孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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あけましておめでとうございます。
随分と久しぶりになってしまいました。なんでこんなに遅くなってしまったかは私事なので活動報告に書く予定です。まあ、時間は空いてもこれからも細々とハーメルン様の隅っこで書き続けていきますので、今年も皆様よろしくお願いします。
新年最初は薄味複数クロス。原点回帰のゴローちゃんメインです。
ではどうぞ~


第二十七話 東京都秋葉原の海鮮焼きそば

 

 

 

 輸入雑貨商ってのは、基本的にこれ、という商品を決めている奴が多い。雑貨というだけあってその範囲は広い。その中で自分の得意分野はこれですよ、という営業をするわけだ。俺みたいに何でもかんでも手を出しているのは珍しい方だろう。

 勿論、俺にだって得手不得手はある。そういう時はより詳しい奴――例えば滝山なんかに仕事をまわしたりもする。普段ならそれでいいんだが。日頃からお世話になっている人からの直接の依頼ではそうもいかない。相手がロードとくれば特に。

 

 ――でも、これって絶対『雑貨』には含まれないよなあ……。

 

 日本有数の電気街、秋葉原。最近はオタク文化の聖地でもある。辺りを見回しても、そういう人がかなりいる。その中で、スーツ姿のおっさんがPCゲームを買い漁っている。誰がどう見ても奇妙だ。まあ、俺のことなんだが。

 今回の依頼主は、ロード・エルメロイⅡ世。イギリスのロンドンで大学の教授をしている人で、その筋では名教師としての呼び声が高い、らしい。らしいというのは、私生活を見る分にはとてもそうは見えないからだ。

 埃っぽい安アパートの一室に、カビだらけのパンやらゲーム機やらを常に散らかしている。ゼミ生のグレイ君がいなければ髪さえ纏められない。その上、日本人が嫌いな癖に日本のゲームが大好きという――実に、面倒くさい人だ。

 メールで指示されたゲームをカゴの中に放り込んでいく。多少雑に、放り投げるようになってしまったのは不可抗力だ。他意はない。

 さて、次はプロデューサーになってアイドル候補生をトップアイドルへと導くゲームだったな、とアイドルコーナーに行こうとしたところで。行きつけの和菓子屋の娘さんがポスターに大写しになっているのを発見した。

 

 ――有名になったなあ、穂乃果ちゃん。

 

 満面の笑みで名物の揚げ饅頭を持ってきてくれた時と同じ顔。実にいい表情でセンターに立っている。ニューヨークでのパフォーマンスを無事に成功させて帰国した後、解散について一騒動あったようだが・・・この分だと心配はなさそうだ。スクールアイドルからプロのアイドルへ。穂乃果ちゃんは1人であるプロダクションに入ったらしい。友達もたくさんできたとこの前茶飲み話をしてくれた。こっちの凛ちゃんにみくにゃんを合わせてみたいとかなんとか言ってたっけ。

 

 ――おっとっと。通り過ぎるところだった。これこれ。

 

 ……やっぱり、三十代の男がやるゲームじゃないよなあ、これ。

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー。次の方こちらへどうぞー」

 

 

「ふうっ」

 

 1つ大きく息を吐く。秋葉原のゲームショップのレジは尋常じゃない混み具合だ。大の大人があんなに……彼ら、仕事はどうしているんだろう。まあ、俺が言えたことじゃないが。

 しかし疲れた。人混みってのはそれだけで疲れる。人の熱気に当てられるとでもいうのか。おまけに両手いっぱいにこの荷物だ。早くどこかに腰を落ち着けたい。そう考えると、なんだか。

 

 

 ――腹が、減った。

 

 

「店を探そう」

 

 両手に持った袋を振り子のようにして方向転換。目指すのは、駅じゃなくて街中だ。

 

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 こうして見ると、意外と秋葉原にも飲食店が多い。全部が全部電気関係の店ってわけでもないようだ。いや、よく考えれば当たり前か。人は食わなきゃやっていけない。だから、人が集まるところには飯屋も集まる。至極単純な理論だ。これだけあれば、種類が少ないってこともないだろう。

