入居施設に万能薬の成分を染み込ませた後、俺は自室にて書類を片付けていた。今俺が処理している書類の中には、今日の出撃で使った資材と、明日からこの鎮守府に着任する予定である艦娘の資料に目を通していた。
(ふむ……確かに今の戦力でも心配はない。しかし問題は家事の方面だな……)
いま安騎尭がこの鎮守府で問題としているのは、艦娘の戦力ではなく家事の方面である。元はここの先任をしていた、安騎尭曰く屑提督が招いた事である。
自分の私利私欲のために他を蔑ろにし、管理もせず、艦娘達をただの道具のように扱う。非常に嘆かわしい行為ではあるが、実際はこんな連中は多い。表向きは何も問題にはなっていないだろうが、裏を返せばそのような輩が多い。
これに対しては海軍本部を頭を抱えている。昔は深海棲艦から自国を守るために身を挺して任に着く提督がほとんどであった。
しかし、今は艦娘が確立化し、危機感も薄れてしまった。そんな中で生まれてしまったのが、ブラック鎮守府である。
私利私欲のためだけに艦娘を使う。そしてダメになったら直ぐに捨ててまた新しい艦娘を用意する……そんな鎮守府が多くなってしまった。
しかし、そのブラック鎮守府を指揮する提督からすると、自分たちは深海棲艦を倒し、海域を平和にしているから損害が出ても仕方がないと言えるだろう。艦娘達もそのためなら自分の命を投げ打って戦うとも言うかもしれない。
確かに表向きはいい事を言っているかもしれない……実際問題今の海軍は深海棲艦から海の平和を取り戻すためにあるようなものだ。それは一般の人達からも見たら、その人物が正しい行いをしていると思うかもしれない。
だが……安騎尭はそんな事を言う奴らが大が何個も付くほど嫌う。確かに、艦娘達を労わりながらも、海の平和を取り戻していく提督については構わない。しかし……
(表でそんな偉そうな事を語っていながら、艦娘達を自分の私利私欲のために使い、道具として切り捨てる奴は……人間として認めはしない)
確かに、故意ではない艦娘の轟沈は仕方がないのかもしれない……仕方がないというのは悪いかもしれないが、良くも悪くも予想外というものは起きてしまう……それでも、ただ単に捨て駒のごとく使うよりかは、提督は沈んだ艦娘の事を大事に思っていたのかもしれない。
ここで話は元に戻るが……安騎尭は今先任の屑提督がやらかした穴埋めをしている。本来ならば本部も携わらなければならないのだが……1つの鎮守府だけに構う余裕がない。だからこそ、安騎尭は1人で穴埋めをしているのである。その代わりとして、本部からもそれなりの支援はある。資材の提供や設備投資などなどあるが、今安騎尭が行っているのは艦娘の補充要員の確保である。
ただそれは戦力を揃えたいからではなく、この鎮守府の家事をある一定の水準に保ちたいからである。
戦力に関しては、今の所長門や榛名といった戦艦クラスの艦娘がいる。何よりも安騎尭自身が深海棲艦と戦う能力を持っているために戦力増強は必要ないぐらいだ。ただ家事は別である。
この鎮守府内で家事をまともにできるのは安騎尭と榛名ぐらいだろう。他の者達はその環境下に置かれなかったために、ノウハウがないに等しい。
そこで安騎尭は、本部に艦娘の補充要員を頼んだ。それも、家事のスキルが高い艦娘を希望した。
その希望は朝方には出しており、今返信が届いたのである。希望は了承され、明日には艦娘がこの鎮守府にやってくるという事だ。
「さて……諸々の書類は片付け終わったし、俺も風呂に入るか」
俺は提督室から自室に移ると、自室に何故かある風呂場に向かった。何故こんな直ぐのところに風呂場があるかは知らないが……先任の屑提督も元をたどれば人間だ。1日の疲れを癒すのは当然だろう……
そう思ってしまった俺を馬鹿だと思った。何故なら、風呂場が豪華過ぎるためである。
床と壁には豪華な装飾が施され、傍にはどこで発注したかは知らないがヴィーナスの像があったり、バスタブに限っては黄金だった。
ブチブチッ
これには安騎尭も切れかけるが、そこはなんとか踏みとどまった。
(……あの屑……艦娘達に対してはひもじい思いさせやがって逆に自分は贅沢か……反吐がでる)
安騎尭はこんな風呂場には入るたくないと思い、仕方がなく艦娘達が使う入渠設備の方で風呂に入ろうかと思った。今は深夜で、他の艦娘達は眠りについている頃であろう。
内心では申し訳ないと思いながらも、安騎尭は気味の悪い趣味が施された風呂場を後にし、入渠施設に行った。
