「息抜き……?」
「そ。息抜きだよ」
チェイスがポツリと呟いた言葉に頷くのは彼の姉の様な存在であるオータム。
そのオータムの手には、なにやらチケットの様な物が四枚握られていた。
見ると、温泉街の宿泊半額券だった。
「まだ夏休みだし、連中も目立った動きを見せてねぇからな。ここいらで羽を伸ばすのさ……それに」
「それに?」
オータムは溜め息を吐きながら、
「最近スコールが研究室から出てこねぇんだよ。アイツの為にもなって思ってたら数馬から貰ってな」
「ふむ………」
確かに最近のスコールは研究室で寝たり食ったりしていて結構疲れてるはず。
「分かった。母さんからは俺が話しておく…」
「サンキュー」
「だが、後一枚は……?」
「あぁ、それは…」
すると、チェイスは突然後ろから誰かに抱き付かれた。
「!……アンタは」
「こんにちは、チェイス♪」
その人物は、アメリカ軍所属のISパイロット、ナターシャ・ファイルスだった。
身体に伝わる柔らかさにドギマギしながらも、チェイスはそれを感じさせない声音で問いかけた。
「何故アンタがここに……」
「休みがてらに観光でもしようかなって思ってたらオータムから温泉旅行に行かないかって誘われてね」
「成る程……じゃ、じゃあ俺はスコールに話してくる」
逃げるようにナターシャを引き剥がしてチェイスはスコールが篭っている研究室に向かっていった。
「ふふっ、可愛い♪」
「あんましからかうなよ?意外にチェイス、初心なんだからよ」
「スコール、いるか?」
チェイスが研究室に入ると、スコールはデスクに身体を預け、眠っていた。
「はぁ、本当に缶詰め状態だったのか………ん?」
スコールを起こそうと近づいたチェイスは机に置かれたシフトカーらしき物と、何やら設計図のようなものを見つけた。
「シフトカーと、ロックシードの図面か……?」
シフトカーの方は赤を基調としていたが、今までのシフトカーと違い横には白のシグナルバイクらしき物が取り付けられていた。
車というよりはサイドカーの印象を受けた。
そしてもう一方の設計図は、弾たちが使っているエナジーロックシードの図面だった。
「強化措置か……まぁ、この辺りで触れとかないとな」
若干のメタ発言を溢しつつ、チェイスはスコールの肩を揺さぶった。
「母さん、起きて」
「ん………、チェイス?」
若干の艶かしさを感じ、チェイスはドキッとしたが直ぐに我に返った。
「疲れてる所ゴメン…」
「ううん、どうかしたの?」
「……気分転換に、温泉旅行でもどうだ?」
チェイスは旅行券をチラつかせ、スコールに聞いた。
数時間後―――――
「着いたわ」
「おぉ!」
「楽しみ~」
赤い車―――トライドロンに乗ったスコール達ご一行が先に目的地に着いていた。
遅れて、ライドチェイサーに乗ったチェイスが到着した。
「…熱気が凄いな」
4人がやってきたのは日本でも有数の温泉街だ。
様々な効能の温泉や何故かプールまで完備しているという一種の娯楽施設のような場所だった。
「さぁ、行こうぜ!」
オータムの元気な声につられ、チェイス達は宿泊施設に向かった。
「おぉ~、いい部屋だな!」
「景色が素敵ね」
部屋割りとしては、スコールとチェイス、オータムとナターシャという二組に分かれた。
「素敵ね、チェイス」
「あ、あぁ………」
嬉しそうに微笑むスコールを直視できずにチェイスは明後日の方向を見ながら返した。
『な、何故こんなに落ち着かんのだ……?!』
と言うより、この部屋割りになったときから、チェイスは全く落ち着けなかった。
チェイスにはそれが何だかまるで分からなかった。
だが、それは嫌と言うよりは嬉しいと言う感情だと言う事はチェイスは理解した、いやしてしまった。
『相手は……母親だぞ!それに………俺には、釣り合わん!』
親に向けてはいけない感情を抱いた自分を激しく自己嫌悪しながらチェイスは温泉に向かう準備をした。
「……」
その様子をスコールは何かを言いたげに見つめていた。
あの後スコール達は岩盤浴の為に別れ、チェイスは一人サウナで瞑想していた。
その中で思うのは、自分に好意を向けてくれる人たちの事。
『オータム、山田教諭、ナターシャ、刀奈、ダリル、フォルテ……』
実を言うと、チェイスは今思い浮かべた人物からの好意に少なからず気づいていた。(箒の好意はチェイスではなく、一夏に向けられてる物なのでスルー)
最初はただの自惚れかと思っていたが、この夏休みで―――IS学園に来る前から彼女達からの行動でそれが確信に変わった。
彼女達は、本気で自分を好いているのだと。
だがチェイスは、
『………俺は、誰かに愛される資格なんてない。だのに何故!』
その中でもチェイスは養母のスコールに抱いてはいけない感情を抱いていた。
最初は母として好きだった。
だが、触れ合っていく内に―――スコールを一人の人として、女として好いてしまった。
『俺は………どうすれば』
ブツブツと頭で呟くうちに、チェイスは―――――
「………ここは」
「起きた?チェイス」
チェイスが目を覚ますと、目の前に広がるのは心配そうなスコールの顔。
「母さん……何故?」
「覚えてねぇか?」
起き上がると、オータムがスポーツドリンクを差し出してきた。
それを見ると、チェイスは無性に喉が渇いてき、受け取って勢い良く飲んだ。
「でも驚いたわよ?チェイス、サウナで倒れてたから」
