IS学園の1年生達は臨海学校の為、海に行っている。
ただし、ある一人を除いて。
「これが、新しいバイラルコアよ」
「……ありがとう」
チェイス・ミューゼルである。
彼は今、養母で上司のスコールから新しいバイラルコアを与えられていた。
チェイスがアタッシュケースを開けると、バイラルコアが2つ入っていた。
「これは……亀と鮫、か……?」
「ええ、鮫の方は少し変わり種よ。亀は防御用の武装になってるわ」
「そうか……」
「本当はテストしてから渡す方が良かったのだけれど……臨海学校があるしね」
「いや、構わない。実戦で慣らす」
バイラルコアを受け取り、チェイスは傍らに置かれたバイク―-―ライドチェイサーに跨がる。
「じゃあ、行ってくる……」
「ええ、気をつけてね」
スコールにサムズアップで答え、チェイスはライドチェイサーで走り去った。
一方、IS学園組はと言うと、
「本日からお世話になる旅館の方だ。皆、ちゃんと挨拶をしろ!」
「「「「「「はーーーーーーーい!!」」」」」
これからお世話になる旅館の女将に挨拶をしていた。
その元気な挨拶を聞いた女将は微笑む。
と、ここであり事に気づいた。
「そう言えば、噂の男性IS操縦者の方は?」
「すみません、少し遅れての合流になります」
と千冬は謝りながら、昨日の出来事を思い出していた。
「織斑教諭……」
「!な、何だミューゼル……」
昨日いきなり職員室、しかも敬遠されがちな自分の元にいきなりチェイスが現れ、千冬は動揺を隠せない。
チェイスはそんな千冬に構わず淡々と告げた。
「明日の臨海学校、俺は少し用事で遅れる……」
「な、何の用事だ?」
「企業の用事だ……。それ以上は言う必要はない……」
そう言ってチェイスは職員室を出て行った。
と昨日の事を思い浮かべていると、遠方からエンジン音が聞こえてきた。
全員が何事かと思いそちらを向くと、見慣れたIS学園の制服を着た何者かが黒いボディに紫のフレアラインの刻まれた前方の髑髏が特徴的なバイクでこちらに向かって来ていた。
その者は呆然とする皆を余所に、バイクを止めヘルメットを取った。
「……み、ミューゼル」
その者の正体はチェイスだった。
「お前、免許は……」
「政府からは公認されている、問題はない……」
「……取り敢えず着いたのなら挨拶をしろ」
千冬はチェイスを女将に向かわせるが、内心ハラハラしていた。
そして、いつも通りの素っ気ない挨拶をするなら、叩いてでも訂正させると意気込んでもいた。
「チェイス・ミューゼルです……。男が私一人で迷惑を御掛けすると思いますが、どうぞ宜しく御願い致します……」
そんな千冬の心配とは裏腹にチェイスは至極丁寧な口調で頭を下げ、挨拶をした。
女将はそんなチェイスに微笑む。
「ふふっ、丁寧な挨拶どうもありがとうございます。不便かも知れませんが、此方こそ宜しく御願いしますね」
女将もまた丁寧な返事を返した。
こうして、千冬達はチェイスの意外な一面を知ったのだった。
「ミューゼル、お前の部屋だが……」
「その心配はないぜ、織斑千冬教諭」
千冬が部屋の事を言おうとすると、何者かがその言葉を遮った。
だがチェイスにとっては聞き覚えのある声だった。
「……オータム」
「ソイツは家のテストパイロットだ。安全上、私と同じ部屋に泊めさせてもらうぜ」
「貴様は……?」
「私はオータム。フリーダム・スカイの警備部隊隊長をやらせてもらってる者だ」
オータムは千冬に名刺を差し出し、千冬はそれを受け取る。
「仕事上チェイスの警備も任されてる。他の女の子が入ってきても困るからな」
「ならば教師との同部屋でも……」
「それだとコイツがゆっくり出来ねぇだろ?まぁ、チェイスの意見を聞いてから、だけどな」
そう言って、オータムと千冬はチェイスの顔を見る。
すると、時間を置かずにチェイスは答えた。
「俺としてもそっちの方が有難い……」
「だってよ」
「……分かった。ただしこれは授業の一環だ。下手な介入や詮索はしないでいただきたい」
「わーってるよ。あくまで私の仕事はチェイスの警備だからな」
そう言うと千冬は去って行った。
「何故お前がここに……?」
「スコールから頼まれてな。お前のバットバイラルコアの調整をな」