入渠施設に安騎尭がついた頃、そこには誰もいなくて、使っている艦娘の姿もなかった。
安騎尭は入渠施設のドアに提督が使用中の木版をドアにかけると、タオルを持って風呂場に足を踏み入れた。だが安騎尭は今日1日の業務で疲れたが出たのか、自分が誰かにつけられているのに気づいていなかった。
安騎尭は石造りで出来た浴槽に背を預けて今日1日の疲れをとっていた。
「ふぅ〜……すげぇ気持ち良い……」
浴槽に両腕をのせてリラックスしていた。水温も丁度良く、万能薬も染み込ませてあるために疲れも早く取れそうであった。
(それにしてもこんな良い浴槽を使えなくしていたとは……あの屑提督今度会うようなら肉体的にも精神的にも地獄に送ろう)
そう安騎尭が思っていると
ガラガラッ
(なんだ? 扉が開くような音が聞こえた気がするが……いや、幾ら何でも気のせいだろう。俺が疲れて幻聴でも聞こえてるだけだな……)
安騎尭は扉が開いた音が気のせいだと判断し、再びリラックスしていた。その時
チャポン……
湯船が水音を立てた。しかし安騎尭は気にせず湯船に浸かる。しかし、それも突然終わった。
「安騎尭……」
「はっ? ってうお⁉︎」
なんと安騎尭の目の前に一糸まとわぬ榛名の姿があった。安騎尭は突然の事で驚く。
「なっ、なんでここにいるんだよ⁉︎ ていうか、扉に木版かけといたろ⁉︎」
「はい、確かにかけていましたね」
「な、ならなんで入ってきてるんだよ⁉︎」
安騎尭にそう言われた榛名は、目を切なげにしながら口を開いた。
「今日1日、榛名はとても寂しかったんです……」
「……」
「榛名が我儘だってことは、榛名自身が良く分かっています……でも、安騎尭がそばにいないととても寂しくて……」
榛名が言いたいことは分かっている。確かに今日はそんなに榛名の側にはいない。それは十分分かっている。だが、今の俺にはやらねばならないことが沢山ある……例え愛しい時間を使ってでも……それに……
「榛名……確かに榛名の気持ちも良くわかる。俺も正直言って、榛名とあまり触れ合えてなかったと思っている。でも今は、その愛しい時間を使ってでもやり遂げなきゃいけないことがある。それに、俺は「それ以上は言わないでください……」榛名……」
「私も分かっています……安騎尭が子供の頃にした精霊との約束で、いつかここから居なくなってしまうかもしれないことくらい……でも、だからこそ榛名は安騎尭との時間を大切にしたいんです……安騎尭がいなくてもやっていけるように……」
俺は、正直榛名の言葉が嬉しかった……榛名が俺の事を好きな事は俺も知っている。そして俺が榛名の事を好きだという事も榛名は知っている。
俺は初めて会った時、まさか相思相愛になるとは思ってはいなかった。だが、俺は今の時間がとても嬉しく感じる。あの小屋で1人でいた頃よりも……俺は嬉しく感じる。
だが、榛名が言ったと通り、俺は遠くない未来ここから居なくなる。覚悟は……完全にはできてはいない。だが、俺がやる事は変わらない。榛名と別れる事になったとしても、これは俺がやらねばならない事だから。
「安騎尭……」
榛名が俺の正面から抱きついてくる。俺の首に腕を回してくる。そうすると、榛名の豊満な胸が自然に俺の胸板にあたる……
(やばい……心臓がばくばくしてきた……)
「安騎尭の鼓動を感じます……それも物凄く早いです……」
「そ、それは当然だろ……直に肌に触れているんだから……」
「フフッ、確かにそうですね……でも榛名は、こうやって安騎尭と直に触れ合えて嬉しいです……」
「それを言うんだったら……俺も榛名とこう直に触れ合えて嬉しいよ」
「安騎尭……」
俺と榛名はしばらく見つめあった。そして徐々に顔と顔が近づいて……
「チュ……ハム……」
「ハムッ……チュ……ペロ……アムッ……」
昼頃やったばかりなのに……またディープキスしてるな……でも、悪い気はしない。いや、悪い気なんて起きるわけがない。
(それに……俺はいつの間にかこんなにも榛名を求めていたんだな……)
そう思った俺は、いつの間にか榛名を強く抱き締めていた。
「っ‼︎ あ、安騎尭⁉︎」
「悪い……だけど今は、こうしていたいから……」
「……はい、安騎尭がいいというまで、榛名もこのままでいますね」
「あぁ、頼む」
俺と榛名は強く抱きしめあった。その後は体を洗いあいっこした……だが、こればかりは凄く恥ずかしかった……