ドライブTF『お前誰だよ』
俺は……誰だ……
暗闇の中、一夏は自分に問い掛けながらその闇の中を歩いていた。
右も左も、上も下もない空間。
果たしてそこに出口があるのか?
いや、出口があったとしても自分には居場所がない。
自分は、家族に捨てられた。
今の一夏には姉である織斑千冬の顔すら思い出せないでいた。
更には、自分の名前すら。
そこでフッ、と自嘲気味に一夏は笑った。
最早誰かに必要とされてない俺が、名前を思い出してどうする?
もうこのまま一生この闇の中にいれば、俺は苦しまずに済むのでは?そう思った。
だが、天は一夏を見捨てなかった。
永久に続くと思われたこの闇に、一筋の光が現れたのだ。
一夏は、無意識にその光に手を伸ばした。
この光の先になら、一夏は新しい自分を見つけれる、そんな気がしたのだ。
そして、一夏はその光を掴んだ。
瞬間、一夏の視界が真っ白になった。
更に身体中を激しい痛みが襲い、一夏は悲鳴を上げた。
「っ……ぐぁぁぁぁぁっ!!」
「っ!?」
ハッと一夏は目を覚まし、起き上がる。
「俺は……」
包帯に包まれた右手を動かしながら、生きている事を実感する。
あれだけの痛みが襲ってきたというのに。
「よぉ、御早うさん」
と、呆然とする一夏に声を掛ける人物がいた。
視線を向けると、そこにはオレンジのロングヘアーの少し粗暴そうな女性がいた。
彼女はオータム。
一夏をここに運び込んだ張本人だ。
「ここは、一体……」
「うちの企業のメディカルルームだ。ま、そんなことはどうでもいい。お前、織斑一夏だな?」
「っ……織斑、一夏…………。それが、俺の名前なのか?」
「……は?」
初めて聞く、そんな反応を返す目の前の少年にオータムは目をぱちくりさせる。
「お前、まさか……」
「分からない……何も思い出せない……。自分の名前も、何もかも」
困惑した表情で一夏は顔を手で覆う。
その反応からして、嘘ではないとオータムは察した。
『厄介だな……記憶喪失か。スコールに何て言えば良いんだ?』
オータムがこれからの事を考える一方で一夏は突然の頭痛に苛まれていた。
織斑一夏、正確には織斑という名字を聞いてからだ。
『織斑……俺は知っている…この名を……何故だ!』
その時、一夏の脳裏にある女性の顔が過った。
その女性は一夏を憐れむ様な顔で一夏を見ながら、
『ーー、お前は何故こんなにも何も取り柄がないんだろうな』
憐れみを込めた声音でそう呟いた。
ーーふざけるなっ!!
それを聞いた瞬間、一夏は怒りを爆発させた。
アンタは俺の事を知っていると言うのか!?
アンタは俺の何を知っていると言うんだ!?
何も知らない癖に、知っている素振りで俺を語るな!!
俺は、俺はーーーーっ!!!
「っ……おいっ!」
「!」
怒りで頭が一杯になりかけたその時、一夏は肩を揺すられ、ハッと気がついた。
そこには、先程の女性ーー、オータムが心配そうに覗き込んでいた。
「どうしたんだ?急に黙り込んで」
「っ……スミマセン」
取り敢えずは謝罪をした。
「まぁ良いや、取り敢えず付いてこい。歩けるか?」
「いえ、大丈夫です」
だが、結局上手く歩けず、オータムに肩を借りたのは完全な余談である。
「入るぜ、スコール」
扉をノックした後、オータムは一夏を連れてある部屋に入った。
そこには、豊かな金髪に豊満な身体をもった美女が眼鏡をかけてデスクに向かっていた。
「その子は…………」
「例の子供だ。さっき報告した様に、記憶喪失なんだ」
と二人が話し込んでる最中、一夏は先程の女性に対して考察していた。
彼女は恐らく自分を知っているのかもしれない。
あの台詞は自分に向けたのだと。
と、次の瞬間、
「っ!」
「ほれ、ボーッとすんな!」
オータムに背中をどつかれ、一夏は前屈みに倒れそうになった。
衝撃に備えようと、一夏が目を瞑ると、自分が想像していたのとは、別の衝撃が来た。
「あら、駄目よオータム。この子は怪我をしてるのよ?」
「あぁ~、わりぃ。つい癖で……」
「っ!!」
何か柔らかい物が一夏の顔面を包んでいた。
