艦隊これくしょん The Bridge 君でないとだめなんだ   作:Piyodori

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カメヤマ提督の勘

 ブーメラン島沖、西南西に五十浬の洋上。もうすぐ夕暮れも近くなってきた頃。第八艦隊旗艦である潜水母艦の大鯨は事前の暗号電信どおりに、伊168とのランデブーを果たした。

 

「司令官、まだー?」

 

 潜水母艦から延びた重油補給用のホースを自分の錆の浮いた船体につなぐと、スクール水着にセーラ服を羽織った艦娘、伊168ことイムヤは、潜水艦の甲板から潜水母艦大鯨の甲板を見上げた。

 

「急ぐぞ、イムヤ! 調子はどうだ?」

 

白ふんどし一丁で大鯨の上甲板に現れた第八艦隊司令のカメヤマ提督は大慌てで白い防暑衣と半ズボンに袖を通し、大鯨の甲板から旅行鞄を潜水艦の甲板へ投げ落とすと、潜水母艦の舷側におろされた縄ばしごを伝って自分も潜水艦の甲板へ飛び移った。

 

「重油満タン、蓄電池も最高電圧。魚雷も満載、機関も絶好調!」

 

大鯨から給油と補給を受けたばかりのイムヤは胸を張って言った。

 

「提督、お弁当と食料をお忘れですよ」

 

クジラのロゴプリントのついたエプロンを着た少女、艦娘の大鯨が提督を追って甲板へ顔を出し、ランチョンマットにつつまれたお弁当二つと生野菜や缶詰と入ったザルを紐で釣っておろしてきた。

 忘れ物を受け取った提督はやっとまともに服を着て、トレードマークの黒い色眼鏡をかけた。

 

「司令官、また慌ててお風呂?」

「ああ、しばらく風呂なし生活になりそうだからな」

 

提督は甲板にぽっかり開いた昇降口へ旅行鞄を放り込むと、もらった食料を抱えて潜水母艦上の大鯨を見上げた。

 

「知ってのとおり、連合艦隊の第一、第二戦隊は先ほど壊滅した。今頃、生き残りがタロタロ島へ全力で撤退中だ」

「やっぱりですか。提督の予感、当たってほしくなかったのに……」

「そうだな……。とにかく、俺にはイムヤとやることがある。大鯨は全速

力でこの海域から離脱しろ。絶対にタロタロ島へは戻るな。近くのタロタロやシューズベラではなく、まっすぐ西のロングランド諸島まで避退しろ。ハチやゴーヤ達も順次、そっちへ戻るように伝えてある。道中、敵潜にだけは注意しろよ」

 

提督は大鯨を見上げながら大声で指示した。

 

「了解しました提督。提督もどうかご無事で……」

 

大鯨は甲板から心配そうに言った。

 

「大丈夫だって、大鯨姉さん。このイムヤがついているんだから」

「どうかイムヤちゃんも気をつけて。提督のことよろしくね」

 

 別れの挨拶を交わすと、イムヤとカメヤマ提督は艦内の発令所におりて、すぐに母艦から離艦した。

 

「これより潜航する。前部バラスト、ベント開け。ダウントリム10度。速力5ノット。深度30」

「了解、司令官」

 

イムヤが答えると、潜水艦伊168はゆっくりと夕暮れ前の海面にその船体を消した。

 

「司令官、これから深海棲艦をやっつけに行くんでしょ?」

 

イムヤはプレゼントをもらった子供のように興奮して言った。

 

「ああ、すまないな、イムヤ。今回はかなり危険だぞ」

 

色眼鏡を取った提督は薄暗い発令所の潜望鏡にもたれかかりながら言った。ふだん柔和なカメヤマの顔には厳しく深い皺が寄っている

 

「司令官と一緒なら大丈夫よ。あの……それから、今回の作戦にわたしを選んでくれてありがとうね。絶対敵をやっつけてあげるから」

 

「ああ、そうだな……。今回の標的はおそらくこのあたり」

 

提督は発令所の海図台に地図を開き、 二脚ディバイダーをブーメラン島周辺で何度か回してから、シューズ・ベラ島のずっと南方の一点を指さした。

 

「速力28ノットで北上したとなると敵はこの位置だ。用心してかかれよ。進路西北西250。陽が落ちたら一度浮上しブリッジに逆探のアンテナをあげるぞ」

 

 提督はそうイムヤに命じ、まだ見ぬ敵を求めて暗い海面下をゆっくりと進んでいった。




次回「シューズ・ベラ島」は7/10までに更新の予定です。
イムヤとカメヤマ提督の冒険は本編では詳しく描かないつもりですが、構想だけはあるので、書けたら短編でやってみたいです。

潜水艦隊司令のカメヤマ提督は、別にふんどしを使ってた時代の出身ではないのですが、蒸し暑いところでその機能性に目覚めて愛用者になってしまったという設定。
実際のところ、はいた事はおろか実物を手にした事もないので判りませんが…(苦笑)
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