艦隊これくしょん The Bridge 君でないとだめなんだ   作:Piyodori

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第二次ブーメラン島沖海戦 6/通信室

 メジロ泊地にて。時間は作戦開始時刻までさかのぼる。

 朝食を終えた那智は、マツエダ艦隊の新人として、その日もいつもどおり提督執務室で秘書艦の高雄と机を並べ、艦隊の事務作業を補佐する業務についた。

 商船や漁船からもたらされた近海での深海棲艦の目撃情報の整理や分析、新しい哨戒航路の検討などに取り組んでいたら、あっという間に昼になった。

「那智さんと一緒に仕事をすると本当にお仕事がはかどります。この泊地の秘書艦だって十分お任せできますよ」

「いや…… そんなことはない」

那智はバツが悪そうに首を振った。

「いつも高雄ちゃん一人で、大変だったから、那智君のおかげで少し楽ができそうだね」

執務机の向こうからマツエダ提督もうなずく。那智は恐縮するばかりだが、隣の高雄はなぜか再び理由のわからない不安に襲われた。那智はデスクワークでも、妙高とおなじくとても有能で、高雄の負担もかなり軽減するので、那智と仕事をするのは喜ばしいことなのだが、高雄は不意に理由のわからない居心地の悪さに襲われた。とにかく、高雄は自分の妙な感情を提督や那智に見せないよう、精一杯笑顔を浮かべて不安な気持ちが通り過ぎるのを待った。

 午前中の執務時間に三度ほど、通信室当番だった衣笠が電文をもって執務室へやってきた。果たしてそれは、今まさに繰り広げられているブ島沖の戦況を伝えるものだろう……。電文が届く度、そんな思いが那智の脳裏に浮かんできたが、自分は今新しい艦隊の一員として業務に集中すべきと自分に言い聞かせ、そんな雑念を振り払った。

 それでも途中、マツエダ提督は一度、業務の書類の束に衣笠の持ってきた電文用紙を紛れ込ませ、さりげなく那智へと渡した。

 書類の間に電文が挟まっていたので、那智は驚いてマツエダ提督を見ると、提督は軽くうなずいてみせる。那智はそんな配慮をありがたく思う一方で、恐縮するばかりだ。電文は、空母翔鶴からで、第一撃をかける航空隊が発艦したことを司令部へ告げるものだった。大勢が決するにはまだまだ時間がかかる。

 提督や高雄らと執務室で昼食をとると、那智はしばらく自由時間になった。マツエダ提督から頼まれ、夕方から駆逐艦娘らに魚雷戦の戦法につい教導するよう頼まれており、それまでは自由時間だった。

 那智は普段通り、内火艇で自分の艦に戻り、整備状況のチェックや機器の動作確認を済ませてから、艦橋構造物内の通信室で、はるか遠い海域で進行中の海戦の模様を探ろうと遠距離短波通信機のヘッドフォンを耳に当てた。理屈の上では、短波通信は大気の電離層と地表で反射を繰り返しながら遠へ電波が届くことになっているが、大気や太陽の影響で超遠距離での受信状態は日によって大きく異なる。特に艦船の受信設備は陸上の無線基地に比べ小規模にならざるをえないため、いくら機器や空中線の手入れに心を砕いても、通信環境は万全とはいえなかった。

 空中線はいくつかの通信を傍受していたが、ブ島沖の戦闘の状況を伝えるものは入ってこない。

「まったく、こっちの世界でも電子機器だけはうまく行かないな……」

那智は誰にともなくそうつぶやき、通信室を出て旗甲板へやってきた。陸には桟橋に係留された駆逐艦の向こうにメジロ泊地の司令部庁舎が見え、その奥に高さ四十メートルはあろうかという鉄骨の電波塔がそそり立っている。那智は腕時計を見た。

――まだ時間はあるか……

那智は再び内火艇に乗って島に戻り、基地の通信施設がある司令部庁舎の裏手へと足を向けた。

 基地の主通信室は司令部庁舎とトタン屋根で覆われた渡り廊下でつながっているカマボコ型の倉庫のような建物で電波塔のすぐ隣に建っていた。二十四時間、常に当直の通信士や当番の艦娘が詰めていて、急にもたらされるかもしれない通信に備えていた。

