艦隊これくしょん The Bridge 君でないとだめなんだ 作:Piyodori
避退中、那智と古鷹の上空には敵機の触接は何度かあったが、幸いなことに那智の懸念した深海軍の航空攻撃は一度もなかった。
だが、連合艦隊の退避行はトビウメ提督と那智の予感したとおり、大きな犠牲をはらうことになった。
トビウメ提督と那智がそれを知ることになったのは長距離無線用の空中線の応急修理が終わった直後だった。間に合わせに空中線のケーブルを張り終えて、無線の電源を入れた途端、悲鳴のようにモールスの緊急電が混信もお構いなしにスピーカーから聞こえてきた。
トビウメ提督の心配したとおり、一番先へタロタロ島へと逃げ帰った残存艦を待っていたのは半月湾近海に潜んでいた敵潜水艦隊だった。
それまでなんとか無傷でいた戦艦比叡をはじめ十数隻が軒並み雷撃を受け、その半数が半月湾を目前に沈むことになった。比叡や金剛などの主力艦は被害を受けつつなんとか湾内の浅瀬に滑り込んで擱挫。慌てふためいた後続の艦は進路変更して手前のシューズ・ベラ島の警備府へと逃げ込んだ。
シューズ・ベラ島は珊瑚礁の島で、そこの警備府は小さな入り江の奥に置かれており、軍港はタロタロ泊地とくらべても小規模なものだった。
ドックは大型艦用のものが一つあるだけで、先に被雷した空母翔鶴が応急修理中で、狭い湾内にはほぼ水没しかかった駆逐艦や二十度以上傾斜し今にも転覆しそうな軽巡など、ボロボロの僚艦が二十隻以上ひしめいていた。桟橋にはなんとか鎮火に成功した重巡摩耶が、三本の煙突が全て傾いてしまった多摩と並んで係留されていた。
空中線の仮復旧によりタロタロ島沖合からの悲鳴を傍受した那智と加古は最初からシューズ・ベラへと進路をとり、本隊に遅れることおよそ十時間。満身創痍の船体を引きずってシューズ・ベラ島の軍港にたどり着いたのだが、港内は第一、第二戦隊の残存艦で停泊する場所すらない状況だった。
「あーあ、これじゃあヤムヤム島まで戻った方がいいくらいだな」
入り江のすみに錨をおろすと、すぐに内火艇が一艘近づいてきた。
内火艇が那智に接舷し、操舵室から長良が顔を見せた。
「お疲れ様! みんな無事でよかった!」
初風を連れて先に後退した軽巡長良は酷く損傷していたように見えたので、提督や那智はとても心配していたのだが、艦娘のほうの長良はほっぺと腕や膝に絆創膏とテーピングが巻いてあるだけで意外に元気そうだった。
「長良ちゃん、ありがとう。みんなのおかげで、大勢助かったよ! ところで、初風の具合は?」
「重傷だけど、心配しなくて大丈夫。ただ、艦の方はボロボロだからちゃんとドックで修理しないといけないんだけど……」
港内を一瞥しただけで、ここでの修理はとても望めないことはわかっていた。提督は遠くに停泊している軽巡の長良を見た。シンボルの三本煙突はことごとく倒壊し、艦中央部から艦尾にかけては真っ黒焦げに焼けている。あの状態で初風を引っ張ってきたのはすごいことだ。
提督は那智と一緒に内火艇に乗り移ると長良の手をとった。
「ありがとう長良ちゃん。とにかく今は一度、上陸して休もう。ね?」
「そうだ、長良よくやったな……。感謝するぞ」
那智も長良の頬を優しくなでた。長良はかすかに笑みを見せたが、その顔はみるみるゆがみ、ついに那智の胸元へ顔を押し付けた。
「初風を曳航して煙幕を抜けるとき、周りの駆逐艦が何隻も、助けて、置いていかないでって……。わたしには、初風しか連れてこられなかった……」
