孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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お待たせしました!みんな大好き焼き肉です!(待ってた人いる?)
今回もタイトルでクロス先がわかりますね。笑
既に何人も挑戦したテーマですので、なるべくオリジナリティが出るよう頑張ってみました。
ではどうぞ~


第二十五話 海鳴市藤見町のツラミとカルビクッパ

 

 海鳴市。

 中心部にはビルが立ち並ぶが、周囲を海や山に囲まれ自然も多く残っている地方都市。昔ながらの商店街、大型商業施設、大学病院、娯楽施設など一通りのものが揃っていて、とりあえず全部用意しましたと言わんばかりの街だ。初めて来た時、まだこんな場所が日本にもあったのかと驚いたことを覚えている。

 今日この街に来たのは、昔からのお得意さんからお呼びがかかったからだ。既に娘さんに代替わりしているが、結婚を期に新たに幾つか欧州の家具を用意したいらしい。あの娘が結婚かあ……。おじさんになっちゃうわけだ、俺も。

 しかし、そうなると何か手土産が必要だな。流石に手ぶらってのはまずい。

 

 ――そうだ。結婚祝いも兼ねて、あれを買っていこう。

 

 今から手の込んだものを用意できるわけじゃないし、あれなら調度良い。ま、半分は俺が久しぶりに食べたいだけなんだけど。

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさか月村さんが翠屋の息子さんとご結婚なさっているとは思ってもみませんでした。手土産には食べ慣れすぎていましたか、シュークリーム」

 

 一時間後、月村邸に到着した俺が月村忍さんから旦那さんを紹介された時には、外国人のメイドさんに翠屋で買ってきたシュークリームの箱を渡した後だった。紅茶を淹れて参ります、と言ったメイドさんの顔が少し笑っているようにも見えたのはこのせいだったらしい。

 

「いやー私は嬉しいわよ?けど恭也がちょっとね」

 

 くすくす笑いながら月村さん――は、両方か。忍さんが恭也さんのほうを見る。一人だけシュークリームを食べずに紅茶だけを飲んでいる恭也は少しぶすっとしてみせていた。

 

「子どもの頃から試食ばっかりさせられてきたから、甘いものが苦手になっちゃったんですって」

 

「……全部じゃない。羊羹や大福――和菓子は、嫌いじゃない」

 

 ははあ、なるほど。母親がパティシエならそういうこともあるのかもしれない。それに、本人の気質もあるんだろう。高校生の頃から趣味が盆栽っていう時点でお察しだ。正直、洋館で紅茶を飲んでいるよりも、日本家屋の縁側で煎茶を啜るほうが似合っている。

 俺がそう言うと、実家ではまさしくその通りだと忍さんが笑っていた。恭也さんはますますぶすっとしている。

 

「でも、思いっきり洋風の月村家に婿養子にきてくれるくらい、私のことが好きなんだよねー?恭也は」

 

「……それは、まあ、その」

 

 口ごもる恭也さん。なんだろう、突然シュークリームが更に甘くなった気がする。紅茶だ、紅茶がいる。半分ほどカップに残っていた紅茶を一気に飲み干すと、胸焼けが少しましになった気がした。それでもまだ甘いが。俺をそっちのけでいちゃつきはじめる月村さん夫婦を見てため息をつく。

 

「……申し訳ございません。落ち着くまで少々お待ちいただけますか」

 

 そう言いながら、メイドさんが空のカップに紅茶のおかわりを注いでくれた。

 

 

 

 海鳴商店街のメインストリートをぶらぶらと歩く。今回はとりあえず要望を聞いていおいて、後々メールで詳しいカタログを送ることになった。意外にもというべきか、最近の若者だからというべきか、忍さんは電子機器にめっぽう強い。年配の客だと資料を持って何度も足を運ばなくてはならないこともあるから、正直助かる。

 後のことは全部東京の事務所ですませられるのだが、せっかく久しぶりに海鳴に来たのでその辺をぶらぶらと歩いてみることにした。……胸焼けもどうにかしたかったし。正直、まだ口の中が砂糖でじゃりじゃりいってる気もする。

 それに、海鳴は散歩するにはもってこいの街だ。決して都会というわけではないが、生活に必要な施設も、自然も、すべてが揃っている。だからなのか市民の生活満足度、住んでみたい街ランキングも高いらしい。すれ違う地元の人たちの顔も皆幸せそうだった。

 海の方へと向かって行くと、見晴らしの良い公園に出た。広場のベンチに腰をかけて、風を感じながら海を眺める。海岸線は整備されていてビーチはないが、ここは地元の人たちの憩いの場になっているようだ。デートらしきカップルもちらほら見かける。

 ……また胸焼けをおこしそうだ。それに、なんだか。

 

 

 

 ――腹が、減った。

 

 

 店を探そう。

 

 

