榛名と提督室である程度書類を片付けた後、俺は今日何も食べていなかった事に気付いた。と言うよりも、俺のお腹がなってしまったのだ。
榛名はそれを聞いて笑い、聞かれた俺はすごく恥ずかしかった。
そういう事で、俺は榛名と一緒に食堂に向かった。今日着任したばかりでもあり、ドタバタしていた事から提督室や集会室の場所しか知らない。まぁ歩いていれば見つかると思う。何しろプレートが貼られてあるしな……
歩いていると、食堂と書かれたプレートが貼ってある部屋にたどり着いた。お腹も丁度いいぐらいに空いていたし、何を食べようかと思って部屋を開けた。
が、そこには誰もいなかった。いなかったというのは、利用する側だけではなく、厨房に本来立つ者もいなかったからだ。
俺はそこからどういう事だと思い、館内放送で全艦娘を食堂に集めた。
数分後、食堂に艦娘が全員揃った様なので事情を聞かせてもらう事にした。
「俺が呼び出したのは……まぁ食堂に呼び出した時点で既に勘付いている子もいるかもしれないが、少し事情が聞きたい。まず1つめ……ここには何故誰もいない?」
この質問に着任早々俺に砲弾をぶっ放してきた長門が答える。
「実は……私達は食堂を使った事が無いのです……」
「なに……? それはどういう事だ?」
「私がここに着任した頃からですが、前提督は食堂を使用する事を禁止していました。先に着任していた子たちに聞くと、その子達が着任した頃も食堂は使用禁止になっていたんです」
「……なら君達はなにを食べてこれまで生きてきた?」
その質問に暁が答える。
「軍用レーションよ。それが朝昼晩と支給されていたし、それしか食べれなかったわ……外食も禁止されていたし、不味かったけど、それしか食べる物が無かったから……」
「……どうしてレーションだけだったんだ?」
「私が聞いた話だと……この鎮守府には莫大なお金が月にかかっているから、それを節約するためだと言ってたわ」
ブチッ‼︎
何かが切れた音がした様な気がした。
自分が聞いた話によれば、この鎮守府にはそれほどお金はかかっていないはずだ。それが維持費用でも、呉や横須賀鎮守府よりも大分少ない。
しかも、維持費用がかかる呉や横須賀であっても普通に各設備は回っている。という事は……ここは食堂以外も使われてないところがある可能性が……
「……2つめ……他に使われていない設備はあるのか?」
この質問には電が答える。
「ほ、他には入渠設備も使用禁止になっているのです……あそこはお風呂代わりでもあるのに使えないのがとても不便でしたが……節約のためだと言って使用できませんでした……」
ブチブチッ‼︎
「……他には?」
「あ、後は開発設備も差し押さえられたわ……それも節約のためだって言ってて……」
これに答えたのは夕張だった。その表情はとても不満気で、凄くストレスを抱えている様だった。
しかし……現時点でそのストレスを軽々超えるほど怒りを露わにしている人物がいた。
それはこの鎮守府に派遣されたばかりの安騎尭だった。顔を俯かせ、腕を組んだままそれ以降何も言わない。その代わり、体が物凄く震えていた。
「あ、安騎尭‼︎ 冷静に、冷静になってください‼︎」
その怒りを察知した榛名は安騎尭に冷静になる様に呼びかける。その呼びかける榛名でさえもオドオドしていたが、何とか安騎尭を正気に戻させようとする。
しかし……それは遅かった……
「あの……」
「あの屑提督がぁぁぁぁっ‼︎」
その怒気をはらんだ安騎尭の叫びは、その場にいるものの表情を凍りつかせる。不満気であった夕張も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、長門でさえもその有様だった。
「ウンディーネ‼︎」
安騎尭が怒気をはらんだ声でそう言うと、安騎尭のそばに青く光る粒子が集まりだしてどんどん人の形になっていく。そして現れたのは、肌も髪も青い色をした女性だった。髪の方は肌よりも濃いが、綺麗なのは間違いない。
