孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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皆様長らくお待たせいたしました!(待ってた人いる?)
仕事が大変順調に急がしい上に、モチベーションが中々上がらなくて書く気が起きていなかった孤独のグルメですよ、孤独のグルメ!プロデューサーさん!

今回は色々あって特別編。最後にダイレクトマーケティングが入ってますので嫌な人はブラウザバックしてください。笑
クロス先は1つ。わかる人には一瞬でわかりますが。笑
それではどうぞ~


特別編 メンチカツ

 

 

「……よし、じゃあこれにしようかな。よろしくお願いします、井之頭さん」

 

 そう言って頭を下げたのは、今回の客の店主。オールバックに1房だけ真ん中にたらした前髪、口の周りにうっすら生えた髭。まさに渋い大人の男という感じだ。それなのに、仕事着の左胸のところについている黒い猫のマークが違和感なく似合っている。まあ子どものころからずっと先代の仕事を見続け、手伝い、そして今店を受け継ぎ切り盛りしているというのだから、店のマークが似合うのは当然かもしれないんだが…なんだか悔しい。くたびれた俺とは大違い。

 

「いえいえ。こちらこそご注文頂きありがとうございます」

 

 心の中の声はおくびにも出さずできる限りの笑顔で返事をする。これ、商売の基本。

 ここ――『洋食のねこや』はオフィス街の近い商店街の一角にあるビルに居を構える洋食屋だ。その名の通り店のシンボルは猫らしく、店主の左胸にも、入ってくるときに見た、入り口の黒い樫の木のドアにも猫のマークが描かれている。

 店は結構繁盛しているようだ。というか今時珍しいことに、この商店街にある飲食店は軒並み繁盛しているらしい。近くにあるオフィス街には、社員食堂を持っている会社がほとんどないためか、昼休みともなれば合計で1000を超える客が近場で美味しい料理を出すこの商店街に集まる。と店主の山方さんが先程教えてくれた。

 が、決して楽というわけでもないらしい。何しろ商店街全体での客は毎日ある程度見込めるものの、場所柄、ここの商店街を利用する客のほとんどはリピーターなのだそうだ。他の店にはない売りのひとつも示せ無くては1年もしないうちに廃れてしまう。そのためか長年この界隈で『生き残ってきた』飲食店は、うちも含めて評判が良いんですよ――。自慢になってしまうのが照れくさそうに、でもちょっと誇らしげに語るその様子が、ちょっと羨ましかったのは内緒だ。

 

 ――ま、今は誰もいないんだけどね。

 

 そんな言ってしまえば『お昼が勝負』なお店だから、昼時に押しかけるわけにもいかない。だからこうしてオフィス街が空になるから、という理由で定休日になっている土、日曜日の前日――金曜日の営業終了後にお邪魔しているわけだ。当然店主の山方さんと俺の2人だけ。今度は営業している時に俺が客として来てみたいもんだ。

 

「しかし今回はかなり良い食器をご注文していただいたようで。

 ……誰か特別なお客様でもご来店されるんですか?」

 

「あはは……まぁ、そんなとこです」

 

 困ったように笑いながらぽりぽりと人差し指で頬を掻く山方さん。当たらずとも遠からず、といったところだろうか。まあ、高級品といえる職人技の欧州食器を一式注文するんだから、どこかの国のお偉いさんだとか王族だとかがお忍びでこっそり来る、なんてこともあるのかもしれない。……いや、ないか。考えすぎだな。

 

「ところで井之頭さん。もう夕食は取られました?」

 

 考え事をしながらその場で発注の手配をしていると、山方さんが声を掛けてきた。パソコンのキーを打つ手が思わず止まる。

 

「いえ、今日はまだ……」

 

 俺の返事を聞いて、山方さんがにかっと笑う。

 

「それはよかった。折角きて頂いたので今日はご馳走しますよ」

 

 表には出していない俺の心が、もとい腹が、ビクっと反応する。が、冷静に考えると悪いだろう。

 

 ――落ち着け、焦るんじゃない。俺は腹が減っているだけなんだ。……腹が減って、死にそうなんだ。

 

「いや、それは悪いですよ。お客様の所に足を運ぶのは当然のことですし……。

なにより、今日はもう営業時間外で明日は土曜日でお店もお休みでしょう?山方さんのお仕事を増やしてしまうのは……」

 

 俺の言葉を聞いて、山方さんは今度は豪快に笑った。

 

「大丈夫ですよ!1人前でそんな仕事を増やすなんて大げさなことにはなりませんって。それに、明日は土曜だから仕事も――ああ、いや。なんでもないんです。兎に角、気にすることはありませんよ。メニューはお任せになっちゃいますが、是非食べていってください」

 

 そう言って満面の笑みを向けてくる山方さん。その人好きのする笑顔に――俺の胃袋は、あっさりと白旗を揚げていた。

 

「……それじゃあ、お願いします」

 

 もうちょっと抵抗できなかったの?俺の心。もとい、胃袋君。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。今日の日替わりのメンチカツ定食です」

 

 今日の日替わり定食(メンチカツ)

 

 メンチカツ

 衣がざくっと、肉汁じゅわーっ!ごろっと2つを熱々のうちにどうぞ。

 お好みでソースとレモンを搾って。

 

 パンorライス

 日替わりはパンとライスが選べます。なんとお代わり自由!ゴローセレクト、本日はパン。

 

 スープ

 店主の気まぐれで種類が変わる日替わりスープ。ライスと同じでお代わり自由。

 今日は玉ねぎとベーコンが入ったコンソメスープ。

 

「……これはすごい」

 

「パンとスープはお代わり自由ですんで、欲しい時は言ってください。それじゃあ、ごゆっくり」

 

