榛名と一緒に入浴した後、俺はベットの上に寝転がっていた。まぁ、これも榛名と一緒に寝ると約束でこうしているわけだが、また榛名に少し待っていてと言われてこうしている。
風呂から出た後、榛名は自分の部屋に戻っていったようだが、着替えは用意していたし、俺の中ではなぜ戻る必要があったのかが疑問に思っている。
(それにしても気になる……。一緒に寝るのなら、風呂から出て着替えればすぐの話。だが榛名は一旦自分の部屋に戻った。……考えても分からないな……)
そうやって考えていると、ドアをノックした音が聞こえ
「安騎尭、遅くなりました。中に入っても良いですか?」
「ん? あぁ、入って良いぞ」
「では……失礼しますね?」
ドアが開かれる。開いて入ってきたのは、いつも通りの姿の榛名ではあったが……
「寝間着じゃないのか?」
「えぇ、今日はこの格好で一緒に眠らせていただきます」
何時もならば寝間着で寝るはずなのだが、何故か榛名が着ているのはいつもの服で……
「まぁ、寝るときは寝間着でないといけないという規則は無いし、気分転換というやつかな?」
「まぁ、そういう意味で捉えてくれれば嬉しいです」
「そうか……。なら、明日も早いし、今日は早く寝てしまおう」
「えぇ、では……」
榛名は俺の横に腰掛ける。その後は電気を消して寝る準備に入った。俺と榛名は一緒に毛布の中に入る。すると榛名が
「安騎尭……今日は少し暑いですから上を脱いでも良いですか?」
「……ま、まぁ別に良いが……」
そうして榛名は上着を脱ぎ始めた……のだが……
(し、下着が黒⁈)
そう、榛名の下着が黒なのである。何時もならば白とかの下着を着ていることが多い(普段は胸をサラシで巻いてはいるが……)しかし今日は黒い下着である。
(なんというか……肌が白い榛名に黒い下着を合わせると、肌がより一層強調されて……目のやり場が……)
「どうしたんですか安騎尭? ふふ、まさか、榛名の下着姿に照れているんですか? とても可愛いです」
榛名はそう言いながら俺の頭を撫でてくる。確かに頭を撫でられるのは嫌ではないし、逆に気分が良い。だが、近くに榛名が、それも黒の下着姿というなんとも奇抜な格好で撫でてくるから自然と顔が赤くなって熱くなる。
「今度は顔が赤くなってきましたね……。安騎尭は照れ屋です……」
今度は俺の頬を両手で包んでキスをしてくる。最近ディープキスをする事が多くはなったが、今はいつもより激しく、妖艶に榛名はしていた。それに比べ俺は榛名に為すがままにされていた。
「うむ……はむ……チュ……あむ……ん……はぁ……チュッ……はむ……ぺろっ……」
何回目かの息継ぎでようやく榛名のキスは終わったが、多分この様子じゃまだ続きそうだな。でも、今回は本当に積極的だな。
「はぁ……はぁ……ふふ、安騎尭とこうやってキスしていると、なんだか体が火照ってしまいました」
榛名は頬を赤く染め、トロンとした目で俺を見てくる。そして、榛名は次に俺の耳元に顔を近づける。
「は〜む……ぺろぺろ……」
「っ⁈」
榛名が俺の耳を舐め始めてきた。なんというか、今まで一緒に過ごしてきて、キスしたりハグしたり抱き合ったりする事はしてきたが、耳を舐められたりはなかった。というか凄くくすぐったい‼︎
「はむはむ……安騎尭震えてますね? くすぐったいですか?」
と、そんな意地悪な事を聞いてくる。まぁ、俺も常日頃というわけではないが、榛名をからかった形になってしまったりするから、不満などはない。と言うより、こんな可愛い子にイタズラみたいな事をされて、不満になる事があるだろうか? そう思う奴は、面倒臭がり屋か、女性に興味が無い奴か、女性恐怖症でありながらもイタズラを我慢して受ける奴ぐらいだろう。生憎俺はどれにも該当しないし、好きな相手であり、自分の事を好きだと言ってくれる相手にそういうようなイタズラをされるのは、いやという感情は持たねぇし、逆に嬉しく思う。
相手にイタズラしたい程、その相手の事が好きであるという証拠だし、何より榛名のはイタズラと言うよりも甘えだろう。だから一切の不満なんて無い。
「安騎尭、左手はどうですか?」
「左手?」
「長門さんから聞きました。足柄さんとデートの最中に不良に安騎尭たちが絡まれて、安騎尭が足柄さんを庇って左手を負傷したって……」
「あぁ、もう治ったし、傷も塞がったよ。ほら」
俺は左手を見せる。入浴した時は包帯を外しはしなかったが、あの時には傷は塞がっていた。足柄のハンカチも既に洗濯済みだ。
「……良かったです……。安騎尭に傷跡が残るような事がなくて……。でも、痛かったでしょう?」
「まぁ、少し痛かったよ。でも、足柄が負った心の傷よりかは何倍も痛く無い」
「本当に……安騎尭は優しすぎますよ……。でも榛名は、安騎尭がその優しさでいつか壊れてしまわないかとても心配で……」
榛名の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。今日は満月で、その光が窓から差し込んでいて、それが涙を浮かべている榛名を照らしていた。その様子が、とても不謹慎ではあるが、神秘的に思えてしまう。
でも俺は同時にこう思う。俺の大切な人には、心から笑って欲しいと。まぁ、俺が原因で目の前の榛名は泣きそうになっているんだが……それでも心から笑って欲しい。
そうなるためには、心配をかけさせないことが一番だって分かってる。でも、俺はいつも心配かける立場で……情けないって普通に思う。そう思っても、俺の生き方は多分死ぬまで変わらないって思う。
(いや、死んでも変わらない気がするな……)
まぁそんな事を思っているわけだが、どうすりゃ良いのか正直分からない。だが、うじうじと悩むつもりもない。そう悩むよりも、俺なりに前に進んで、大切な人達が心から笑ってくれるように……そうしてくれるようにするだけだ。まぁ、多分心配はかけちまうだろうけど……
でも、何もしないよりもマシだ。それで今は榛名の事だ。まだ涙を流してはいないし、さっきも思った通り神秘的に見えるが、榛名は笑顔が一番だ。
俺は榛名の目尻に薄っすら溜まっている涙を親指で拭い抱きつく。
「安騎尭?」
「いつも言ってて聞き飽きたかもしれないけど、それでも言うよ。いつも心配かけてごめんな? 自分でも情けないって思ってる。それで、心配ばかりかけて何言ってんだって思うかもしれないけど、俺は大切な人に心から笑って欲しい……。もちろん榛名にも、そう笑って欲しい」
「……本当に……安騎尭は……優しすぎます……。自分の事よりも、榛名や他の人の事ばかり考えて……」
「そんなの当然じゃねぇか。自分が平穏であるより、大切な人が笑顔でいる方がずっと大切な事だよ」
「……榛名は、榛名は安騎尭がそんな事を言ってくれてとても嬉しいです。だから……言いますね」
榛名は少し離れて俺を見据え、そしてさっきのように涙は浮かべず、優しい笑顔で言った。
「安騎尭……榛名は、貴方を愛しています」
そうして俺にキスをする。榛名のキスは、とても甘かった。
そして俺も、それに応える。
「俺も榛名の事を愛している」