それではどうぞ。
足柄とデートの約束をした翌日、俺は早く起きて身支度を整え、本部から来ていた書類に手をつけていた。今は早朝の6時である。本来なら7時くらいに起きて作業をするのだが、今日は足柄と約束がある。午前中には必ず終わらせる。
その証拠に、今の所送られてある書類を半分近く終わらせていた。そんな時、提督室のドアが開いた。
「……安騎尭、おはようございます。今日はいつもより早くありませんか?」
「おぉ、榛名か。おはよう。まぁ今日は予定があるしな……」
「予定? 何ですか?」
「あぁ、今日は足柄とデートするんだ。昼からな」
「そうなんですか〜。足柄さんとデートなんですか〜……って、えぇ‼︎ デートですか⁉︎」
「あぁ、昨日足柄が合コン行ってたらしくてな。それでこっぴどい事を言われて泣いてたんだ。見てられなかったから、今日デートに誘ったんだよ。俺と過ごして心の傷が少しでも塞がればいいと思うんだが……」
「そうだったんですか……。それは悲しいですね……でも、安騎尭とデートすれば大丈夫です‼︎ だって、安騎尭の側にいると落ち着きますし、それに……温かい気持ちになりますから……」
「榛名……」
「でも、今度は榛名をデートに誘って下さい。榛名も安騎尭とデートしたいですし……」
「そうだな。じゃあ、この鎮守府の生活が安定して、俺と榛名がいなくてもちゃんと回っていけるようになったら行こうか。その方が、安心してデートできるしな」
「えぇ、なら、今回は私が鎮守府でお留守番します。でも、その代わりと言ってはなんですが……」
「あぁ、今日も一緒に寝るか。それに加えて、一緒に風呂にも入ろう」
「っ‼︎ はい‼︎ 安騎尭、足柄さんとのデートを楽しんで来てください‼︎」
「まぁ、最終的にはそうなるよな。あぁ、そうしてくる」
ここからは榛名も書類を一緒に片付けてくれて、本部から来た書類は昼前には終わった。
「安騎尭、昼は外で食べるんですか?」
「あぁ、その予定だ。まぁ、足柄とは正午に鎮守府の門前で待ち合わせてあるからな。今は……待ち合わせの30分前か。そろそろ行ってくる」
「分かりました。では、お気をつけて」
「ありがとう。榛名も、なんかあったら知らせてくれ」
「はい、分かりました。でも、連絡するって、どうすれば……」
榛名からそんな質問が出た。それで俺も思い出した。
(というよりも完全に忘れてたな……)
「……ずっかり忘れてた。少し待ってろ」
「えっ? 安騎尭?」
俺は自室に行った。そして、部屋の隅に置いてあったアタッシュケースを手にとって提督室に戻る。この間わずか10秒。提督室の机にアタッシュケースを置いて開く。
これは俺が本部から預かったもので、提督に着任したものは、鎮守府で最初に艦娘達に渡すようにとの決まりがある。俺はそれを榛名に言われるまですっかり忘れていた。
「榛名、すまないが、これを俺の代わりに艦娘達に渡してくれないか? 足柄の物は俺が渡しとく」
「安騎尭、これは?」
「これは皆で連絡がとりあえる携帯端末だ。有事の際を想定して作られた物だ。耐震耐水で、海水につけても壊れない。まぁ、携帯電話と同じ扱いでいい。それで本来なら着任当日に艦娘全員に渡さなければならないんだが……榛名に言われるまでそれをすっかり忘れていたよ。これは俺のミスだ」
「そんな……それは違います安騎尭。安騎尭は初日から忙しくやっていました。忘れることなんて仕方ないと」
「いや、仕方ないことじゃない。これが作戦で無かったから良かったものの、作戦だったなら大損害だ。だからこれは俺のミスだ。ということで榛名、俺に何なりと罰を課せたっていい。昨日言った通りな」
そう言われた榛名は一瞬どうしていいか分からなかったが、安騎尭がこうなるとテコでも動かないことを知っていた榛名は、口を開いて安騎尭に罰を課す。
「なら……なら、今ここで私にキスしてください‼︎」
「キス? それで良いのか?」
「はい。榛名は、それで良いんです。確かに榛名が安騎尭に頼めば、忙しい時以外のプライベートの時間帯でキスはできるって、正直思っているんです。でも本当は……榛名は、安騎尭が執務中の時でも甘えたいんです……」
