艦隊これくしょん The Bridge 君でないとだめなんだ   作:Piyodori

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行くも、留まるも

 翌朝、シューズ・ベラ島での損傷艦修理は期待できないので、自力航行可能な艦から後方のタロタロ泊地へ順次撤退し、修理せよとの電文が軍令部より届いた。

 トビウメ提督の艦隊も、上部構造がほぼ木っ端微塵になってしまった初風以外はなんとか航行できそうではあったが、だからといって道中無事に退避できるとは限らない。

 

『オハナシハ キイテイルワ トテモオミヤゲドコロジャ ナサソーネ アラシオ コレヨリ ユウガニバツビョーヨ』

 

 ヤムヤム島泊地に残してきた荒潮に応援要請の無電を打つと、間を置かずにそんな返電が返ってきた。

 

「無電打ってから30分も経ってないのに返事が来たよ……。準備もあるだろうに大丈夫かな?」

 

 普通、準備していなければ外洋航海に出るまで二、三時間は掛かるものだ。もし蒸気機関の火を落としていれば丸一日かかることもある。電文を読みながら少し心配になった提督が言うので、長良が伸脚と屈伸運動をしながら笑った。

 

「荒潮ちゃん、きっと一人で寂しかったんじゃない?」

「いつも、わたし潜水艦好きよ~なんて言うから対潜警備に置いてきたのになぁ……」

 

そう言って呆れる提督だったが、驚いたことに機関全速時速三十五ノットで飛んできたのか、昼過ぎに返信を寄越した駆逐艦荒潮はその日の夜にはシューズ・ベラの港へ姿を見せた。

 

「さすがに疲れたわねー。それにしても、みんな酷い格好ね~」

 

入院中の初風以外の艦隊の仲間があわてて出迎えると、艦娘の荒潮は驚いた様子で包帯だらけの面々を眺めた。

 

「でも、司令官も五体満足みたいだし、みんなちゃんと浮かんでてよかったわ」

 

荒潮は、いつもののんびりした口調こそ変わらなかったが、あとで那智によれば、駆逐艦荒潮の主機は全速で回されつづけ、焼け付く寸前だったらしい。

 

「ああ見えて、内心でが私達心配していたんだろう……」

 

後刻、二人きりになったとき時に那智は提督にそう告げるのだった。

 

 

 

 翌朝から、トビウメ提督は他の提督達と、今後どうするべきかの協議に入り、動ける艦娘達は艦の応急修理にとりかかった。

 午後、熱気のこもる駆逐艦荒潮の艦内食堂に集まった艦娘たちに提督は協議の結果を伝えた。

 

「動ける艦を束ねてまずタロタロ島へ。その後さらに後方へ移動することに決まったよ」

「ここじゃ修理もできないし、それしかないだろうな。しかし……無事にたどり着けるか?」

「撤退時も、タロタロ島の沖合でかなりの被害が出たようですね。危険ではありませんか?」

 

那智と不知火が次々に懸念を口にした。

 

「初風ちゃんは、今のまま外洋に出るのは危ないわ」

 

長良の言葉に提督もうなずいた。

 

「わかってる……。初風には修理と回復が済むまでここで待機してもらう」

「……やむをえないな」

 

那智は腕を組んで静かに言った。

 

「長良ちゃん、申し訳ないけど、初風の介助の為にもここに残ってもらえるかな? 軽巡長良の損傷も軽くないし、いざというときのために初風を守ってあげてほしい」

 

長良は一瞬、酷く落胆した表情を見せたが、すぐにいつもの表情にもどって強くうなずいた。

 

「うん、大丈夫。いつでも復帰できるようにトレーニングしておくね。だから次の作戦にも必ず連れていってよね」

 

艦娘であっても前線近くに残されるというのは心細いものだ。我慢して元気そうに言う姿に提督は、心中で何度も謝った。

 

 

