艦隊これくしょん The Bridge 君でないとだめなんだ   作:Piyodori

38 / 53
出来に納得がいかず、2回書き直してやっと最低限まとまりました……。


第二次ブーメラン島沖海戦 3/戦力喪失

「翔鶴さーん! どうかお気をつけてー!」

「任務を完遂して、早く帰ってきて下さーい!」

 時間はやや遡るが、シューズ・ベラ島の軍港の桟橋には島民や作業員、それに病院の入院患者が押しかけ、出港する巨大な正規空母の船出を見送っていた。それも九割がた男だった。連合艦隊の作戦に呼応し、事前にブーメラン島に周辺の深海軍へ大規模な航空攻撃をかけることなっていた。

 病院での看護ボランティアをきっかけに、すっかり島のアイドルに祭り上げられてしまった翔鶴は、仰々しい見送りに困惑しつつも見送りの男どもに笑顔で手を振り返す。

 だが、艦が外洋へ出るブイを超えると、その柔和な表情は一挙に真剣な厳しい眼差しへと変わった。

 すでに甲板上には空撃準備のため艦載機が格納庫からエレベーターで次々に引き上げられ、見えない力でそれぞれ所定の発艦場所へ整列しつつある。

 艦娘の翔鶴は艦橋から飛行甲板へ降りると、和弓を手に取り、甲板の先端近くまで歩いていって風向きを見た。飛行甲板の中心からは風見代わりに蒸気の湯気が白く吹き出ていて、風に流されて短い筋をつくっている。翔鶴はそれをみて僅かに面舵にきって風が艦の真正面から吹くように調整し、艦の速力を三十ノットまで増速させた。頭に固く巻いた鉢巻の緒が風で透き通るような銀髪とともに激しくなびく。

 すでに甲板後部では第一陣の零式艦上戦闘機二一型およそ十五機が整列、その後ろには各機二百五十キロ爆弾一発、六十キロ爆弾四発を懸架した九九式艦上爆撃機二十六機、艦尾近くには五百キロ陸用もしくは対艦用徹甲爆弾、九一式魚雷のいずれかを装備し、最も重く長い滑走距離を要する九七式艦上攻撃機三十機が出撃にため格納庫から引き上げ作業に取り掛かっていた。

 翔鶴は正面から海風を受けながら深く深呼吸した。これまで病院の手伝いをしつつも、急病で後送された瑞鶴とナカツル提督のことが心配で気が気でない日々送ってきたが、今はブーメラン島の仲間の命がかかった重要な任務についているので、しばしそのことは頭からふりはらわなければならない。

「瑞鶴、提督、どうか作戦の成功を祈っていて下さいね……」

翔鶴はそうつぶやくと後部の艦載機を振り返って、戦闘機隊、艦爆隊にエンジン始動を命じた。飛行機のコクピットや機体の周囲は当然無人で誰もいないのだが、見えない念力で一斉にエナーシャハンドルが各機のエンジンカウルの横に差し込まれ、一斉に回り始めた。十分にハンドルが回るとエンジンカウルの横についた引手が勝手に外に引っ張り出され、マグネトーにより点火プラグが一斉に混合気へ火を付け戦闘機の発動機が唸り声をあげはじめる。徐々にプロペラの回転が速度を上げ、全機のエンジンがアイドリング状態となってエンジンカウルの後方へ黒い煙を吐いた。見えない力が主脚のゴムタイヤを止めていた車輪止めをはねとばした。妖精たちは姿こそ見えないが確実に自分達の役割を全うしている。

 翔鶴は戦闘機隊全機が正常なエンジン始動状態になったことを確認してから矢筒から一本、矢を抜き取って弓につがえる。先端に零式艦戦のミニチュア模型があしらってある独特な鏑矢だ。翔鶴は艦首方向を見据え意識を集中させると、弦とともに矢筈を一杯に引き絞ってから矢を放った。鏑矢はラジコン飛行機のように飛行甲板を一気に飛び抜け、迎え風を受けプロペラを回しながら青い海と空の間に消えていく。それを合図に先頭の零式艦戦の一番機がスロットルを全開にして甲板を進み出し、翔鶴のわきを風をきって艦首方向へ進んでいった。間もなく甲板の縁際というところで機体はフワリと宙に浮き、灰色の翼が陽光を反射させながら舞い上がった。すぐに二番機、三番機と続き、戦闘機隊十五機はおよそ十分足らずで全機、艦隊の上空で編隊を組んだ。

