部屋に戻ったチェイスは、シャワーを浴びるべく、浴室に向かった。
脱衣場で服を脱ぎ、ブレイクガンナーを服の下に隠し、そのまま浴室に入って行った。
チェイスがシャワーを浴びている最中、クローゼットの中からシャルルが出てきた。
『これで漸く……ゴメンね、ミューゼル君』
罪悪感に駆られるが、シャルルの立場もこのままでは危ういのだ。
今日の今日まで、チェイスはシャルルに一切心を許さなかった。
親しくしようにも、冷たくあしらわれ、このままだと自分やデュノア社の立場が危険に晒される。
だからこそ、シャルルは強硬手段に出た。
チェイスがシャワーを浴びている最中にデータを盗もう、と。(それを実行しようにも、大体チェイスが先にシャワーを浴び終わっているから)
音を立てずに脱衣場に入り、服の下に置かれたブレイクガンナーを手に取ると、そのまま抜け出した。
早速シャルルはパソコンにブレイクガンナーを接続し、中にあるデータを閲覧した。
が、その中にはシャルルが期待する様なデータは全く無かった。
シャルルがISと信じているそれは、ISではないため、通常のISとはまるでデータが違うのだ。
更には稼働データらしき物も見当たらなかった。
『何これっ……絶対防御も、コアも存在しないなんて……!情報は、何処に……!?』
シャルルは更に焦り、稼働データを探そうと手を動かすが、夢中になるあまり、後ろから近づく者に気付かなかった。
「……それで満足か?」
「っ!?」
後ろから不意に声を掛けられ、シャルルは凍りついた様に動けなかった。
恐怖に駆られながら後ろを振り向くと、
「み、ミューゼル君……」
「……」
チェイスが絶対零度の眼差しで、シャルルを見下ろしていた。
「……そこに隠れて俺のデータを盗もうとするとはな。余程焦っていたのか……」
「あ、あぁ……」
震えるシャルルを余所に、チェイスはパソコンからブレイクガンナーを取ると、シャルルの額に押し付けた。
「ひっ?!」
「今からお前の怪しい言動1つで、その額に穴が開く……大人しく俺の質問にイエスかノーで答えろ……」
その目は本気で自分を撃つ、そう語っていた。
故にシャルルは震えながら、首を縦に振った。
「お前の本当の名はシャルロット・デュノア……デュノア社社長の一人娘、目的は俺の専用車の稼働データ、或いは俺の篭絡……違うか?」
「…………なんだ、全部バレてたんだ」
ハハッ、とシャルロットは自嘲気味に笑った。
「お前の朝の言動でバレバレだかな……」
「そっか……。それで…君は僕をどうするの?学園と政府に報告して僕を追い出す?別にいいよ……会社は潰れるかもしれないし、僕の強制送還されるだろうけど……もうどうでも……」
シャルロットは諦めからそんなことを洩らす。
だが、チェイスはそんなシャルロットに怒りが湧いた。
「気に入らんな……自分の主張も出来ない程の弱虫だとは……虫酸が走る……!」
「……君に、君に僕の何が分かるのさっ!?君は強いからそんなことが言えるんだ!僕は君みたいに強くない……だからっ!!?」
途端シャルロットは頬に強い衝撃を感じ、ベッドに倒れた。
気付けば、目の前のチェイスが拳を握っていた。
要は殴られたのだ。
「何時までそんな甘ったれた事をほざく気だ……!お前は感情も主張もないロボットか……?」
「…………っ」
「この先お前がのたれ死のうが強制送還されようが俺の知った事ではない……だかな!最初から諦めの戯れ言を口にする奴は何時までたっても変われん!本当のお前はどうしたい……その運命に従って死ぬか……?」
「…………」
黙りなシャルロットを一瞥し、チェイスはシャルロットに生徒手帳を投げつけた。
「……これは?」
「読んでおけ……損はない」
そう言って、チェイスは部屋を出ていった。
その日、チェイスは外のベンチで一夜を明かした。
翌日、チェイスが部屋に戻ると、
「ミューゼル君、ありがとう……!」
シャルロットが目の下に隈が出来た笑顔でチェイスに礼を言ってきた。
「ミューゼル君が言いたかったのって、この『IS学園特記事項第二十一』のことだよね。ありがとう、教えてくれて」