 長良と対照的に、手を焼かされたのは初風のほうだった……。提督と那智は同じ陽炎型の姉妹艦である不知火を伴って入院中の初風を見舞い、長良と一緒にシューズ・ベラ島に残るよう伝えると、ベッドに寝ていた初風は布団を頭まで被ってしまった。

 

「手負いの艦にもう用はないってことね! いいわ。放棄するなり、資材にするなり好きにすればいいじゃない!」

「なんで……。そんなつもりはないよ……」

 

面食らった提督はあわててフォローするが、初風は動かない。

 

「わがままを言わないでください。損傷艦を洋上で援護することが仲間にどれだけの負担をかけるのか初風も分かっていることと思います。おとなしくここで擱座していてください」

 

――か、擱座なんて、ちょっとそんな言い方したら……

 

「ええ、そうよ。私はもう用済みだわ。勝手にすればいいじゃない!」

 

人選ミスだった。不知火はいつも礼儀正しいし、とても頼りになる艦娘だが、どうにもデリカシーとか配慮とかいう気持ちが今一つ残念だった。とうとう布団の中から鼻をすする音が聞こえてきた。

 

「応急修理の申請はしてあるし、必ず迎えにも来よう。だから、あまりわがまま言ってくれるな」

 

那智も困った様子で諭す。

 

 三人が顔を見合わせていると、病室前の廊下から荒潮が顔を覗かせた。

 

「あらあら、なんか大変なことになっているわねー」

 

――一番この場に合わない子が来たな……

 

提督にからみて、いっつもキャンキャンと噛みついてくる初風と、なんとも飄々として人を小馬鹿にしたような雰囲気の荒潮の相性はきっと悪いに違いないという思いがあったからだ。狭いヤムヤム島でも二人だけで一緒にいることはあまりないように思えた。

 

「初風ちゃんは元気かしらー?」

 

荒潮の能天気な声が癪に障ったのか布団がかすかに動いた。

 

「あら、いないわねぇ? まさか、首から上が吹き飛んじゃったのかしら?」

 

我慢できなくなったのか、ふくれ面の初風が掛け布団を跳ね上げて起きあがった。

 

「そんな訳ないでしょ! あんたこそ、留守番はどうしたのよ! こんなところ来てる暇あったら、さっさと対潜哨戒に戻りなさいよ!」

「あら、元気そうね? でも、初風ちゃんも無事出よかったわー」

 

荒潮はそのまま病床の初風に軽く抱きつく。

 

「痛い痛い、ちょっとやめなさいよ!」

「あらあらごめんなさい~。でも~」

 

荒潮は初風から離れるとトビウメ提督の横に寄り添うように立った。

 

「司令官はきっとワガママ言うフネはきらいよねー」

 

小さい子がすがりついてきたので提督が無意識に荒潮の頭をなでたのが良かったのか、いけなかったのか……。那智だけが、眉をしかめて小さく舌打ちした不知火に気がついた。

 一方、初風は真っ赤になってベッドの上に起きあがり、包帯や絆創膏だらけの手で荒潮を挑戦的に指さす。

「な、何言ってんの? あ、あんた覚えておきなさい! そんなこと言ってると今に敵機にボカンされても知らないわよ。いいわ、結構じゃない! 待機でも留守番でもしてやろうじゃない! ただし、みんなですぐに迎えにこなかったらその時は覚えてなさいよ!」

初風はそうまくしたてて、顔を背けると乱暴に寝転がった。

 

「あ、ありがとう初風。絶対約束するよ。うん、大丈夫」

「ああ、お前を忘れたりなんかしないから、怪我だけでも早く治しておくんだぞ」

 

提督と那智がなんとかなだめ、一同は一安心とばかりに病院から出てきた。

 

「知らなかったけど、あの二人、仲良さそうじゃないか?」

「良いと言うのか、悪いというのか……」

 

那智は苦笑いを浮かべる。

 

「司令、不知火は出航の準備にとりかかりますので、これにて失礼いたします」

 

不知火は仏頂面でつっけんどんに言うと、きびすを返して港のほうへ歩いて行ってしまった。

 

