孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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今回は特別篇でちょっと短めです。
前回は食事マシマシクロス少な目だったので、今回はその逆になりますかね。
ではどうぞ~


特別篇 瀬戸内海初音島のスペシャルバナナパフェ

 

 初音島。

 一年中桜が咲き誇ることで有名なこの島には、実は上客がいる。この島の学校『風見学園』に所属する『非公式新聞部』という団体がそれだ。非公式の名の通り、学園には公式には認められていない部。ちなみにきちんと公式の新聞部も存在する。

 これだけ聞くと何やら怪しげな団体に聞こえるが、実際怪しい。主に行っていることは学園内での悪戯らしい。クリスマスパーティーのBGMを盆踊りにしてみたり、勝手に花火を打ち上げてみたり。学生が花火を打ち上げるなんて危ないじゃないかと思うが、なんとちゃんと資格を持った人が打ち上げていた。その打ち上げた人は学生で、代表で、俺の客のわけなんだが。

 今回も何に使うのかわからない主に欧州の雑貨を求めてきた。まあ、杉並君なら危ないことに使うことはないと思うんだが……。

 で、俺はその部長の杉並君に勧められた店に向かっている最中だ。

 

 

 

『時に、井之頭さんはたいそう甘味がお好きだと伺いましたが』

 

『え、ええ。まあ……』

 

『それならばこの島にはスペシャルなバナナパフェを出す店がありましてね?よろしければ是非行ってみてください。味はこの杉並が保障しますよ』

 

『ほう。スペシャルなパフェですか』

 

『ええ。場所は……』

 

 

 というわけで、件の店に向かっているのだが。彼は一体どうやって俺が甘味が好きだということをしったのか。こんな中年には似合わないと思ってあまり人には話していないのに。これも非公式新聞部の情報収集力の賜物なのか。

 そんなことを考えながら歩いていると、前方から男女二人組――おそらくカップルが歩いてきた。女の子の方の顔色がなんだか悪そうだが、大丈夫か?

 

「朝倉先輩、苦しいです……」

 

「当たり前だろ。あのパフェほとんど一人で食べたんだから」

 

「だって~。朝倉先輩が美春にあ~んをしてくれないのが悪いんですよ!」

 

「店員さん皆見てるのにできるか!」

 

「む~。こんなに可愛い彼女とせっかくのデートなのにですか!?」

 

「それとこれとは別!」

 

 ……なんだろう。まだパフェを食べてないのに、もう口の中が甘くなってきた。

 それに、なんだか。

 

 

 腹が、減った。

 

 

「店に急ごう」

 

 歩く速さを上げる。

 すれ違ったカップルが、俺を怪訝な表情で見ていた。

 

 

 

 

 

 で、店に着いたわけなんだが……ここにもカップルがいる。一体どうなっているんだ、今日は。

 ま、気楽な独り身の俺には関係ない話だ。どうせ滅多に来ない島の喫茶店なんだ。何も気を使わないで思いっきりパフェ食べてやる。

 俺が席に座ると、可愛らしい制服に身を包んだウェイトレスさんが早速お冷を持って近寄って来た。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 今日はもう決まっている。一度決めたら迷わない。これ、重要。

 

「この、スペシャルバナナパフェを1つお願いします」

 

 そう言うと、ウェイトレスさんはちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに気持ちの良い笑顔に戻る。完璧な営業精神だ。

 

「はいかしこまりました。スペシャルバナナパフェですね。少々お待ちください!」

 

 そのままととっと厨房の方へ駆けて行って……。

 

「店長!スペシャルです!今日3つ目ですよ!」

 

 ほう。今日は俺で3つ目なのか。

 1つは来る時にすれ違ったあのカップルとして。もう1つは……あのカップルか?