長良は那智に抱きついたままそう嗚咽した。
「わかっている、ああ、わかっているとも……」
那智は長良を強く抱きしめながらそうささやいた。提督はズタボロになったアドミラルキャップを目深にかぶり直し、ただ二人の様子を見ているしかなかった。
「とにかく今は休むんだ。心配しなくていい。不知火も無事だ。さっきまで水偵で見ていたんだからな」
しばらく那智に抱きついていた長良はゆっくりと体を離すと、涙をぬぐって無言でうなずいた。
トビウメ提督は内火艇の操舵輪をつかみ、少し離れたところに錨をおろした重巡加古へと舳先を向ける。那智ほどではないが、加古もひどくダメージを受けていて、舷梯は爆風でゆがんで使えなかった。
「おーい、加古。迎えにきたぞー」
応急で垂らされている縄ばしごを掴んで提督と那智はなんとか加古の艦上へと這い上がり、瓦礫だらけの甲板を乗り越えて艦橋へ上ると、そこには天井のパイプとパイプに器用にハンモックを吊っていびきをかいている加古の姿があった。
「おい加古。起きろ!」
呆れて揺り起こそうとする那智を提督が止めた。顔やセーラー服は煤で真っ黒けだが、大きな怪我もないようで、トビウメ提督は少し安心して笑みを見せた。
「寝かせておいてあげよう」
「わたしなど比べものにならないくらい図太い奴だ」
那智が少し笑みを見せた。
熱帯のシューズ・ベラ島も日が陰れば急に涼しくなる。この羅針艦橋も風防は全て失われ涼しい風が通り抜けている状態だった。
「なにか、かけてあげないと」
提督は瓦礫だらけの艦橋内をあちこちあさって、防水カンバス布の切れ端を見つけだし、ハンモックの加古にそっとかぶせてやった。
――今日はありがとう。頑張ってくれたお陰で長良ちゃんたちも僕達も生きて帰ってこられたよ
提督と那智はそっと艦橋をあとにして長良の待つ内火艇へと戻っていった。
上陸し長良を宿舎へ送り届けてから、那智と提督はお互いの包帯を替えてから基地の食堂で配られていた麦茶とサンドウィッチを受け取り、そのまま港の突端まで戻ってきた。
那智は破断した空中線を本格的に修理するため内火艇で艦へ戻ったので、提督は一人、コンクリートの防波堤に腰を下ろし、夕暮れの水平線に目を凝らす。
岬の向こうから艦影が見えるや、提督ははっとして立ち上がるが、それは近海の哨戒任務からもどってきた警備府所属の駆逐艦や海防艦だったということが数回続いた。
もう水平線に日が沈み、空が群青色になったころ、内火艇に乗って那智が戻ってきた。
「貴様、そろそろ休んだ方がいいぞ。眠れずとも、体を横たえるだけでもいい。休息も戦いだぞ」
内火艇から堤防へ飛び移ると、那智が心配そうに言った。
「そういう自分はどうなのさ?」
提督がそうやり返すと、那智は言葉を詰まらせながら、提督と艦娘は違うからな、とすっとぼけてみせた。
二人は並んで腰を下ろすとサンドウィッチの包みをほどき、口へ運び始める。いざ食べ始めると、二人は無言になり、最初は上品に少しずつかじっていたが、しだいにすごい勢いでガツガツと口へ押し込みはじめた。サンドウィッチを胃袋へ片づけ、ヤカンの麦茶を飲み干した二人は一息ついてようやく口をききはじめた。
「ツナサンドもなかなかいけるな……」
戦闘直前におにぎり食べてからその後丸一日、わずかばかりの乾麺包(乾パンのこと)以外ろくに口にしていなかったのだ。
日の名残でわずかに明るさを帯びていた空も黒くなり、空には星が光だした。
「明日もやならければならないことがある。いい加減休まないと……」