「……そうか。でも今はもう……」
「今でも執務時間中ですよ。本来ならですけど……」
「……分かった。なら、榛名……」
「えぇ、安騎尭……はむっ……」
俺と榛名は抱き合い、そして唇と唇をくっつける」
「はむ……あむ……ちゅっ……ぺろっ……はぁぁ……安騎尭……榛名は……榛名は嬉しいです……」
「ちゅっ……あぁ、俺も嬉しいよ、榛名……」
そうして数分に渡ってキス……もといディープキスをした。最近は回数が増えたなと思いながらも、やはり榛名とのキスはとてつもなく甘い。一方の榛名は
「はぁ……はぁ……はぁ……もう、安騎尭のキスはとても良いです。本当はずっとしていたいんですけど……」
「まぁ、俺もそう思うところはあるが……」
「えぇ、今日は足柄さんとデートですものね。安騎尭、エスコートはちゃんとしてあげてくださいね?」
「……あぁ、分かってる。気を遣わせてすまないな」
「いいえ、榛名は当然の事をしたまでです。でも、今度は私をデートに誘って下さいね?」
「あぁ、約束だ。……チュッ」
「はい、安騎尭……あむっ……」
俺は榛名にもう一度口づけをする。
「それじゃ榛名、俺はもうそろそろ行くよ。それとはいこれ」
「これは?」
「俺の携帯の連絡先だ。登録しといて欲しい」
「っ‼︎ はい‼︎ 早速登録しときますね‼︎」
「頼む。それじゃ俺は行くよ」
「はい、行ってらっしゃい、安騎尭」
俺は榛名に見送られて提督室を後にした。
11時45分、俺は鎮守府の門前にいた。予定よりも15分早いが、女性を待たせるよりかは大分良い。そう考えていると、足柄が予定よりも早く来た。
「遅れてごめんなさい‼︎ 少し準備に手間取って……待った?」
「いや、俺も今来たところだし、正午になるまであと10分あるから、遅れてはないさ。それに、女性がいつも以上におめかしをするってことは、大切な予定があるからこそだ。まぁこれは俺の勝手な思い込みかもしれないけどな……」
「……実は当たり……」
「ん?」
「私……嬉しかったの。男の人から初めてデートに誘われて……それで準備に熱がはいっちゃったわ。それは、私にとって大切な日以外何でもないわ」
「そうか……ありがとな」
「えっ? どうして提督が感謝するの? 感謝するのはこっちの方なのに……」
「いやさ、こんなぶっきらぼうな俺なんかのデートを、大切な日だって言ってくれて。俺さ……それがすごく嬉しいんだよ」
「提督……」
「まっ、そんなわけでだ。もうそろそろ予定の時間になるし、行くか?」
「えぇ、行きましょう」
「あっ、行く前に、これ渡しとくよ」
「これは?」
「この鎮守府内にいる艦娘と連絡が取れ合える携帯端末だ。勿論、俺との連絡も可能だ。それとこれが俺の連絡先だ。登録してくれていたら嬉しい」
「……ありがとう。とても嬉しいわ……」
「さて、それじゃ本当に行くか。ほら、行くぞ」
安騎尭は足柄に手を差し伸べた。その手は、本来ならまだ昨日負った火傷の傷が残っているはずなのだが、その手は普通の人の手で、火傷の傷はどこにも無かった。
「ありがとう……」
足柄は安騎尭の手を握る。それを確認した安騎尭は、足柄に笑いかけて歩く。足柄は顔を赤くしていたが、とても嬉しそうにしていた。
それから街に出た安騎尭は、足柄を映画に誘った。ジャンルは恋愛もので、内容は、主人公であるOLの女性が付き合っていた彼氏に振られてしまい、それによって自殺を図ろうとした矢先、男性の先輩上司から電話がかかり、飲みに誘われる。それがきっかけとなり、主人公はその上司の事が好きになり、色々とアプローチをするも、なかなか振り向いてもらえない。それでも諦められない主人公は、先輩上司を休日にデートへと誘う。そして、最後に夜景が綺麗なところで告白をする。主人公の思いを初めて知った先輩上司は戸惑うが、主人公の恋心が本気なものだとわかると、その告白を受け入れ、彼氏彼女同士になるというものだ。映画は後半になると、2人の思いが少し食い違っていたり、誤解をしたりと険悪なムードになって行くのだが、それでも2人は互いの気持ちや思いを少しずつ理解し始め、終盤には主人公と先輩上司が結婚をしてハッピーエンドを迎えるというものだった。
