孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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最近孤独のグルメを書くのが楽しくてしかたなくなってきました。笑
今回もまた違う作品とのクロスですが、クロス先をタグにつけたほうがいいんですかね?ネタバレになるので控えているんですが。。
ではどうぞ~


第五話 東京都千代田区神田の揚げまんじゅう

 

 神田。

 学生街があるこの町には、実は結構顧客が多い。その大半は大学関係者だ。例えば講義で使う資料として学生に直接手にとって観察してもらう為の品を用意したり。例えば自分の研究室に飾る品を用意したり。教授というのは大学が違っても横のつながりというのが強いようで、紹介というかたちで顧客が増えていく。今日もそんな風に紹介された客だった。

 以前ロンドンで会った杉下さんに学部が違う後輩だという物理学の準教授を紹介され、その準教授からまた今日の大学教授を紹介された。人の縁とは奇妙なものだとつくづく思う。

 

『捜査一課の草薙刑事に紹介してもらいましてね?以前捜査にご協力いただいたことがあるんですよ』

 

『草薙には事件捜査には協力しないと言っておいたんだがな。まだ事件にもなっていないから問題ないなどと言われて仕方なく、だ。

 まあ、そのおかげで石神以来の友人を得ることができたわけだが』

 

『恐縮です。

 湯川さんのような天才に友人と仰っていただけて光栄ですよ』

 

『天才は杉下さんもでしょう。

 やはり貴方は――実に面白い』

 

 傍から見ている分にはとても和気藹々とは言いがたいが――そこには確かな友情と信頼があった。天才は天才と、何か通じるものがあるのだろう。

 

 で、俺が今向かっているのは湯川さんに教えてもらった和菓子屋だ。大学教授のような頭を使う職業には、糖分の補充は必須らしい。ちなみに杉下さんは毎日紅茶を飲まないと調子が悪くなるそうだ。甘味と紅茶。何かこだわるものがあるところも似ている。

 

「――此処か」

 

 和菓子庵、穂むら。

 いい店じゃないか。

 決して古臭くはないが、確かに漂ってくる和の雰囲気。店構えを見ると、和菓子屋らしくどこか京風の造りだった。お客の邪魔にならないよう綺麗に整えられた草木。脇で目立たない程度に存在を主張する石灯籠。普段は特に意識などしていないが、こういう店を見て頬が緩むと俺も日本人なんだなあ、と実感できる。ま、生まれも育ちも現代都市東京なわけだが。

 昔ながらの引き戸をがらがらと開けて店内に入る。すると――。

 

「「「「「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」」」」」

 

 なんとも姦しい、甲高い声が店中に響いた。

 思わず一瞬身を引いてから改めて見てみると、店内の座敷に高校生くらいの女の子が――9人いた。内一人はこの店の制服であろう緑色のエプロン姿だ。店主の娘とその友だち、といったところか。

 しかし、座敷とテーブルがあるということは――どうやら俺が思っていたようなショーケースに和菓子が並んでいる店ではなく、完全に甘味処のようだ。

 

「あの……いま食事できますか?」

 

 ととっと歩み寄って来たエプロン姿の女の子に一応は聞いてみる。

 

「勿論です!お好きな席にどうぞ!」

 

 気持ちの良い笑顔で接客してくれる。なんというか、元気が溢れ出ているような子だ。

 促されるままに手近な二人席に腰掛ける。まだ昼前で開店したばかりということもあってか、客は俺だけのようだった。

 出された水とおしぼりで一息ついてからメニューを開く。さて、何を食うか。

 

 ――確か湯川さんは揚げまんじゅうがお勧めだった言ってたよな。

 

 メニューを眺めてみると、なるほど揚げまんじゅうが一番最初に載っている。表に張り紙がしてあったし、ちょっとした名物なのだろう。これは頼むのは決定として……後一品、何か汁気があるというか、瑞々しいものが欲しい。

 クリームあんみつはこの前川崎で食べたし、おしるこも釣り堀でべらぼうに美味いのを食べたばかりだ。となると……。

 

