「………………うぅ……」
視界がぼやける。それに、あたりが暗いせいもあってよく見えない。
僕は……どうしてここに……?
何故か身体中も痛かった。しかしながら、重症というわけでもなく、体は動かせそうだった。
(そういえば……榛名さんと艤装の素材を採りに行ってて、野山の奥まで来て、それで……)
だんだんと思い出してきた……
僕は野山の奥にある崖の方まで行って、それで急に足元が割れて落ちてしまったんだ……
上を見上げると、少し明かりが見えた。
結構な高さから落ちてしまったようで、それでも重症にならなかったのは幸運だと思った。
「榛名さんは……この辺りにはいないようだね……一緒に落ちなくて良かった」
自分よりも他人の事を心配する安騎尭。体の痛みも少し引いたのか、どうにか立ち上がれた。
あたりを見回す。明かりは、上から射す陽の光しか無く、暗かった。
暗がりを手探りしながら歩くと、壁のようなものがあった。
安騎尭はその壁に沿って歩いていく。
暗がりでどこに向かっているのかはわからなかったが、安騎尭は進むしかなかった。
進んで行くと、急に壁の感触が変わった。
さっきまでザラザラとしていた感触が、まるで煉瓦を触っているかのような感触になる。
(全部の壁が変わったわけじゃない……ここから感触が変わってる。進んで良いか迷うけど、今はそれどころじゃないよね)
未だに自分がどこに進んでいるのかわからなかったが、それでも安騎尭には進むしか選択が無かった。
そのまま進んで行くと、視界が少し明るくなる。
暗闇に視界が慣れたのか、それとも奥の方が明るいのか、ともかく進んでいった。
どれくらい壁に沿って歩いたのか?
安騎尭は頭の片隅で思いながら進む。
すると、曲がり角が見えた。今まで真っ直ぐな道しかなかったが、曲がり角を曲がった方から明かりが見える。
安騎尭はそこに夢中で走りに行った。
曲がり角を曲がる。
安騎尭は唖然とした。
そこは広間になっており、そこから先には道は無い。
だが、そこはさっきの道とは比べ物にならないほど明るく、中央には祭壇らしきものがあった。
何も考えずに祭壇に歩を進める。4段ほどしかない階段に足を踏み入れると、祭壇が光りだした。
魔法陣みたいなものが浮かび上がり、黄色い光があたりを照らす。それはどんどん強くなっていき、目を開けられなくなった。
安騎尭は目を塞ぎ、腕で光を遮るように顔の前へと持っていく。
しばらくして手をどかして目を開けると、そこには何かが浮いていた。
それは、地球儀のようなものでその上に犬? のようなのが乗っていた。
安騎尭は出る言葉が無く固まっていた。
「こんな所に人間が来るなんて珍しいなぁ〜」
「へっ?」
突然の事に変な声を出してしまった。
目の前に動物のようなものが出てきて、それにいきなり話してきたところでやっと我に帰った。
「あ、あの……あなたは……?」
「ん? 僕のことかい? 僕はノームだよ」
「ノーム……? ノームって……まさか大地の精霊と言われるあの⁈」
「んー、だいたいそんな感じであってるかな〜」
驚いた……まさか精霊がこの世界にいるなんて……
確かに妖精がいる時点で驚きだけど……
(ノームって、結構知られている妖精だよね……そんな存在がこんなに近くにいるなんて……)
「そういえばー、君の名前は何て言うのー?」
「あっ、そうでした。僕は脩鴑安騎尭っていいます。なんていうか、その……」
「あー、そんなにかしこまらなくて良いんだよー」
「は、はぁ……じゃぁ、ここはどこなんですか?」
「ここー? ここは、僕が守る土地だよー」
「守る……土地?」
「うん、そうだよー」
僕は前々から思っていた。この土地は希少な薬草が多い。他のところでも見られる薬草もあるらしいけれども、ここの比ではないと聞いたことがある。