 突然立ち上がった俺を、向かいのベンチに座っているカップルが驚いたように見つめていた。

 

 

 

 

 海鳴臨海公園を出て山の方へと上がっていく。こちらには小、中、高、さらには大学や大学病院など教育施設が集中しているようだった。あとは市立図書館もこっちだったか。

 学生が多くいるだろう場所には、自然とがっつり系の店が多くなるような気がする。女子高生をターゲットにしたスイーツ専門店なんてのもあるが、今は飯の気分だから、パス。

 

 ――さて、何を食うか。

 

 高校前の坂道を登りながら考える。学生の頃、俺は何を食ってたんだっけ。

 ハンバーグ……はこの前食った。ステーキ、は悪くはない。悪くはないんだが、この街で昼間っからステーキってなんか気取り過ぎな気もする。とんかつ、カツ丼、牛丼……うーん。いまいち、そそらない。最近寒いくらいになってきたし、何か温かいものがいいんだが……。

 そうこうしているうちに、坂を登り切って高校の正門前に来ていた。昼飯を食べに出かけるのか、体操着姿の生徒たちが次々に門から出てくる。

 

「何食べるー?」

 

「俺カツ丼大盛りー」

 

「俺小うどんと親子丼のセット」

 

「俺釜揚げー!」

 

 元気だなあ、若者は。

 

「俺焼き肉ー」

 

「メニューにもねえし金もねえよ」

 

 

 焼き肉。

 

 

 いいじゃないか。学生の頃は気軽に焼き肉なんか行けなかった。仕事がうまく行きだして、1人で満足するまで肉を食えるよになった時は感動したもんだ。それに、最近食ってない、焼き肉。焼き肉、決定。

 

 ――確か、商店街の少し上の方に焼肉屋の看板があったよな。

 

 ぐるっと一周することになるが構わない。シュークリームも(?)消化されるし、昼飯前の軽い運動だ。そう考えると、足が自然と速くなっていった。

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

「あのー、1人、なんですが」

 

「はい!お一人様用のカウンター席がございますよ。こちらへどうぞ!」

 

 案内されたのは、角の窓際にあるカウンター席だった。背後には仕切りもあって、覗きこまないとこちらが見えないようになっている。全部で5席。1つずつ小型の網が埋込み式で置かれていた。最近はこういう1人用の席がある店も増えてきて、ちょっと嬉しい。

 

「お飲み物は何になさいますか?」

 

「ウーロン茶でお願いします」

 

「かしこまりました。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 

 そう言って下がっていく店員さん。一瞬だが驚いた顔をしていた。俺ってそんなに酒飲みに見えるんだろうか。

 首をかしげながらメニューを見る。いかにもな手作り感満載の、味のある筆で書かれたメニューだった。

 

 ――さて、どう組み立てるか。

 

 とりあえず、タン、カルビ、ハラミは決定なんだが。いつも同じじゃ芸がない。今日は、どこか変化球で攻めてみたい。となると、肉はこれで……こっちも、一番上じゃなくて3段目だ。

 

「すいませーん!」

 

 

 

 

 

「お待たせしました!

 厚切りタン、カルビ、ハラミ、イカタコキムチです」

 

 

 五郎セレクション

 

 厚切りタン

 がっつり食べごたえ厚切りのタン!当店比1,5倍!

 

 カルビ

 秘伝の醤油タレに漬け込んである。上からネギをパラパラと。

 

 ハラミ

 肉々しいのに柔らかい!タレでも塩でもいけちゃいます。

 

 イカタコキムチ 

 両方はいったお得なキムチ。食感が違って2倍美味しい!

 

 

 

 ――やっぱり、まずはタンからだろう。

 

 トングを使って、タンを2枚網の真ん中に並べる。その横に、カルビとハラミを1枚ずつ。すぐに食えるわけじゃないんだが、この瞬間が毎回妙に楽しい。そして、その間にキムチだ。

 白菜と、イカと、タコ。全部をいっぺんにつまんで、一緒に口の中に放り込む。

 

 ――あ、これ、美味い。

 

 味は、イカのほうがよく染みてる気がする。ぎにゅって食感が、噛めば噛むほど味を出してくれる。

 でも、食感自体がタコのほうが面白い。吸盤がついてるからなのか、コリコリとした感じがたまらない。イカタコダブル、意外といいかもしれない。

 トングでタンをひっくり返して、もう一口。いかんな。飯を食う前にキムチがなくなってしまいそうだ。

 一瞬白飯を頼もうかと思いが頭をよぎったが、すぐに却下する。今日はとことん変化球で組み立てると決めたのだ。キャッチャーのサインに首を振ってばかりいる奴はすぐに打たれてしまう。落ち着いて、自分のペースで攻めていくんだ。