那智がそう言いかけたとき、洋上に黒い影が二つ、ゆっくりと島へ近づいてくる。島の灯台を認めたのか、その影は小さな信号灯に灯を入れ、港の方へとやってきた。
「ねぇ、あれ。もしかして……」
提督は双眼鏡をのぞき込む。丸い視野の中には、マストも倒れ、砲塔もひしゃげたボロボロの駆逐艦が黒い煙をはきながらゆっくりと軍港へやってくるのが見えた。その後方には駆逐艦に曳航されて、艦中央部が激しく壊れた別の小型艦がついてくる。
「間違いない、あれは不知火だ!」
那智と提督は内火艇に飛び乗ると艇のライトをつけて駆逐艦不知火へと急ぐ。
ライトで照らしながら近づくと不知火は艦体も艦橋構造物も穴だらけで、機関室の辺りからは黒い煙をはきながらも曳航索をしっかり延ばして別の駆逐艦を曳きながら時速6ノットで港へ入ってきた。
「よかったぁ……。本当によかったぁ……」
駆逐艦不知火は停泊中の那智や加古の後方に錨をおろした。すぐに提督達の内火艇が横付けされると艦娘の不知火は廃墟同然の艦橋から後甲板へ降りてきた。いつもきっちりと着こなしている制服はズタボロで白いブラウスは至るところ血で染まっている。
係船索に内火艇を結びつけると、提督と那智は甲板へよじ登った。二人を前に不知火はいつもどおり、きりっとした敬礼をきめて直立不動の姿勢をとった。
「ぬいぬい……」
「今回の命令違反を含む全ての落ち度はこの不知火にあります。どのような懲罰も受ける覚悟はできています」
提督が声をかけようとすると、不知火は一点を凝視したまま開口一番にそう言った。
「ただ、後ろの早霜は機関室の浸水が止まらず、危険な状態です。一刻も早い保護を要請します」
「わかった、すぐタグボートを呼んでこよう。ところで不知火……。前世の業は少し軽くなったか?」
やさしくそう問いかける那智に不知火は深くうなずいて見せた。
「不知火は満足です」
「そうか、よかったな」
那智は微笑を浮かべて内火艇に戻ろうとする。
「私からも頼む。あまり怒ってくれるなよ……。ゲンコツ一発くらいで許してやれ」
「そんなことしないよ……」
縄ばしごを下りる間際、那智は小声で提督に言うので、トビウメ提督は困った顔でため息をついた。
内火艇が駆逐艦不知火から離れてゆくと、左舷の甲板に残された二人の間には気まずい沈黙が訪れた。
居心地の悪さを何とかしようと、提督は静かに言った。
「どれだけ心配したと思っているんだ……。まったく勝手なことばかりして……」
一応これから説教をしなければいけない立場のため、安堵やあからさまな喜びを押し殺して提督は言った。低く声で静かに言ったため、ガラにもなく少々ドスの利いた声になってしまった。そのうえ、すっかり夜になってしまったので、二人にはお互いの顔すらよく見えない。不知火には提督がとても怒っているように感じられたであろう。
「弁明の余地はありません。ただ……ただ、司令と那智さんがご無事だったので、不知火はとても安堵いたしました」
いつもは凶手のオーラをまとっている不知火だが、今日に限ってはなんともしおらしい。
――さてどうしよう?
そう考えていて、ふと提督の脳裏にいたずら心が浮かんだ。戦闘海域から撤退中に那智と話したあのことを思い出したのだ。
トビウメ提督はわざとらしい咳払いをして言った。
「本当は真っ先に労をねぎらってあげるべきなんだけど、今回ばかりはそうもいかない。ちょっと罰を受けてもらう」
「当然です」
――罰ゲームということにすれば怒ったりしないよね? よね?
