孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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相変わらずお久しぶりの更新です。
いえ、決して恋姫英雄譚ばっかりしていたわけじゃないんですよ?(迫真)
今回はクロス先は1つだけ。このシリーズを書き始めた時からずっとやりたかったネタです。
ではどうぞ~



第二十六話 福岡県直方市磯ヶ浦の松茸定食

 

 

 ――秋だなあ。

 

 東京は言うに及ばず、西日本も最近すっかり肌寒いくらいになってきた。九州にある福岡県の山が僅かに色づき始めている。全体を見ればまだまだ緑が多いが、これも秋の風情というやつだろう。

 毎年この季節になると、育ての親だった爺さんの家で柿を食っていたことを思い出す。空き家になっていた家の庭にあった柿の木の実を勝手に採って食べていた。

 今にして思えばとても食えたもんじゃない味だったが、子ども頃は味なんてどうでもよかった。木になっている実を採って食べるということ自体が一種の冒険だった。あまりに渋くて吐き出してしまったところをたまたま通りがかった女子高生に見られてしまったのは誤算だったが。なにもあそこまで大笑いしなくてもよかったろうに。

 笑うなと抗議すると、目尻に涙を浮かべながらごめんごめんと謝る。まだ笑っているとはわかっていても、色白美人にそう言われてしまっては何も言えない。ぶすっと黙りこんだ俺に、彼女は美味しそうな桃を1つ差し出してくれた。

 

『これ、お詫び。一緒に食べましょうか』

 

 空き地に2人並んで桃を食べながら色々な話をした。どうやら彼女は怪談が好きだったようで、自分が出会ったという様々な妖怪のことを面白おかしく話してくれた。人間が嫌いだ、とも言っていた気がする。もしかして、彼女自身が妖怪なんじゃないか、と思ったものだ。

 それから彼女とはそこで度々会うことになったが、ある日を境にぱったりとこなくなった。何があったのかはわからない。生きていれば、今頃は当時の爺さんと同じくらいの年齢のはずだ。どうしているんだろうか。

 

 ――なんだか湿っぽくなっちゃったな。

 

 

 しかし、思い出すと、なんだか。

 

 

 腹が、減った。

 

 

 。

 

 。

 

 。

 

 

「店を探そう」

 

 大股で歩き出す。なんだか、今日は和のものが食べたくなった。

 

 

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 この前福岡に来た時は、確かうどんを食べた気がする。せっかく秋で柿の思い出が浮かんだんだから、何か日本の秋らしいものを食べてみたい。柿の他には何があるんだろう。

 栗、さつまいも……すぐに思いつくのはそんなところだが、いまいちぱっとしない。だって、なんだか食事って感じじゃないし。どっちかっていうとおやつだろう。

 迷った時には、とりあえず駅の方向へと進んでみる。駅に行けば、とりあえず飯屋はあるからだ。最悪コンビニはあるから食料は買える。ずんずん進んでいくと、思った通り。ぽつぽつと居酒屋らしきものが見えてきた。居酒屋飯もいいかもしれない。

 

 ――でも、居酒屋って中に入ってみるまで何があるかわからないんだよなあ。

 

 普段ならそれはそれで楽しみなんだが、胃袋の戦略が決まっている今日みたいな日にはちょっと厳しい。

 こういう時には……旗だ。敵陣に掲げられた旗を見て、相手の軍略を見抜くんだ。

 刺し身――いいんだけど、ちょっと寒い。生ビール――は、俺には関係なし……。ひやおろしも、関係ない。モツ鍋1人前から――も、また今度。で、次は。

 

 ――今だけ、松茸定食。

 

 日本の秋らしい、きのこ。きのこの中のきのこ。きのこの王様、松茸。キングオブザきのこ。これしかないでしょう。居酒屋っぽい感じだけど、無問題。決定。

 小走りしながら店へと近づく。俺みたいな年の小走りってちょっと格好悪い気もするけど、今は気にしない。だって松茸だし。

 

「いらっしゃいませー」

 

 引き戸を開けて中に入ると、思ったよりも食堂然とした店だった。大きなテーブルが4つ。座敷にテーブルが3つ。席はそれだけで、カウンターが全くない。なんと客は俺だけだった。どうやらまだ店を開けたばかりらしい。

 

「ご注文は何になさいますか?」

 

 昔ながらの割烹着を着たおばちゃんがメニューを渡しながら聞いてくれる。なんだかいいなあ、こういうの。

 

「えっと……表にあった、松茸定食って、おいくらですか?」

 

 できるだけ物怖じせずにはっきりと言う。聞き返されるのはやっかいだし、この後も仕事があるのだ。金が足りなくなりました、なんてことになったら目も当てられない。

 

「2000円です。限定なんですけど、お客さんが今年最初ですよ」

 

 そう言って悪戯っぽくふふっと笑う。心が暖かくなる、母さんの微笑み。

 

「松茸定食1つお願いしまーす!」

 

「あいよー!」

 

 おばちゃんの元気な声に、厨房の奥から大将がこれまた元気よく返事をする。古き良き日本の食堂の姿だ。おばちゃんが持ってきてくれたお茶を啜ると、身体まで暖かくなった。

 

 ――あ、ほうじ茶だ、これ。

 

 

「お待たせしました。松茸定食です」

 

 

 松茸定食

 

 松茸ご飯

 大振りにスライスされた松茸がたっぷり!こいつだけでも大満足!

 

 焼き松茸

 小振りな松茸を丸ごとどん!小さいからと侮るなかれ。

 

 松茸の土瓶蒸し

 湧き上がる香り!香り!香り!汁を飲むだけでも充分おかず!