 その間に翔鶴が二本目の鏑矢を射ると艦爆隊が飛行甲板を発艦をはじめる。また甲板下の格納庫では魚雷と徹甲爆弾を抱えた艦攻がエレベーターで上がってくる。飛行甲板まで上がってきた機体は所定の位置に整列すると折り畳んでいた主翼を展開し発動機を回し始めた。

 三本目の矢を射ると艦攻隊が順次発艦をはじめ、最初の戦闘機が発艦してから約四十分後にはすべての艦載機が飛行甲板から発艦を終えた。翔鶴航空隊の艦載機はそれぞれの割当てに従って三隊にわかれると、東方のブ島へ向けて飛び立っていった。

 翔鶴は再び、艦の進路を戻すと、飛行甲板の舳先に立って自分の分身ともいえる艦載機の機影を見送った。艦隊の防空のために残った戦闘機は残りわずかだ。そんなとき、輪形陣を組んだ艦隊の外縁部の上空に黄土色と緑の迷彩色の機体に日の丸を描いた複葉機が近づいてきた

「あら、鳳翔さんね」

翔鶴は緊張を解いて手を振った。タロタロ泊地に残っていた鳳翔が偵察のために飛ばした複葉の九六式艦上攻撃機だった。複葉機の無人のコクピットからチカチカと発光信号が瞬いた。

『進路上四十浬、敵機影、敵艦影ナシ。健闘ヲ祈ル』

そう信号を送ると偵察機はバンクしてタロタロ島の方向へ飛び去った。

「鳳翔さん、ありがとうございます」

翔鶴は小さくなっていく機影に手を振り続けた。

 

 

 

 視野の全体でチカチカ光る白い虫が乱舞しているような感覚とともにトビウメ提督はなんとか覚醒した。すぐに猛烈な頭痛と全身に痛みが走り、嗅覚が戻ってくるとともに独特の酸っぱい悪臭が鼻をついた。

――やっぱり、夢じゃなかったんだ……

はかない現実逃避もよそに、トビウメ提督は自分の周りを見回し、状況を把握しようと試みた。

――そうか。山城さんに吹っ飛ばされて気絶してたんだ。こ、こうしちゃいられない!

トビウメ提督なんとか立ち上がり自分が五体満足で大きなケガもしてなさそうなことを確認した。艦娘に手加減なしで突き飛ばされて無事であっただけ幸運だったかもしれない。床に広がった吐瀉物を見てトビウメ提督は自分が情けなくなった。

「や、山城さん……」

猛烈な頭痛をこらえながらトビウメ提督は、戦闘艦橋の隅でひざを抱えて動かない山城に声をかけるが、山城は顔を上げようとすらしない。顔を膝にうめたまま、身じろぎもせず何やらブツブツつぶやいている。

「や、山城さん。僕が悪かったから……お願い、起き上がって」

提督はあまり近寄らないようにしながら山城に声をかけるが、全く動く気配がない。

「……いた。だから、嫌だったのよ……。……様、わたし……もう嫌……」

 ただでさえこんな様子の山城とこれから二人だけで海戦に臨むこと自体が難儀なことだったが、それ以上に絶望的な状況にあることをトビウメ提督はようやく気がついた。艦の揺れが不規則になりつつあった。

 トビウメ提督は艦橋のガラス越しに外の海を見ると、右舷を走る駆逐艦荒潮がこちらを追い越していく。トビウメ提督は慌てて左舷へと走ると。駆逐艦不知火もこちらより速いペースで進んでいく。艦橋の上にいた艦娘の不知火が心配そうにこちらを見上げている。

――ま、まさか……

トビウメ提督は青ざめた顔で艦橋の天井付近に並ぶ計基盤を見上げる。速力計の針がどんどん下がってゆき、まもなく五ノットを下回ろうとしていた。後甲板の方角へ目をやると、さっきまで後部煙突からもうもうと立ち上っていた黒煙がかなり細くなっている。罐の火が落ちたのだ。