「……そこから先を決めるのはお前だ」
そう言って、チェイスはシャルロットに湿布を差し出した。
「……これは?」
「貼っておけ……。それと……殴って、すまなかった……」
謝罪されている事に気付いたシャルロットは笑顔で、
「ううん、寧ろ感謝してるよ。あの時殴られなかったら、僕は僕じゃなくなってたと思うから……」
そう言いながら、シャルロットは頬に湿布を貼った。
「……そうか」
チェイスはフッと笑うと、食堂に向かった。
「あっ、待ってよミューゼル君!」
そう言って、シャルロットは笑顔でチェイスを追いかける。
その顔は、何処か憑き物が晴れた様な生き生きした笑顔だった。
朝食を食べ終え、チェイスとシャルロットが教室に向かうと、
「デュノア君っ!」
「ミューゼル君!」
「「「「私とペアになって下さい!!」」」」
いきなりそう頼まれ、困惑する。
「えっと、何のペアかな?」
シャルロットが苦笑いで聞くと、女子生徒が1枚のプリントを渡してきた。
「学年別タッグマッチトーナメント?えーっと……来週から行われるのか……タッグの提出期限は、今週末……」
「だからっ!」
「私達と!」
「ペアになって下さい!!」
必死に頼み込んで来る女子達に、チェイスはいつも通り素っ気なく言い放った。
「すまん……俺はデュノアと組む」
「そう言う訳なんだ……ゴメンね」
シャルロットの正体はチェイスしか知らない。
そのため、他の人間と組むと、正体がバレる可能性が高い。
故にチェイスはシャルロットと組むことにしたのだ。
「なーんだ、残念……」
「でも他の女子と組まれるよりは……」
「夏コミの要素が増えるわ……!」
一部とんでもない事を呟きながら、女子の波は引いていった。
「ありがとう、ミューゼル君」
「……気にするな」
そう言って、チェイスは座席に座った。
その途中、ラウラに睨まれたが、チェイスはこれを華麗にスルーした。
そしてこの後、二人は戦闘の作戦を考え、チェイスはシャルロットの特訓を見て、未熟な部分を指摘したりした。
そしてタッグマッチトーナメント当日。
「一回戦はボーデヴィッヒさんとだね」
「……」
対戦表を見て、シャルロットはそう呟く。
「相手が誰でも、叩き潰す……」
「アハハ……」
物騒な事を呟くチェイスにシャルロットは苦笑い。
「デュノア、お前は篠ノ之を殺れ……」
「えっ?」
「あの銀髪は、俺が潰す……」
「……因縁、かい?」
「…………」
「分かった、篠ノ之さんは僕が相手をするよ」
そして二人はカタパルトに立つ。
「変身……」
《Break up!》
「……行こうか、ミューゼル君」
『あぁ……』
二人はアリーナに向けて飛んでいった。
「1戦目で当たるとは、待つ手間が省けたな。これでやっと貴様を叩きのめせる」
「一夏っ!今日ここでお前の目を覚まさせてやる!」
『……』
いきなり此方に噛みついて来るラウラと箒だが、チェイスはこれを当然無視した。
「なんか向こう、余りコンビネーション出来そうにないね……」
『自己主張の激しい馬鹿二人だからな……叩くのは容易い』
「確かにそうかも……それにしても一夏って?」
『お前が知る必要はない……』
「……そうだね」
そうしている間に、試合のブザーが鳴り響く。
『手筈通りだ……任せた』
「OK!」
シャルロットは言われた通りに、チェイスに向かってきた箒を抑え込む。
「彼が相手じゃなくてゴメンね」
「っ!馬鹿にするな!」
箒とシャルロットが交戦し始め、チェイサーもラウラを撃つ。
「無駄だっ!」
ラウラはプラズマブレードで弾き、レールカノンをチェイサーに向けて放つが、
《Break》
ブレイクガンナーをブレイクモードに切り替え、光弾を掻き消した。
「ちぃっ!」
『……』
《gun》
舌打ちするラウラに対し、チェイサーはブレイクガンナーをラウラに向けて撃った。
「ふっ!」
だがそれをラウラはAICで止め、プラズマ手刀で掻き消す。
が、その間に、チェイサーは再び光弾を撃ち放った。
「はっ!そんな小細工が通用すると思ったか!」
