橆諳髃です。
2016年になってだいぶ経ち、挨拶も遅れ、小説の投稿も遅れてしまい申し訳ありませんでした。
少し怠惰気味になっていた事は認めますし、非難されても文句は言えません。
それでも「また読みに来たぞ」という読者様には感謝で一杯です。ありがとうございます。
さて、今回は今年初投稿という事で、内容としては「ん?」と思うかもしれませんが、精一杯書かせていただきました。
それでは、ご覧下さい。
赤城と加賀を鎮守府に入れる事を承認した安騎尭は、その数時間後に自分の鎮守府に所属する艦娘達をホールに集めていた。そのホールは、安騎尭が就任した時に使用した部屋だった。
安騎尭は館内放送で艦娘達をこの部屋に集まるようにと指示し、それを聞いた艦娘達は続々とホールに集まっていた。
「館内放送で誰かを呼び出す事はあるけど、こうやって皆を集めるなんて珍しいわね」
「そうね。この前討伐任務があったばかりだから、それの祝勝会でもしようってことかしら?」
「う〜ん……確かにそれもありえるわよね。でもそうなったら、足柄は浮かれてお酒飲みまくるんじゃない?」
「うっ……確かにそうかもしれないわね……。ここ最近お酒飲んでないし……」
「提督に体たらくは見せられないからって見栄はっちゃって」
「っ/// なっ、何言ってるのよ⁉︎」
2人でそう話しているのは、軽巡の夕張と重巡の足柄だった。足柄は合コンに行って以来お酒は飲んでいない。その合コンの日から数えて今日で2ヶ月ぐらいが経とうかという日であり、足柄はこの2ヶ月間お酒を口にしていない。
足柄というとお酒好きのイメージがある。月に2、3回ほどは飲んでいるのではなかろうか? それともそれ以上の回数は飲んでいるだろうか? それは兎も角として最低月に1回はお酒を飲んでいるだろう。
しかしながら安騎尭の鎮守府に所属する足柄はここ2ヶ月ほどお酒を口にはしていない。これは極めて稀なケースである。
「そ、そういう夕張だって、遅くまで工廠に入ってなんかやってる様だけど、それってもしかして提督にプレゼントでも作ってるの?」
「〜っ/// どうして知ってるのよ⁉︎」
「えっ? 本当に作ってるの?」
「あっ……言っちゃった……」
「ま、まぁこの事は誰にも言わないわよ。それに提督だって喜ぶだろうし」
「……そうかな? 提督、喜んでくれるかな?」
「えぇ、喜ぶと思うわ。というよりも、提督に下手な贈り物を送らない限り大丈夫よ」
「そうだと良いんだけど……」
軽巡と重巡の2人はこんな調子で話していた。
一方の戦艦長門と軽空母の鳳翔はというと……。
「提督が来て2ヶ月か……。ここでの生活も変わったな」
「やはり以前の生活環境とは慣れませんか?」
「いや、寧ろ私はこっちの生活の方が気に入っているな。昔よりも出撃回数は少なくなったが、それでも今の生活の方が良い。戦友がいつの間にか居なくなるのはもう耐えられないからな。それに……」
「それに、なんですか?」
「それにな……
駆逐艦の子達と触れ合えるんだぞ……」
「……えっ?」
「前の提督ではこんな事はあり得ないな‼︎ それに奴ときたら、私の大好きな子達を戦場に躊躇いもなく送り出す始末だ。どれほどこの手で殺めてやろうと思ったか……。それに比べたら今の提督は何千倍もマシだな‼︎」
「あぁ……そうなんですね……」
鳳翔はそう答えるしかなかった。長門がそう言ってた頃……。
「っ⁈ なんか一瞬寒気がしなかった?」
「そうかな?」
「私も少し感じたわ」
「電も感じたのです。なんかこう……ゾクッとしたのです」
暁型4姉妹は長門の発言に寒気を感じていた。暁達に長門の台詞は届いてはいないが、そう感じていた。
そして部屋の隅っこの方ではというと……。
「私達はここにいて良いのだろうか?」
「でも提督は僕達にも来る様にって放送してたし……」
「そうそう、そんなに気にしなくても良いんじゃないかしら?」
「ヲッヲッ!」
深海棲艦4人がヒソヒソと話していた。上から順にル級、レ級、タ級、ヲ級で、ル級に関しては自分達がこの場にいて良いのだろうかと不安に思っていた。しかし他の3人はそれ程気にしている様子もなく、ヲ級に至っては何を言っているのか分からなかった。兎も角として、深海棲艦達はここに来て約1ヶ月ほどが経ち、鎮守府にも慣れ始めていた。