 掘っ建て小屋のような通信室にも空調設備が備わっており、近づくと室外機がゴウゴウと低い音を立てていることに那智は驚かされた。

 那智は所在なく、渡り廊下の屋根を支えている柱に寄りかかって腕を組んだ。そばには誰もいないし、何か急な知らせがあれば、必ず誰かが電文用紙をもって飛び出してくるはずだ。

 渡り廊下で日差しを避けつつ、しばらくそうしていると、基地の庁舎のほうからマツエダ提督が高雄を伴って庁舎から渡り廊下を歩いてくるのが見えた。

「しまった・・・・・・」

那智は慌ててどこか身を隠せるところをさがす。あからさまに通信室の前をぶらついて、戦況を気にしている様を見せるのは、マツエダ提督に対しあまりに失礼に思えた。

――いったん通信室の裏に隠れ、さも偶然と通りかかった風にでていくことにしよう

那智は急いで通信室へと近づいたとき、間の悪いことに、当番の鬼怒が電文用紙を手に通信室から出てきた。

「あれれ、那智さん。こんな所でどうしたの?」

「うぇ、いや、その、わたしはただ……」

ドアを開けたら那智と鉢合わせしたので鬼怒がたずねる。突然のことに、那智は視線をさまよわせながら、しどろもどろに答えるのみだ。

「あら、那智さん」

「あ……」

高雄の声に那智は固まる。通信室前にやってきた高雄とマツエダ提督にも見つかり、那智は立ち尽くした。

 鬼怒は提督達に気づいて電文用紙を差し出した。

「ちょうど今持って行こうとしたんだ。そしたら那智さんもいたから」

マツエダ提督は無言でうなづいて用紙を受け取る。提督は電文を読んでから那智へ差し出した。

「連合艦隊の第四分隊、タロタロ泊地を出撃したようだ」

「お気遣いに感謝する……」

那智は恥入りながらも用紙を受け取り、食い入るように電文を読んだ。

「山城君やトビウメ提督らの第三分隊に関する電文はまだ入ってない」

マツエダ提督の言葉に那智は無言でうなずいた。

 マツエダ提督は那智と鬼怒を交互に見てから聞いた。

「鬼怒君、無線当番は何時まで?」

「え? わたしはあと三十分ちょっとかな」

「次の当番は誰?」

「次は清霜ちゃんだよ」

そうかとうなずき、マツエダ提督は眼鏡をかけなおしてから那智に言った。

「もし那智君さえよかったら、夕方のレクチャーまでの時間、通信当番をやってみないか。通常業務に支障のない範囲で、作戦中は自由時間はいつでも通信室に詰めてもらってもかまわない。どうだろう?」

那智、そして、かたわらにいた高雄も驚いた表情で顔を上げた。

「わたしは決してそのようなつもりでは……」

那智はそう口にしたものの、あまり説得力のある返答ではない。

「前の艦隊の仲間のことが気になるのは人情だ。遠慮しないで」

「……すまない、心から感謝する」

那智は恥ずかしさを感じつつも、提督の配慮に感謝した。

 

