孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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本当は恋姫書く予定だったんですが、新作出てたのすっかり忘れてまして。新作クリアするまではこっちを更新することになりそうです。
ではどうぞ~


第八話 福岡県飯塚市のラーメン半チャンギョーザセット

 

 飯塚。

 昔は炭鉱で栄えたというこの町も、今ではすっかり学生の町へとシフトしていた。エネルギー革命で一度は廃れた炭鉱の町が、大学の効果で人口が増えて再び栄える。昨今では珍しいことだ。

 まあ、全国的には元総理の出身地としてのほうが有名かもしれない。あれはいつだったか、スーツでSPを引き連れ、コンビニの前でアイスを立ち食いする姿がヤクザの親分にしか見えないと話題になった。俺もそろそろ50を超えるが、逆立ちしたってあんな風にはなれそうにない。

 ポケットに片手を突っ込み、気持ちワイルドさを意識して大学への坂道を登る。ここのキャンパスは国立大学で唯一の情報工学部ということだ。工学部の学科の一種類として学科があるのではなく、学部丸ごと、キャンパス丸ごと情報工学。未だにガラケー、Vistaを使っている俺にはとんと縁のない場所のはずだが……そこの教授がなんの用だ?

 

 

 

 

 熊だ。熊が目の前にいる。

 

「今熊みたいだって思ったでしょ?」

 

 まずい、顔に出ていたか。

 

「い、いえ。そんなことは」

 

 一応否定してみせるも依頼主の教授は豪快にがははと笑った。

 

「いいんですいいんです。よく言われますから。

 遠いところへわざわざ来てもらってすみません。ささ、おひとつどうぞ」

 

 そう言って差し出されたのは、可愛らしい茶色い小鳥。誰もが知るあのお菓子だ。

 

 

 銘菓ひよ子

 お澄ましひよ子の中には黄色い餡がたっぷり!味も気分も優しくなる飯塚銘菓。

 

 

「ありがとうございます。

 確か飯塚が発祥でしたね、この銘菓は」

 

 俺がそう言うと、教授は毛深い腕を組んでうんうんとうなずいた。

 

「そうなんですよ。

 飯塚人としては東京銘菓だと思われてるのが悔しい限りです。東京の人がこっちにお土産に持ってきた、なんてこともありますからねえ」

 

 ……飯塚だろうと東京だろうと対して味は変わらないんじゃないか。そう思ったのは秘密だ。

 

「いただきます」

 

 ちょっと残酷だけど、頭からまるかじり。これが本当の俺様お前まるかじりというやつだ。結構しっとりとしている皮を上手く噛み切って……。

 

 ――うん。これこれ。こういう味だった。

 

 ほんのりとした甘味の素朴な味。たしか白い豆から餡を作っているんだったか。絶妙な食感としっとり加減で、食べた後はまず間違いなくお茶が欲しくなる。

 出されたお茶をずずっと一口。それから息を吐く。俺、日本人でよかった。

 

 ふと視線を上げると、教授が俺をにこにこしながら見つめていた。

 

「いやあ、井之頭さんは実に美味しそうに食べるんですねえ。なんだか私も猛烈に食べたくなってきましたよ」

 

 あらら。つい夢中になっちゃったか。

 

「これはお恥ずかしい。

 ところで依頼の件なんですが……」

 

 仕事、しよう。

 

 

 

 

 

 

 同じ大学教授からの紹介ではあったが、今回は私的な依頼だった。洋酒を種類を問わず自宅で飲むのが好きで、色々本場の専用グラスを揃えたいということだったのだが……こういう時、酒が飲めない自分が少しだけ情けない。どうしてもクライアントと心情とは一歩距離が離れてしまう。まあ、仕事はきっちりするんだけど。

 

「さて、坂を下りてから左だったよな……」

 

 最初のひよ子の話からして、教授は地元にかなり愛着を持っているようだった。そこで近所に美味い店はないかと聞いてみたところ、お勧めのラーメン屋があるという。ネットの評価で満点を取ったこともあるらしい。是非行ってみてくれということで、今その店を探しているのだが。

