艦隊これくしょん The Bridge 君でないとだめなんだ   作:Piyodori

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第一次ブーメラン島沖海戦/突撃! CA陣

 CA陣ことカウンター・アンブッシュ戦術。過去の戦史や戦訓を参考にトビウメ提督と那智が長い時間をかけて幾度も話し合って決めたヤムヤム島泊地オリジナルの対奇襲戦法だった。それは、もし洋上で敵の奇襲を受けた場合に、敵の第一撃をかわしたり、一度退避して優位な反撃位置を探すのではなく、重巡の火力援護のもと、軽巡、駆逐艦の機動力を生かして敵陣に一気に踊り込むという一か八かの反撃作戦だった。

 とにかく奇襲してきた敵の出鼻をくじいて統制を乱すことを目的とした瞬発的反攻と退避。敵を怯ませられるかどうか、その鍵はスピードにあった。

 後ろを振り返れば、後部の長良が戦列を抜けて、西へと高速回頭しつつある。それに従うように初風と不知火が徐々に戦列から外れて敵へ向けて進路を変えた。長良たちは速度を上げ、煙突からは黒煙が噴き出し、艦首と艦尾には白波が大きくたち始めた。軽巡長良を先頭に不知火と初風が砲撃を避けるためにそれぞれ不規則に蛇行しながら敵へと向かってゆく。

「本艦、攻撃目標、敵重巡リ級一番艦。とーりかーじ、一杯!」

 提督の指示を那智が復唱すると同時に、艦はジリジリと右へ傾き、急回頭をはじめた。艦は急な右傾斜をとりながら曲がり、無造作に突っ立っていた提督がよろけて床に転びそうなったところを、後ろから那智に支えられた。

 

「ちょっと、那智さん……」

 

那智は提督の背中へ抱きつくように支えて羅針盤へと押しつけた。

 

「少し暴れるぞ。これで体を羅針盤に縛るんだ」

 

那智はしっかりと提督を抱きかかえながら手を伸ばしてロープの端を羅針盤にくぐらせる。慌てて提督は腰と羅針盤にそのロープを巻き付けた。那智の、もどーせーの号令ととも回頭を終えて傾斜した船体が水平に戻り始める。

 一方、敵艦隊もこちらの動きを警戒したのか、一斉に撃ち始めた。軽巡長良や駆逐艦二隻の周囲に激しく水柱があがる。

 

「進路350、よーそろ」

 

 艦が水平に戻るとようやく那智は体を離した。前部甲板の三基の砲塔が一斉に目標へ砲身を向けた。

 

「一番から三番砲塔、発射準備よし」

 

提督は双眼鏡を覗き、一番距離の近い重巡リ級へ目標指示した。那智は的針、的速を計算し、正確な発射解を砲身の動きに同調させる。

 

「一番から三番主砲、撃ちーかた、はじめー」

トビウメ提督が叫んだ。

 

「撃ちーかた、はじめ!」

 

 那智の20・3センチ砲がついに火を吹いた。那智の復唱とともに艦橋はストロボのような光に覆われ、衝撃波をともなった轟音が分厚いガラス窓をたたく。すかさず、提督が双眼鏡をのぞき込む。後続の加古も一テンポ遅れて主砲弾を放った。

 こちらへ船腹を見せながら右方向へ進む敵重巡の背後に水柱が上がる。さらに一つ、二つとまた水柱が現れた。その間にも那智の前部主砲は左右交互に、砲撃を続ける。

 

「弾ちゃーく、今! 遠、遠、近、命中!」

 

双眼鏡を覗きながら提督が叫ぶ。三本の水柱と至近弾の後、まるでサザエのような形を思わせる重巡リ級の一番主砲塔がオレンジ色の火球に包まれたのが見えた。提督の言葉を受けて、那智は射撃指揮装置の発射解を修正し、主砲の照準を微調整する。

 

「二番砲塔、初弾命中。三番砲塔、近!」

 

 射撃を終えた主砲はすぐに砲身を水平に押し戻す。すると甲板下にある弾薬庫と装薬庫からそれぞれ別のエレベーターで砲弾と火薬を毛の繊維で包んだ樽状の塊が砲塔内へと上がってくる。砲弾と装薬はすぐに主砲の付け根にある栓尾から薬室へ押し込まれて艦橋の主砲方位盤からの射撃指示に備えるのだった。その時間およそ二十秒。すぐに砲身が照準に合わせて仰角を取り二発目を敵へ発射した。

