クラス代表マッチから翌日……
「今日は転校生を紹介します。なんと二人です!」
「「「「ええええええええええええええええええええええええ!!」」」」
朝の教室で真耶が笑顔で告げた発言にクラス中から大声が上がった。
無論、チェイスは事前に知らされた為、無言だったが。
「静かに!それでは入ってきてください!」
「失礼します」
「……」
途端にクラスは静まり返った。
何故なら、転校生の内の一人が「男」だったからだ。
「それでは自己紹介をお願いします」
「はい。フランスから転入してきたシャルル・デュノアです。ここに僕と同じ境遇の方がいると聞いてやって来ました。よろしくお願いします」
一瞬の沈黙。そして、
「「「「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」」
歓声が爆発した。
チェイスは耳栓をしていたお陰で、何とか歓声を防いだ。
「二人目の男子、キターー!!!」
「金髪の王子様みたい!」
「ミューゼル君と違って守ってあげたい系の男子よ~!」
「我が生涯に、一片の悔い無し!!」
女子が思い思いにシャルルについて感想を叫ぶ。
その反応にシャルルもタジタジであった。
その中でチェイスは目の前のシャルルについて考えていた。
『アレでバレないと思ってるのか……?完全にクロだな……』
チェイスは確信した。
彼は女だと。
「あー騒ぐな、静かにしろ」
「み、皆さん!落ち着いてください~、まだ一人残ってますから~!」
千冬と真耶によって漸く静まる。
それを確認したチェイスは耳栓を外す。
「次はお前の番だ」
「はい、教官!」
千冬にそう言われたその少女は、千冬に敬礼して返事を返す。
「教官はよせ。私はもうお前の教官ではない、お前の担任だ。織斑先生と呼べ」
「わかりました」
千冬にそう返事を返すと、少女は教壇の前に出て自己紹介をした。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
簡潔にそれだけを言う。
その後何もないことに、皆唖然としていた。
(チェイスは無視)
それを見かねてか、真耶が話しかける。
「え、えーと、……以上、ですか? 」
「以上だ」
そう言って、ラウラはチェイスの方に向かって行き、
「貴様、織斑一夏か?」
チェイスの嘗ての名で呼んだのだ。
またか、とチェイスは溜め息を吐く。
「俺はそんな名前ではない……」
僅かながらに殺気を滲ませ、ラウラを一瞥した。
その殺気にラウラはたじろぐ。
「っ……!生意気な奴だ……!」
そう言って、ラウラは席に座る。
転校生の紹介を終えた後はすぐに授業に取りかかる。
「今日は4組と合同でISの訓練を行う! すぐに着替えて第二グラウンドに集合! 遅れた者は鉄拳制裁だ、分かったか。わかったならばとっとと急げ!」
千冬が騒いでいる者達にそう言うと、皆脱兎のごとく凄い速さで移動を開始し始めた。
チェイスは普通に移動をしようと歩き始めたが、千冬に呼び止められた。
「ま、待て、ミューゼル。デュノアの面倒を見てやれ」
同じ”男子”であると言う事で、千冬はチェイスにそう言ったのだ。
「……分かった」
千冬の観察眼の無さに疑問を抱きつつ、取り敢えず了解の返事を返す。
「君がミューゼル君だね。初めまして、僕は……」
「……さっさと来い」
「えっ?きゃ!」
シャルルの自己紹介を打ちきり、チェイスはシャルルの手を強引に引っ張って行く。
しかし当然、その道中は楽ではなかった。
「転校生発見!」
「ミューゼル君と一緒よ!」
「者共、出逢え出逢え!」
さながら武家屋敷の様な感じになっているが、チェイスはシャルルを連れて女子の猛攻を掻い潜る。
「何でこんなに彼女達は騒いでるの?」
『自分でボロを出すスパイがいるとはな……』
明らかな失言を漏らしたシャルルをしかしチェイスは気にせず、更衣室に向かう。
「ここが更衣室だ……」
「き、君は着替えないの?」
「俺には必要ない……。それに俺の役目は終わった……」