 最近出先で食ったのは……まずは、松茸。その前は焼き肉、ミックスグリル。なんだか、重いというかインパクトのあるものばっかり続けて食ってる気がする。

 これまでの流れで行くと次はあっさり系だ。しかし、健康な成人男性としてはボリュームも捨てがたい。そこそこの量で、そこそこの強さの味付けで、欲を言えば野菜が食べたい。でもヘルシー過ぎないの。……我ながら都合のいいことを言っているような気がする。そんなものそうそうあるはずが――。……あったよ。

 油でちょっと薄汚れた感じの、いかにもな中華の店。赤い看板に白字で、しっかり四川と書いてある。店の中はそんなに広くなさそうだが、結構客が入っているようだ。で、表にある自販機の横に貼られた紙に手書きで書いてあるメニュー、イラスト付き。

 

 ――本日の日替わり。野菜たっぷり海鮮焼きそば定食。

 

 海鮮なのに野菜たっぷりときたもんだ。最近カップのソース味ばっかりで、旨い焼きそばを食ってない気がする。今日は、これだ。

 昔ながらの薄汚れた暖簾をくぐると、これまた昔ながらの店という感じだった。まずテーブル席がない。店の中央に調理場。その周りをコの字型にぐるっとカウンター席。そういえば、いつだったか米が食えなかった餃子屋もこんな感じだったっけ。

 

「「「いらっしゃいませー!。開いてるお席にどうぞー!」」」

 

 店員が料理人を含めて全員一斉に声を上げる。人によるかもしれないが、この皆が一体となった感じ、俺は嫌いじゃない。

 

「ご注文お決まりになりましたらお声掛けください」

 

 そう言ってお冷を置いて去っていく女性店員さん。うーん、なんだか男前だ。中華やラーメン屋の店員さんって、皆こんな感じなんだろうか。

 お冷を一口飲んで一息つく。さて、日替わり定食は頼むとして……後は何にするか。なにはともあれ、まずは日替わりの詳細の確認だ。パラパラとメニューを捲ると、日替わりは冊子の中ほどに別に挟んであった。内容は、日替わりのメインと、ご飯と、スープのセット。それで890円。うん、中々いいじゃないか。

 しかし、これだと焼きそばだけで米を食うことになってしまうな。基本的にご飯の友人は選り好みしない俺だが、1つだけってのは少し不安だ。途中で飽きてしまうかもしれない。普段ならまよわず唐揚げやらチャーシューやらを頼むんだが。今日は野菜の日と決めてしまった。と、なると。

 メニューを数ページ前に戻す。一番最初、前菜の項。ここの野菜をおかずとして立ち上げてみるってのは、どうだろう。

 中華らしくないオーソドックスなサラダ。ザーサイ、ピータンサラダ。普通のゆでたまごのノリでいれてあるんだろうか?鶏のササミが載ってるやつ、酢の物……酢の物はだめだ。おかずにはならない。次、と思ったらこれ、いいじゃないか。よし、決めた。これにしよう。ティンときた直感に従うんだ。

 

「すいませーん!」

 

「はーい!お決まりですかー?」

 

 シュバッとした感じですぐに駆けつけてくれる女性店員さん。うーん、やっぱり格好良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました!

 日替わり定食と空芯菜の炒めものです!」

 

 

 ――さあ、おいでなすったぞ。

 

 

 日替わり定食

 

 野菜たっぷり海鮮焼きそば

 軽く揚げてある麺の上から海鮮たっぷり野菜たっぷり!醤油ベースの餡がとろとろと。

 

 ご飯&スープ

 茶碗にご飯とワカメスープ。日本っぽいのにきちんと中華。

 

 空芯菜の炒めもの

 シンプルに空芯菜だけ。ごま油で炒めて上からごまをかけてある。

 

 

 

「いただきます」

 

 まずは、メインの焼きそばから。

 箸で麺を少しだけ摘んでみる。揚げた麺特有の、ちょっと抵抗を感じる手応え。日本の家庭でつくられる「焼きそば」は殆ど茹でるか蒸すかみたいになってるから、こういう歯ごたえのある麺って、ちょっと嬉しい。

 細く切られた玉ねぎ、ナスといっしょに麺を茶色の餡にたっぷり絡ませて……ずずっと。

 