 もうすぐ大きい道に合流する。その丁度三角州みたいになっている所の真ん中に……あった。大きな看板もある。そこに書いてあるのは、ほう、ヤホーで評価満点を取ったのか。これは期待してしまう。車を停め店の中へ。すると……。

 

「いらっしゃいませー」

 

 なんだろう。なんというか、ラーメン屋らしくない。元は喫茶店だったのを居抜きで使っているんだろうか。テーブルが厨房の目の前で、カウンターが店の一番奥にL字であるだけ。まあ、そこにするか。

 席に座って、出されたおしぼりで手を拭いてからメニューを捲ると、本日半チャーハンセット100円引きという文字がまず飛び込んで来た。いきなり先制パンチを食らった気分だ。気分が一気にセットに傾いてしまった。

 

 ――さて、肝心のラーメンは。

 

 基本は替え玉100円だが、最初から大盛りにもできるらしい。スープはあっさりとこってりが選べるのか。それに醤油やみそもある。

 福岡市に住んでいる知人が、福岡ではとんこつラーメン以外はラーメンじゃないんだと豪語していたが、なるほど、確かにラーメンとしかメニューには書いていない。きっとこれが福岡県のスタンダードなんだろう。郷に入っては郷に従え。ここはどこまでもスタンダードでいってみよう。

 

「すいませーん」

 

 手を上げて店員を呼ぶ。

 

「ラーメンをこってり半チャンギョーザセットでお願いします」

 

 やっぱりこれが基本だろう。

 

「かしこまりました。

 麺の固さはどうなさいますか?」

 

 ああ、そうか。福岡では麺の固さが選べるんだった。色々種類があって、確かハリガネっていうのが有名だったよな……。

 

「は……固めでお願いします」

 

 ここでへたれてハリガネと言えない俺。現地の人じゃないんだもん。

 

「かしこまりました。

 お冷はセルフでお願いします。漬物はおかわり自由ですのでご自由にお取りください」

 

 ほう、漬物がお変わり自由なのか。これは良い事を聞いた。

 お冷と漬物を求めて奥のテーブルへ。サラダバーのような感じで漬物が容器に並んでいる。それぞれに用意されたスプーンで、横に置いてある小皿に好きなだけ盛るようだ。

 

 

 五郎の漬物セレクション

 たくあん柴漬け高菜の揃い踏み。彩り鮮やか味は様々。

 

 

 やっぱり九州なら高菜からだろう。

 箸の先で少しだけつまんで一口。すぐに感じるからしの風味がかっと口の中に広がっていく。辛い。辛いんだけど、なんだかもっと食べたくなる味だ。続けて二口、三口。元々少量しか取っていなかったから、あっという間になくなってしまった。

 いかんいかん。これでは戦略がくずれる。口直しのたくあんで心を落ち着かせ、自分のペースを取り戻さなくては。

 と、そこで注文したセットが運ばれてきた。

 

「お待たせしました!

 ラーメンこってり半チャンギョーザセットです!」

 

 

 ラーメンこってり半チャンギョーザセット

 

 ラーメン

 こってりドロドロスープに麺は細麺!卵にチャーシュー、メンマとのり!これぞまさしくとんこつラーメン!

 

 半チャーハン

 油が多めでちょっとしっとりした感じ。今日はセットで100円引き。

 

 ギョーザ

 焦げ目がしっかりつけられた香ばしいギョーザ。お勧めはタレと……。

 

 

「いただきます」

 

 まずはスープだ。レンゲをゆっくりと沈めると、これまたゆっくりとスープが流れ込んでいく。以前北海道で食べたみそラーメンのスープとは質が明らかに違うのが見ただけでわかる。だって、スープのどろっとしたのが動いてるの、見えてる。心なしか少し重い気がするレンゲを持ち上げてずずっと啜ると。

 