 敵艦隊も盛んに反撃をはじめ、敵の砲弾が作る水柱は徐々に那智や加古の船体近くで吹き上がるようになってきた。最初の目標とした敵リ級はすでに前部主砲を二つ失い、真っ黒な煙に包まれていた。

 

「三番砲塔、近、命中。二番砲塔、弾着、今。命中、続けて命中!」

 

リ級の煙突や後甲板から爆炎が上がり、真っ黒な船体から炎が上がる。

 

『吹っ飛べぇぇぇ!』

 

背後の加古も一斉に那智の右後ろに位置しながら敵の重巡へ砲撃を続ける。その背後にはゆっくりと進路をこちらへと変える旗艦金剛と摩耶の姿が見えた。

 

「金剛より発光信号。ワレ、貴艦ニ続ク。全艦、進路340ニトリ、全速避退セヨ。何としても抜けるぞ」

 

那智が発光信号を解読し提督に告げる。提督は強くうなずいたが、後続の味方艦隊のなかには、すでにもうもうと黒煙や火柱を上げて落後し始めている艦がいくつも見えた。

――みんなを無事に連れて帰れるだろうか?

 提督はそんな雑念を抱いたことを瞬間的に後悔した。今の戦況を厳しく見つめれば、全艦帰投など不可能な願いだ。これからこの海域で一体何隻の艦と艦娘が沈んでゆくことになるのかを想像し提督は思わず目元を手で覆った。

 

「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」

 

 那智の声にトビウメ提督は現実に引き戻された。とにかく眼前の敵を打ち破らねば、誰も帰投できないのだ。

 

「ごめん……。次の目標、方位300、敵雷巡!」

「よし、一番、二番砲塔、追尾!」

 

主砲の目標を、まっ黒な黒煙の塊になって停船した敵重巡から前方にある雷装巡洋艦へと移す。

 それはダークグレーの船体を持つ艦首船尾船楼型の巡洋艦で、艦橋後ろから艦尾にかけて設けられたウェルデッキには幾つものアコヤ貝のような魚雷発射管が据えられている。敵魚雷の射程は決して長くないが、いざ射程に入った際に散布帯射撃されれば、その無数の魚雷から逃げきるのは至難の業だ。敵に艦首を向けて蛇行しつつ突っ込む長良達がその射程に捉えられるのはもう間もなくだった。

 那智はすぐに加古にも目標変更を告げて主砲塔を新しい標的へ向けて回す。この砲塔の旋回スピードの遅さが、提督にはこの上なく遅く、もどかしく感じられた。

 艦を大きく揺さぶる強い衝撃を感じたのはその時だった。もし羅針盤に体を巻き付けていなかったら、衝撃で壁際に叩きつけられていたに違いない。衝撃のため主砲指揮所にいた那智と提督は床に尻餅をついた。

 

「ど、どうした?」

「後甲板に被弾した……。飛行甲板、火災炎上中。すぐに消火にあたる」

 

顔をしかめた那智が身を起こしながら報告する間にも、艦橋のすぐ横にさらに大きな水柱が上がり、艦を再び大きく翻弄する。

 

「敵戦艦、撃ってきた。気を付け……」

 

そう言い終わらないうちに背後の重巡加古の二番砲塔から炎が上がった。

 

「加古! 損害状況知らせ!」

『ちっくしょー! これくらい平気だよ! だけど、方位盤射撃ができなくなっちゃった』

 

酷くノイズがまじっているものの、加古はすぐに無事を知らせてきた。

 

「狙いは適当でいいから、とにかく撃ちまくれ!」

 

提督は受話器に叫ぶと、窓の外の敵艦影を指さした。

 

「雷巡を潰すんだ。長良達が奴の射程に入る前に!」

「四番、五番、主砲。撃ちーかた、はじめー!」

 

艦の後ろにある砲塔の主砲から猛烈な硝煙が吹き出した。続けて、一番から三番主砲もそれに続けて褐色の硝煙を吐き出す。提督は双眼鏡で敵雷巡を睨みながら、弾着を待った。

 間もなく、初弾から至近弾を告げる水柱が雷巡の手前に上がり、間もなく次の数発が立て続けに雷巡の艦中央機関部や上甲板を吹き飛ばした。真っ赤な炎を見て提督は叫ぶ。

 

「命中! 続けて撃て!」

 