「提督は本当にお優しい方。わたし、本当に提督がこの泊地に来てくださって良かったって思っているんですよ」

 通信室から引き返しながら歩く提督に高雄は少し顔を赤くしながら言った。

「何、急に……。やめてよ、高雄ちゃん。恥ずかしいな……」

マツエダ提督は照れ笑いしながら首を振る。

「だって那智君の立場なら、気が気じゃないでしょう?」

そう言いながらマツエダ提督は足早に執務室へと歩いていく。

「はい、そうですね!」

高雄も笑顔でそう答え、提督の背中を追った。

 だが高雄は急に、前触れも、脈略もなく、不思議な疑念に襲われた。それは「女の勘」とでも言わないと説明できない、理屈に合わない感情だった。

――提督、なぜか那智さんには特に、いつも以上に優しい……。

ふとそこまで考えて、高雄はそんなことを考えること自体が、提督にも那智にも失礼なことだと思い至り、慌てて頭を振って自分の馬鹿げた考えを脳裏から追い出そうとした。

「高雄ちゃん?」

しばらく先まで歩いていたマツエダ提督が不思議そうに振り返った。高雄は自分が呆然と立ち尽くしていた事に気が付いた。

「大丈夫?」

「え? は、はい、わたしもちょっと妹の摩耶のことを考えていて。あの子も作戦に参加しているので、今頃どうしているのかと……」

とっさに嘘が口をついて出た。

「そうだったね。確か第四分隊だったよね。高雄ちゃんにもすぐに戦況を知らせるようにするよ」

マツエダ提督はそう言って歩き出した。

――提督はいつも通り。変なことを考えちゃだめよ

高雄は自分にそう言い聞かせながら提督の後を追った。

 

 一方、那智は高雄の懊悩など露も知らず、通信室の一角でヘッドホンを装着し、短波無線を中心に長距離無線のモールス信号に聞き耳を立てていた。まるで巨大なタンス、もしくはオーディオセットのような、メーターとダイヤル、スイッチが無数に付いた箱状の機械に向かって通信士が一列に座り、ヘッドホンを耳に当てて島へ向けて飛んでくる通信に耳を澄ませている。那智は列の後ろに置かれた事務机に陣取って、無線機から延びたヘッドホンをかけて通信を待ちかまえた。机の引き出しには鉛筆と受信した電文を書き込む用紙が入っていた。那智は鉛筆を一本、鉛筆削りでとんがらせながらあらゆる無電の音に注意を払う。

 ありとあらゆる通信が島の上空を飛び交っている。高出力で明瞭なものもあれば、そうでないものもある。そのほとんどはこの泊地にも、ましてや今展開中の外南洋の戦闘にも関わりのないものだった。

 しばらくしてメジロ泊地宛の簡単な通信が本土とローリー泊地から相次いで届いた。那智は通信士に自分が清書を請け負うと言って、受信した通信をすぐに暗号から平文に訳す。機密度の低い業務連絡用の通信で、本土からは再来月の補給申請の承認を伝えるもの、ローリー泊地からは定期飛行艇の飛来が悪天候により2日遅れるとの知らせだった。那智は通信用紙に鉛筆で訳を走り書きして席を立った。

「わたしは提督にこれを届けてくる」

通信士の一人がうなずいた。那智が通信室から出ようとしたとき、列の右端に座っていた通信士が急に鉛筆で通信を書き写しながら那智を呼び止めた。

「那智さん! 今、連合艦隊の第三分隊発の暗号電文を受信しています!」

「何!」

那智はすぐに机にとってかえし、ヘッドホンを耳に押し当てる。通信電波は微弱で、聞き取りづらかった。通信士はひとしきり鉛筆で通信文を書き殴ると、それをすぐにチームの暗号士に渡す。一方、途中から通信を聞いて書き取っていた那智も自分ですぐに翻訳を始める。自分の艦の通信設備で受信したものならば即座に解読できるのだが、自分の支配下にない機材で受信した暗号ではそうもいかない。

 だが、那智は電文の途中から通信を訳していくにつれて、顔から血の気が引いていく。

――しょ、衝突事故だと? 何故、そんな……

五~六分後、暗号士が痛ましい表情を浮かべて、額から冷や汗を垂らす那智に翻訳電文を無言で差し出した。発信元は重巡加古。その時点で分隊旗艦の戦艦山城が酷い状況に陥ったと予想できた。

