今回は予告通りあの2人がちょこっと登場します。メインは別のキャラだけどね!
ではどうぞ~
「――らっしゃい。ってゴローじゃねえか」
自動ドアが開くと直様店の中に飛び込んで、エアコンのしっかり効いた空気に癒やされる。入店と同時に掛けられた声は、相変わらず渋くて豚丼のチェーン店には似つかわしくなかった。
「お久しぶりです、釈迦堂さん」
釈迦堂刑部。性格、精神面に問題ありということで破門されてしまった、ここ川神にある川神院の元師範代。俺の祖父とは知り合いで、祖父が亡くなってからは鉄心さんやルーさんと一緒によく可愛がってくれた。確かに善人とは断言しにくいが、それなりに筋は通すし思いやりもある複雑な人だ。そんな人がこの豚丼チェーン『梅屋』でバイトをやってるとは……何度見ても慣れない。思わず席にも座らずジロジロ見てしまった。
「おう、どうしたよ。飯食いに来たなら早く座れや。……言っとくが、俺にそっちの気はねぇぞ?」
「違いますよ。相変わらず似合ってないなあって思っただけです」
「うっせ、余計なお世話だ。俺ぁここの賄い目当てだからいいんだよ。さっさと注文しやがれ。いつものでいいのかー?」
「うーん、そうですね……」
釈迦堂さんの前のカウンター席に腰を下ろしながら一応考える。ここに来ると結局いつも同じものを注文してしまうけれども、一応考える。何も考えずに注文してしまって、もし俺の腹が頼んだものと別腹だったら目も当てられない。真剣に考えて……結局、今日も釈迦堂さんお勧めのものを食べることにした。
「豚丼大盛り、トッピングに梅肉で。あと豚汁」
「あいよー!梅肉はたっぷりだったな」
「お願いします」
出されたお冷を一口飲んでふぅ、っと息を吐く。さっと店内を見渡すと、今日も如何にも川神らしい光景があった。
俺から数席離れたカウンターに座っているのは短パンに青い半袖のシャツのラフな格好の男。年齢は……わからないけど雰囲気からすると結構若そうだ。20代かもしれない。
この男はまだマシだ。何とかレンジャーみたいなフルフェイスの赤いマスクを被っていても、それを口の上まで捲って上半分は被ったまま豚丼をパクついていても、釈迦堂さんに『レッド』とか呼ばれていても、おかしいのは頭部だけだから。川神ではよくあることだ。
「うん、美味しいじゃないか!チェーン店も侮れないな!」
「だろー?いやー、オールマイトも気に入ってくれてよかった!なんてたって俺ちゃんのオススメだからなここは!」
問題はなんかもう明らかに、見るからに画風が違うこの2人組だ。金髪で、筋骨隆々のパツパツ全身青タイツ。全身タクティカルベストやブーツのような軍人みたいな服装で、目の部分の周囲を黒く塗った赤いフルフェイスマスクを被った陽気な男。
怪人青タイツはまあいい。いや、よくはないけどまだいい。どんな服装をしていようと、筋肉もりもりマッチョマンだろうとわいせつ罪とかで通報されなければ個人の自由だ。けど赤い人が背負ってる刀って2本とも真剣じゃないのかあれ?ついでに言うと太腿にある銃も本物じゃないのか?それに、雰囲気がどう見てもカタギじゃない。…………けど、真剣持ち歩いてる女子学生も、現役ドイツ軍人とかもいるからなあ、この町。
はあ、とため息を付いてもう一口水を飲む。ちびちびやっていると、来店を知らせるチャイムが鳴った。今度はどんな人が来たんだとチラリと横目で見て。
「ぶふぉっ!?」
思わず吹き出してしまいゴホゴホとむせる。赤いマントに全身青タイツ。胸には黄色地に赤いSの文字。怪人青タイツ2号がいた。今度のは黒髪だったけど。青タイツ2号はピッと人差し指を一本立てて流暢な日本語で喋る。
「スーパーマンひとりで」
「あいよー。スーパーマンお一人様ごあんなーい!」
釈迦堂さん、普通に接客しちゃってるよ。釈迦堂さんが凄いのか、俺がおかしいのか。いかん、空腹で思考が変になってきた。
「はいよ、ゴロー。豚丼大盛りバイニクマシマシと豚汁だ」
目を瞑ってこめかみを揉んでいると釈迦堂さんが注文を持ってきてくれた。
梅屋の豚丼(大盛り、バイニクマシマシ)
脂のあま~い豚バラ肉を甘辛いタレで焼いてご飯にのせた丼。トッピングの梅肉が多いのは釈迦堂さんからのサービス。
梅屋の豚汁
具材たっぷり栄養満点な豚汁。定食の味噌汁は+100円で豚汁に変更可能。トッピングでバターもアリ。ゴローセレクトはそのままに七味で。
……ああ、この湯気とタレの香りを嗅いでいると。
腹が、減った。
。
。
。
「いただきます」
手を合わせるのもそこそこにとりあえず豚汁のお椀を持ち上げる。箸で味噌をちょっとだけかき混ぜて……ずずっと一口。
「あーっ、美味い……」
身体にじんわりと染み渡るようなこの温かさと味噌の味が嬉しい。ちょっと浮いてる豚の脂もあって、汁を飲んでるだけでカロリーが細胞の隙間に浸透していくかのようだ。
続けざまに具をかっ込む。ホクホクとしながらも歯ごたえのある蓮根と、牛蒡。甘味のある玉ねぎと人参。箸休め的にこんにゃく。これだけでも立派なおかずだ。俺は今、飲んでいるんじゃない。汁を食べている。
「…………」
なんだ?2つ離れたカウンター席に座った怪人青タイツ2号がじっと俺を見ている。何かおかしなところでもあるのか、なんて思っていたら口の端から若干涎が垂れていた。オイオイオイ、いい歳した大人が……まあいいか。そんなことより飯だ飯!