すぐにも主砲は照準調整し第二射を発射した。トビウメ提督は目を凝らして、敵の艦舷に並んだ魚雷発射管を見張る。再び那智の放つ砲弾が雷巡の船体を打ちのめした。煙突が倒壊し、艦尾主砲が弾け飛び、火柱を上げる。さらに次の一発はウェルデッキを直撃した。だが喜ぶ間もなく、貝殻にあいた気孔のような発射管から海へ放り出された二本の魚雷を提督の双眼鏡は捉えていた。

 

「敵、魚雷発射! 進路およそ……020! 長良ちゃん! よけて!」

 

トビウメ提督はすかさず無線電話の受話器へ叫ぶ。その時、遠方の海に目映いオレンジ色の火球が咲いた。火球はすぐに黄土色の巨大な煙の柱となって空へ上ってゆく。そこにもう敵艦影はどこにも見えない。搭載魚雷の誘爆を起こした敵雷巡が木っ端微塵に吹き飛んだのだ。

 

「目標轟沈!」

 

トビウメ提督と那智は二人とも同じガッツポーズをとった。

 

 

 比較的近くにいた長柄達の周りには敵雷巡の破片が雨のように降り注ぎ、初風の艦橋スレスレのところをキャニスターに収まったまま誘爆しなかった魚雷が飛び越えていった。

 

「ちょ、ちょっと、危ないじゃない!」

 

初風は艦橋で思わず首をすくめて叫ぶ。

 

『各艦、魚雷に注意して!』

 

 長良は軽巡長良の艦橋から後続の駆逐艦へ注意を発した。海面は灰色に濁っていて、まだ魚雷は確認できない。深海軍の魚雷は、味方の魚雷よりも短射程で速度もやや遅く、空気の泡を引いているため洋上からも発見しやすいのだが、爆薬の威力は味方のものよりも強力だった。

 

『軽巡長良。こちら不知火艦橋。雷跡を発見しました。方位345、進路023、距離400。速力およそ45ノット。不知火は右にやり過ごします。各艦は注意してください』

 

各々、蛇行してしながら敵へ突進していた三隻の艦はそれぞれ左右に目一杯に舵を切って散開した。白い雷跡が長良と初風の艦尾後方の海面下をすり抜けていった。

 魚雷をやりすごすと、すぐに三隻は敵へ舳先を向けて突進を続ける。

 

『もうすぐ敵戦艦が射程に入るわ。各艦準備して!』

 

長良の無線電話が後続の駆逐艦に届く。

 

「目標前方に敵駆逐艦二隻!」

 

これから魚雷を見舞まってやろうと思っていた敵戦艦をかばうように高速の駆逐艦が二隻割って入りつつあった。

すでにこちらへ何発もの砲撃を繰り出しながら敵はどんどん間合いを詰めてくる。

長良と不知火はなんとかその邪魔な駆逐艦を排除しようと主砲を放つ。

 

『魚雷発射まで何とか持ちこたえて』

 

そのとき、緑色の燐光を発する一隻の敵駆逐艦の艦橋構造物が粉々に弾け、まるで最初から艦橋がなかったかのように消しとんだ。次に二隻目の敵駆逐艦の艦首と前部砲塔が爆煙に覆われた。

 

『やりぃ! 当ててやったよー!』

 

加古の無線電話が届く。インターセプトをはかった敵駆逐艦は背後の那智と加古の援護射撃よって撃破されたのだ。

 

「加古さん、意外にやるのね……」

 

不知火は自分の艦の羅針艦橋でかすかに笑った。炎と煙に包まれながらズブズブと海中へ沈みゆく敵駆逐艦のそばを突破してから、軽巡長良は突撃旗を掲げた。

 

「目標、射程内! みんな、一斉回頭! 進路、270! 魚雷戦よーい!」

 

長良は号令をかけると一気に取り舵九十度へ回頭した。長良と僚艦二隻は一斉に敵へ右舷を見せる形で単縦陣へ移行する。

 なおも追いすがる無数の水柱。しだいに敵駆逐艦や軽巡洋艦の小口径弾が舷側をえぐりはじめる。被弾するたび、艦橋に振動が走り、窓ガラスに大きくひびが入る。駆逐艦不知火の艦橋で艦娘の不知火は腕を組んだまま動じることなく、目を細めて敵艦を睨みつけた。

 こじんまりとした陽炎型駆逐艦の羅針艦橋の両橋には外側へ張り出した出窓のような一角が設けられている。そこに設置された魚雷戦方位盤が測的と発射解の割り出しにフル稼働していた。

――これは、普段気弱なあの司令が覚悟を決めて下令した作戦行動です。それに応えるためにも不知火はこの一撃、決して外すわけにはいきません

 