「続けての電文や連合艦隊司令部からの返電はまだないか?」

「今はそれだけです」

那智は通信士にそう確認してから三通の電文を手に通信室を出た。ドアを開けるとモワっとした熱帯特有のからみつく熱気に襲われた。那智は思わず目眩を感じて渡り廊下の柱に寄りかかった。目を閉じて額に手をやり気分を落ち着かせる。海は広しといえど、軍艦も衝突事故とは無縁ではない。実際、前世では重巡那智も作戦中に衝突事故を起こす不名誉な艦歴があった。また演習中でも衝突事故はたびたび発生している。ただ、トビウメ提督率いる第三分隊に何があったのか、那智には全く想像が付かなかった。現在地報告では、まだ接敵するほどブ島に近づいているわけでもなかったので、之字運動中の操舵ミス、もしくは不意に敵潜水艦による魚雷攻撃を受け回避運動中に衝突した事などが考えられた。那智は脂汗を浮かべつつも自分で頬を叩いて気合いを入れ直した。

「落ち着け。こんな事で動揺していられないぞ……」

那智は姿勢を正すと足早に提督執務室へ歩き出した。

「山城と扶桑が衝突とは……」

 執務室で電文用紙に目を通したマツエダ提督は唖然とした表情でそう言葉を詰まらせ、傍らの高雄へ電文を渡す。

「両艦とも航行不能なんて……。山城さん達は作戦の最重要戦力なのに……」

高雄も思わず口を手で押さえて言葉を呑む。

 動揺を隠さない二人とは対照的に、那智は険しい表情のまま無言で直立し提督の指示を待つ。

「まだ何もわからないから、引き続き、通信から情報を収集して伝えてほしい」

「承知した」

那智は硬い表情で敬礼して退出しようとするところを高雄が呼び止める。

「そろそろ駆逐艦の子達向けに魚雷戦の講義のお時間ですが……。どうしましょうか?」

「あ、そうか……。那智君、講義は無理に今日でなくても構わない。引き続き通信室に詰めていてもらっても構わないが」

マツエダ提督も忘れていたとばかりにそう言った。一方、那智は高雄の言葉にはっとして、執務室の柱時計に目をやる。自分としたことが、マツエダ提督らの好意に甘え、すっかりこの艦隊での自分の本分を忘れていた。那智は慌てて首を振る。

「いや、そのことは予定通り、しっかり務めるつもりだ。お気遣いには感謝するが、自分の仕事はきちんと務めたい」

「那智さん、そんな堅く考えなくていいんですよ?」

高雄がそうフォローするが、那智の意志は変わらない。提督も延期を勧めたが、結局那智は首を縦にふらなかったので、二人ともあきらめて予定通り駆逐艦娘達と鬼怒を会議室に集めることになった。

 那智は、教本を取りに戻ると言って自室に戻ると、ベッドに力なく腰を下ろし両手で頭を抱える。

――わたしに何かできることはなかったのだろうか?

那智はそう問いかけてみたが、すぐにそれが愚問だと気づく。

「何をバカなことを……。わたしは暇を出された艦だぞ」

那智は勢いよく立ち上がると、姿見の前でもう一度自分の顔や髪、身だしなみを今一度整えた。姿見に映るのは表情は少しやつれ、目は充血していたが、それ以外はいつも通りの一分の隙もない、いつもの那智だ。連合艦隊も、第三分隊も、戦艦山城も今の自分には何の関係もない。あってはいけない。少なくとも講義をしている一時間ちょっとの間はそうでなくてはいけない。那智は姿見の自分を一度、厳しい表情でにらみつけてから教本を抱えて自室を後にした。

 会議室の黒板を前に、那智が駆逐艦娘らを集めて魚雷戦の戦法について講義を始めたのは夕方、五時を少しまわってからだった。会議室には様子見にきたマツエダ提督と高雄もやってきて、最後尾の席から聴講していた。

 那智による講義は、やや堅苦しいものだったが、先ほどの動揺などなかったかのようにスムーズで簡潔、要点をとらえたわかりやすいものだった。

「そういうわけで、酸素魚雷の効果を最大限に発揮させるには、諸元よりもはるかに敵の近くまで肉薄する事が大切だ。長射程を頼みに遠距離から魚雷を放ってもまず命中は望めない。それは砲戦にも通ずることだ。かくいうわたしも、かつてスラバヤ沖では遠距離で主砲を乱発してばかりで、いたずらに弾薬を浪費した過去がある。皆もそのことを頭の隅に置いて実戦に臨んでほしい」

