福音の暴走鎮圧後、それぞれが思い思いに寛いでいる中、
「五反田、御手洗、少し聞きたいことがある。顔を貸せ」
弾と数馬は、千冬に呼ばれて浜辺に向かうことに。
呼び出された理由については、大体の察しが着いていた。
「疲れている所をすまない。だが…どうしても聞きたいことがある」
「……チェイスの事っすか」
「!………そうだ」
数馬が千冬の本題を当て、千冬は一瞬驚くも直ぐに頷く。
「チェイスは、奴は……私の弟の一夏なのか?」
口調をわずかに震わせながらも、弾と数馬に問いただした。
少しばかりの沈黙を破ったのは、弾だった。
「それを知って、アンタはどうしたいんだよ…?」
「決まっている!あの時の事を謝りたい!そして……もう一度、家族として、やり直したい…!」
「………そうか」
次に数馬が口を開いた。
「確かにアイツは一夏だ…。でも、アンタの願いは叶わないよ。千冬さん…」
「……………何?」
千冬は、数馬の言葉を理解出来なかった。
一夏は、私の元に戻りたくないと言うのか?
何故?
ワタシハオマエノタッタヒトリノニクシンナノニ?
ワタシハオマエノアネナノニ?
「あのモンド・グロッソでの出来事だけが、一夏がアンタを見限った原因じゃない。その前からずっと、一夏はアンタを信じてなかった。何でか分かるか?」
「……」
沈黙する千冬に、今度は弾が捲くし立てる。
「やっぱ分かんないよな、千冬さん…。何でも分かった振りして、一夏の事まるで見てなかったもんな!アイツはアンタに追いつこうとして必死に努力した!!周りからアンタと比べられてなじられ、虐められても諦めなかった!!信じてなくても、肉親のアンタに心配かけまいと誤魔化し続けた!!体の傷が増えようが!!何されようが!!でもアンタは忙しいことを言い訳にアイツの、一夏の傷を見ようともしなかった!!悩みを知ろうともしなかった!!そんなアンタが今更家族に戻りたいだって……?あの時一夏を救えなかった癖に、都合良い事抜かしてんじゃねぇ!!!」
「!!」
その言葉を受け、千冬は頭を殴られたような衝撃を受けた。
それと同時に、モンド・グロッソを終え、日本に帰国した時の事を思い出した。
~~~~~
帰国時、千冬は一夏を失った傷心のまま、家に帰ってきた。
道中、マスコミの取材を受けたが、千冬は怒鳴り散らして追い払った。
「………?誰だ」
玄関前に辿り着いた時、千冬は人の気配を感じた。
微かな街灯に照らされたその顔は、千冬のよく知る人物だった。
「五反田、御手洗…」
弾と数馬、千冬の知る限りでは、一夏と最も仲の良かった友人のはず。
そう思い、一夏の事を伝えようとした時。
「何で……、何で!!」
「グゥッ!!?」
肩を震わせていた弾に、顔面を思いっきり殴られた。
足に力を入れてなかった為、千冬は尻餅を付いた。
だが弾は、そんな千冬に構わず胸倉を掴む。
「何で、何で一夏が死ななきゃなんねーんだよ!!なんで一夏を助けなかったんだよ!?」
「………」
「何とか言えよ!!オイ!!!」
「弾落ち着け!千冬さん殴っても一夏は帰ってこないし、千冬さんも辛いんだぞ!!」
見かねた数馬が弾を羽交い絞めして止める。
だが、弾は尚も千冬に怒鳴り散らす。
「帰せよ…!俺達の親友を、帰せよ!!!」
「弾!!」
「何がブリュンヒルデだ…。家族一人守れずによぉ……!!アンタは、ただの人殺しだ!!」
「っ!」
「いい加減にしろ!!いくぞ!」
暴れ続ける弾を引きずりながら、数馬達は去って行った。
~~~~~
「あの時、一夏の誘拐を、日本政府は黙殺した。アンタを優勝させる為に」
「……」
「俺達もこの間、それを知った。アンタがあの後、表彰式ほっぽって誘拐場所に向かったのも知った」
今度は数馬が静かに語りだした。
千冬は、それを黙って聞いていた。
「…でも、弾の言うとおり今まで一夏を見てなかったアンタに、一夏は、チェイスは任せられない。理由はどうあれ、アンタは一度、一夏を見捨て、殺した」
「!」
数馬のその一言に、千冬の顔は強張る。
「アイツの事を今でも大切に思うなら、もう必要以上にチェイスに関わらないでほしい。それがアンタの為だ」
「どういう意味だ……?」
「アイツは………記憶喪失だ」
記憶喪失、という言葉に千冬は凍りつく。
「チェイスはもう、アンタの事をまるで覚えてないよ。一応自分の過去は知ったけど、チェイスはアンタに何の感情も抱いてない。それにもし記憶が戻っても、アイツはチェイス・ミューゼルとして生きる。そう決めてんだ」
「そ、そんな……」
千冬はガクリとひざを突いた。
そして、何時の日か職員室で言われたことを思い出した。
「いい加減に弟の死を受け入れろ……」
その言葉の意味を、ようやく理解した。
もう、自分の知っている一夏はいない、と。
「俺達が言えるのはこれだけだ」
「…数馬は兎も角、俺はアンタを、絶対に許せねぇ……!それだけだ」
そう言って弾と数馬はその場を去った。
一人になった千冬は、声を押し殺して涙を流した。
弾と数馬が千冬に呼ばれ向かう頃、チェイスはと言うと。
「ふぅ………」
露天風呂に浸かり、疲れを癒していた。
カイトたちは既に入り終えて、熟睡している。
『奴らの行動、どんどん激しくなっている……』