提督は内心にやにやしながら不知火を手招きした。
「こっちへきて、頭を出せ。一回で済むから」
不知火はそばへやってくると会釈するように頭をさしだした。どうやら本気で鉄拳制裁を受けると思っているようだ。
――どうしよう? セクハラだとか言ってマジギレしちゃったら絶対殺されるよ……
事ここにいたってトビウメ提督は躊躇したが、今一度、そばで誰も見ていないことを確認してから手袋をとった。鉄拳制裁の準備は万端とばかりに握りこぶしを作ってフーフー息を吹きかける。そして、こちらへ向かってうつむいている不知火の頭頂部へそっと右掌を乗せそのままゆっくりと三回なでた。
「今回は本当にありがとう。敵戦艦を追い払った上に殿で煙幕を張ってくれたぬいぬいのお陰で僕や那智さん、加古も無事に帰って来られたよ。ただ、その後戦闘海域に引き返したって聞いて、みんな死ぬほど心配してたんだぞ……。こ、こんな事は二度とごめんだからね!」
最初不知火がビクっと反応したので、一瞬提督も肝を冷やしたが不知火は黙ったまま、されるがままに頭を垂れていた。いつも無造作に結っているだけの髪だが、思っていたよりもずっと不知火の髪は柔らかくてしっとりとしていた。
――罰ゲームはこれで十分だろう
提督は不知火の頭からそっと手を離して言った。
「懲罰は以上。とにかく無事でよかった……。まず薬箱を探そう。今更だけど、その傷、応急手当しないと。ひどい怪我じゃないか」
そう言うなり慌てて艦内へ行こうとする提督の制服の裾を不知火がぎゅっと掴んだ。
――うわ! もうおしまいだ! やっぱり怒ってるよ……
顔から血の気が引いてゆく提督の顔を不知火は真っ正面から見据えた。
「これだけは覚えておいてください、司令。この不知火は……不知火は司令や那智さん達のためならば、いつ何時でも沈む覚悟ができています」
不知火はそう言い終えると、呆気にとられる提督の裾から手を離して艦尾の方へすたすたと歩いていってしまった。
「く、薬箱どこにあるの?」
「この程度で不知火は沈みません」
見れば、那智の呼んだタグボートがこちらへ向かってやってくるところだった。
不知火はタグボートに乗った軍港の作業員達に収容され担架に乗せられた。駆逐艦不知火にも曳航索が結びつけられ、安全な桟橋に係留すべくタグボートに曳かれてゆく。後ろを見れば、不知火が命がけで救い出した夕雲型の駆逐艦にもタグボートと内火艇が接舷し、救助作業がはじまっているようだ。
不知火と一緒にタグボートで港にあがると、あとはお願いしますと提督は作業員に不知火の手当を託し、那智が内火艇が戻ってくるのを待つことにした。
「提督さんや。お宅さん、間宮の羊羹でももっとたのがね?」
何を思ったのか、不知火の救助に当たっていた作業員の一人が、担架で運ばれてゆく不知火を見送りながらトビウメ提督にたずねた。
「いいや……。うちの艦隊は残念ながら間宮さんとはしばらく会えてないんですよ。本当は会わせてあげたいんですけど……」
提督がいぶかしげな顔でそう答えると、その作業員は不思議そうな顔で首をかしげた。
「はで、なんでだろうな? あんの子、こんな負げ戦にもががわらずキラキラしでだんだげんど……」
そう言って作業員は歩き去る。ただ、その男はひどいダミ声だったので、はたして不知火が気分が高揚して「キラキラ」していたのか復讐に燃えて「ギラギラ」していたのか、提督には解りかねた。
すぐにもう一艘の内火艇が近くの岸壁に接岸し、夕雲型の艦娘を担架に載せた作業員達が下りてきた。
――確か、早霜とかいったっけ?
長い黒髪で青白い顔の半分隠れているが、髪の隙間から見える左目はじっとトビウメ提督を凝視している。
「ごめんなさい、那智さん……。私のために偵察機を犠牲にさせてしまって……。でも、あの時と変わらず……とても素敵な水偵でした……」
担架に横たわったまま、その艦娘はなんともおどろおどろしいゆっくりした発声で言った。
那智に搭載してあった三機の偵察機のうち、一機は敵艦隊に撃墜され、もう一機は那智が被弾した際に飛行甲板上で破壊されてしまった。残りの一機は撤退用の航路を監視するため、ずっと上空におり、最後は燃料が尽きるまでこの駆逐艦早霜とそれを曳航する不知火を上空から見守り続けたのだった。前世と違い、無人の偵察機が未帰還となっても人命が失われることはないが、なかば念力や残留思念みたいな力で航空機を操っている艦娘にとって、自身の搭載機を失うことはそれなりに精神的な負担となるのだ。