そう言って、チェイスはグラウンドに向かう。
「本日から格闘、および射撃を含む実戦訓練を開始する」
授業の内容を説明していく千冬。
と言っても既にそれらを抜群にこなすチェイスにとっては、聞く意味も無い話であった。
「あ、ミューゼル君……!」
と、ここで後ろからチェイスに話しかける人物がいた。
4組の代表の更識簪だ。
「ひ、久しぶり……」
「何の様だ……」
じろりと簪を睨み(チェイスはあくまで見詰めているつもり)、先の言葉を促す。
簪はその睨みに少し怯えるが、何とかチェイスに言葉を伝える。
「あれから、色々考えたんだ……。私の強さになる糧……。それがお姉ちゃんだって改めて気付けた……、今は無理でも、その思いを糧にして頑張って努力すれば、何時かは追い越せるって気付けたの……。だから、ありがとう!」
「俺は何もしてない……。そう気付いたのはお前自身だ」
そう言って、チェイスは前を向く。
これ以上の会話は必要ないと思ったからだ。
『そして何時か、ミューゼル君のいる高みに追い付ける…!』
簪がそう思っていると、
「今日は専用機持ちに戦闘を実演してもらう。オルコット、更識! 前に出ろ」
千冬にそう言われセシリアと簪は前に出るとISを展開した。
「それで相手は?更識さんでしょうか?」
「慌てるな、お前達。対戦相手は……」
そう千冬が説明しようとすると、上空から降下音が聞こえてきた。
「きゃぁあああああああ、ど、どいてください~~~~~っ!!」
真耶がIS『ラファール・リヴァイヴ』を装着した状態で落下してきた。
しかも落下地点が、丁度チェイスのいる場所なのだ。
当然、チェイスの周りにいた生徒は離れるが、
《Tune chaser spider!》
チェイスは冷静にバイラルコアをセットし、ファングスパイディーを展開。蜘蛛の巣を思わせるワイヤー状のネットで真耶を受け止める。
「あ、ありがとう、ございます!///(は、恥ずかしいです~!)」
「問題はない……」
そう言って、ファングスパイディーを消す。
「ではこれより、山田先生と候補生二人の模擬戦を実演してもらう。二人とも、山田先生はこんな感じだが、これでも元日本代表候補生だった優秀な人だ。あまり甘く見るなよ」
千冬がそう言うと、二人は気を引き締めて返事を返す。
そして三人による模擬戦が始まった。
模擬戦中に千冬がシャルルに真耶が使っているIS『ラファール・リヴァイヴ』について説明するように命じると、シャルルは丁寧に皆に聞こえるように説明し始めた。
模擬戦は真耶の勝利で幕をおろした。
そして昼休み、
「あ、ミューゼル君。ちょっと良いかな?」
昼食を食べ終えたチェイスは屋上に行こうとしたが、シャルルに呼び止められる。
「何の様だ……」
「よ、良かったら、この後、僕と模擬戦しないかい?」
「あぁ……」
別にする必要はなかったが、チェイス自身シャルルの実力を知りたかった為、了承する。
そして、アリーナで模擬戦を行った。
「つ、強いね。ミューゼル君……」
『(こんな物か……)』
結果はチェイスの勝利に終わった。
「ラピッド・スイッチで上手く行けると思ったんだけどな~」
『その程度でやられる程、俺は甘くない……』
すると突然、アリーナはざわめきに包まれた。
「ねぇ、ちょっと……見てよあれ!」
「あれってもしかしてドイツの……」
「第三世代型IS!? まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」
騒ぎになっている方に一夏達は目を向けると、そこには黒いISをまとったラウラ・ボーデヴィッヒが立っていた。
「チェイス・ミューゼル、私と戦え!」
ラウラはニヤリと笑みを浮かべながら、チェイスに挑戦する。
「断る……と言えば?」
「貴様に拒否権はない。貴様の存在が、教官を弱くしている!だからこそ、消えてもらう!貴様は教官の弟なのだろう?」
「……下らん」
そう言って、チェイサーは踵を返す。