 ――旨い。

 

 すとんと綺麗なストレートを貰った感じ。よくある白い背油が浮いてないからなのか、思ったより重くはない。けれど、程よい塩辛さとコクはしっかりある。奇をてらっていない、素直なとんこつラーメンの味。

 

 ――麺って、こんなに美味かったっけ。

 

 続けざまに啜った麺もいける。固めで芯を残した風だからなのか、小麦の風味とでも言うべき『麺の味』がきちんとする。食べ応え、噛み応えがあるのも、また良し。なんていうか、麺をしっかり『食ってる』感じがする。

 

 ――じゃあ、ギョーザはどうだ?

 

 テーブルにおいてあったギョーザのタレをつけて食べてみるが、思ったよりも味は控えめだった。これは、ラーメンのこってりに合わせているのだろうか。ちょっと物足りないかなと思っていると。

 

「貴音~。それはラーメンにいれるにんにくのすりおろしだぞ?

 皿に盛ってどうするのさ?」

 

「慌ててはいけませんよ、響。

 これはたれの代わりにぎょーざにつけて頂くのです」

 

 なんだと!?

 

 隣のテーブルから聞こえた声に慌てて視線を調味料の方へと移すと、そこには確かにしょうゆにんにくとラベルが貼られた容器があった。これ自体はそこまで珍しいものじゃないんだが。

 恐る恐る見事なしょうゆ色のそれをスプーンですくって……ギョーザの上へ。滑り落ちないように慎重に箸で持ち上げて、丸ごと口の中に放り込んだ。

 

 なんだこれは。

 

 きつい。すごくにんにくがきつい。でも旨い。ギョーザがさっきの倍は旨くなってる。でもきつい。これはご飯だ。ご飯がいる。

 慌ててチャーハンをかっ込む。摩り下ろししょうゆにんにくとギョーザの味を、チャーハンが見事に受け止めてくれた。これが普通のパラパラチャーハンだとこうはいかなかっただろう。もしかして、店は最初からこれを狙っていたのか?

 

 ――いかん。にんにくの衝撃でラーメンを忘れていた。

 

 慌ててラーメンに戻る。少し伸びているかとも思ったが、固めの麺は未だにしっかりとしていた。もし店が全てを計算しつくしてこれをやっているのだとしたら、すごいぞこの店。

 ラーメン、ギョーザ、チャーハン。子どものころさえこんなに完璧にはしなかった三角食べは、にんにくを足したスープを飲み干すまで止まらなかった。

 

 

 

 

「背油を入れていないにも関わらずしっかりとしたすうぷの旨味とコク。にんにくを入れてもしっかりと絡む細さとかたさの麺。良きらあめんです、店主」

 

 どこの料理評論家だといいたくなる感想を聞きつつ、水を一気飲みして大きなげっぷをひとつ。

 ちらりと隣のテーブルを見ると、お姫様という言葉が似合いそうな見事な銀髪の女性と、おそらく食べすぎでダウンしている黒髪ポニーテールの女性がいた。

 

「いくら完璧な自分でも、替え玉2回はきついさ……」

 

 黒髪の娘の呻き声を背中で聞きながら店の外へ。たっぷり入れたにんにくのおかげか、体調がすこぶる良い気がする。

 

「さて、仕事仕事」

 

 グラスを持って来たら、今度は俺も替え玉に挑戦しよう。ハリガネも、きっと。

 

 

 

 

 

 後日、渋谷青花店の娘さんに、その二人は大人気トップアイドルだと聞かされたのは、また別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
前回は自分でもちょっと食事シーンが物足りないと思ったので今回は気持ち多めです。
それと今回から後書きにクロス先を載せることにしました。感想での賛否見てからつけるかつけないか決めようかな。
今回は勿論『アイドルマスター』と『アイドルマスターシンデレラガールズ』です。
具体的にはお尻ちn……ごほん。お姫ちん。くさそ……響。最後はしぶりんですね。
感想お待ちしております。

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