「……分かった」
チェイスは懐からバットバイラルコアを取りだし、オータムに差し出した。
「まぁ時間は掛からねぇから、お前は海行ってこい!」
「……あぁ」
チェイスは水着を取り出すと、更衣室に向かった。
『兎の事だ、恐らくこの臨海学校でチェイスに接触してくる……筈だからな』
バイラルコアを調整しながら、オータムはある女の事を考えていた。
「暑いな……」
チェイスは岩辺に座りながら、海を眺めていた。
周辺では、女子生徒達がワイワイ騒いでいる。
「ミューゼルさん……その、お願いがあって来ました」
「オルコットか…」
青いビキニに身を包んだセシリアが接近してきた。
「サンオイルを塗って頂けないでしょうか!?」
「……だとよ、凰」
「何でアタシに振るのよ!?」
近くにいたピンクのスポーツビキニを着た鈴当然は困惑する。
「近くにいたお前が悪い…」
「何処の蛇ライダーよ!?」
「女同士の方が良いだろ…」
「ハァ、分かったわよ…。行くわよ、セシリア!」
「そんなぁ……」
チェイスにバッサリ斬られたセシリアは涙目で鈴に引きずられていった。
すると、暫くしてチェイスに飛び掛かる人影が。
「よーっ!チェイス♪」
「っ……!オータム」
飛び掛かってきた人影の正体はオータムだった。
「ほい、これ。調整は済ませたぜ」
「感謝する……」
バットバイラルコアを受け取り、パーカーのポケットに仕舞った。
「ふふーん、どうよ!私の水着は?」
オータムは紫のビキニを纏っていた。
色っぽいオーラが漂っており、普通の男ならメロメロだが、チェイスは慣れている為あまり動揺もない。
だがスタイルの良さもあるので、チェイスは素直に褒める。
「似合っているぞ……」
「っ!へへっ、そっか……」
途端に乙女の表情になるオータムに苦笑いする。
「ミューゼル君、そのお姉さんは?」
「もしかして、ミューゼル君の恋人?!」
女子生徒達が近づき、オータムの事を聞いてきた。
「……俺には勿体ない位だよ。ましてや恋人なん俺では釣り合わん」
「……私は別に構わないぜ、それでも」
「…何か言ったか?」
「いんや、別に!チェイス、彼処の屋台で焼きそば買ってきてくれよ!」
「……分かったよ」
チェイスは財布を手に何故かポツンと立っている屋台に向かった。
何故ここに立っているのかは分からないが、怪しさマックスだった。
とりあえず向かうと、
「へい、らっしゃい!ご注文は……」
「……弾、何してる」
鉄板に向かって焼きそばを焼いていた青年は自分の親友の一人だった。
「あれ、チェイス。来てたんだ」
「お前ら……調べたな。この場所を」
カイトや数馬、それに見慣れない一組の兄妹も屋台裏から出てきた。
「貴方がチェイスさん?」
「お前達は……?」
「初めまして。私は立花百合です、スコールさんから貴方の事は聞いてますよ」
勝ち気な感じの少女が挨拶をしてきた。
「えっと、此方が兄の……」
「立花優。宜しく、チェイス!」
活発そうな青年が握手を求めてきた。
チェイスはそれに応じる。
「で、何故ここにいる?」
「や、小遣い稼ごうかな~って」
弾が引きつった笑いでそう言う。
その様子に若干違和感を覚えるが、取り敢えずは流しておくことに。
「……取り敢えず焼きそば2つ」
「2つも食うのか?」
「オータムの分だ」
「了解!」
既に焼いてあった焼きそばをパックに纏め、チェイスに差し出した。
チェイスは受け取って、袋を見ると、何故か3つ入っていた。
「……何故3つある?」
「山田先生の分だよ」
あっけらかんと告げる。
「ほぉ~弾にしちゃ気が利くな~」
「弾にしちゃってどういう意味だ!?」
聞き捨てならぬと弾は突っ込む。
「良いじゃん別に」
「良くねぇ!」
「山田先生の分はお代は要らないよ」
「……感謝する」
「あ、ミューゼル君……」
すると、ワンピースタイプの水着を着た簪がやってきた。
「更識……」
「へい、らっしゃい!」
「すみません、焼きそば二つください」
「毎度!ほら、チェイス!冷めるから速く持って行け!」
「……ミューゼル君の、友達?」
「…あぁ」
若干気まずそうに答える。
「お前は?」
「お腹空いたから、本音の分と……」
「はいよ!お待たせ!」
「ありがとう、ございます…」