それは先程の女性の豊満な胸だ。
「っ~~!」
それを認識した途端、一夏はバッとそれから離れる。
「す、スミマセン…………」
慌てて一夏は謝る。
だが、目の前の女性は微笑みながら、気にしてない事を伝える。
「良いのよ、気にしないで♪」
「はぁ……」
「それはともかく、先ずは自己紹介ね。私はスコール・ミューゼル、この企業、『フリーダム・スカイ』の代表なの。宜しくね♪」
「あ、はい。俺は……」
自分も自己紹介しようとするが、名前を思い出せない為、言い淀んでしまう。
「オータムから聞いたわ。あなた、記憶喪失なのよね?」
「……らしいです」
「それなら、思い出すまで別の名前を考えないとね」
「…………別に構いません」
「え?」
スコールとオータムは一夏を見やる。
一夏は悲しさを少し含んだ笑いを浮かべ、
「いつか俺の名前を思い出しても、もう俺に居場所はないんです。記憶はないのに、何故かそんなことは分かるんです。」
そう自嘲気に語った。
それを聞いたスコールは少し怒りながら一夏に尋ねる。
「…………本気で言ってるの?」
「ええ、助けてくれた事は感謝します。でももう良いんです。居場所がない俺なんか、名前があってもなくても変わらーー」
「それは違うわ」
スコールは一夏の言葉を遮りながら、こう述べる。
「人は誰でも、幸せを感じれる権利があるの。それは例え名前がない君でも、その権利がちゃんとあるのよ。私はそう思う」
「…………」
「それに君に居場所がないなら、私が君の居場所になる」
「!」
その台詞に一夏の表情が強ばる。
「もし君が記憶を取り戻しても、私は君の居場所であり続ける。約束するわ」
「…………何で、何で俺なんかの為に!」
「君は似てるの、私の弟に……」
スコールは慈愛の表情で一夏の頬を撫でる。
「だから放っておけないの。安心して、貴方は私が守るから……。だからそんな悲しい事は言っちゃ駄目」
最後には、一夏を優しく抱き寄せる。
一夏はその温もりに、涙した。
「こんな俺でも……幸せになっていいのか……?」
「えぇ、勿論」
「………っ!うぅ……」
だが、その涙は悲しさから来るものではない。
その顔にあるのは、間違いなく嬉しさだ。
「……うぅっ、よがっだなぁ~……」
その横では、オータムが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていた。
「……チェイス・ミューゼル?」
「うん、それが貴方の新しい名前よ」
あの後、暫くして落ち着いた一夏(とついでにオータム)は新しい名前を受け取った。
「ミューゼルって……」
「そう。チェイス、貴方は今から私の養子よ。だから一杯甘えても良いのよ♪」
「あ、はい……」
そう言って優しく微笑むスコールに一夏、改めチェイスは顔を反らして答えた。
「チェイス、貴方は暫く絶対安静だからちゃんと寝るのよ。分かった?」
「……あぁ」
若干過保護な感じを醸し出す養母にチェイスは苦笑いしながら、その部屋を後にした。
「これで良いのよね?」
「……あぁ」
チェイスが去った後、スコールとオータムは会話をしていた。
内容はチェイスの事だ。
「まだアイツには、話さない方が良いと思うんだ……」
「そうね…………」
スコールは少し悲痛な面持ちでパソコンのモニターを見ていた。
そこには、一夏の経歴等が表示されていた。
そして、彼がどれ程の苦痛を味わってきたのかも。
「これを見る限りじゃ、織斑千冬はアイツの事を何にも理解してないんだな……」
「凡人の苦しみは、自分しか理解できない…悲しいわね」
オータムは千冬の保護能力の無さに少し憤り、スコールは本気でチェイスを心配していた。
『チェイス……これからは私、私達が貴方を守る。以前の様な思いはさせない』
IS ~黒き魔進~
スコール「これは私達が開発した、この世界を変えるためのシステム………」
オータム「チェイス、気分はどうだ?」
チェイス「これが、俺の新しい力………」
IS ~黒き魔進~ 「騎士から死神へ」
黒き追跡者はその瞳に何を写す………?