 美味い。

 

 最近は海鮮焼きそばというと塩味が多い。普通に売ってる焼きそばにもその足が伸びてきている。が、敢えてのこの醤油ベースの濃ゆい味。これぞ焼きそば。でも、ソースじゃなくて醤油ベースなのがなんだか新鮮な感じだ。

 麺が揚げてあるのもいい。一度茹でてある中太の麺だから、歯ごたえがしっかりある。しっかり食ってるって感じがする。それに続けて、玉ネギのしゃっきり感とナスのしっとり感。これはたまらん。

 今度は少し麺を多めに、海鮮と一緒に絡ませて持ち上げる。一口ではいけないかもしれないが、行儀はこのさいどうでもいい。早くもう一口が食べたい。すぞぞっと一気に口の中へ流しこむ。

 

 ――海の幸を分け与えてくれる地球に感謝。

 

 これは旨い。確かに味付けも美味いんだけど、それ以上に海鮮そのものから出てる旨味が半端じゃない。入っていたのは、イカ、ホタテ、エビ。それぞれ結構小ぶりに切ってあるが、その大きさからは想像もつかない旨味が噛めば噛むほど溢れ出してくる。変に塩味じゃないこの餡が、その旨味を邪魔していない。何これ、うますぎちゃんだよ。

 口の中でゆっくり噛み締めている間も、ずっと旨味が続く。これはこれですごいんだけど、そろそろ中和剤が欲しくなる。

 

 ――そこで日本人の心の友、ごはんですよ。

 

 口の中に餡と海鮮の味を残したまま、茶碗のごはんを一口放り込む。続けてもう一口。

 今度は玉ネギとイカを同時につまんで、餡をたっぷり絡めて……ごはんの上で、ちょん、ちょん。ばくってやって、続けざまにごはん。

 

 ――くぅっー!これですよ、これ!

 

 やっぱり日本人は米粒がないと始まらない。美味しいおかずでごはんが食べられる幸せ。日本人に生まれて、よかった。日本人の基本は、米と野菜だ。

 その野菜、空芯菜の炒めものもいい。ただの青菜が、ごま油で炒めるだけでいくらでも米が食える立派なおかずに大変身する。箸が止まらない。いかん。もうごはんがなくなってしまいそうだ。ええい!

 

「すいませーん!ごはんのおかわりください」

 

 落ち着け。ここで心を乱してはいけない。スープで一息ついて、戦略を立て直すんだ。器を持ち上げて、直に飲む。

 

 ――ちょっとだけふってあるごま、いい。

 

 

 麺と、具。具だけ、ごはん。ごはんと、空芯菜。スープを飲んで、また麺。我ながら完璧なローテーション、一連の流れが出来上がっている。麺という炭水化物をおかずの中心に据えてもこの完成度の高さ。秋葉原の中華、侮り難し。あっという間に皿の上が空になっていく。

 おかわりした分、少しごはんが余り気味だ。しかし、俺には最後の切り札がある。

 麺と一緒に掬いきれなかった餡と具。それを纏めて、皿を斜めにしてご飯の上にぶっかける。最強、ぶっかけご飯。ゆっくりと落ち着いて流し込んでいく。茶碗に齧り付くのが正しいやり方だ。

 

「ごちそうさまでした」

 

 焼きそばをおかずにごはんを食べる。大阪の人、今までちょっと馬鹿にしててごめんなさい。

 

 

 

 その後、穂乃果ちゃんは無事メジャーデビューを果たしライヴに出演することになるのだが……招待されて見に行ったら、ロード・エルメロイⅡ世に出会ったのは、また別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回はFateシリーズより皆大好きウェイバー君。そしてラブライブ!より穂乃果ちゃんです。登場してませんけど。笑
じつは作者が書いてる別のクロス作品とちょっとだけクロスしているというややこしいことになってます。そっちも早く続き書かなきゃなあ。その他にも幾つか書いてますが、実はオリジナル以外は基本的に微妙に重なりあってます。捲るまではいてるかはいてないかわからないスカートみたいに。
興味が湧いてきたらぜひ他の作品も読んでやってください。作者が泣いて喜びます。(ダイレクトマーケティング)
感想お待ちしております。

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