勘定を終え、チェイスはオータム、簪は本音の元に戻って行った。
「上手く誤魔化せたか?」
「チェイスはカンが鋭いからな、もしかすると……」
「バレても、その時にはもう行動してるだろうさ」
「そうだな」
「……はい」
「で、姉貴とはどうなんだ…?」
「うん、今じゃ普通に会話出来るようになった。本当にありがとう」
「俺は何もした覚えはない…」
「ふふっ、じゃあね。ミューゼル君」
「あぁ」
そう言って簪は本音の元に戻った。
チェイスもオータムの元に急ぐ。
「オータム、買ってきたぞ……」
「お、サンキュー!」
チェイスはオータムに焼きそばを差し出すと、何処かに向かった。
「何処行くんだ?」
「少しな」
チェイスはビーチバレーをしていた真耶の元に、
「山田教諭……」
「み、ミューゼル君?」
焼きそばを差し出した。
「要らないなら、構わない……」
「い、いえ!貰います!」
真耶は嬉しそうに焼きそばを受け取る。
「じゃあ……」
焼きそばを渡すとチェイスはオータムの元に戻ろうとすると、
「ミューゼル君!一緒に食べませんか?」
真耶が笑顔で自分の横をポンポンと叩いた。
「人を待たせてる……」
チェイスはそう言うと、
「きゃっ!」
真耶の手を取り、歩き出した。
「向こうで、食べるんですか?」
「……あぁ」
オータムの元に戻ると、
「……チェイス、そのお嬢ちゃんは?」
「一応副担任だ……」
「その人は……?」
聞かれると、オータムはチェイスに腕を絡ませ、
「チェイスの恋人候補だ」
そう告げた。
「えっ!」
「嘘を言うな……」
動揺する真耶を尻目に、チェイスは腕を離す。
「連れねーな、チェイス」
「笑えない冗談だ……」
「本気なんだけどな……」
「何か言ったか?」
「別に!」
そんなやり取りを見た真耶はプルプル震えると、
「例えそうでも、私はチェイス君を諦めません!」
チェイスの反対側の腕に抱きついた。
「なっ!」
「ほぉ~、いい度胸じゃん」
ニヤリと笑い、オータムも腕に力を込める。
結局、チェイスは落ち着いて焼きそばを食べれなかった。
おまけ(かなり時期はずれです)
「あら、シャルロットさんも?」
「うん、チェイスに貰ったんだ」
「律儀よね~アイツ」
2月14日のIS学園、そこではセシリアとシャルロット、そして鈴はチェイス・ミューゼルからチョコを貰っていた。
「アイツバレンタインの意味を間違えてるわね、絶対」
「まぁ、良いんじゃない?」
「そうですわよ、それに食べないと勿体ないですわ」
そう言って、3人が箱を開けると、絶句した。
『『『…………』』』
中には、チョコケーキが入っていた。
何故3人が黙りになったのか?
出来が酷い訳ではない。
寧ろとても上手に出来ていた。
それが逆に、女子としてのプライドを打ち砕かれた気がするのだ。
「美味しそう……でも」
「何か、負けた気がしますわ……」
「うん……凄い敗北感」
3人はズーンとした気持ちでチョコケーキを食べた。
味も期待を裏切らず素晴らしく、そこでまた敗北感を味わったのであった。
同じ頃、
「ミューゼル君、これって……」
「今日は、親しい者にチョコレート類の食べ物を渡す日だと、友から聞いた……」
それを聞いた簪は、カレンダーに目を向けた。
日付は2月14日、即ちバレンタインデー。
『ミューゼル君……間違ってないけど間違ってるよ』
簪はそう突っ込みたかったが、敢えて突っ込まないでおいた。
「あ、ありがとう……」
「……」
そうしてチェイスが去った後、簪は箱を開け、セシリア達と同じ敗北感を味わったのであった。
因みにスコールとオータムはチェイスの料理の腕を知ってるため、敗北感は味わなかった。
こうして、チェイスの勘違いによって、IS学園の女子のプライドは粉々に打ち砕かれていったのであった。
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?
IS ~黒き魔進~
束「これが箒ちゃんの専用機!」
チェイサー『銀の福音……』
スコール「お願い、ナタルを、助けてあげて……!」
IS ~黒き魔進~ 『福音』
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?