「どうかなさいましたか、安騎尭様?」
ウンディーネは現れて早々安騎尭に聞く。安騎尭の方は顔を変えずに答える。
「こんな夜遅くに悪いが力を貸して欲しい。本当ならば君らに負担はかけたくはなかったが……」
「うふふ……安騎尭様は相変わらずでいらっしゃいますね。変なところで真面目と言いますか」
「こ、こほん! 今はそんな事よりもだが……力を貸して欲しい。できるか?」
「その質問は、野暮というものですよ? 私と安騎尭様は既に契約しています。そんな物、許可がいらずとも使えますでしょうに……」
「それでも俺は……そこら変はちゃんときておきたいからな」
「全く……頑固なところは相変わらずですね……でも私は、そんなところに惹かれてしまいましたからこの場にいるわけです。私の力、存分に使って下さい」
「ありがとう、助かる」
安騎尭とウンディーネが掌を合わせる。するとウンディーネは安騎尭に力を譲渡してその場から一旦消えた。力を譲渡された安騎尭は、行動に移る。
「まずは……この施設を掃除するっ‼︎」
安騎尭が両手を床に付けると、そこから水が勢いよく溢れ出し、瞬く間に食堂を埋め尽くす。
食堂にいた艦娘達は自分たちは溺れるのではないかと焦ったが、どうやら息ができたようで溺れる心配はないと判断した。
そうしているうちにどんどんと水が食堂の中央に圧縮される。部屋を埋め尽くしていた水が瞬く間に引いていき、今では指でつまめるほどの大きさになった。
安騎尭はそれを半透明のナイロン袋に入れる。
「さて……食堂の掃除はこれで終わりだ。榛名、少し買い物を頼まれてくれるか?」
「はい‼︎ 安騎尭のお願いなら榛名は何でも受け付けますよ‼︎」
「……何でものところが引っかかるが、まぁ良い。多分冷蔵庫に何もないと思うから、食材を買ってきて欲しい。それも大量にな。お金の方は俺の口座から出してもらって構わない」
「分かりました‼︎ では、早速安騎尭のお使いに行ってきます‼︎」
榛名はそう言うと、食堂から勢いよく飛び出していった。
「さてっと……次は各設備の確認だな。暁、響、雷、電の4人は、入渠の設備を確認して欲しい。確認し次第報告を俺のところまで、頼めるか?」
「少し時間がかかるかもしれないわよ? それでも良いなら引き受けるわ」
「あぁ、それで構わない」
「分かったわ。それじゃあ行ってくるわね」
響達4人は食堂から出て入渠設備の確認に行った。
「後は食堂設備と開発設備か……食堂は……」
「食堂の方は私たちの方でやっておくとしよう」
立候補したのは長門だった。安騎尭の事を完全に信頼した訳ではないが、設備を整えようとする安騎尭の姿に自分も何かしなければならないと思ったのだろう。
「なら食堂は長門に任せる。1人じゃ多分時間がかかるだろうから、人選はそっちの方で任せる」
「あぁ、私の方も確認したら報告しよう」
「それでお願いする。開発設備の方は、夕張が適任だな。どうだ、やれるか?」
「あら、着任したばかりなのに分かってるじゃない‼︎ 良いわよ。開発に関しては任せてよ」
「よし、なら任せた。俺はこの鎮守府内を全て掃除した後少し出る。そこまでは遅くならないから」
安騎尭はそう言うとまた床に手をつける。食堂に変化はなかったが、その代わりに鎮守府内が水で埋め尽くされ、埋め尽くした水は安騎尭の元に集まっていき圧縮。安騎尭は圧縮されたゴミをナイロン袋に入れて封をした。
「これで鎮守府内の清掃は完了したな。俺はこれから少し出てくる。報告はその時に頼む」
安騎尭はそう言うと食堂を出ていき鎮守府の外に出る。
外に出ると、安騎尭はあるところに向かって飛んで行った。
安騎尭が向かった所……それは自分の住んでいた町だった。だが、それは里帰りという訳ではなく、かつて自分が幾度も山菜を摘みに足を運んだ野山だった。
安騎尭自身、暗い野山の中に入るのは初めてだったが、明かりがなくとも周りの状況は手に取るように分かっていた。
昔よりも生い茂っている薬草、活発に活動している野生動物たち、微細な風で揺れる木々……