「や、や、山城さん、き、機関が止まってるよ! 山城さん!」

提督は嘔吐物で汚れた制服を脱ぎ捨て、ハンカチで両手を拭ってから、大声で山城に呼びかけるが、山城は身じろぎもしない。戦艦山城は惰性で前へ進んでいるが、スクリューが回っていないせいでみるみる減速しつつある。

「お願い、山城さん。機関を動かして! 艦が止まっちゃうよ!」

泣き叫ぶように言う提督もよそに、山城は固まったまま動かない。

――こうなったとき、どうすりゃいいんだ! ああ、誰か! ああ那智さん!

パニックに陥ったトビウメ提督は頭を抱えて羅針艦橋の天井を仰いた。

 

 

 駆逐艦不知火の艦橋の上に立っていた不知火は右舷を航行する戦艦山城の急減速に気付き、顔を上げた。

「どうしたのでしょうか?」

山城の艦橋構造物を見上げると、上層の羅針艦橋後部のデッキから手を振るトビウメ提督の白い影が見えた。

 駆逐艦娘不知火はこういったなにげないコミュニケーションに、大きな幸せを感じている艦娘だ。表情こそ仏頂面だが、大きく手を振り返す。しばらく手を振り続けていると、トビウメ提督は転げ落ちんばかりの勢いでラッタルを駆け下り、羅針艦橋のさらに下のフロアとなる司令塔の位置する層までまで降りてきて、再度柵から身を乗り出して手を振っている。不知火も再び手を振り返すが、トビウメ提督は一向にそれを止める様子が見せない。不知火はようやく様子がおかしいと気づいた。

 見張りの用の双眼鏡越しに覗くと、制服の上着も脱ぎ捨て、泣きそな顔で何やら叫んでいる。それに手を振っているというよりも必死に手招きしているようだった。

――ただ事じゃないわね

不知火はすぐに自分の艦を機関減速に設定し、戦艦山城に横付けするように舵を切った。両艦の間隔が二十メートル以下にまで近づいた時には、戦艦山城は停船寸前にまで行き足が止まっていた。不知火の耳にもようやく提督の悲鳴が届くようになった。

「司令! 司令! 何があったんですか!」

「山城さんが! 山城さんが動かなくなっちゃった! どうしよう、ぬいぬい!」

不知火は舌打ちした。訓練中はなんとか無事に済んでいたから良かったが、懸念した通りやはりあのメンヘラ戦艦はとんでもない地雷を抱えていたようだ。

 不知火は周囲を見回した。どうも提督一人の手に負えるトラブルではなさそうだ。その時、山城の艦尾方向から警笛の重い響きが二人の耳に届く。真後ろを航行している戦艦扶桑が鳴らしたものだった。

「司令! このままでは扶桑に突っ込まれます! 急ぎ停船指示を!」

今は敵による傍受を警戒し無線封鎖中なので電話を使うことはできない。発光信号か旗旒信号によって意思疎通するしかなかった。

「無理だよ! 山城さん、うずくまって動かないから、信号も出せないよ!」

提督がパニック状態でわめく。

――司令は一体、山城に何をしたんですか?

不知火は内心面食らいながらも、叫び返す。

「司令! 不知火も乗艦します! 後ろの扶桑を止めてください! 旗甲板で信号旗をさがして掲げてください! 「L」の信号機を! 黄色と黒とのチェック柄です! 「L」ですよ!」

「わ、わかった!」

トビウメ提督は旗甲板のあるフロア目指しラッタルを駆け上がった。

 その間に不知火は自艦から戦艦扶桑へ発光信号を送りつつ、艦橋の天井から甲板へ駆け下り、扶桑へ乗り移るための右舷に吊っている内火艇のダビットにロープを緩めるよう命じた。本来なら、洋上では船と船を索でつなぎハイラインと呼ばれる臨時のロープーウェイをこしらえ、滑車付きの荷台や専用の椅子を吊って移動するのだが、今回は相手の船の支援が受けられそうもないので、急ぎ内火艇で乗り移ることにした。外洋で艦娘が自分の艦を離れるには大きなリスクを伴うが、不知火には自艦を離れても最低限の指示をするだけの練度があるので、迷わず山城に乗り移ることにした。

