ですが、記憶にはないままです。
チェイスは現在、IS学園の教室前で待機していた。
側にいるのは、この学園の(自称)用務員の轡木十蔵という男。
無論チェイスは彼がIS学園の運営者だと言う事は知っている。
すると、教室内が誰かの一喝で静まった。
「ではチェイス・ミューゼル君、ここで少し待っていてください」
「……あぁ」
何故チェイスが入学式に参列しなかったかの理由は、混乱を避けるためである。
一方、教室内ではーーー
「では今から転校生が来ます。皆さん、余り騒がないようにお願いします」
恐らくは例の男性IS操縦者だろう、と教卓に立つ織斑千冬は考えた。
だがその男子生徒の情報は教師陣には、全く公開されなかった。
更にはメディアやニュース等にも、顔出しをしていないのだ。
それがフリーダム・スカイの代表であるスコールの条件だったのだ。
女子生徒達も様々な思惑を抱えて、このクラス唯一の男子生徒を、
ある者は好奇心で、
ある者はその男子の性格を予想し、
またある者は自分達女性の権利を脅かす害虫と見下しながら、待っていた。
「それでは入ってきて下さい」
轡木が声を掛けると、その話題の転校生ーーーチェイスが扉を開けて入ってきた。
整った容姿、少し冷徹さを感じる目付き、十代の女子から言わせるとイケメンの部類に入る。
「「っ!?」」
だがチェイスの顔を見た瞬間、千冬ともう一人のある生徒は衝撃を受けた。
「それではチェイス君、自己紹介を」
「チェイス・ミューゼル……。趣味は体を動かすこと、嫌いな物は自分の考えを押し付ける者や女尊男卑等の下らん考えにとりつかれた者……以上だ」
淡々と自己紹介を終えたチェイスは指定された座席に座った。
「キャーーー!!」
「イケメン!それに凄いクール!」
「カッコいい~!」
「あの目で罵って欲しい!踏みつけて欲しい!」
当然騒ぎ出す生徒を、千冬は一喝する。
「し、静かにせんか!」
一喝しながらも千冬は未だに信じられなかった。
何故なら、その顔は紛れもなく弟の一夏だったからだ。
『な、何故一夏が……生きていたのか……!?』
そしてもう一人、篠ノ之箒もまた死んだと思われた幼なじみが現れた事に驚愕していた。
だがそんな二人を、記憶喪失のチェイスが覚えてる筈もなく、チェイスは教科書を読んでいた。
「ちょっと良いか?」
自己紹介が終わっての休憩時間、箒は意を決してチェイスに話しかけた。
久しぶりの幼なじみとの再開、生きていた云々はともかく、取り敢えずは再開の挨拶をすべき、そう思っての行動だったが……
「…………」
チェイスはそれを無視して教科書を読み耽っていた。
「お、おい!聞いているのか!?」
無視された事に腹を立てた箒は声を荒げるが、チェイスは尚も無視。
と言うよりチェイスは記憶喪失、つまり箒の事など記憶になく、答える義務も無いだけだが。
「……さっきから誰に話し掛けてる?もう少し静かに喚け」
「なっ!?」
漸く箒の方を振り向いたチェイスの顔は如何にもめんどくさい、と言った感じの表情をしていた。
「誰だと!?私の事を忘れたっ「だから誰に話し掛けてる……?お前の事など知らん」!」
突き放す様な語りに箒は石像の如く動かなくなった。
箒が正気になったのは、千冬に叩かれた時だった。
「はい、ここまでで分からない人はいませんか~?」
教科書を読みながら、このクラスの副担任である山田真耶は生徒全員を見渡して問い掛けた。
真耶の教え方は分かりやすく、まだ日の浅いチェイスでも良い教え方だと頷く程。
「ミューゼル君は大丈夫ですか?」
「……問題ない」
「そ、そうですか……」
素っ気なく答えるチェイスに真耶は苦笑いする。
「だがアンタの教え方は分かりやすい……それだけは言える」
「うん!山田先生の教え方、凄く上手!」
「え?そ、そうですか~?ありがとうございます~!」
チェイスから始まったこの言葉を切欠に、皆が真耶を褒め称える。
真耶は終始デレっぱなしだった。
そして真耶の授業が終わって次の休み時間、
「ちょっと宜しくて?」
チェイスはまたもや別の人物に声を掛けられた。
「俺に何の用だ……セシリア・オルコット」
「まぁ、男の癖に私の名前をご存知ですのね」
明らかに見下したその声音にチェイスは溜め息を吐く。
「何ですの、その溜め息は?私に話し掛けられたのだからそれ相応の態度をーーー」
「俺の自己紹介を忘れたのか……俺はそんな馬鹿らしい考えに取り付かれた者が嫌いだと言ったはずだ」
「なっ!?」
「分かったらさっさと消えろ。目障りだ……」
ジャキッ、とブレイクガンナーを突き付ける。
「なっ……あ、貴方はーーー」
とここでタイミング良くチャイムがなった。
「ま、また来ますわ!逃げないことね!!」
『チッ、どいつもこいつも…………』
内心で舌打ちしながら、チェイスは席に座る。
早くもチェイスのストレスはマッハだった。
「さて、この時間はISの各種武装について説明する」
この時間は千冬が教卓に立っていた。
あの後、動揺はしたものの何とかそれを押し殺し、後で問いただす事を決めた。
『そう言えば、スコールが魔進チェイサーの武装を開発していると言ってたな……』
武装の事で今度チェイサーに搭載される武装を思い出したチェイスだったが、
「……っと、その前にクラス代表を決めねばならないな」
千冬のこの言葉で現実に戻される。
「クラス代表は学級委員みたいなものだ。学校行事のまとめ役をしたり、クラスを代表して戦ったりと……まぁ、クラスの顔だな」
千冬は一呼吸置いて、