不知火は、敵戦艦のエスコートについている重巡洋艦をターゲットに定めた。

 三隻だけの水雷戦隊は敵に横腹を晒しながら敵の攻射に耐える。各艦の方位盤が発射解をはじき出し、その情報に沿って二番煙突裏の旋回式魚雷発射管を右舷へ向け、射線を敵の進路上へあわせる。

 

「目標、敵重巡三番艦。発射準備よし」

『目標、敵戦艦二番艦。準備できてるわ』

 

不知火が告げると初風も無線電話で続ける。それを受けて長良は信号旗を揚げると同時に叫んだ。

 

『放てー!』

 

各艦の右舷甲板から丸太のような九一式酸素魚雷が、圧縮空気によって発射管から海へ放り出され、水しぶきをあげて海中へと飛び込んでゆく。

 各艦五本ずつ三度ずつ角度を変えて放射状に撃たれた魚雷はキャビテーションによるわずかな泡だけを曳いて深海軍の艦隊目掛けて静かに突き進んでいった。

 

「全艦突撃! 砲戦開始!」

 

第一打の魚雷を撃ち終えた長良達は、それまでの一糸乱れぬ単従陣とは打って変わり、再び敵陣へと舳先を向けると、各々大きく不規則に転舵を繰り返しながら最大船速で突入をはじめた。

 

「水雷戦隊、突入した!」

「よし、僕らも続く……」

 

 重巡那智の主砲指揮所で提督が答えた。とにかく退路を確保するには、そこに立ちはだかる敵の主力を押し退けなければならない。重巡那智は加古を引き連れて包囲線を敷こうとする敵艦隊へ接近しつつ、絶え間なく主砲弾を放つ。

 突然、それまで整然と航行していた敵艦隊が左や右へ急に進路を変え始めた。正面に見えるイ級駆逐艦は急激に舵を切ったため、背後の軽巡チ級の進路を塞ぐ格好となりその舳先によって船腹から真っ二つされてしまった。金属の引き裂かれる音と共に、イ級のボイラー室が水蒸気爆発を起こし真っ白な煙が上がる。

 

「さては、あいつらようやく魚雷に気付いたぞ」

 

トビウメ提督は嬉しそうに笑う。そう言い終わらぬうちに視界の左隅にあった別の敵軽巡洋艦に真っ白な水柱を上がる。魚雷が缶室を直撃したようで水柱が消える頃には敵の船腹からは真っ白な蒸気が吹き上りすぐに敵は完全に停船する。どうやら深海軍は陣型を乱し、各自勝手に回避行動に移って混乱しているようだった。

 

「よし、この機に乗じて包囲網に穴をあけるぞ!」

 

那智と加古は後続の金剛や摩耶へ合図を送りながら敵陣突破を目指した。

 

 

 その頃、大混乱の中敵陣の真ん中に踊り込んだ駆逐艦不知火の艦橋で、艦娘の不知火が風防窓一杯にどんどん大きくなる敵の艦影を見据えながら呪詛のように呟いた。

 

「沈め……。沈め!」

 

その声にあわせるように敵重巡の喫水線下が一瞬白く光ったかと思うと、そこから前マストの倍はあろうかという水柱が敵の船体を覆い隠した。

 

「魚雷命中。弱いのね……」

 

復原力を失い、炎を上げながら急速に傾きつつある敵重巡を後目に不知火は呟いた。

 不知火は次に屠るべき敵を探して周囲を見回した。敵陣に切り込んだわずか三隻の水雷戦隊は、周囲360度すべて敵という状況で主砲と機銃の区別なく、手近な敵へ手あたりしだいに弾を撃ち込んでいた。それは、方位盤射撃などという手順に乗っ取った洗練されたものではなく、一キロもあるかないかの距離でひたすらバカスカと撃ち合う肉弾戦に近いものだった。

 硝煙弾雨の洋上で不知火は周囲を見回した。

 

「もっと、骨のある敵はいないの……」

 

黒煙立ちこめる視界のなか、不知火はさきほど目にした戦艦の影を探した。退路を確保するためにも、ライトグレーのフジツボだらけの船体に黒い砲塔を無数に載せた、二隻のタ級戦艦だけはなんとか撃破しなければならないターゲットだった。戦艦を仕留めるため、不知火は前部魚雷発射管の酸素魚雷四本を手つかずにしておいたのだ。

