深海棲艦達を迎い入れて1週間が経った。最初は艦娘達も警戒していて、気まずさがあった。それは仕方ない事ではあるし、そうなってしまったのは俺の責任だ。
しかしながら今はそうでもない。少しずつであるが、艦娘達と深海棲艦達が話し合う姿を見かける。そこには笑みも見え始めて、少し安心した。まだ時間はかかるだろうが、これがこの鎮守府での日常になればと思う。いや、欲張って言うなら、人と深海棲艦が分かり合える日が来ればと思う。それこそ何年何十年とかかるだろうが……
(それでも俺はそうなる日が来ることを信じたい)
この頃そう思って仕方がない。
単純でない事は分かっている。中には深海棲艦に恨みを持っている人達も大勢いるだろう。俺も、過去に親を深海棲艦に奪われた。奪われた時は、俺もまだ小さくて恨みとかの感情は湧かなかった。それから少し大きくなって、引き取られた町長から俺の親が深海棲艦に奪われた事を知らされて、少しは恨んでいたかもしれない。
だが、今は違う。そんな思いはとうにない。彼女達も被害者だ。できることなら救いたいと今思っている。
自分の頭の中でこうは思っているが、矛盾はしている。海の平和を守るために、海軍は深海棲艦と戦う。そして俺も海軍に属している。そんな俺が深海棲艦も救いたいと思っているのは、海軍からしたら裏切り者だと言われても仕方がない。
それでも、俺個人の思いは変わらない。この思いを、俺は貫き通す。何が何でも、俺がどれだけズタボロになっても、俺の心だけは変わらない。
(俺にとっての大切な者は……守り通す……)
そう思っていた時、提督室の扉がノックされた。俺は許可をしてこの部屋に通した。入ってきたのはル級だった。
「提督、一応受け持った施設は掃除したぞ」
「ん、ご苦労様だ」
俺が保護している深海棲艦達には、一応家事を任せている。ル級には任せた施設の掃除をしてもらっている。ここ1週間はそんな感じで日常が動いている。こちらからとしては本当に助かっている。
俺が精霊達の力を使って直ぐに終わらせるというのも出来るが、それはそれで精霊達にも申し訳ないし、何より艦娘達が掃除を覚えれないだろう。実際艦娘達には自分の部屋ぐらいは掃除するように言ってある。それぐらいは自分たちでして欲しい。自分の将来に関わってくることだからな。
「それで……提督……」
「ん? どうした?」
「少し……頼みたい事があるのだが……」
「頼みたい事? まぁ、俺にできる範囲なら良いが……」
「そこは問題ない。誰にもできることだから……」
「そうか……それで、頼み事は?」
「そ、その……だな……」
ル級は顔を俯け、瞳だけをこちらに向けてくる。所謂上目遣いで安騎尭を見つめる。その様子は、普段なら見られないであろう顔で、戦場で出くわしたなら絶対に見せないであろう顔だった。
そしてル級の顔は、安騎尭を上目遣いで見ながら頬を赤く染めていた。両手は自分の胸の高さに持ってきており、ギュッと握りしめていた。こんな様子も絶対に見ることはないだろう。この状況が完全に貴重である。
「その?」
「その……頭を……撫でて欲しいのだが……」
「なんだそんな事か。良いよ」
「そう……だよな……迷惑……って……えっ?」
「だから、良いよ。それぐらいの事、断るわけないだろ?」
安騎尭はそう言いながら椅子から立ち上がり、ル級に近づく。そしてル級の頭に手を乗せて撫でる。
「あっ……///」
ル級はさらに頬を赤く染める。さらに肌が白い為、それが露骨に現れる。
「どうだ? 気持ち良いか?」
「は、はい……とても……気持ちが良いです……」
頭を撫でられているル級は、気持ち良さから目を細める。勿論こんな様子も見られるものではない。
「あまり遠慮なんてするなよ?」
「えっ?」
「深海棲艦になってしまったとはいえ、もう俺にとっては家族のようなもんだ。俺は家族の頼みを無下にはしないさ。ル級も、まだこの環境に慣れていないかもしれないけど……俺には素直に甘えたい時は甘えて欲しい」
「提督……」
「それと、そこの扉から覗いている榛名もな?」
安騎尭がそう言うと扉が開き、榛名が姿を現わす。
「……さすが安騎尭ですね」
「当然だ。何年一緒にいたと思ってる? それぐらい分からないわけないだろ?」
安騎尭はそう言い、今度は榛名に近付いて抱き締める。
「あ、安騎尭⁉︎」
「この1週間、榛名も我慢してたんだろ? 最近は俺に甘えてきてなかったし、それも俺が大変そうだったからだろ? でもな、そんな気遣いはいらないんだぜ? その気持ちは確かに嬉しい。でも、我慢している榛名や他の艦娘を見るのは嫌なんだ。だから、いつでも甘えて欲しい」
「安騎尭/// 分かりました。安騎尭がそう言うなら、榛名は存分に甘えさせていただきます」
そう言って榛名も安騎尭を抱き締める。安騎尭は笑みを浮かべながら榛名を抱きながら頭を撫でる。
「あぁ……安騎尭///」
榛名の目はトロンとたれ下がり、頬は真っ赤に染まる。そして安騎尭の胸に頬擦りをしていた。この1週間物凄く我慢していたのだろう。安騎尭の邪魔にならぬように秘書をしてきた。それは至って普通の日常ではあるが、そこに甘えるという行為はなかった。いつもであるなら、甘えたり甘えられたりするのだが、今回は新しい体制を整える為に安騎尭は様々な事をしていた。
海軍本部には今回の事を報告し、今鎮守府で預かっている深海棲艦を自分の所で保護できないかなどの申請を出していたりした。それは過去にない例であったりもして、最初は海軍本部からは即刻深海棲艦達を処分するようにとの勧告があった。
しかしそれには納得できず安騎尭はさらに交渉を続けた。その結果、海軍本部の元帥から特例として今回の事は片がついた。しかしながらそこには様々な取り決めもあり、それを全部守る事ができたなら深海棲艦を安騎尭の保護下で活動させても良いというものであった。勿論安騎尭はそれを承諾して今に至っている。そこに至るまでが、物凄く大変なものであったのだが……
「この1週間、我慢させて本当に悪かったな」
「いえ……良いんです。榛名はただこうして安騎尭が側にいるだけで……」
「それでも寂しい思いをさせたからな。だから今日は、一緒に寝ないか?」
「えっ……良いんですか?」
「あぁ、寂しい思いをさせたのならそれなりの責任は取るさ。まぁ、こんな事で取れるかなんて分からないけど……」
「そんな事ないです‼︎ 安騎尭にはなんの責任もありません。榛名は分かっています。安騎尭の思いを……安騎尭がこの世界をどうしていきたいかを……」
「榛名……ありがとう」
安騎尭は強く榛名を抱きしめなおす。榛名はそうされる事によってさらに甘える。
これは見ていたル級もいつの間にか頬を赤くしており、小声で羨ましいと呟くのだった。