「自薦、他薦は問わない。誰かいないのか」
「はいっ、ミューゼル君が良いと思います!」
「私も!」
ミューゼル、という名字に眉を寄せる千冬に構わず、生徒達はチェイスを推薦する。
「俺はそんなものやらない……」
「自薦された者に拒否権はない。腹を括れ」
言われ、即座に舌打ちする。
「そのような選出は認められませんわ! そんなわけのわからない不気味な男がクラス代表なんて、このIS学園での良い恥じさらしですわ。私はにそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
と、ここでセシリアが立ち上がり抗議の声を上げる。
「実力からすればこのわたくしがなるのが必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!大体! 文化として後進的な国で暮らさなければ行けないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
そこからはチェイスへの暴言に止まらず、日本への誹謗中傷になっていった。
周りが日本人だと言うことを忘れてセシリアは熱弁する。
が、当のチェイスはと言うとーーー
「…………」
興味無さげに数馬から借りたラノベを読んでいた。
「聞いていますのっ!?チェイス・ミューゼル!!」
「…………あぁ、それで?」
「なっ……」
「代表候補生とも有ろう者が他国の誹謗中傷とはな……。お前のその発言で日英戦争が始まると言っても過言ではない」
「!」
動揺するセシリアにチェイスは淡々と事実を述べる。
「お前はさっき言ったな?文化として後進的な国だと……。だがお前が使うISを産み出したのは、この国の女だ」
「……!」
「所詮は激情から出た言葉か……。お前の様な奴が代表候補生とは世も末だな……。それに担任が言ったはずだ、自薦他薦は問わない、と。ならお前が自薦すれば良いだけだろう。俺はどのみちやるつもりはない。織斑教諭、こう言うのは積極性がある者がなるべきだろう……?」
顔を青ざめたセシリアを放置しチェイスは千冬に振り向く。
「何処まで私をコケにするんですの……決めましたわ、決闘ですわ!!」
ビシッとチェイスを指差し、叩きつける様に声を上げる。
「断る……。お前と戦っても得るものはない」
「ふん、あれだけ大見得を切って逃げるのですか?所詮は男ですわね。どの様に育ったらそんな生意気な言葉を吐けるのですか?まぁ、貴方ごときを育てた人ですから、録でもない人物なのでーーーぐぅっ!?」
その言葉は長くは続かなかった。
何故ならチェイスがセシリアの胸ぐらを掴み、上に持ち上げたからだ。
「貴様、今何と言った……?何と言ったか聞いている……!」
「っ……!」
その殺気にセシリアは言葉も発せず、他の生徒や真耶、果ては千冬までもが凍り付いた様に動けなかった。
「そこまで決闘がしたいなら受けて立つ。後悔してもしきれん程の恐怖を教えてやる……!」
パッとセシリアを離しチェイスは席に戻る。
その後、正気を取り戻した千冬によって1週間後、代表決定戦を行うことになった。
放課後、チェイスは職員室にやって来た。
千冬にあの騒動の後、直接言われたから。
「……待っていたぞ、ミューゼル……いや、一夏」
職員室に入ると、千冬が仁王立ちしながらチェイスを待っていた。
「誰の事だ……?俺の名は」
「お前は織斑一夏だ……!私の弟の一夏なのだ!」
チェイスの言葉を遮って、肩を掴みながら語りかける千冬にチェイスは眉を寄せる。
「いい加減にしろ……」
「!」
ジャキッと、ブレイクガンナーを千冬の眉間に突き付ける。
「俺はチェイス・ミューゼルだ……。お前の様な姉など知らん。そんな事の為だけに俺を呼んだのか……?下らん」
「……違う。お前はそんな名前じゃない、お前は一……」
「いい加減に弟の死を受け入れろ……。俺にお前の弟を重ねるな」
「……!!」
千冬を一蹴すると、チェイスは職員室を出ていった。
「違う……お前は一夏だ……!一夏なのだ……」
取り残された千冬はぶつぶつとそれだけを繰り返し呟くばかりだった。
没シーン
「断る……。お前と戦っても得るものはない」
「ふん。あれだけ大見得を切って逃げるのですか?所詮は男ですわね。どの様に育ったらそんな生意気な言葉を吐けるのですか?まぁ、貴方ごときを育てた人ですから、録でもない人物なのでーーー」
その言葉は長くは続かなかった。
何故ならチェイスがブレイクガンナーでセシリアの横を撃ったからだ。
現に後ろの黒板からは小さい火花が飛び散り、セシリアの頬からは少し血が流れていた。
呆然とするセシリアに構わずチェイスはセシリアとの距離を詰め、
「…………ひっ!」
「貴様、今何と言った……?」
顎の下にブレイクガンナーを突き付けた。
絶対零度の殺気を至近距離で受け、更に顎の下に銃を突き付けられたセシリアは顔面蒼白になり、小さな悲鳴を漏らす。
「そこまで決闘がしたいなら受けて立つ。だが後悔してもしきれん程の恐怖を教えてやる……!」
銃を離し、チェイスは自分の席に戻る。
最初はこれで行こうと思いましたが、流石に不味いので書き直しました。
IS ~黒き魔進~
真耶「これがミューゼル君のIS……」
セシリア「勝てない……!」
チェイサー『お前もスクラップの仲間入りだな……』
IS ~黒き魔進~ 『怒れる死神』
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?