「い、いいのかい?」
『所詮は餓鬼の戯れ言だ……放っておけばいい』
その様子に、ラウラの低い沸点は限界を超えた。
「気に食わん!その態度……!ならば、戦わざるを得ない様にしてやる!」
そう言うと、ラウラはレールカノンをチェイサーに向けて放った。
レールカノンから放たれた光弾はチェイサーに向かって一直線に進んで行く。
シャルルは咄嗟にチェイサーを庇おうとするが、
《Tune chaser bat!》
その前にチェイサーはバイラルコアをセットし、ウィングスナイパーを装備。
即座に紫の矢を放った。
紫の矢は光弾を貫き、そのままラウラのレールカノンにヒット。
レールカノンは大爆発を起こした。
「なにっ!?」
ラウラは驚愕の眼差しで、チェイサーを睨む。
対するチェイサーは無言のまま、アリーナを出ていった。
そして、放課後。
真耶は夕食を食べようと食堂を訪れていた。
するとそこには、
「……ミューゼル君?」
何かを食べているチェイスがいた。
それも幸せそうな顔で。
「何を食べてるんですか、ミューゼル君?」
「っ!」
と、ここで漸く真耶に気付いたらしく、チェイスは珍しく肩を少し動かす。
「……み、見たのか…?」
「い、いえ!何を食べてるのかな~っと思いまして……コーヒーゼリー?」
チェイスの手の中には、小さいカップに入ったコーヒーゼリーがあった。
「もしかして、甘い物が好きなんですか?」
「……悪いか」
そう言って、チェイスは顔を反らす。
そんなチェイスに真耶の中の母性本能がくすぐられた。
「ううん、そんなことないですよ。寧ろ嬉しいです」
「……?」
「だってミューゼル君って、あんまり好みの物とか言わないじゃないですか。だから良くミューゼル君の事が分からなくて……」
「分からなくて良い……」
チェイスは席を立つ。
「でも、今日とこの間の出来事だけですけど、少しミューゼル君の事が分かった気がします」
「……そうか」
その言葉を聞き、チェイスは去って行った。
ちゃっかりコーヒーゼリーを持って。
「やっぱりミューゼル君、少し怖いけど、可愛い……///」
そんな事を呟く真耶だった。
部屋に向かってチェイスは歩いていると、何やら声が聞こえた。
気配を殺して、物陰から見ると、
「何故ですか!何故こんな所で教師など!!」
「私には私の役目がある、それだけだ」
ラウラが千冬にそう声を荒立てて叫ぶ。
「こんな極東の地で何の役目があるというのですか!お願いです教官、我がドイツで再びご指導を……ここではあなたの能力を半分も生かせません!」
それがラウラの願いである。
自身が崇拝する教官に国でもっと自分達を鍛えて貰いたい。それ自体は純粋に綺麗な願いではある。
だが、その後に出たのは周りの生徒への侮辱的な感情であった。
「この学園の生徒はISをファッションか何かと勘違いしている。教官が教うるに足りる人間ではありません!危機感が全く出来てない。そのような者達に教官の時間を割かれるなど……」
その言葉に千冬はついに我慢が出来なくなった。
流石にこの物言いは流石に不味かったのだ。
「そこまでにしておけよ小娘」
「っ……!!」
千冬から発せられた怒気を感じてラウラは黙る。
その怒りが凄まじいことを感じて何も言えなくなってしまった。
「少し見ない間に随分と偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わっ、わたしは……」
「寮に戻れ、私は忙しい」
「くっ……」
ラウラは何も言い返せず、その場を逃げるように去った。
同じ様に、チェイスもまた去って行った。
『下らん妄執だな……』
そしてこの後、チェイスはーーー
IS ~黒き魔進~
チェイス「それで満足か……?」
シャルル「そんな……!」
ラウラ「チェイス・ミューゼル……絶対に許さん!絶対!!」
IS ~黒き魔進~ 『薄幸』
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?