 1つうなずいてタンを取る。確かに厚い。チェーン店で見かけるぺらっぺらのやつとは大違いだ。当店比1.5倍という胡散臭いフレーズに引かれて頼んでしまったが、案外嘘じゃないのかもしれない。タレとは別の小皿にとって、上からレモンタレを少しだけかける。こういのは、つけるよりも少しだけかけたほうが旨い気がする。

 少しだけふーふーして、敢えて半分だけ噛み千切ってみると。

 

 

 ――うっま。何これ。

 

 

 タンって、こんなに肉々してたっけ。今まで、タンはタンで、他の肉とは別の食べ物みたいに思ってたけど、こんなに肉なタンは初めてだ。

 残りの半分もすぐに口の中に放り込んで、もう1枚をとる。今度は上から塩だ。かるく振ってまるごと食べると――。

 

 ――タン塩、最強。

 

 肉々しい感じが強い分、塩のほうが肉の旨味がはっきりわかる。馬鹿の一つ覚えみたいにタン塩ってのも考え物だが、実はそれが一番旨いからなのかもしれない。

 カルビもいい。タレに漬け込んであるから、そのまま食べても手元のタレにもう1度つけても旨い。奇をてらってない、王道の肉。ストレートを見せなければ、変化球だって生きてこない。

 ハラミは断然タレだ。内臓扱いなんだけど、しっかり肉の味。だけどしっかり柔らかい。そのやわらかさに、タレがぴったり合っている。

 皿の上の肉がどんどん減っていく。最後の1枚ずつを並べ終えたところで――。

 

 ――第2弾、どうしよう。

 

 さっきのは、ちょっとした変化って感じだった。ここいらで、何か大きな変り種をいっておきたい。何かないのか、変り種。なんてことを思いながらメニューを眺めていると、そのものずばり、変り種の項目があった。

 厚切りベーコン、ドイツウインナー、座布団カルビ、ツラミ、……ツラミ?聞いたことのない肉だ。ツラミ。想像できない。恨みつらみ、は関係ないか。

 

 ――座布団カルビにも惹かれるんだが……ここはやっぱりこれだろう。

 

「すいませーん!

 ツラミと、カルビクッパお願いします!」

 

 

 五郎セレクション第2弾

 

 ツラミ

 厚切りにされた牛の頬肉。歯応えばっちり、旨さばっちり!

 

 カルビクッパ

 カルビがたっぷり入ってる!1人前でも2人分くらい入ってる。

 

 

「ほー……」

 

 ツラミって、面身って意味だったのか。カシラやコメカミってのは聞いたことあるけど、どう違うんだろう。

 

「カシラっていうのは頭の肉全部のことなんです。ツラミはその中でも頬のお肉で、美味しいんですよ!」

 

 ほほー。頬なのね。

 トングで掴んでみると、それだけで結構弾力があるのがわかる。なんだか、これだけで旨そうだ。そういえば、高級なフランス料理なんかではメインに牛の頬肉を使うことがあるって聞いたことがある。そう考えると、実はこの焼肉屋ってすごいのかもしれない。

 

 ――カルビクッパも、肉たっぷりだし。

 

 ツラミが焼けるのを待つ間、ようやくのご飯ものだ。ボウルみたいに大きな器の中身を、これまた大きなスプーンで掬って、一口。

 

「あぁーっ」

 

 スープが身体中の血管に染み渡っていくようだ。旨さが血液にのって爆走している。なんてことはない唯のスープご飯なのに、確かに感じるカルビの旨味。やはりこの店、侮れない。

 熱々のスープをちびちびやりながら、ツラミが焼けるのをじっくりまつ。この肉はしっかりと焼けたほうが旨いらしい。

 

 ――お待ちかね、ツラミちゃん。

 

 タレにたっぷりつけて、一口で。

 

 ――ほっぺ、旨し。

 

 しっかりとした歯応えなんだけど、なんとなく内臓系に近い旨さがある。ハラミとは正反対の旨さだ。ぎにゅっとでもいうような食感に、脂の旨味。君に出会えて、よかった。

 ツラミを食べ、スープを飲み、米粒をかっ込み、キムチを食べる。途切れることのないローテーション。肉が食えるって、幸せ。

 

 ――焼肉って、幸せだ。

 

 海鳴、最高。

 

 

 

 

 その後、店を出て駅に向かう途中、立派な美女に成長したなのはちゃんに出会うんだが……何故か親友だという関西弁の美女に胸をわしわしと揉まれていたのは、また別の話だ。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は「とらいあんぐるハート3」及び「魔法少女リリカルなのは」より月村忍、月村恭也、高町なのは、八神はやて、メイドロボのノエルさんです。
ちなみに自分はとらハ3がD.C、Fateの次にやったエロゲで、結構印象に残ってるゲームです。
感想お待ちしております。

今回のおまけ
 
「川神流、富士砕き!」

「じゃあ、こっちは――地球割り」

 武神と人類最強の戦い。



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