「?!」
ナターシャの発言でチェイスは目を見開いた。
じゃあ自分は………
「ま、逆上せてただけだったから良かったけどよ。冷や冷やしたぜ」
「すまん…………」
申し訳なくなり、チェイスは頭を下げた。
「気にすんなよ。後……」
「服はちゃんと着させてもらったから…」
「逞しかったわ……チェイス」
「ブッ!?」
気まずげに目を逸らす3人を見て察したチェイスはスポーツドリンクを吹き出した。
気管に入ったらしくチェイスは咳き込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ!」
「だ、大丈夫!?」
「あ、あまり……」
自分のソレを見られたショックが意外にデカイチェイスは少し凹んでしまった。
「……そう言えば、今の時刻は?」
「もう夜だぜ?お前、相当気絶してたからなぁ」
「な…」
まさかと思い窓を見ると、すでに外は暗かった。
「まぁ、料理は一応取ってもらってるけどね」
「そうか…感謝する」
この後、料理を運んでもらい、チェイスは遅めの夕食をとった。
夕食を食べ終わったチェイスは、部屋に備え付けられた風呂に浸かっていた。
何だかんだ言って、逆上せて気絶していたチェイスは温泉に浸かっていなかったので、仕方なく今日は部屋の温泉に入っていた。
「隣、良いかしら?」
「っ!?」
気を抜いていた所に行き成り背後からスコールの声がした為、チェイスの肩はビクッと跳ねた。
その様は、何時もの落ち着いている彼からは想像できない様な程だった。
「か、母さん…!?」
スコールはちゃんとバスタオルを纏っていたが、そのボディラインが逆に強調されており、今のチェイスには目の毒だった。
「…今日はありがとうね、チェイス」
「え…?」
「旅行に誘ってくれて」
「け、計画したのはオータムだ。俺は……何もしてないよ」
「………ねえチェイス」
「な、何だ?」
「今日の貴方、ちょっと様子が変よ」
「!」
チェイス自身、一番自覚している事を言われ、ドキッとした。
「何時ものクールさがないと言うか………何かあったの?」
「……絶対に、変だと思う」
「思わないわ。それに、聞いてみないと分からないし………さ、話して御覧なさい」
「………」
敵わないな、と内心思いつつ、チェイスは己の感情をポツリポツリと呟いていった。
「俺、IS学園に行ってから、いや、それ以前から……オータム達が俺に向ける感情が何なのか、何となく分かってた…」
「……」
「…最初はただの自惚れだと思った。だけど、彼女たちの行動を見て、俺はソレが本物の感情だと分かった」
「だけど、俺は………その全員の思いに答えられなかった」
「どうして?」
「俺には、別に好きな…愛してる人がいるから………でも、最低だよ、俺って」
「よりにもよって、自分の母親にそんな感情を抱いてたんだ……ッ!」
「!」
その事実にスコールは少し驚くが、チェイスはそれに構う事無く語り続けた。
「侮蔑してくれても良い……否定してもらっても良い…こんな血に塗れた俺が、自分の母親を、母さんを、異性として愛するなんて……馬鹿、だよな?」
もうチェイスは誰にでも良いから、この思いを否定してもらいたかった。
血に汚れた自分が、今更誰かを愛すことなんて出来ないと、言って欲しかった。
「聞いてくれて、ありがとう………ホンッと、最低だよ…俺は」
「……チェイス」
「?…………?!」
スコールに呼ばれて見ると、チェイスは抱きすくめられ、キスされていた。
「…………!」
「…ふぅ」
一分近いキスを終え、スコールは、静かに微笑んだ。
「気持ち悪いなんて………思ったりしない。私も…同じだったから」
「……!?」
「チェイス、愛してるわ。息子としても……一人の男としても」
チェイスは何を言われたか理解できなかった。
母さんが、俺を…………?
「親子といっても、私達は本当の…親子じゃないけど、だからこそ、愛し合える」
「…」
「こんな事、気休めにしかならないけど……少なくとも、私は自分に嘘を付きたくないわ。それは、貴方も同じ事でしょ?」
「だけど、俺は……」
血に汚れてる、そう言い掛けたチェイスの口を塞ぐ様にスコールはチェイスの唇を奪った。
「…最初に言った言葉、覚えてる?」
「…?」
「私が、貴方の居場所になる……例え、記憶を取り戻しても、貴方の手がどんなに汚れてても、私は貴方を愛し続ける………」
「!」
この時、チェイスは久方振りに涙を流した。
悲しさでない、嬉しさで。
「母、さん……!」
「……もう一度、聞かせてくれる?」
「…………分かった」
風呂から上がった二人は、布団の上で正座をし、改めて自身の思いを伝える。
「俺は、貴女を……スコール・ミューゼルを、愛しています」
「私も、貴方を、チェイス・ミューゼルを、愛してます」
思いを伝え合った二人は、どちらからでもなく、唇を合わせた。
さっきとは違う心地よさに酔いしれるチェイスだったが、スコールはそんなチェイスを押し倒し、自身の舌を突き入れてチェイスのソレと絡めあった。
「んっ……母、さん」
「今は、母として見ないで……」
目を潤ませ、スコールは自身の浴衣に手をかけた。
「…スコール」
スコールの気持ちを察したチェイスは母の名で呼んだ。
そのまま、両手で彼女の頬を包んだ。
「チェイス…!」
「スコール」
明かりの元、二人は一つとなった。
今回は予告なしです