「あらあら、ぬいぬいもご機嫌ななめね~」

「え? 朝は機嫌良さそうだったんだけどな?」

 

不思議そうな顔で見送る提督を前に那智は笑いをこらえて首を振った。

 

「さあて、なんでだろうな……」

 

不知火の不機嫌は理由はともかくも、トビウメ提督には、それが那智が今日初めて見せるまともな笑顔だということは分かっていた。

 

 

 撤退の準備を済ませ、なんとか機関が健在な艦が団子となって、一路タロタロ島への逃避行へと出発したのは翌日の未明だった。見送りのために防波堤から長良が見えなくなるまで手を振っているのを一同は辛い思いで見届けた。

 動ける艦は密な輪形陣を組んでタロタロ島へと進む。海戦後、タロタロ泊地へ最初に戻った部隊が片っ端から潜水艦に食われたこともあり、航海はあえて対潜哨戒に比較的有利な昼間を選び、さらに浅海域やリーフの多い海域へと大きく迂回しつつ進むことになっていた。ただし、昼間の航行は航空攻撃を受ける危険がつきまとい、艦隊は敵機の出現に怯えながらぎりぎりまで艦を寄せあっての航海となった。

 重巡那智や加古も輪形陣の右側に配置され、僅かに残った右舷側の機銃や高角砲を仰角最大にして、敵機の来襲に備えるのだった。

 一方、駆逐艦荒潮などあちこちからかき集められた無傷の駆逐艦らは護衛のため、艦隊の外側をグルグル回りながらひたすらソナーに耳を傾け、少しでもあやしい音や海面の影をとらえるや、コスト度外視で盛大に爆雷を海へ放り込んだ。

 今回ばかりは那智艦上のトビウメ提督も海鳥や景色などを眺めている余裕はなく、水中爆発の衝撃波で海面から盛大に水が吹きあがる様を横目に、海面下から姿を出すかもしれない「茶柱」を探すため、双眼鏡に食いついては波間を見張っていた。

 

「あまり無理するなよ」

 

右舷甲板から双眼鏡を覗いていた提督を気遣い、那智が言った。

 

「双眼鏡の連続使用は目に良くない。適度に休むことだ。それに、この強い日差しの下にいると体力を消耗するぞ」

 

那智は麦茶の入った水筒を提督に手渡した。

 

「うん。でも、ここまできて潜水艦にやられるのはやりきれないよ」

「今日は快晴で視程が長く、海も澄んでる。油断さえしなければ日中はなんとかなる。問題は……」

「空か……」

 

提督は改めて空を見上げた。

 

「雲一つない。隠れる場所はないな……」

 

そんな折り、右舷甲板に立つ二人の遥か前方を、警戒中の駆逐艦荒潮が追い越しゆく。通りすがりに荒潮の艦橋からチカチカと発光信号が瞬いた。

 

「なんだって?」

 

しばらくじっと信号を読みとってから那智は呆れたようにため息をついた。

 

「ゼンポウノカイメンニ、クロイカゲガミエマース。イワシノムレダトオモウケド、イチオウ、バクライヲトーカシマースと言ってる……」

「大丈夫? 無駄遣いし過ぎて肝心な時に爆雷切れなんてことないようにしないと」

「ああ、今注意する」

 

那智がすぐに手持ち式の小型信号灯で荒潮に返事を送ると、了解と信号が返ってきたものの、荒潮はかわいそうなイワシ達の群へ突進していった。しばらくして付近一帯の海面はまるで沸騰しているかのように無数の噴水に覆われることになった。

 




更新間隔があいてしまいごめんなさい。
なんとか第二部原稿のめどが立ったので更新します。

初風と荒潮。以前、艦これクリアカードコレクションを試しに買ってみたら入ってた二人組です。
現実に会ってみたいと思う艦娘は結構いますが、逆に荒潮ちゃんは会いたくない艦娘の筆頭ですね。だって、こんな子に会ったら、なんか自分の人生がいろいろと破滅してしまいそうで……。

次回更新は九月上旬を予定しております。
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