その中を安騎尭は進んでいく。昔では何時間もかかった道のりが、今では数分で奥地へとたどり着く。
そして安騎尭がこの地へと足を運んだ目的、それは万能薬を摘みにきたためであった。
昔榛名に使った事から、入渠設備に使えるのではと判断した。この薬草単一の効果だけでも榛名の傷が治るのだから、本来の設備と兼ね備えて使ったらどうなるか? 答えは簡単に導き出されるだろう。
しかし、安騎尭はこの地に来て驚いた。安騎尭の目の前には確かに万能薬がある。しかし様子が前とは全く違っていた。それは、万能薬が白に輝く綺麗な花をつけていたからだ。
たかだか過去2回しか訪れた事はなかったが、まさかこれほど綺麗な場所とは思っていなかった。正直摘むのは勿体無いとすら思っていた。しかし自分の目的は万能薬を摘みに来る事だ。
前提督の元で不当に扱われてしまった艦娘達の疲れを少しでも癒すためだ。そこは躊躇せずに摘んだ。
数分かけてある程度摘み終えた。しかし、花の輝きは失われずにいた。それに少しの感動を覚えながら帰ろうと来た道を戻ろうとすると、1匹の熊がいた。
その熊は、昔安騎尭を襲った熊だった。その証拠に、安騎尭が付けた傷が残っていた。
安騎尭は一瞬止まるが、熊には恐れもせず来た道を戻ろうと歩を進める。熊は動かないままだった。安騎尭が熊とすれ違う時、安騎尭は呟いた。
「じゃあな、熊公……」
安騎尭はその言葉を残して去って行った。
安騎尭は戻る途中、深海棲艦に襲われたものの、逆に返り討ちにした。砲弾を放ってくるだけで、安騎尭からすれば当てる気がないのかと思えた。彼らは本気で攻撃しているのだが、安騎尭が早すぎて追いつけないのだ。
それに痺れを切らし、安騎尭は敵が放った砲弾を掴むと、それを敵の方向に投げつけた。それも、敵が放つ砲弾の速度より何倍も早く……
これに深海棲艦は成す術もなく沈んでいった。
そして安騎尭は無事に帰還したのである。
今は提督室でそれぞれの報告を聞いている。
「食堂に関してですが、使う分には問題はないかと思います。ただ、水道が長年使われなかったせいで錆付いていて水が茶色くなっています」
「私たちの方は何も問題はなかったわ。お湯さえ沸かせば後は問題なく入れるわ」
「開発設備の方だけど……一部錆付いてて正常に機能できてないわ。代わりのものがあれば修理ができるんだけど……」
「ふむ……分かった。水道の方は俺がなんとかしとく。開発設備の部品の方も俺が用意しよう。修理は夕張に任せる。響達4人は入渠の準備をしてくれ。分かったな?」
「「「はい!」」」
「よし、なら早速食堂の設備を改築するとしよう」
安騎尭はそう言うと提督室から出ようとする。出ようとする前に、6人の方に向かって言った。
「そうだ、俺が改築している間は食堂に入らないこと。いいな?」
そう言って出て行った。
安騎尭は食堂にいた。周りには安騎尭以外誰もいない。
「さて……早速やるか。ノーム」
そう言うと黄色い粒子が集まって形を成していく。それは、地球儀に乗った犬の姿をしていた。
「久しぶりだな、ノーム」
「ん〜、久しぶり〜。と言っても、僕たちの方は普通に君のそばにいるんだけどね〜。それに頭の中でも話していたよね〜?」
「まぁな。俺が言ったのは、こうやって姿を見て話したのは久しぶりだと言いたかったんだ。さて、そんな事より、久々に力を貸してくれるか?」
「……それウンディーネの時も言ってたよね? 君は僕達を従えているんだから、僕達の許可なく使えるでしょ?」
「ウンディーネにも言われたな……だが、こういう所の癖は治ってないようでな……」
「ふーん、まぁいいや。分かった、君に力を譲渡するよ」
「ありがとう」
ノームの耳が安騎尭の手に触れると、安騎尭の体が山吹色に光る。
「よし、なら始めますか‼︎」
そう言って安騎尭は作業し始めた。
後半から変な形になったり、終わり方も変になってしまいました。すいません……
しかしながら今日は限界なのでまた次回にいたします。
お疲れ様でした。