クラス代表決定戦があった次の日。
「1年1組のクラス代表はオルコットさんに決まりました」
真耶が教壇にて朝一番にそうクラスの生徒に告げた。
「えーーーーっ!?」
「でも昨日勝ったのはミューゼル君じゃない!」
早速ブーイングの嵐が起きるが、千冬の一喝で静まった。
「ミューゼルに任せると全体のパワーバランスが崩れる。これはもう決定事項だ」
それを聞いて、全員がチェイスの方を見た。
代表候補性のセシリアを、無傷の上、完膚なきまでに叩きのめしたチェイス。
確かにあの実力だと不公平だな、と全員が理解した。
すると、
「織斑先生、山田先生、少し宜しいでしょうか?」
セシリアが立ち上がった。
「どうした、オルコット」
「この前のことを謝罪させてください」
「良かろう」
セシリアは教壇の前に移動して、全員に頭を下げた。
「皆さん、先日までのご無礼な発言の数々、本当に申し訳ありませんでした。このクラスの代表に就任致しましたが、私はまだまだ未熟です……。どうか皆さんの力を私にお貸し下さい!」
その言葉と態度に嘘偽りはないとこの場の全員が理解した。
故に、全員が拍手を送った。
「良いよ、過去の事だしね」
「セシリアさん、ちゃんとこうして謝ったしね!」
「私達の力で良ければいくらでも貸すよ!」
全員の惜しみない励ましに、セシリアは涙を堪え、
「はいっ!皆さんのご期待に応えられる様、全力を尽くしますわ!」
笑顔で答え、今度はチェイスの方へ向かった。
「その、み、ミューゼルさん……」
「何だ……」
ぶっきらぼうな返しに内心ドキッとしながらも、何とか言葉を紡ぐ。
あの一戦以来、チェイスに恐怖心を抱いていた彼女だが、この機を逃すと一生謝罪できないかもしれない。
それだけは避けたいセシリアは、この場で謝罪の弁を言う。
少なくとも自身を愚かしい思想から解き放ってくれた彼に対して、恐怖という感情だけで背は向けたくない。
「貴方のご家族を侮辱してしまって、本当に申し訳ありませんでした!」
物凄い勢いで、頭を下げた。
一方のチェイスはと言うと、
「別に構わん……」
そっぽを向き、セシリアにそう告げた。
予想外な返しにセシリアはポカンとする。
「……どうした」
「い、いえ!……怒って、ないのですか?」
「俺の気はもう済んでいる……、だから言うことはもうない。それだけだ……」
それはチェイスの本心だった。
「分かったら席に戻れ……」
「は、はいっ!」
だがやっぱりぶっきらぼうな言い方になってしまうチェイスであった。
「それでは、この時間からは実践授業に入る」
白ジャージを着た千冬が生徒達にそう告げた。
「それでは、オルコットとミューゼル!前に」
「はい!」
「……」
千冬に指名され、セシリアは元気よく、チェイスは相変わらずの無言でそれぞれ前に立つ。
「2人とも専用機を展開しろ」
「ブルー・ティアーズ!」
「…変身」
《break up!》
それぞれ専用機を展開する。
矢張りと言うか、チェイサーが一番目立っていた。
「よし、そのまま飛べ」
指示通りに2人は上空に向けて飛んだ。
一番に着いたのはチェイサーで、その後に遅れてセシリアが到着する。
「速いですわね、ミューゼルさん」
『……』
「えっと……」
『機体性能の差だ……』
「そ、そうですか……」
会話がすぐに途切れ、セシリアは気まずくなる。
チェイサーはいつも通りだが。
「そのまま急降下して急停止をするんだ。地上との差は10センチだ」
「分かりましたわ。それではミューゼルさん、お先に」
そう言ってセシリアは地上に向けて急降下していった。
地上との誤差はゼロ。
「うむ、上出来だ。ミューゼル、次はお前だ」
『……』
チェイサーは無言で急降下。
セシリア同様、誤差はなかった。
この後、武装を展開するも、セシリアが千冬にダメ出しを食らった。
放課後、チェイスは小さいアタッシュケースを持ってアリーナに向かった。
セシリアのクラス代表就任パーティーに呼ばれていたが、チェイスはそういったことが苦手な為、断った。
アリーナに着いたチェイスは早速魔進チェイサーに変身し、アタッシュケースを開いた。
中には、銀のミニカーらしきアイテムが3つ収納されていた。
そう、これこそがチェイサーの新しいツール、バイラルコア。