映画を見る際、安騎尭は普通に見ていたのだが、足柄の方はソワソワとしていた。それを感じ取った安騎尭は、足柄の手を握る。突然の事で足柄は顔を真っ赤にするが、安騎尭に笑いかけられて、さらに顔を真っ赤にしてしまう。だが、足柄は心の中でとてつもない嬉しさに打ち震えていた。
映画を見た後は、レストランに行き少し遅めの昼食をとる。そこはおしゃれなレストランではなく、どこにでもあるファミレスなのだが、2人は楽しく昼食をとった。
次に向かったのはゲームセンターで、そこはいろんな種類の景品があった。まぁ、UFOキャッチャーでとる景品ではあったが……
そこで足柄はふと1台のUFOキャッチャーの前で止まった。その中には、結構な大きさのハムスターのヌイグルミがあった。
「ん? これ、欲しいのか?」
「えっ……いえ‼︎ 違うの。ただ気になっただけで……」
「気になったってことは、少しでも欲しいって思っていることだろ? 別に隠す必要なんてない。俺が好きなの取ってやるから」
「……そう? 笑わない?」
「笑わないって、何で笑う必要があるんだ? 女性だったら、可愛いものとか好きになっても当然だと思うが?」
「で、でも……私、外から見たらこんなに背も大きくて、大人っぽく見えちゃうし……」
「なんだそう言うことか。別に良いじゃないか。例え大人っぽく見えても、自分の好きなものまでそれに合わせる必要なんてないって、俺は思う。だから、な?」
俺は足柄の頭に手を乗せて撫でていた。足柄は顔を赤くさせて勢いよく顔を俯けさせていたが、まぁ、急にやられて恥ずかしいんだなとは俺も思う。
「……じゃあ……あの白いのを取ってくれる?」
「ん? あぁ、あの真っ白なハムスターな。分かった」
そうして俺は真っ白いハムスターのヌイグルミを取ろうとするが、なかなか上手く取れない。まぁ、その取り方っていうのが、ハムスターがくくりつけられている紐がプラスチック製の丸いリングに付けられていて、そのリングがつっかえ棒にかけられているというものだ。それをUFOキャッチャーのアームで少しずつずらして言って景品を落とすというものだったのだが、これが案外難しい。
でも、何回かやると慣れてきて、リングもさっきより大きくずれてきた。
「さて、これでラストチャンスと行くか」
俺はこれでラストと思い、百円玉を機械に投入する。リングはつっかえ棒のギリギリ端にかかっている程度で、後少しずらしただけで落ちそうだ。
まずはキャッチャーを横に移動させる。アーム部分がリングよりも少し向こう側に開くようにする。次に縦へと移動させ、リングにあたるところへと動かす。そして、ボタンから手を離すと、キャッチャーは自動で動く。アームがリングのギリギリ向こう側に行き、キャッチャーのアームがリング側に迫る。そのアームがリングに当たる。当たりどころが少し悪く、かすった程度に終わり、ヌイグルミは結局落ちなかった。
「……悪い、足柄。ヌイグルミ、取れなかったよ……」
「提督……良いのよ。私、提督が私のためにやってくれたことが嬉しいの。だから、落ち込まなくても良いの」
足柄は笑顔で優しく俺に笑いかけていた。と、そんな時、ガタンと音がなった。俺はその音に振り向くと、さっきまでつっかえ棒に引っかかっていたリングが無くなっていて、代わりに景品ゲットボックスに俺が狙ったハムスターのヌイグルミが落ちていた。
俺はそこからヌイグルミを取り出した。それを足柄に渡す。
「まぁ……この最後は運とか気まぐれだけど……受け取ってくれるかな?」
「……嬉しい……私、今すごく嬉しいっ‼︎ 提督‼︎ ありがとう‼︎」
「うわっ……と」
足柄はヌイグルミごと俺に抱きついてきた。首に手を回されて、満面の笑みで俺に抱きついてくる。その足柄の気持ちが……俺も嬉しいと思った。