と、各々でそう話していた時、部屋の扉が開かれた。そこから入って来たのは安騎尭と榛名で、2人はその部屋に設けられた少し高めの舞台の上に立つ。そして安騎尭は舞台に設置してあるマイクの前に立った。ただ安騎尭はマイクを使う気はなく、少し離れたところにマイクを置いた。榛名はその斜め後ろに立ち、手は前にして甲を見せる様にしていた。
「皆、集まってくれてありがとう。多分皆も察しているとは思うが、今日はこの前の討伐任務が無事に終わった事を祝して、この後祝勝会をやろうと思っている」
その言葉に艦娘達は歓喜した。何しろそんな体験自体初なのだ。歓喜しないほうがおかしい。この鎮守府に所属する艦娘は少ない部類であるが、それでも盛り上がっていた。
「それだけ喜んで貰えると俺も嬉しい。まぁ、それは後だ。その前に、君達に紹介したい」
安騎尭がそう言うと、部屋の扉が開かれる。そこからは、この鎮守府に入る事が決まった赤城と加賀が入室してきた。
「紹介しよう。今回の討伐任務で知っている者もいると思うが、今日からこの鎮守府に配属されることになった赤城と加賀だ。皆も仲良くしてくれたら嬉しい」
「一航戦の赤城です。今日から宜しくお願いします」
「同じく一航戦の加賀よ。赤城さん同様宜しくお願いするわ」
赤城と加賀は一礼をし、それを見ていた艦娘達は拍手を送る。そして赤城と加賀は扉から離れて部屋の空いている空間に行った。
「新しい仲間も加わった所で祝勝会に入りたい事は山々だが、もう少し待って貰いたい。先に話したい事がある。それは、俺の過去に関してだ」
安騎尭がそう言った瞬間に、艦娘達はざわついた。赤城と加賀は先にこの事を聞かされていたために驚いてはいない。しかしながら安騎尭の過去を聞くのは初めてだ。それはここにいる艦娘達も同様である。唯一安騎尭とこれまで一緒に暮らしてきた榛名だけは、目を閉じて安騎尭が自分の過去を語るのを待っていた。そして、安騎尭は語りだした。
「まずは、俺の生まれから話そう。俺の生まれは、薬草が有名な町でな……親子で幸せに暮らしてた。5年間ぐらいはな」
「5年間……ですか?」
「あぁ、5年間だ」
夕張がそう聞き返す。
「俺が5歳の時、旅行で家族と一緒に遊覧船に乗っていたんだ。遊覧船に乗っていた記憶ははっきりとはしないが、まぁ楽しんでいたんだと思う。でもその旅行の最中に、俺は深海棲艦に襲われた。生き残ったのは俺だけだったと聞いているよ」
「「「っ‼︎」」」
それを聞いた榛名以外の艦娘は、安騎尭の言葉に驚きを隠せないでいた。その中でもル級達は、その言葉を聞いてやるせない思いでいた。特にル級はここにいて本当に良いのだろうかと思っていた。
そう思ってしまうのも無理は無い。何せ自分達を拾ってくれた提督の両親を自分達の同胞が殺してしまったのかもしれないのだ。その提督が自分達の事を少なからず、心の何処かで恨んでいたとしても仕方ないとル級達は思った。
だが、彼女らの思った事は安騎尭の言葉で覆された。
「でも、勘違いしないで欲しい。確かに俺の両親は深海棲艦達に襲われて命を落としたかもしれないが、俺は深海棲艦達に恨みなんてこれっぽっちも持っちゃいない。それにこれは他人から聞いた話だ。それが本当かどうかすら俺には分からない。だから深海棲艦を恨む理由なんて無い。例え俺の両親がそれが原因で命を落としても、俺は恨まない。だから、気に病んでいる子がいるのなら、どうか気にしないで欲しい。ル級達は、どう思っているかは分からないが、もしも自分達の所為だと思っているなら、そう思わないで欲しい。特にル級、顔に凄く出ているからそれ以上深く考え込まないように」
そう言われたル級は、自分の考えていた事がいつの間にか顔に出ていた事と、安騎尭に指摘された事で急に恥ずかしくなり、顔を赤くしていた。
「まぁそれはそれとして、そんな事があった後の3年間は、他の人の助けを受けて生きてきた。そんな時に榛名に会ったんだ。それからは、榛名と一緒に暮らしてきた。養成学校時代もずっと俺の側に居てくれた。まっ、榛名との関係を簡潔に言うならこんな感じだ。でも俺が言いたかったのはこの事じゃない。ここからが本題だ」
安騎尭はここで言葉をきる。そして、艦娘達は次の安騎尭の言葉に今日何度目かの驚愕をした。
「俺は、いつになるかは分からないが、この世から消え去る事になる」