まずは、端の梅肉がかかってないところを、丼を持ち上げて、口で迎えに行って……流し込む。
旨い。
このクタクタになった豚バラと玉ねぎがやっぱりいい。このある種の歯ごたえのなさ、軽さがいいんだよ。この一口だけで白いご飯がお茶碗一杯は食えそうな気がする。生姜焼きでも同じだ。やたらと分厚かったり、肩ロースとかよりこういう豚バラ、細切れでいい。いや、それがいい。それで白いご飯を食うのが豚への供養だ。玉ねぎはネギでもいけるが。
「あいよー、豚丼特盛お待ちー」
青タイツ2号が頼んだ特盛の大きさを横目で確認して若干驚きながら、豚汁に戻って小休止。さて、ここからだ。
豚肉を1枚使って梅肉を少しずつ移動させていく。まったくのっていない場所、少しだけのせた場所、たっぷりのせた場所。豚丼と豚汁で豚がダブってしまうところを、梅肉で味を変えていくことによって飽きさせない。本郷ってコートの人は『豚下三分の計』とか言ってたっけ。
さて、分け終わったら……くるりと丼を回して、今度は梅肉たっぷりのほうから、かっ込む!
くぅ~、これですよ、これ!
さっぱりとした梅肉がたっぷり豚肉に絡んで、肉の丼とは思えない爽やかさ。梅肉の酸っぱさで、ご飯がいくらでもかき込めそうだ。ある意味この部分をおかずにして、梅肉がのっていないところをまたかき込む。
ここでまた豚汁を一口飲んで、口の中を一旦リセットする。そしてちょっとだけ梅肉をのせたスタンダードなところを楽しむ。ああ、旨い。豚ちゃんよ、お前の命は無駄にはしないぞ。さあ、ラストスパートだ!
「あ、あのー……その赤いの、なんていうトッピングですか?レッド・ジンジャーじゃなさそうだけど……」
意気込んでいると、そこで横から青タイツ2号が恐る恐る、といった感じで聞いてきた。怖いけど興味津々、といったところだろうか。まあ、梅干しってあんまり海外で食べてるとこ見たことないもんなあ。
「あー、えっと。梅干し……酸っぱいプラムみたいなものです。少しのせると美味しいですよ」
そう説明すると、ちょっとびっくりした顔になった。
「プラム?もしかして、ライスボールによく入っているっていうウメボシってやつかい?」
「ああ、そうですそうです。美味しいですよ。店員さんのお勧めですし」
バッと残像ができるほどのスピードで釈迦堂さんに首を向ける青タイツ2号。……何者だ?この人。
「おうよ、美味いぜー。サービスしてやるから試してみな」
あ、ちょ……。了承も聞かずに勝手に梅肉を少しのせる釈迦堂さん。あーあー、もう。まずいって言われたらどうするんだろうか。青タイツ2号は釈迦堂さんと俺の顔を交互に見たあと、うなずいて……器用に箸を使って、梅肉と豚肉と、その下にあるご飯を一緒にゆっくりと口の中に運んだ。そのまま一瞬固まって?
「スーパーうまーい!!」
「うおわっ!?」
目からビームを照射した。慌てて回避する釈迦堂さん。というかビームって避けられるんだ……
その後、貫通したビームが当たったという悪人たちが梅屋に襲撃してきて、怪人青タイツ2号改めスーパーマン。1号改めヒーローだというオールマイト。その横のデッドプールという人。サンレッドとかいうご当地ヒーロー。さらには百代ちゃんまで集まって大乱闘になるのだが……それはまた別の話だ。
今回は「真剣で私に恋しなさい!」より釈迦堂刑部。
「天体戦士サンレッド」よりサンレッド。
「デッドプールSAMURAI」よりデッドプールとオールマイト。
「SUPERMAN vs飯 スーパーマンのひとり飯」よりスーパーマンでした。
あんなスーパーマン漫画出たら書くしかないやろ!ってずっと思ってました。笑