 先ほどから全砲塔と機銃座は休みなく火を吹いているが、不知火自体も敵の軽砲弾により被害が多くなってきた。後部主砲指揮装置は被弾の衝撃により故障、両舷に据えられた艦橋横のカッターもいつの間にか粉々に粉砕されていた。

 

「まだまだ、沈め足りないわ。戦艦はどこなの……」

 

不知火は煙越しに姿を見せた敵駆逐艦を、相手に一発も撃たせる間をあたえず主砲の斉射で火だるまにすると、次の生贄を求めてさらに敵陣奥深くへ舵を切った。

 

 そんな不知火の北北西1・5キロの洋上では駆逐艦・初風も持てる火力を最大限敵へぶつけて奮戦していた。混戦のなか、あまりに敵駆逐艦に接近しすぎたため、敵駆逐艦の艦橋にいる、魚のような怪物じみた深海棲艦の本体ユニットが驚愕の表情でこちらを睨んでいるのが、初風にもはっきりと見えた。黄色く光る恐ろしい双瞼に初風は一瞬身震いした。

 

「き、気色悪いのよ!」

 

すかさず初風は前部二門の主砲で艦橋ごとその顔を吹き飛ばす。だがすぐに別のところから飛んできた敵弾の艦尾直撃を受けて、船が大きく揺れた。

 

「後甲板火災! 爆雷投棄」

 

もったいないことだが、誘爆を防ぐために艦尾の投下軌条に乗ったドラム缶のような爆雷をゴロンゴロンと全て海へ捨てる。撃ってきたのは左手前から向かってくる軽巡だった。

 

「やったわね! こっちにはまだ魚雷があるんだから!」

 

前部魚雷発射管を旋回させ、魚雷を三発放り出す。投射後すぐに面舵80度で右へ回避し敵から距離をとろうとするが、敵軽巡から乱れ撃ちされた機銃弾が初風の艦橋を襲った。窓ガラスが砕けとび、通信機や備え付けの大口径双眼鏡がメチャクチャに破壊された。体のあちこちが傷だらけになったが、羅針盤の下に伏せ銃弾直撃を避けた艦娘の初風は額から垂れる血をぬぐって立ち上がった。

 

「じょ、上等じゃない……。通信できなくなったけど、ま、まだやれるわ!」

 

間髪いれずに敵軽巡の舳先近くから大きな水柱が上がる。魚雷二発がほぼ同時に当たったらしく、艦首から艦橋構造物にかけて原型をとどめないくらい完全に粉砕されていた。そう長くは浮いていられないだろう。

 

――て、敵とはいえ、ぞっとする眺めね……

 

初風は喉元を押さえながら、息を呑んだ。

 砲弾も魚雷もまだ残っている。艦橋前にもうけられた12・7センチ主砲は損傷して機能を停止していたが、他の兵装はまだ健在だ。後部魚雷発射管ではクレーンと台車が格納箱から魚雷をつり上げて次発装填中で、前部発射管にはすぐに撃てる魚雷がさらに二本残っていた。

 無線電話や長距離無線も破壊されていたので、初風は左遠方で交戦中の長良へ発光信号を送りながら、次の敵を求めて周囲を見回した。艦尾の船体が損傷しているのでやや速力は落ちているが、機関はまだ元気だ。

 洋上は漏れた重油やそれに引火した炎、そして低く立ち上る無数の黒煙に覆われ、視界は悪くなってきている。口元を押さえながら、煙の帯を突っ切った初風は突如目前に現れた黒い影に思わず顔色を失った。

 それは、最初の一斉雷撃で惜しくも魚雷を当てそこねた二隻の敵戦艦タ級のうちの一隻で、甲板や舷側にずらりと並んだ無数の主砲、副砲がこちらへ真っ黒な口をあけている。

 

「……し、司令官、これはもう駄目かも……」

 

タ級の主砲が火を吐くと同時に駆逐艦初風の船体が四方へ飛び散った。




アニメ「ジパング」の戦闘BGMを聞きながら書いた部分なので、かなり悪ノリしてしまったかも。
ほぼオリジナルの「CA陣」なるものが、実際の戦いでうまくゆくかは大いに疑問の余地がありますが、物語進行上の都合としてお許しください。
提督と那智がなんでこんな方法を考え出したのかは、いずれ短編で書いてみてもいいかなと思っています。

※6/8訂正 弾薬の装填シーンで火薬の装薬を包んでいる素材を絹と書いていましたが、毛繊維に訂正しました。うっかり原稿なおしておくの忘れてしまった……(汗)
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