 店に入って一目みた瞬間から気になっていた入口近くの席のカップルに視線を移す。女の子は見た目は今風のファッションを身を包んだニット帽の普通の子だが、男の子の方は……控えめに言って、目立っている。

 髪は脱色したような白。顔に刺青。耳にピアスのようにつけているのは、あれは携帯のストラップか何かだろう。少なくとも耳につけるものじゃない。上半身は裸に直接タクティカルベスト。下半身は短パンにブーツ。まあ、ここまではいい。まだどうにか奇抜なファッションと言い張れる。問題は、あの膨らみにあの動き……君、刃物か何か服に仕込んでないか?

 

「ほらほら人識君。あーんですよあーん。

 可愛い可愛い妹にあーんしてもらえるチャンスなんてこれを逃せばもうないかもしれませんよ?」

 

「うるせえよ。俺は妹なんて思ってねえつったろうが。つーか死ね」

 

 どうやら兄妹らしいが、なんとも物騒な兄妹もいたものだ。

 

「むー。またそうやって照れるんですから。

でもしっかり私にあーんってしてくれる優しいところ好きですよ!」

 

「そうしねえと俺のパフェ全部食い尽くしちまうだろうがお前は!」

 

 元気が良すぎる妹に振り回される兄の図。いくら奇妙な兄でも、こればっかりは変わらないらしい。

 と、ここでようやく注文した品がきたようだ。パフェにしては時間がかかったな、なんて思っている

、と……。

 

「お待たせしました!当店自慢のスペシャルバナナパフェです!」

 

 

 スペシャルバナナパフェ

 真ん中にプリンがドーン!お菓子がグサッ!

 後はバナナとバナナとバナナとクリーム!

 

 

 なんっじゃこりゃあ。

 ガラスじゃなければ横綱が酒でも飲みそうな大きさのグラスに、これでもかと盛られたパフェ。隙間なくぎっしりとバナナが詰め込まれている。頼むの早まったかなあ……一人で食べきれるのか、これ。

 

「いただきます」

 

 とりあえずは、真ん中のプリンだ。これを片付けないと始まらない。スプーンでできるだけ大きく掬って一口食べる。

 

 ――美味い。

 

 もしかして、これ手作りか?そりゃ、これだけ大きいなら既製品はないか。それにしても美味い。久しぶりに食べたが、プリンってこんなに美味かったっけ。手作りだからなのか、きちんと卵の味がする気がする。

 これはこっちも期待できるか?これまた手作りらしい、薄焼きのチョコレート菓子。それを1つ手に取って、さっきのプリンと周りのクリームとバナナを載せて……。

 

 ――これこれ。これですよ。

 

 パフェと言えば、この贅沢なごちゃごちゃ感だ。お菓子と、ケーキと、プリンと、アイスクリームと。色々なデザートを皆纏めて一緒くたに食っちまえる幸せ。混ざって見た目がぐちゃぐちゃになっても気にしない。カップルならできないんだろうけど、俺、一人だし。

 こうなると、最初は多いと思った敷き詰められたチョコバナナが別の意味を持ってくる。人工的に作られた甘味の中に吹く、一筋の爽やかな風。シンプルなバナナの甘味が、砂糖的な甘さにつかれた舌に心地良い。

 

 ――君、馬鹿にしてごめんね。

 

 さすがに少し時間はかかったが、大きなパフェグラスはすっかり空っぽになった。

 

 

 

 店を出てうーんと背伸びする。甘いものをこんなに真剣に食べ続けたの、初めてかも。

 

「次来た時はチョコレートパフェいってみるかあ」

 

 肩をグルっと回して歩き出す。ゆっくり歩いていけば、船の時間に丁度良いはずだ。

 

 

 

 その後、フェリー乗り場でさっきのニット帽の女の子を見かけたのだが。どこに隠していたのかナイフを無理矢理二本組み合わせた大鋏を取り出してお兄さんを追いかけ始めた。そのまま壮絶な兄妹喧嘩が始まるのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
登場人物は『D.C』より杉並、朝倉純一、天枷美春。『戯言シリーズ』及び『人間シリーズ』より零崎人識、零崎舞織。
なんで特別篇でこんなのを書いたのかというと、音姫ちゃん結婚おめでとうございます!ということで。笑
感想お待ちしております。

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