俺は足柄に抱きつかれながらも、ある方向を見ていた。デートの序盤からこちらの事をつけている事は知っていたが、放っておいた。まぁ、こっちが最初からあっちがつけていた事を知っていたと話したら、あっちはどう思うんだろうな……
(まっ、榛名が俺の事を心配して頼んだんだろうが……もう少し忍べよ)
俺達の事を付けていた奴に俺は少しどころではない落胆を抱えながらも、俺は足柄とのデートを楽しんだ。
side 長門
私は数時間前に榛名に頼まれて、提督と足柄のデートを付けていた。正直気が気ではなかったが、榛名が今度の哨戒任務で駆逐艦の子達と編成できるように提督に相談してみると言われ二つ返事で引き受けた。
「それにしても、提督は女性とのデートに手慣れているのか? 榛名と長い時間を過ごした事は聞いた事はあるが……手並みが良すぎるだろう……」
本当に提督は何者なのだろうか? 私の砲弾を弾きかえすわ、深海棲艦と素手で戦って勝つわ、海を私達と同じ移動方法で進むわetc……
(……失礼だが、提督が段々人ではないように思えてきた……)
今は仲睦まじく手を繋いで道を歩いているところだ。が、そこにいきなり男の3人組が提督の前に現れた。何か口論……と言うより一方的に何か言われているようだが……
ここは私が出た方が良いのかと思っていた。
side out
俺は足柄と手を繋いで歩いていた。足柄は片方の手でハムスターのヌイグルミを抱きかかえ、すごく嬉しそうだ。そのまま楽しくデートを楽しもう。と、思っていた矢先……
「おぉおぉ、よくもまぁそんな女と付き合えるなぁ?」
「ひっ⁉︎」
いきなり俺たちの目の前に3人組の男が現れた。出てきたと思ったら、真ん中の男が何かわめいていた。だが、その一言に足柄は怯えていた。
「なぁなぁ、この前話してたのって、この女の事?」
「あぁそうなんだよ。どっからどう見ても……なぁ?」
「わかるわかる‼︎ どっから見ても30代のおばさんにしか見えないわ〜」
「だろだろ⁉︎ なのにこの女ときたら、いざ俺が優しくしたらすごく甘えてきてよぉ〜」
「なにそれっ⁉︎ 年考えれば良いのに‼︎ ギャハハ‼︎」
「それに香水がさ〜」
「そんなにきつくしてたんだ‼︎ あっははは‼︎ それだけ自分の体臭を気にしてたのかな‼︎ あっはっは‼︎」
その男どもは好き勝手に言う。そんな事を言われる度に足柄は目に涙を溜めていた。それで顔を俯かせる。俺はそれを見て……
ブチブチブチブチッ‼︎
我慢ならなかった。
「っ⁉︎ て、提督……?」
「あんな奴らの言葉に耳を貸さなくても良い」
俺は足柄の事を抱きしめていた。足柄の顔を俺の胸の位置に持って行き、強く抱きしめていた。抱きしめていても分かる。足柄はすごく震えていた。俺はその震えを止めるために強く抱きしめた。
「ヒューヒュー‼︎ 何々⁉︎ まさかのラブコメ⁉︎ いやー訳わかんないわ〜。そんな女抱いたって何にも「黙れゲス……」あ?」
「黙れゲスと言った……テメェ……自分が何したか分かってるか?」
「はぁ⁈ 何言い出すかと思えばそんな「分かってねぇんだな」さっきから何が言いたいんだよ⁉︎」
「お前知ってるか? 鎮守府が併設する街だけにある法律だけどな……艦娘に暴言暴力、その他の侮辱行為は即刻威力業務妨害、並びに名誉損害で逮捕されて裁判所行きだって事だ。そっからは軽罰なんて存在しない……重罪で罰せられる」
「はぁ? それがどうしたの? 別に俺はそんなの関係「関係はあるぞ」はぁ?」
「何故ならお前が昨日も今日も馬鹿にしたこの娘は、艦娘だからな……」
「意味わかんなーい。そんな証拠ど「これが証拠だ」っ⁈」
俺はゲスに向かってある物を見せる。それは足柄の身分を証明する物で、所属する鎮守府とそれを証明する本部の判子が押されてある。
「な……う、嘘だろ⁉︎」
「嘘じゃねぇ……本物だ」
「で、でも‼︎ どうやって俺が侮辱した事を証明するんだよ⁉︎ 俺が口を開かなかったらそんな事わかる訳「ゲスはやっぱりゲスだな。と言うより救いようがないな……」なんだと⁉︎」
「ほれ、これが証拠だ」