 一方、トビウメ提督は旗甲板に駆け上がり、金属製の信号旗収納箱の蓋をはね開け、整然とたたまれた旗の束の中からLの信号旗をひっつかんだ。旗を広げると、支柱にまとめてあるロープ、いわゆる信号掲揚索に結びつけて引っ張り上げれば良いのだが、通常見えない念力によって動いているせいか、索は固く結び付けられていて、トビウメ提督が何度引っ張ってもびくともしなかった。

 再び警笛が鳴った。後方の戦艦扶桑が発光信号を明滅させて迫ってくる。トビウメ提督ははっきりと視界に大きくなりつつある戦艦扶桑の威容を前に頭を抱えた。艦娘によって管制されている艦船は、ひとたび指揮ユニットとも呼べる艦娘が人事不省に陥れば一切の機動が困難になるという弱点を抱えている。

 トビウメ提督は山城の艦橋を見上げた。掲揚索が使えない以上、少しでも高いところに信号旗を結びつけて扶桑に警告するしかない。トビウメ提督は前部艦橋か、もっと扶桑に見えやすい後部艦橋のある後部マストまで走ろうか迷ったが、後部艦橋に向かうには一度第二甲板まで降りなければいけないので、山城の前部艦橋の最上階目指しパゴダマストの中を駆け上りはじめた。

 一方、不知火も鉤手で欄干の鎖と内火艇を結びつけると、まるで岩登りでもするように戦艦の高い艦舷をロープ一本をつたって第一甲板に這い上がった。とにかく艦娘の山城の状態を確認しなければいけない。不知火は木板を敷き詰めた甲板を蹴って、艦橋へ走り始めた。

 一方、トビウメ提督はラッタルでつまずいたり、ハッチに頭をぶつけたりしながら、汗だくで戦闘艦橋のさらに上に位置する高所測距所と呼ばれる吹き抜けのバルコニーのようなフロアへたどりついた。暑さと息切れで意識を失いそうになりながら、欄干から身を乗り出し、後方の扶桑へ向け「L」の国際信号旗を大きく振った。

「扶桑さーん、止まってー!」

三回そう叫ぶと、息が続かなくなり、トビウメ提督は旗を広げて欄干に結びつけると、床に倒れ込んだ。

 ようやく戦闘艦橋へたどり着いた不知火は、床の吐瀉物を前に顔を覆った。室内には脱ぎ捨てられた提督の制服、そして部屋の隅にうずくまって顔を伏せたまま動かない山城を発見し、何が起こったのかおおよその見当がついた。

――やらかされましたね、司令……

あまりに馬鹿らしい事態を前に目眩すら覚えたが、この世界の艦娘には、この手の信じがたい弱点があることも知らないわけではない。

 とにかく山城が正気に戻らなければ戦いどころではない。

「山城さん、山城さん。しっかりしてください。今は作戦中です。立ち上がって艦の指揮をしてください。山城さん?」

不知火は山城の肩を揺すぶってそう言葉をかける。

「不幸だわ……、いつもこんなオチ……。……されたのよ。また騙された…」

膝に顔をうずめて一人でぶつぶつつぶやいているだけで、こちらの話が聞こえてないようだ。不知火は額に青筋を浮かべ大きく舌打ちした。

――懸念はしていましたが、こんな難物のメンヘラ戦艦だったとは……

不知火はふと、山城が正気を取り戻すまでその顔を殴り続けてみようかとも考えたが、そんな真似に及べばトビウメ提督が二度と自分と口を聞いてくれなくなりそうなので、不知火はその衝動をすぐに押し留めた。

 窓の外を見ると戦艦山城の急な停船で艦隊陣形は崩れ始め、後続艦は衝突を回避しようと減速や転舵をはじめた。一方、何をのんびりしているのか、戦艦扶桑は減速も転舵もせず、まっすぐに進んできているようだ、不知火は信号灯のある甲板を探して戦闘艦橋を飛びした。その時、扶桑が再び警笛を鳴らした。