「そんなこと、気にしなくていい。クレーンも駐機場もやられてどのみち回収はできなかったからな」
那智は気丈にそう笑って早霜の頭を軽くさすった。
――どうやら二人は昔なじみみたいだな
提督は黙って二人の会話を聞いていたが、どうにも居心地が悪くて仕方がない。というのも、この早霜という艦娘はさっきから那智と話している間もずっと前髪の間からのぞく左目でじっとトビウメ提督ばかりみつめていた。薄気味悪い話し方と周囲が真っ暗なことも手伝って、提督は四谷怪談のお岩さんを思い出した。
――まさしく軍艦の亡霊みたいな艦娘だな……
「提督……。早霜は見ていましたよ……」
不意に早霜が提督へ話しかけたので、トビウメ提督はぎょっとして早霜を見返した。
「な、なにを……」
「フフフ……。不知火さん、それはそれは嬉しそうでしたね……。早霜は全部見ていたんですよ、フフ、フフフフ」
早霜はそう不気味に笑う。
いろんな意味で提督が青ざめていると、ちょうど黄土色の車体に赤十字のペイントをしたくろがね四起(九五式小型乗用車のこと。旧日本陸軍版ジープのようなもの)が提督達の前に止まった。
「ゆっくり休むんだぞ」
「はい、このご恩は必ず……」
那智に見送られ、早霜を乗せた救急車は走り去る。
「な、なんとも個性的な艦だね……」
「そうだな。でも、ああ見えてとても人懐こい船だぞ、早霜は」
「へぇ……」
とてもそうは見えないと思いつつ、提督は生返事した。
「ところで貴様、不知火に何かしてやったのか?」
「いや、懲罰のかわりに罰ゲームを一つ。それも別にひどいことじゃないよ。ほら帰り道話したあれ」
提督は首を振りながら、なでなでするような身振りをして見せた。それを見た那智はアハハと笑いだした。
「貴様やったのか。そうかそうか……」
「まぁ懲罰と言う理由でやったからそんな怒ってなかったみたいだけど、もしあれを見られてたって、ぬいぬいが知ったら僕はどうなるんだろう?」
「まぁ、せいぜい覚悟を決めておくんだな……。ん、どうした? 貴様、もどらないのか?」
急に足を止めた提督を那智は不思議そうに見る。
「いや、いいんだ。ちょっとだけ風に当たってからもどるよ」
「そうか。明日からまた忙しくなる。今日くらいは早めに休めよ」
那智はそう笑顔を残して歩いていった。
提督は足を止めたまま那智の後ろ姿をみつめた。とりあえず自分達の仲間は大きく損傷しつつもなんとか戻ってくることができた。
トビウメ提督はつい今までそのことを素直に喜んでいたのだが、ふと那智がこれまで、壊滅したという第三戦隊のことに一度も言及しなかったことに気づいたのだ。
――足柄さんのこと、一言も聞かなかったな……
当然、トビウメ提督達は上陸後すぐに基地の通信所へも立ち寄ったのだが、第三戦隊の詳細な安否は届いていないとのことだった。
気丈に振る舞う那智の心情を想像し、見ていられなくなったというのが提督の正直な気持ちだった。
提督はカメラと双眼鏡を抱えたままヤシの幹を背に腰をおろした。フリスビー沖からの撤退間際、沈みゆく駆逐艦から直立不動の敬礼を送ってきた艦娘の姿がまたも脳裏に蘇った。
――『姉さんや提督には負けないから。第三戦隊の戦果を期待しててね』っか……
第三戦隊抜錨間際、桟橋で別れ際に見せた足柄の喜び勇んだ笑顔が思い出された。
――無事に戻っていてくれよ……。お姉さんのためにも
提督は愛用のカメラを握りしめながら、足柄の帰還を祈っていた。
すみません、前回7/12に更新と打ったつもりが、7/10更新とか間違って書いてしまいました。昨日中に原稿あげればよかったんですが、予想外に帰宅が夜中近かったので。
お気に入りしてくれている方々、すみませんでした。
全艦無事に戻ってくるなんてご都合主義もいいとこですが、とりあえず、物語としては第一部完となります。
原稿のストックが少なくなってきたので、次の更新までには少しお時間をいただくことになりそうです。
以下余談ですが、前に、第一部までできた原稿を友人の一人に読んでもらった際、その友人の放った一言が衝撃でした。
「不知火『なんか』のどこがいいの?」
長く付き合っていても人間には決して判りあえないものがあると痛感した瞬間でした(笑)