俺は携帯を取り出し、ボイスメモ機能を使ってある録音を流した。それは、さっきまでゲスどもが足柄に向かってあるほざいた暴言の数々……ゲスどもは顔を青ざめさせていた。
「さて、これを警察に届け出れば、お前はもう刑務所行きは確定だ。さて、どうする?」
俺がそう問うと、真ん中のゲスが懐からナイフを取り出してこっちに走ってきた。
「ふっ、ふざけるなぁ‼︎」
そんな言葉を発しながらこっちに向かってくる。目は血走っていて、冷静な判断ができてないようだったが……
(そもそもこんな言葉遣いや思考のゲスが冷静な判断できるなんて思わないが……)
そんなマイペースな考え方をしながら、俺は足柄の前に立ちはだかってかばう。まぁ、そもそもあっちは俺を刺す気でこっちに向かっているんだろうが……もしもがある。
そしてゲスは俺の腹を刺そうとナイフを突き付ける。そして
ザシュッ
「あっ……」
足柄は声を発した。何故なら、安騎尭の体から血がポタポタと流れていたからである。目の前の両者はどちらも動かないでいた。足柄は動揺を隠せないでいた。目の前で、提督が血を流している……しかもそのまま動かない……
(そっ……そんな……提督が死ぬわけ……)
足柄の目から涙が溢れる。ゲスと一緒にいた2人も固まっていた。だが、固まっていたのはその2人だけではない。安騎尭にナイフを突きつけたゲスも固まっていた……と言うより顔が青ざめていた。それは、自分が人を殺してしまったという後悔の表れだろうか? それとも……
「……罪を重ねるか……ゲスらしい……」
「えっ……」
足柄は俯けていた顔を上げていた。見ると、確かに今も安騎尭の体から血は流れている。しかし、地面に落ちる血の位置が変わっていた。少し左側に血が落ちていたのである。
「というか、こんな物で俺を殺せると? それは楽観的な考えだな。でも残念……」
なんと安騎尭は左手で突きつけられたナイフを握っていた。しかも刃先をである。それを自分の肩と同じ位置まで上げると、刃物を握り潰す。
「ひっ⁉︎」
刃物を握り潰されたゲスは、さらに顔を青ざめさせる。安騎尭はそのゲスに向かって腹パンをする。それも、結構な力を出して……
スパンッ‼︎
「がっ⁉︎」
「今殴ったのはほんの序の口だ……それでこっからが本番だ‼︎」
安騎尭はゲスを蹴り上げる。ゲスは中に浮かび、安騎尭もまた飛び上がってさらにゲスの腹へ膝打ちを入れる。それをすることでさらにゲスは中に浮かび、それをもう2回程繰り返す。高さが上空7、8メートルまでなると、安騎尭はゲスより少し高くまで上がり、そこから足を振り上げ、そしてゲスの背中に叩き込む。そしてそのまま叩き込んだまま地面に重力+αで落下する。落下した時に物凄い土埃がまい、それが晴れるとゲスは痙攣しながら口から泡を履いていた。
「お前に暴力をふるったのは、俺にナイフを突きつけたからじゃねぇ。俺の身内を侮辱したからだ。それと、聞こえてないだろうから言っても意味ないとは思うが……俺の身内に対する侮辱行為は地獄行きと思え……ゲスが」
安騎尭はゲスから足をどかした後、ゲスといた2人組を睨む。
「「ひっ‼︎」」
「お前らも侮辱したよな? なら……タダで済むと思うなよ?」
安騎尭はそう言うと、2人組の目の前に瞬時に移動し、2人の顔を掴む。そして、顔をぶつけあわせる。2人はそれだけで気を失う。
「さて……ゲスどもは警察に突き出すとして……足柄、大丈夫だったか?」
「……か……」
「ん? なんだ?」
「馬鹿‼︎ なんでそんな無茶するのよ‼︎ 私……貴方がナイフを突きつけられて、貴方の体から血が流れた時……もしかしたら死んでしまうんじゃないかって……そう思ったら私……」
「……そうか。心配かけたみたいだな……」
「それどころじゃないわよ‼︎ 私……私‼︎」
足柄はそう言って安騎尭に抱きついていた。顔を涙でぐしゃぐしゃにし、安騎尭の胸に顔を埋めていた。
「……悪いな……不安にさせた……ごめんな」
「うぅ……ばか……」
俺は、足柄の頭を右手で撫でた。不安を取り除くようにゆっくりゆっくりと撫でた。