 

 おぉー……。

 

 なんていうか、壮観だ。

 

 

 最初は汁物からとよく言うが、ここは、やっぱりご飯からだろう。行儀よくお上品にご飯と同居している松茸を箸で持ち上げる。今年、初松茸。

 

「いただきます」

 

 ぱくり。もきゅっ、もきゅっ。ごくん。

 

「おぉーっ」

 

 松茸だ松茸だ。これこれ。これですよ、これ。

 エリンギなんかとは比べ物にならない、独特の歯ごたえ。しっかり噛みごたえはあるんだけど、ちっとも固くない。そして、なんといってもこの香り。たまりません。

 ご飯自体も美味い。松茸の味と香りが、しっかりと染み染みだ。続けて2口、3口。このままご飯をいつまでも食べ続けていられそうな気がする。

 そうはいっても、おかずが色々あるのに勿体無い。名残惜しいが、ここで一旦止めておいて……。

 

 ――土瓶蒸しは、どうだろう。

 

 上に乗っている小さな蓋に、ちょっとだけ汁を注いで……くいっと。

 

 ――ばっかうま。

 

 俺は、汁をなめていた。きのこから出る汁。ただの汁が、こんなに美味いとは。液体に浸って薄まっているはずなのに、ご飯よりも数倍強い、この香り。香りだけで、いくらでも飯が食えそうだ。……さっきも似たようなことを言った気がするな、俺。

 

 ――飯、汁ときたら、最後はこれだ。

 

 出汁醤油と、塩と。小皿が2つ用意されている。ちょっと迷ったが、素材を味わうなら塩だ。頭のほうを、かるくちょんちょんとつけて……齧る。

 

 ――試合開始直後、右ストレート1発KOです。

 

 完璧にノックアウト。松茸に首ったけ。これはもう、きのこを超えた松茸という何かじゃないだろうか。

 ご飯をかっ込む。松茸。汁を飲む。松茸。今度は醤油で齧る。松茸。香ばしさがたまらない。ご飯。汁。ご飯。焼き。汁の具。ご飯。どこをとっても、全部松茸。これが美味くないはずがない。

 

 ――さて、ここで。

 

 土瓶の中敷きを取り、中に入ってる松茸を崩さないように慎重に箸で挟む。汁が零れ落ちていかないように、急いでぱくっと放り込む。

 

 ――いいぞいいぞー。松茸いいぞー。

 

 焼きや炊きとは違う、ぷるぷるの食感。でも、しっかり松茸。土瓶蒸しって、これが最高。

 茶碗に口をつけ米粒を全部かっ込み、土瓶を逆さにして汁を最後の一滴まで舐め尽くした時には、頭も胃袋もすっかり松茸でいっぱいになっていた。

 

 

「ありがとうございましたー」

 

「げっぷ」

 

 おばちゃんの声と同時にげっぷが出てしまった。いかんいかん。まだ仕事が残ってるんだ。

 ぶるぶるっと頭を振って気持ちを切り替える。さ、仕事仕事。

 

 

 

 

 

 

 個人で輸入雑貨商なんてものをやっている俺だが、実は年がら年中輸入だけをしているわけじゃあない。アジアのものを向こうに輸出したりもする。今回はアランの頼みで茶器を――高取焼を見に来た。所狭しと器が並んでいるギャラリーの中をゆっくりと歩く。

 高取焼は直方市や早良区で継承されている福岡県下有数の古窯だ。一度は廃業してしまった窯にも再び火が灯ったりと、近年再注目されるようになってきた。高取焼は時代によって作品の毛色が驚くほど違うが、欧州で人気なのは『へうげもの』の織部好みの作風の古高取だ。現在では内ヶ磯窯で見ることができる。

 ヨーロッパの美は、人工的に作り上げる美だとよく言われる。別に悪い意味ではない。代表的なのは噴水だろうか。人工的に作り上げたものだが、自然のそれに負けない美しさがある。それだけに、真円をわざと歪ませた『美』が目新しいらしいのだ。

 

 ――しっかし、こういうのって何回みても……。

 

「戦国時代にこういうの作らせるってすっげえセンス進んでるよなー」

 

 そう、それそれ。

 

 心の中を代弁してくれた声の方を振り返ると、高校生だろうか、少年の3人組が立っていた。

 

「まあ、ネットで色々調べてから来たけど、同じ時代のやつと比べて明らかに感じが違うよな」

 

「そうそう。個性があって面白いけどさ。興味ない人から見たらただの失敗作だよな、こういうのって」

 

「まあな。つーか俺にはそう見える。見ててもあんまり面白くない」

 

「ま、まあ課題なんだしさ。とりあえずレポート書けるくらいには見ておこう。な?」

 

 どうやら学校の課題のようだ。地元の工芸品について調べなさい、みたいなものだろうか。そんなことを考えながら微笑ましく彼らの様子を眺めていると。

 

 その内の1人の顔が、彼女と重なった。

 

「……レイコさん?」

 

 思わず口をついて出てしまった言葉を聞いて、その少年がばっと顔を上げた。まっすぐにこちらを見つめてくる。

 

「夏目レイコを――祖母を、ご存知なんですか?」

 

「お孫さん?」

 

 

 その後、夏目君にレイコさんのことを色々話していると、どこからともなく不細工なような愛嬌のあるような猫が飛んできて夏目君の頭に直撃するのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は『夏目友人帳』より主人公『夏目貴志』と友人2人です。少女漫画レーベルの中では一番好きな作品です。アニメも大好きですし、OPとEDの歌も好きです。つまり全部好きです。笑
感想お待ちしております。



今回のおまけ

「僕と契約して魔法少女になってよ!」

「ごめんなさい。私もう魔砲少女なの!」

 ――白い悪魔同士の会話。

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