 同時に提督が戦闘艦橋へよろよろラッタルをすべり降りてきた。白い麻のズボンの膝は鋼鉄のラッタルにぶつけて血に染まり、おでこや腕にはいくつも擦り傷を負って満身創痍の体だ。

「司令、発光信号で停船の呼びかけをします」

「う、うん。お願い……。僕も行く」

不知火はすぐに信号灯に取り付き、戦艦扶桑の羅針艦橋目掛け和文モールスで「ト・マ・レ」を送り続けた。トビウメ提督もその横で信号用の手旗を大きく振った。

 

 

 一方、戦艦扶桑の羅針艦橋では、艦娘の扶桑が怪訝な顔で姉妹艦の艦尾を見ていた。

「山城、急に行き足が遅くなってしまったけど、一体どうしたのかしら? 山城、大丈夫?」

扶桑はそうつぶやきながら艦橋の信号灯で山城に問いかけるが応答はない。一方、自分は二十ノット以上の速力で前進中で、山城の艦尾がどんどん近づいてくる。扶桑は汽笛を長く鳴らして警告してみるが反応はなく、そうこうするうちに随伴の駆逐艦が山城の左舷に取り付き、内火艇で艦娘が戦艦へと乗り移っていくのが見えた。

「やっぱり何かあったようね……」

艦隊陣形も崩れ、僚艦にも動揺が広がり、相互に発光信号が交錯しはじめた。少しすると白い服を着た豆粒のような人影が戦艦山城の上部艦橋の外へ身を乗り出して「L」の信号旗を大きく振っている。

「これは……、停船しないといけないわね」

戦艦扶桑はようやく自艦に両舷停止を命じ、スクリューが停止したと同時に後進をかけた。それまで二十ノット以上の速力で進んでいた基準排水量約三万トンの船体が急停止するのは困難だ。扶桑の船体は惰性でまっすぐ進んでいく。戦艦山城の艦橋後部から停船を求める発光信号がチラチラ光っている。

「山城、急に止まったら危ないわ。このままでは……、ぶつかってしまうわね……」

扶桑はそうつぶやきようやく舵を取り舵に切ったが、何もかもが遅すぎた……。

 

 不思議なもので、ぶつかった瞬間トビウメ提督は揺れも衝撃も感じなかった。

「司令! 床に腹這いになって!」

不知火が信号灯から身を離してしゃがみ込んだ。船尾を振り返ると、ぶつかった瞬間、戦艦扶桑の艦首はまるでケーキを切り分ける鋭利なナイフのように山城の艦尾を切り裂き、ぶつかり、きしみ押しつぶされる、独特な悲鳴のような音を立てた。扶桑の船首は長官公室を真っ二つにしつつ船体を浸食し、周辺の将校用の個室を押しつぶして第五砲塔の砲身に振れそうなあたりまでめり込んでようやく止まった。一方ぶつかった衝撃でトビウメ提督は一テンポ遅れてリノリウム張りの床に投げ出された。腹這いに倒れて胸や前腕を激しくぶつけたものの、山城に突き飛ばされた時の衝撃と比べれば大した衝撃ではない。

「司令、大丈夫ですか!」

すぐに不知火が駆け寄る。不知火に助け起こされ、トビウメ提督は絶望によって光を失った目で、相互に潰れてめり込んだ二隻の惨状を見た。まるで合体ロボの変身途中で時が時が止まってしまったかのように、先頭の戦艦の船尾に後続の戦艦の艦首が深く突き刺さり、まるで一隻の巨大戦艦になったような有様だ。

――あれじゃあ艦長室に運び込んだ手荷物はペシャンコだろうな。カメラだけでも無事で良かった……

ぼんやりとした思考のなか、提督は自分のカメラを握りしめた。はっきりと確信できたのは、もはや自分が来るべき海戦で与えられた任務を達成する機会は永久に失われたということだけだった。

 同時刻、第五航空戦隊の空母翔鶴の航空隊がブ島周辺の敵深海棲艦へ攻撃を開始した。第二次ブ島沖海戦の火蓋が切られた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。