした。
「おや、これは奇遇ですねえ。井之頭さんも遅めの昼食ですか?」
この丁寧な口調、間違いない。振り返ると、やっぱり見知った顔だった。
「ええ、仕事が思ったよりも長引きまして。
……お久しぶりです、杉下さん」
警視庁特命係、警部、杉下右京。この前会ったのは、小野田公顕官房長の告別式の時だった。
「杉下さんも昼食ですか?警察官は仕事が不規則で大変ですねえ」
そう言うと、杉下さんは一瞬寂しそうな顔をした。いつも冷静沈着で、あまり掴みどころがない人なだけに、少し驚いた。
「実は、たった一人の相棒が先日退職してしまいましてね。僕も今は無期限停職の身です。ですので、今日はプライベートで湯川さんと食事をしていたのですよ」
そう言って店の奥の禁煙席に目を向ける杉下さん。すると、そこには確かに湯川さんがいた。俺に気づいて会釈をしてくれる。慌てて俺も無言で頷き返す。
「あのさー、俺もコップ取りてーんだけど……」
下から突然の声。慌てて振り返ると、後ろに小学生の男のが立っていた。ごめんごめんと言いながら後ろに下がる。
「では、私はこれで」
「はい、いずれまた」
杉下さんとも言葉少なに別れる。いつの間にか邪魔になってしまっていた。それにしても、この男の子、どこかで見たような……。
水をグラスに注ぎながら考えていると、これまたどこからか声がした。
「元太くーん!こっちこっち!」
杉下さんらとは反対側の禁煙席で手を上げている女の子。小学生らしい子が何人かと……あのふくよかな白髪の男性。思い出した。高知のひろめ市場で出会ったグループだ。
――今日はなんだか知り合いによく会う日だなあ。
この時の俺は、席に戻りながらまだそんな呑気なことを考えていたのだ。
「お待たせしました!
ミックスグリルの和食セット、ご飯大盛りです!」
――おいでなすったぞ。
ミックスグリル・和食セット(ご飯大盛り)
ミックスグリル
ハンバーグ・チキン・ウインナーが揃い踏み!
ブロッコリー・ポテト・コーンで付け合せもバッチリ!
ご飯と味噌汁(漬物付き)
たかがファミレスと侮るなかれ。こいつがいなけりゃ始まらない。
「いただきます」
――まずは、やっぱりこいつからだろう。
備え付けの箸を手に取り、ちょっと固まってる味噌をかるくまわして、ずずっと一口。
美味い。
日本人が最初に味噌汁に口をつけるのは、米粒が箸につかないようにするためだと最近聞いた。けれど、そんな理屈は抜きで俺は味噌汁を最初に飲む。なんというか、汁なのに、飯を食うんだって感じがする。
そのままの流れで、飯を一口、二口。飯をもぐもぐしながらハンバーグを半分に。また半分に割って、一切れを飯の上で齧る。
――肉、美味し。
残りの欠片を飯と一緒にかっ込む。肉の上から流れ落ちたトマトソースがよく飯にからんでいて、これだけでも茶碗が空になりそうだ。
とはいえ、飛ばし過ぎは良くない。付け合せのブロッコリーを挟んで、心を一旦落ち着ける。さて、これからどうするか。
すでに先手は取った。このままハンバーグという本丸を一気に攻め落とすか、副将のチキンや尖兵のウインナーに取り掛かるか。暫く悩んだ末に、副将を相手にすることにした。
熱々の鉄板の上から、チキンをまるごと飯の上に載せる。2,3回米の上でバウンドさせたあと、端からがぶっとかぶりつく。
「はふっ」
思わず声が出てしまう。酸味のあるトマトソース味のハンバーグとはまた違う、ガツンとしたにんにくの効いた醤油味。これはご飯が欲しくなる。
チキンの下のご飯をかっ込む。またチキン。ご飯。チキン。ご飯。旨さ発動の連鎖が止まらない。あっという間に、チキンもご飯もなくなってしまった。
ボタンを押してご飯のおかわりを頼む。もちろん大盛り。ここからが第2ラウンドだ。まずは、味噌汁と漬物で体制を整える。
――飯が来るまで、これで繋ぐか。
ごろっと切られたポテトを掴み、鉄板の上に残ったチキンのソースをつけながら食べる。ブロッコリーも同様に。時々コーンを一粒ずつ。こういう脇役を片付ける時間も、嫌いじゃない。
一粒づつ食べ続けていたコーンが残り僅かになった頃、ようやくおかわりが届いた。
――さあ、戦闘再開。
とっておいたウインナーを端からパキっと一口。脂が溢れ出ると同時になるこの音がたまらない。男の一人暮らし、しかも基本外食の俺では、こういう鉄板でもないとこの食感のウインナーにはありつけない。実は密かな楽しみだったりもする。
残りの半分を飯の上にキープしておいて、味噌汁を啜る。続いてハンバーグ。ご飯。漬物。またハンバーグ。洋食な肉をおかずに飯をかっ込むのが止まらない。久々の、肉々しい昼飯。
大方食べきり、鉄板が冷めてきたところで、木の枠の所を掴んで持ち上げる。残っているコーンやハンバーグの欠片、余っているソースを皆まとめてご飯の上に流しかける。茶碗にかぶりついて全部一緒にかっ込んで、ごちそうさま。少々下品だが、この瞬間がたまらない。
――ミックスグリル、大満足。
たまには、こういう昼飯もいいもんだ。
その後、店のメニューを片っ端から頼んで数時間居座っていた男が忽然と姿を消すという事件が起こった。入り口から出てはいない、他には逃げられる場所はないと大騒ぎに。
杉下さんはもちろん、湯川さんや自称少年探偵団、その保護者の博士まで加わった大捜査が開始されてこれまた大騒ぎになるのだが……。それはまた別の話だ。
如何でしたでしょうか?
今回は「ガリレオ」から湯川学。「相棒」から杉下右京。「名探偵コナン」から阿笠博士と少年探偵団の面々です。
次週から相棒も始まりますし、これはもう右京さんをだすしかないと思いました。笑
反町さんの相棒がどんな風になるのか今から楽しみです!
感想お待ちしております。
今回のおまけ
『これはまた後味の悪い結末だねえ。心が痛くて痛くて仕方ないよ』
「……戯れ言だね」
「でもまあ、1つ言えるのは」
『「ぼくは悪く無い」』
――負完全と人間失格の会話。