奴ら、とは亡国機業の事だ。
『ボーデヴィッヒのVTシステム、今回の福音……何れも奴らが一枚噛んでるのは間違いない』
湯に潜りながら思案してると、突然何者かに頭を引き寄せられた。
驚く間もなく、気づけば顔面が柔らかいナニカに包まれていた。
「ごぼっ……!!」
息が続かなくなったチェイスは慌てて顔を浮上させる。
そして、その正体はチェイスの思いもよらぬ人物だった。
「ふふっ、驚かせてごめんなさいね」
「…スコール。何故ここに?」
それはスコールだった。
「あら?愛しい息子を心配しちゃ駄目?」
「……せめてタオル巻いてくれ」
鼻を押さえながらぼそりと呟く。
「それは兎も角、ナタルが貴方に御礼を言いたいらしくてね」
「?………!!」
首を傾げるチェイスだったが、次の瞬間には顔を入り口から慌てて反らした。
「こんばんは、チェイス君」
優しそうなハミングボイスを出し現れたのは、ナターシャ・ファイルス。
アメリカの国家代表にして、銀の福音のパイロット。
スコールと違いタオルこそ巻いてはいるが、逆にそのプロポーションを引き立たせており、チェイスは恥ずかしがる他なかった。
「私と、この子を助けてくれて、本当にありがとう」
チェイスの動揺を気にせず、ナターシャはチェイスに例を言う。
「……俺一人の力では出来なかった事だ」
「それでもよ」
ナターシャは優しく微笑む。
「……成る程な、ソイツが慕う理由も納得だ」
その微笑を見たチェイスは、福音が母と慕うのも最もだと頷いた。
「だから、これは御礼よ♪」
「!」
と、不意にチェイスの頬にに柔らかい物が触れた。
目の前では、ナターシャが恥ずかしそうに笑っていた。
「まさか……」
要はキスされたのだ。
呆然としながらも、何とか頭で理解した瞬間、チェイスは湯に半分潜る。
「ふふっ、スコールが惚れるのも無理ないわね」
「簡単には譲らないわよ?チェイスがハーレムを望むなら、それも良いけどね♪」
何やら火花を散らす二人に居心地が悪くなってきたチェイス。
すると、
「で、出遅れちゃいました!?」
「お前らだけずりーぞ!!」
タオルを巻いたオータムと真耶まで乱入してきた。
「!!」
「チェイスの一番はゆずらねぇ!!」
「わ、私も諦めません!!」
戦くチェイスに構わず、オータムと真耶も湯船にダイブする。
この後、チェイスが逆上せてしまうまでチェイス争奪戦は続きましたとさ☆
「いっくん達のISの情報は……」
その頃、束は福音と交戦していた魔進チェイサー達の映像から何とかデータを読み取ろうと、四苦八苦していた。
だが如何せんプロテクトが硬く、天才の束でも解析に大分時間が掛かった。
「………俺に、何の用だ?」
すると、束の後ろから声を掛ける人物がいた。
「待ってたよ、いっくん………」
それはチェイスだった。
あの後、逆上せたチェイスは何とか復活すると、束からの呼び出しがあった為、指定された岩場に向かった。
「先に言っておく……。織斑一夏は死んだ。ここにいるのはその残りカスだ」
「………」
明らかに束を拒絶するその眼差しに束は居たたまれない気持ちになった。
だがチェイスが一夏としての記憶が失われたーーそれだけでなく、千冬と比べられ、虐められた遠回しの元凶とも言える自分が何を語っても信じてもらえない。
そんな自分には、何も話してはくれないだろう、そう自覚した束は、
「そっか………。じゃあミューゼル君」
「………?」
「今の世界は、楽しい?」
震える声でチェイスに尋ねた。
一夏の時から、恐らくは今の世界を憎んでいたのかもしれない。
ならば今のチェイス・ミューゼルとしてはどうなのか?それが一番の気掛かりだった。
「……………………今の貴様が作ったこの世界は糞だ」
「……っ」
予想していた台詞に耳を塞ぎたかった。
だがそれは許されない。
自分はこの腐った世界の犠牲になった成れの果ての少年の言葉を聞かなければならない。
「だが………大切な友と生きる事が出来る。朧気だが、昔の俺は差別されて生きてきた。友と呼べる者も多くなかった。だが今は違う」
「………」
「友の、愛する者達の眩しい位に輝く笑顔、それを見れる意味では、この世界も………悪くはない」
「……………そっかぁ」
嘗ての一夏は、もういない。
だが目の前の少年は、嘗ての一夏の面影を残した少年は、生きている。
この世界を変えるため。
大切な人達を守るために。
「呼び出してゴメンね」
「………言っておくが、妹への干渉は」
「しないよ。私にも、やらなきゃいけない事が出来たしね」
「……そうか」
そう言って、チェイスはその場を後にした。
「……何これ?コアも、絶対防御も存在してないなんて!」
そして漸くプロテクトを破り、表示されるデータに束は驚愕した。
「これじゃあ、搭乗者は生身にダメージを……?!でも、鎧の下のスーツで最低限保護されてるんだ…」
ライドスーツの解析を急ぐ束は気づけなかった。
「ふむ………分かったぜ、ハート」
自らを監視していた謎の存在に。
IS ~黒き魔進~
セシリア「漸く夏休みですわね」
チェイス「夏休み、か……」
???『御機嫌よう、篠ノ之束博士。そしてさようならだ』
IS ~黒き魔進~ 『休暇』
黒き追跡者はその瞳に何を写す……?