「よし、これで食堂はリフォーム完了だな」
安騎尭は鎮守府の食堂をリフォームしていた。方法としては精霊の力を借りて行った。
本当ならばあまり精霊の力は使いたくないとは思ってはいるものの、近くに鉱物が取れる所はなく、また、夕食時であるという所から緊急のために使ったに過ぎない。
(それにしても榛名はいつ帰って来るんだ? かれこれ1時間は経っているが……)
「スーパーまでの距離はそこまで遠くはない筈だ……なら何らかのトラブルにあったのか? ……探してくるか」
俺はそう思って食堂から出る。出てすぐに長門とばったり会ったので、食堂はもう覗いても構わないと言った後、また少しの間留守にすると言った。30分で戻るつもりではあるが……
(少々嫌な予感がするのが気のせいであって欲しい……)
そう思いながら夜の街に出かけた。夜になってもこの街は賑やかで、何しろ明るい。人の数も昼間となんら変わらない。まぁ時間的にも7時ぐらいだから外食をしようって人が多いんだろうな。
(後はデートとかをする人が多いんだろう……)
普通に男女が腕を組みながら通りを通っていたりしていた。他にも、彼氏の方に彼女が寄り添いながら歩いていたり、ベンチで仲睦まじく座っていたりと様々ではあるが……
(それにしても人が多すぎて探しにくいな……ん?)
そう思っていた時、榛名の声が聞こえた。しかも路地裏のあたりからだ。そこから男の声らしきものも聞こえた。どうやらナンパとかの類なんだろう……
(……俺の大切な榛名に手を出すか……)
安騎尭は負のオーラを発しながら榛名の声がする路地裏に向かう。その際安騎尭の前を通りかかった人たちは、安騎尭から発せられるオーラを感じ取って道を開ける。道を開けた人たちは皆顔から冷や汗を流していた。デートの最中だった者でさえそうだった。
そして安騎尭が路地裏に着いた時に声がやっと明確に聞こえてきた。
「私は急いでるんです‼︎ どいてください‼︎」
「まぁまぁ、そんな事言わずに俺たちと遊ぼうぜ?」
「そうそう、夜はまだ長いんだしさ〜」
「だから私は急いでいると……」
榛名が見知らぬ2人組に言い寄られていた。艦娘は人とは違い、力は並外れだ。しかし無闇に人に暴力を振るってはならない。それが掟としてある。榛名はそれを忠実に守っているのだろう。でないと早々に鎮守府に帰っているはずである。
「いいじゃんいいじゃん。少しだけさー」
ブチッ
「だから嫌です‼︎ どいてください‼︎」
「そんな事言わないでさ〜、俺たちと遊ぼうよ〜」
2人組のうちの1人が榛名の手を掴む。
ブチブチブチッ‼︎
「オイテメェ……」
安騎尭は榛名の手を掴んだ男の肩を持つ。
「アン? 何だよ? 今いいとこ」
男の言葉は最後まで続かなかった。何故なら安騎尭の殺気がその男の脳を埋め尽くしていたからだ。ただ振り向いて相手の目を見ただけの事。それだけで安騎尭の殺気を受けた相手は、安騎尭の存在を得体の知れない……と言うよりも、最早理解不能の恐怖としか受け取れなかった。
その殺気を受けた相手は、意識をなんとか保ちながらも膝から崩れ落ちた。
「ひっ⁉︎」
これを見たもう1人の男はフリーズした。そして後ずさりしながらも逃げようとする。
「テメェも俺の榛名に言い寄ってたよな? 逃げようとするなよ下衆が……」
安騎尭はそう言いながらもう1人の男の方を向く。その時の安騎尭の目は赤くなっていた。
「あっ……ご、ごめ「ごめんなさいじゃねぇだろうが‼︎」ぎゃぁ……」
逃げようとしたもう1人の男にも尋常でない殺気(安騎尭は極限まで抑えている)を飛ばす。それによってもう1人も撃沈した。
「謝るぐらいなら最初からやるな……特にこういう事は……。後、テメェらがやった事はこの町の法律に引っかかってるからな。後は警察の人にこってり絞られろ」
安騎尭はそう言うと2人組に殺気を飛ばすのを止める。2人組は、今まで呼吸が出来ていなかったことに今更気づき、自分達が手を出してはいけない物に手を出した事を後悔した。。そして安騎尭に対しての恐怖心は心に嫌という程刻み込まれた。
「さて……警察には報告したし、後は……」
俺は榛名の方を向いた。彼女は未だに呆然としていたが、俺を見るや否や走ってきて抱きついてきた。
「榛名……大丈夫だったか?」
「はい、榛名はなんともありません……でも、少しだけ怖かったです……あの状態のままだったらと思うと、榛名は……」
「すまねぇな。怖い思いをさせちまったよな……俺の思慮不足だ」
「いいえ‼︎ 安騎尭は何も悪くありません‼︎ 悪いのは絡まれてしまった榛名の方で……」
「だから何も悪くないって。それより早く帰ろう。ご飯まだだしお腹空いてるだろう? 帰ったら美味しいもの食べさせてあげるから」
「……はい。では安騎尭、その、手を握ってもらえませんか?」
「もちろんだよ。というか喜んで、手を握らせてもらう」
俺はそう言って榛名の右手を握った。
「あっ……」
榛名の方は顔を赤面させていた。俺も恥ずかしくはあるが、榛名の方が恥ずかしく思っているのだろう。
「じゃ……帰ろうか?」
「はい……帰りましょう、安騎尭」
俺たちは夜の街を、手を繋ぎながら帰った。その時の榛名の手は温かくて、いつまでも繋いでいたいと思った。