ラウラはワイヤーブレードを展開し、光弾を相殺すべく向かわせるが、何と光弾の軌道が曲がり、全てラウラの手に命中した。
「がぁっ!……まさか、
『俺が何時偏向射撃を使えないと言った……?』
《Break》
驚くラウラの隙を逃さず、チェイサーは一瞬でラウラの背後に回り、隙だらけの背中を殴った。
「ぐぁぁっ!!」
殴られたラウラはその勢いのまま、壁に激突する。
「おのれぇ!!許さんぞぉぉぉ!!」
だが即座に起き上がり、ワイヤーブレードをチェイサーに向かわせる。
《Tune chaser spider!》
チェイサーは冷静にバイラルコアをセットし、ファングスパイディーを装備。
ワイヤーブレードを弾き返し、ラウラの懐に潜り込み、袈裟斬りにした。
「がはっ!」
その一撃でシールドエネルギーが大幅に減少し、ラウラは悶え苦しむ。
だがチェイサーはそんなラウラを上空に蹴っ飛ばす。
《Tune chaser bat!》
今度はウィングスナイパーを装備し、落ちてくるラウラに矢を放ち、再びアリーナの壁に激突させる。
『まだだ……』
《Tune chaser cobra!》
再びバイラルコアを装填、テイルウィッパーを装備した。
そのまま起き上がろうとするラウラの体に巻きつけ、縦横無尽に叩き伏せた。
「ぐぁぁぁっ!!」
ラウラの機体の皹も激しくなっていき、更にシールドエネルギーは殆ど0に近い。
《Execution!》
そんな満身創痍のラウラに引導を渡すべく、チェイサーは必殺技を発動する。
『この程度か……沈め』
《Full break!cobra!》
ラウラに向けブレイクガンナーの引き金を引くと、テイルウィッパーが離れ、蛇の如くラウラに襲いかかった。
「くっ!何だこいつは!?」
ラウラはAICで必死に止めようとするも、激しく動き回るテイルウィッパーを抑えられず、そのまま攻撃を受け続ける。
「ガハァ!」
最後に鉄の尾で打ち飛ばされた先には、
『……』
「っ!」
ファングスパイディーを構えるチェイサーがいた。
「しまっ……!」
『フンッ…!』
紫紺のエネルギーを溜めたその鉤爪の一撃にラウラの専用機は限界を迎える。
「ーーーーっ!!」
声にならない悲鳴を上げながら、ラウラはアリーナの地面を転げ回る。
その時に、チェイサーの目が合った。
と言っても仮面越しだが、
『……っ!こいつ……!』
フルスキンで覆われて表情は伺えないが、その男はまるで自分を見ていなかった。
そこら辺にある石ころと同等に自分の事など、まるで眼中にない。
そう、敵としても認識されていない。
事実、彼から疲労をまるで感じなかった。
それが分かってしまった時、ラウラは願った。
『欲しい……力が!奴を、教官を弱くさせるこの男を、完膚なきまでに叩きのめす力が!!』
そして、不意にその声は響いた。
『求めますか……?この、最高で最低で最強の力が……?』
『力……!寄越せ!比類なき、最強の力をーーー!!』
『良いでしょう。やはり人間は、愚鈍で愚かで野蛮な種族ですね……だからこそ、楽しめる!』
そして、ラウラの意識はーーーー
「お疲れ様、ミューゼル君……?」
『……』
シャルロットは笑顔でチェイサーを労るが、チェイサーはまだラウラを睨み付けていた。
すると、ラウラが起き上がった。
「あああぁああぁあああああぁああああああああぁあああ!!」
突然絶叫し始めると、大破していたシュヴァルツェア・レーゲンが紫電を放ち始めた。
紫電が収まったかと思うとシュヴァルツェア・レーゲンは黒いどろどろとした泥のようになり、ラウラを包んで紫の鎧を纏った人型の何かに変わっていた。
その腕には、鋭い突起物が着いていた。
『……まさか!』
「さぁ、良いデータを期待していますよ……」
その様子を、緑の服を着て眼鏡を掛けた男が見ていた事に誰も気付かなかった。
IS ~黒き魔進~
ラウラ?「ぐおおおおっ!!」
チェイサー『……こんな物かっ!』
???「ほぉ、これは良い結果だなぁ……ーー」
IS ~黒き魔進~ 『死神VS鋼鉄の戦乙女』
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?