(この土地にこんなにも薬草が多いのは、土壌がとても良いからで、その土壌がいいのはここにいるノームのおかげで……鉱石がたまたま見つかったのも、ここがノームが守っている土地だから……)
これで納得がいった。
僕が住んでいる町は、規模は小さいけど、それでも薬草で有名になったこと。
それも全部ノームの恩恵のおかげだったんだって初めて知って、逆に、このことが世間に知れ渡ったら、探索する人たちで溢れて、やがてこの山が荒らされるかもしれない……
(これは……誰にもしゃべらないでおこう……)
その方がいいと思った。
「でもここ最近は安定しないんだよなー」
「安定しない?」
「うん、確かー……少し前からマナが安定しないんだよー」
「マナ? それって何?」
「マナは、この世界を構成しているものの一部だよー。それは当然、普通の人には見えないんだよー。僕たち精霊も、マナが沢山結集してできているんだよー」
マナについて初めて知った。この世界の一部をマナが支えていて、僕たちはそれを知らずに生きている。
僕たちからすれば、知らないことが当然で、精霊たちから見れば、マナが世界の一部を支えていることが普通だった。
(ん……? ちょっと待って……マナは普通の人には見えないって言ってたよね……このノームもマナが結集してできているって言ってた。なら……)
「何で僕は君が見えるの?」
「あー、確かにー」
これも、あの夢を見たせいなのかな? でもあの人はちゃんと人の形をしていたし……
「そういえば、君からマクスウェルの力が少し感じ取れるよー」
「マクスウェル……?」
「うん、僕たち精霊の主だよー」
「それって、髪が長くて白い?」
「そうだよー。でも、何で君がそんなことを知っているのー?」
僕は最近になって見始めた夢の事について話した。そしたら驚いた顔? をしていた。
「マクスウェルの夢を見たんだねー……なら、マクスウェルが言ってたことは本当だったんだね……」
「えっ?」
「マクスウェルが言ってたんだ。自分の目の前に小さな人間がいるんだって。その子は、笑顔で立っていて、それで今の現状を話したら、その子は、顔を変えずに『自分が何年かかってでもそれを成し遂げる』って。もしかして……君のことじゃないかなー?」
「ぼっ、僕⁉︎ でも僕、夢の中でそんなことを言った覚えはないし……」
そう、覚えがない……どことなく無責任だとは思う。申し訳ないことだけど、僕にはその力がない……
「そうかー……でもこのままじゃいずれ世界は滅んでしまうよー」
世界が滅びると言われても、スケールがでかすぎて実感がわかない。
(世界が滅びるなら……榛名さんも死んでしまうのかな……)
そう思った時、想像してしまった。榛名さんが、倒れて動かない場面を。
例え呼びかけても、返事をしてくれない、反応してくれない、体も……冷たくて……
「っ‼︎」
想像しただけで、恐怖を感じてしまった……
想像した自分を殴りたくなった。
(そんな未来は……嫌だ‼︎ 力が無いからって、最初から諦めたら何もできないじゃないか‼︎ 僕は……諦めたくない‼︎)
「ノーム‼︎ どうしたら僕は強くなれるかな⁉︎」
「んー、いきなりどうしたー?」
「僕には、大切な人がいるんだ‼︎ 町の皆もそうだけど、僕には、それ以上に守りたいって思える人がいるんだ。だから、その人の為に力がいるんだ‼︎」
「ふ〜ん、そうなんだ。まぁ話はわかったよ。君が言うように、強くなれる方法はあるよー。それはねー、僕たち精霊と契約をすることかなー。そうしたら、僕たちの力も使えるしー。ただ、それには代償が必要なんだよー」
「代償?」
「うん、代償だよー。それはねー……」
「……っ‼︎」
僕はそれを聞いて何も言えなかった。その代償が、自分の運命を大きく変えるものだったから……
でも、僕は契約した。
例え自分がどうなろうとも、この手で大切な人を守れるなら。