那智はそう言って、一時間少々の講義を終えた。

 講義中、二度ほど無線係だった衣笠が静かに入ってきてマツエダ提督に最新の傍受電文を手渡すことがあったが、那智はこちらには一瞥もくれず講義に集中していた。

「那智さん、みんな、お疲れさま。もうすぐ夕飯の時間よ」

 講義が終わると高雄が言った。駆逐艦娘たちは、小さく歓声を上げてそれぞれ会議室を出ていく。

「那智君、ご苦労様。実体験もいろいろ聞かせてもらって、門外漢の私にもわかりやすかったよ。駆逐艦達にも良い勉強になったと思う。またいずれお願いしたな」

「そうか、それなら幸いだ」

那智は少しだけ表情を和らげたが、すぐに堅い表情に戻った。マツエダ提督と高雄もいたたまれない思いでため息をついた。マツエダ提督は電文用紙を那智へ差し出す。

「先ほど、連合艦隊司令部から、トビウメ提督を分隊司令から解任するとの命が下った。元々、トビウメ君本人から指揮権返上と損傷した戦艦二隻の護送の任につきたいという申し出があってのことだ」

那智は電文を受け取りながらうなずいた。

「司令部は重巡三隈のアリスガワ提督を第三分隊の臨時分隊司令に任命し、第四分隊と合流後、ブ島西方で艦隊決戦に挑むことにしたようだ」

那智は数枚の電文に目を走らせながら控えめながらも驚きの声をあげる。

「第一、第二分隊も作戦継続か……。司令部は一体……」

「大博打だね。どうも第四分隊も、出港間際に戦艦日向がトラブルで出撃できなかったようだ。そうなると、戦艦は第四分隊の比叡一隻。先の海戦の敵戦力を考えても、かなり厳しい戦いになるだろう」

「あのしっかりしている日向さんがトラブルなんて……」

高雄も意外そうに言った。那智は電文に目を走らせ、第三分隊には加古が加わっている事に気が付いた。それに姉妹艦の足柄も今、第四分隊の一員として敵地へ向かっている。

「那智君、作戦終了までの間、非番の時間は好きなだけ通信室へいてもらって構わない」

「いや、それは……」

那智は思わず声を上げかけたが、マツエダ提督がすぐに制した。

「まぁ聞いて。那智君は転属してまだ日が浅い。もし私だったら、前の仲間が心配でとても仕事なんか手につかない。それに、私たちだって、作戦の行く末をとても心配している。ここで何かできるわけじゃないが、みんなで見守ろう」

マツエダ提督の言葉に那智は目を閉じて深々と頭を下げた。

「何から何まで、本当に、感謝する……」

「那智さん、気にしないで。わたしも、妹の摩耶が第四分隊で作戦に参加しているから実はとても心配しているの。だから一緒ですよ」

恐縮しきりの那智を高雄がそう慰めた。

 那智と高雄が連れだって通信室向かうのを見送り、マツエダ提督は執務室にもどって椅子に深くもたれかかった。

「なんとも痛ましいな……」

マツエダ提督は、敢えて自分に確認するように、口に出してそう言った。陸軍部隊の救出はほぼ絶望的で、海戦で勝利できるかもかなり怪しい情勢になった。そして連合艦隊司令部は事態の悪化に適切に対処しているとは思えない。これが痛ましい状況でなくて何なのか? だがマツエダ提督はそう言いつつ、戸惑いを感じた。というのも、トビウメ提督が今回の作戦で華々しい戦果を得る可能なくなったことを、心の片隅で純粋に安堵している自分がいることに気が付いたのだ。

――私は別に、そんなつもりで……

マツエダ提督は食事前にも関わらず、ブランデーの瓶を取り出してコップに注いで一飲みにする。のどが焼け付くのを感じながら、戦艦山城をはじめ、連合艦隊が無事に戻れることを祈った。少なくともその自分の気持ちだけは嘘はないことを確かめたかった。




次の話は、14日に投稿予定です。
盛り上がりもない、長ったらしい海戦もやっと終わりです。
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