 そう言って軽くお辞儀してから厨房へ戻る山方さん。きっと片付けや掃除をするんだろう。ごゆっくりとは言ってくれたが、手早く食べ終えるべきだ。

 ……なにより、俺のこらえ性のない胃袋がさっきから燃料を入れてくれと悲鳴を上げている。我慢、できません。

 

「いただきます」

 

 言うが早いが、フォークとナイフを持って一目散にメンチカツへ。大きなごろっとしたかたまりを、真ん中でざくざく切り分ける。中から出てくる熱々の湯気と、皿の上にあふれ出る肉汁。……これこれ。これですよ、これ。こういうのでいいんですよ。いや、こういうのがいいんだよ。

 半分に切ったのを、また半分に切って……まずは、そのまま。1口で。

 

「あふっ、はふっ」

 

 熱い。肉汁が次から次から流れ出て、口の中を火傷しそうだ。でも。やめられない。

 

 ――美味い。

 

 当たり前だし、こういうことを言うのは山方さんに失礼なんだけど、スーパーや肉屋なんかでおばちゃん達が揚げてるメンチカツとは、まるで違う食べ物だ。なんかこう、しっかり『料理』って感じがする。

 衣の食感、肉の食感。香辛料の効いたミンチの味。肉本来のそのままの味。全てを計算して、積み上げられて形作られた『味』。美味いよ、これ。

 思わず唸りながらふわふわ真っ白の白パンをこれまた半分にちぎってばくりと食べる。口の中でメンチカツの旨味と混ぜ合わせながらモグモグして……ちょっと行儀が悪いけど、止まらない。器を持ち上げて、直接口をつけてスープをごくごく飲む。

 

「あーーーっ……」

 

 ――パンとスープって、どうしてこんなに合うんだろう。いや、これも当たり前なんだけど。

 

 ご飯と味噌汁とはまた違う、パンに染みこんでいくからこその親和性というか、なんというか。なんかもう、この2つだけでも充分ご馳走だ。交互に飲み食いするだけで、あっという間にスープが空になってしまった。……仕方ないよな。うん、仕方ない。

 

「すいませーん。パンとスープお代わりください」

 

「はーい。少々お待ちをー」

 

 ――よし。これで兵糧切れで敗北の心配はなくなった。

 

 残りの半分を、断面を上にして、肉のところにソースをかけてレモンを搾る。……ちょっとだけ待つ。この、衣と肉に染みこんでいって柔らかくなる感じも、嫌いじゃない。半分になったパンも、断面にバターを塗りつけて……戦闘準備、完了。

 半分の塊のメンチカツに、フォークをぐさっとさして噛り付く。お上品に切り分けてから食べてたんじゃ味わえない、口から迎えに行くからこその味。ソースの味とレモンのさっぱり感が合わさって最強に感じる。そこにパンという援軍を加えて……今、このメンチカツという天下は俺の胃袋で平定された。

 

「美味しそうに食べてくれますねえ、井之頭さんは。

 はい、お代わりのパンとスープ、お待たせしました」

 

 気がつくと、いつの間にかお代わりを持って山方さんがテーブルの横に来ていた。見られていたのに気づかなかったようだ。

 

「いや、これはお恥ずかしい」

 

「いえいえそんなことはないですよ。そんな風に食べてくれると料理人冥利に尽きるってもんです。

そういえば、ウィリアムさんもそんな風な食べ方してたっけなあ。最近見なくなったけど……」

 

 ウィリアムさん、か。やっぱり向こうの人も結構来るんだろうなあ。なんだか、その人と会ってみたい気もする。とはいえ、最優先課題は目の前のこいつだ。集中しないと。

 山方さんにお礼を言ってパンとスープを受け取る。そのパンを、縦に切れ目を深く入れて……また半分に切ったもう1つのメンチカツを挟み込む。付け合せの野菜も一緒に入れて、と。仕上げに、割れ目の中に万遍なくソースかけて、レモンを搾って……完成。

 

 即席メンチカツサンド

 実は店主公認『揚げ物の美味い食べ方』。公認だから、気にせずがぶっといっちゃって!

 

 大口を開けてがぶっと喰らいつく。

 

 ――ああ、俺は今、美味いものを食べている。

 

 手が止まらない。メンチカツサンドにかぶりつき、スープを飲み、またサンド。織田信長の三段撃ちならぬ、サンド撃ち。同盟軍、徳川コンソメスープ家康。俺、メンチカツに完全勝利。

 最後の一口をスープで流し込むとげっぷが出そうになった。いかんいかん。山方さんに失礼だし、何よりもったいない。

 ルンルン気分でテーブルの上にあった水差しからお冷を注ぐ。食後のお冷って、最早食事を構成する1部分な気もする。

 

 ――あ、これレモンの味がする。

 

 最後まで美味しゅうございました、山方さん。

 

 

 

 

 後日、土曜日に食器を納品に来ると店の中がえらいことになっていた。詳しくは店主との約束のため話せないんだが……それはまた別の話だ。ただ、どうしても知りたい人は、そうだな。

 

 今度始まる異世界食堂ってアニメを見るといいんじゃないかな?

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は今度アニメが放送される『異世界食堂』より店主さんの登場です。ちなみに苗字を山方にしたのは私の都合。だって原作だとまだ明らかになってないしネ。
感想お待ちしております。


ちなみにここからは世間話。最近は自由時間のほとんどをクトゥルフ神話TRPGにつぎ込んでおりますが、やっぱりTRPGというものは物語を書くモチベーションになるものです。そのおかげで色々やる気が出てきて20代半ばにして初めてツイッターなんてものもやり始めたり。
皆さんもクトゥルフやりませんか?(ダイマ)きっといつか作者の杉下左京だったり神戸尊(かんべみこと)だったりと同卓するかもしれませんよ?笑

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