 ――くず餅。久しぶりにティンときましたよ。

 

「すいませーん!」

 

「はーい!」

 

 再びとてとてと歩いてくる女の子。いちいち言動が可愛らしいのはどうしてなのか。まるで人にどう見られるかを意識して動いているようにも感じる。

 

「この揚げまんじゅうひとつと、後はくず餅をひとつお願いします」

 

「かしこまりました!暫くお待ち下さい!」

 

 にっこりと微笑んでから厨房の中へと消えていく。うーん、これが滝山の言うあざとかわいいということなのか。

 おそらくくず餅は予め用意してあったのだろう。おそらくはまんじゅうを揚げるほどの時間がたってから注文した品が運ばれてきた。

 

「お待たせしました!

 当店名物の揚げまんじゅうとくず餅です!

 ごゆっくりどうぞ!」

 

 

 揚げまんじゅう

 揚げてあるのにふんわり食感であんこがたっぷり!揚げたての2個を熱々のうちに!

 

 くず餅

 真っ白三角のくず餅がお皿いっぱい!きな粉?黒蜜?それとも両方?

 

 

「いただきます」

 

 ――まずは揚げまんじゅうからだろう。

 

 両手で僅かにお手玉しながら口へと運ぶ。特にたい焼きがそうだが、俺はこういう時中のあんこに一口目で届かないと気分ががた落ちするのだ。どうせ客は俺一人だ。大口を開けてかぶりつくことにする。はぐっと一口。

 

 ――美味い。

 

 予想に反して口当たりはふんわり柔らかい。表面は見事に揚がっているのに、中身はしっかりふわふわのまんじゅうだ。あんこもしっとりしている。

 角度を変えて今度は横からもう一口。ところどころ衣が縦に立っているのがまた良い。手作り感満点だ。三分の一になったまんじゅうの残りをまるごと口の中へ放り込む。あっというまに一個食べてしまった。

 

「ふっー」

 

 熱いお茶をごくごくと飲むと自然と大きく息を吐いてしまった。まんじゅうひとつで俺をここまで追い詰めるとは、この店、侮れない。

 落ち着け。相手の戦術に惑わされるな。ここはくず餅にかけるきな粉と黒蜜の量を微調整して、自分のペースを取り戻すんだ。

 まずはきな粉だ。かけすぎは厳禁。ひっくり返って大量にかかると、粉っぽさをカバーするために黒蜜の量が増え、肝心のくず餅本来の味がわからなくなってしまう。

 黒蜜も決して手を抜いて適当にかけてはいけない。全体に廻るよう、円を書きながらゆっくりと。この一垂らしが勝敗を決める。

 

 ――こんなところでいいだろう。

 

 和菓子特有の三角棒、確か木の名前を取って黒文字といったはずだ。これでくず餅を一刺し。途中で一旦止めて、黒蜜が適度に流れ落ちるのを待ってから一口で食べる。

 

 なんだこれは。

 

 くず餅って、こんなに美味かったっけ。きな粉や黒蜜に決して負けてない、上品な味。それに、このかけた2つもなんだか他とは違う気がする。市販のものより若干色が薄いようなのは、このくず餅に合わせているからなのか。

 続けざまに2つ目、3つ目。間に揚げまんじゅうを挟んで、再びくず餅。皿の上が空になるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」

 

 来た時と同じ姦しい声に見送られて店を出る。久しぶりの本格的な甘味処だった。間違いなくまた来るだろう。持ち帰りもできるようだから、今度湯川さんや杉下さんを訪ねる時には揚げまんじゅうを手土産にしてもいいかもしれない。

 

 スイーツ男子ならぬ和菓子おやじ、俺。in神田。

 

 悪くない響きだ。

 

 

 後日、その日店にいた彼女たちが地元では有名なスクールアイドルとやらだと知ったのは、また別の話だ。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回はまさかの三種類クロスです。湯川さんは興味ない人は知らないかな?笑
感想お待ちしております。

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