使い方に関しては先ほどスコールから聞いた為、チェイサーは躊躇なくその中の1つを取り出し、ブレイクガンナーの上にある『バイラルライディングパネル』にセットした。
すると、
《Tune chaser spider!》
そう音声が鳴ると、チェイサーの右腕に銀色の鉤爪が装備された。
『これが、チェイサーの新しい武装……』
そう呟き、チェイサーは鉤爪ーーーーファングスパイディーを見つめる。
『蜘蛛の爪か……悪くないな』
しばらくその場で振ったり、エネルギー弾を飛ばしたりして、一通り性能を確かめた。
気づけば、あたりは夕闇に包まれていた。
『今日はこのあたりにしておくか………だが』
何を思ったか、チェイサーは近くの物陰に向かってエネルギー弾を飛ばした。
『それで隠れているつもりか……?さっさと出てこい』
物陰に向かってそう問うと、そこから1人の生徒が飛び出してきた。
「ご、ごめんなさい……!だからもう撃たないで……」
眼鏡を掛け、水色の髪が内側に跳ねた少女ーーー更識簪は涙目でチェイサーに謝っていた。
と言うか、もう泣いていた。
それに何故か罪悪感を感じたチェイサーは武装を解除する。
『……更識簪。日本の代表候補生、だな…?』
「は、はい…」
『何故物陰から俺を見ていた…』
「じ、実は……貴方に聞きたいことがあって…」
涙を拭いながら、簪はチェイサーの質問に答える。
『……俺に?』
「この間のクラス代表決定戦……オルコットさんを倒した…」
『……仇討ち、か?』
「ち、違うの!ど、どうやったら、貴方の様に強くなれるのか、教えてほしいの!」
声を震わせながらも、簪は目の前のチェイサーに質問した。
チェイサーとしては、適当に答えて切り上げようとしたが、彼女の真剣な眼差しを感じ、口を開いた。
恐らくは超えたい目標があるのだろう、そう割り切って。
『人は何かを糧として初めて、強さを手に入れる……。俺はそう思う。……俺には、守りたい家族がいる。守りたい友がいる、それだけだ………』
そう答えると、チェイサーは変身を解き、アリーナを後にした。
「糧………」
アリーナに1人残された簪は、その言葉を呟いた。
部屋に向かい歩いていたチェイスは、いきなりまた物陰に向かってブレイクガンナーを発砲した。
「今度は誰だ………」
苛立ちを含んだ声音で呟き、もう一度引き金を引こうとすると、
「ま、待って!落ち着いて!」
物陰から、生徒が慌てながら飛び出てきた。
先ほどの簪と同じ水色の髪(こちらは外側に跳ねている)、制服越しでも分かるスタイルの良さ、1年とは違う色のリボン。
「……更識家17代目当主、更識楯無か」
「っ!?何でそれを…」
自分の正体を知っていることに、楯無は動揺する。
「事前に調査したまでだ。やはり干渉してきたな……何の用だ」
「…当然、さっきの事よ」
楯無は扇子を取り出し、口元を隠しながらチェイスの質問に答える。
その声音には、怒りが含まれていた。
「貴方さっき、私の妹の簪ちゃんに発砲したわね?どういうつもりかしら?人の妹を殺すつもり?」
「………職業柄、物陰から人を覗き見するヤツは大体怪しい者だからな。それに姉妹揃って覗き見が得意とはな……」
「なっ…」
「まぁいい、質問に答える。お前の妹だろうと俺の敵と判断すれば、容赦はしない………」
「っ!?」
その濃密な殺気に、楯無は動けなくなる。
少しでも動けば、殺される。といった感じだ。
とチェイスは殺気を収める。
「まぁそうならないとは思う……、それにただ相談事をされただけだしな。それとな…俺を付け回す暇があるなら、妹との仲を直す事を事を考えた方が良いと思うぜ」
「っ!」
「じゃあな……」
そう言ってチェイスは今度こそ部屋に向かい、歩みを進めた。
『彼の殺気、普通に暮らしていて出るものじゃない…!一体何者なの?!』
去りゆくチェイスの後姿を見ながら、楯無はチェイスという人間について考えを巡らせていた。
IS~黒き魔進~
凰鈴音 「宣戦布告ってわけ」
チェイス「矢張り仕掛けてきたか……」
???「そんな、ありえない!」
IS ~黒き魔進~ 『不穏』
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?