「「「っ⁉︎」」」
「き、消え去るって……どういう事なの⁉︎」
暁が動揺を隠せない表情で言った。
「そのままの意味だ。それで、なんでそうなったかと言うと、榛名と会って数日が経った頃だ。俺はある夢を見た。これも少し曖昧な夢でな。今でもあの夢の中に出てきた人がどんな人なのか分からない。だが俺はその夢の中でこんな約束をしたらしい。この不安定になっている世界を救うと」
「えっ? でもちょっと待って。もしも提督がその約束をしていたとしても、消える事はないんじゃないの?」
夕張がそう言う。それを聞いた他の艦娘達も確かにと頷く。しかし安騎尭は首を振った。
「いや、残念ながらそれはないんだ。この世界を救う。それと同時に俺はこの世界から去らないといけない。それを、精霊と初めて契約した時に聞いたんだ」
「なんで⁈ どうして提督がここからいなくならないといけないのよ⁉︎ そんなの……」
「それなんだが……どうやらあちらの世界でも色々あるようでな、今まで何とかこの世界を維持してきたらしいが、この世界の歪みが大きくなって、次第にはあちらの世界……まぁ仮称して精霊界と呼ぼう。そこにもその影響が出始めたようだ。それで今は、この世界を支えている精霊の長が何とか踏ん張っているようだが、その精霊自身老体に近い。だから代わりの奴が必要なんだ。例えこの世界の歪みを消し去ったとしても、その精霊がこの世界を維持できる力をまだ持っているのか分からないし、力がいつ元に戻るかも分からない。その間か、それともずっとか分からないが、俺はこの世界での歪みを正した後間違いなくこの世界から去る事になる」
「……」
「そんなの……そんなのおかしいよぉ……」
「提督と会ってまだ少ししか経ってないのに……雷は寂しいのです……」
「他に方法はないのですか? この世界にとどまれる方法は……」
安騎尭が語った事に、艦娘達はそれぞれの反応をする。順に、長門はどう言葉をかけていいか分からずに沈黙をし、夕張は涙を流し、電も寂しそうにしていた。鳳翔は提督がこの世界にとどまる方法はないかと聞いた。この瞬間にそんな都合の良い方法が無いとしても、そう聞かずにはいられなかった。多分ここにいる艦娘達は皆そう思っただろう。
しかし、安騎尭はその期待には答えられないという風に首を横に振った。
「いや、その方法は無い。歪みを正した直後か、あるいはそれから少し経って、俺は強制的に精霊界へと行く事になると思う」
安騎尭の言葉に、予想はしていたものの榛名を除き艦娘達は俯いた。しかし、安騎尭の言葉はそこで終わらなかった。
「だが、俺はこの世界には未練がある‼︎」
「……未練?」
「あぁ、未練だ。俺の未練は、この世界が艦娘、深海棲艦関係なく皆が幸せに暮らせるようにする……それを叶えることだ‼︎ だから例えそれが叶わないまま精霊界に行った時は、俺は何年掛かってでもこの世界に戻る! それにこれはほんの一例だ。やり残した事はまだまだある‼︎ だから君達にも言いたい」
安騎尭はそこで言葉を切り、そしてありったけの想いを込めて言った。
「今自分でやりたい事は、直ぐに行動に移して欲しい! 自分が後悔する前に! 俺は後悔しないためにも、俺がやるべき事を精一杯やる‼︎ だから君達にも、これからこれ以上に頑張って欲しい‼︎」
安騎尭のその言葉に、艦娘達は先程のような悲しげな表情を一変させていた。安騎尭自身、この後は祝勝会もあるのでこの雰囲気のまましたくはなったという理由もあって、最後に艦娘達を鼓舞するような言葉を投げかけた。
それならば最初からその話をしなければ良いと思うかもしれないが、安騎尭は早めにこの事を言いたかった。自惚れてはいるが、安騎尭は艦娘の子からは好かれていると薄々思っていた。幼少の頃からずっと過ごしてきた榛名はそうだが、先程この鎮守府に配属が決まった赤城と加賀からは告白された。つまり安騎尭の知る限りでは、この鎮守府内に最低3人は安騎尭に好意を寄せている。
それ以外にも、先の討伐作戦で夕張と足柄が小声で言っていたことも耳に入っていた。だからこの2人も安騎尭の事が好きである可能性は高い。
そんな理由もあり、安騎尭は自分の事を話し、最後に艦娘達を鼓舞するような言葉を言った。最後の言葉は自分が後悔しないためというのも含まれてはいるが、何よりも自分の所属している鎮守府の艦娘達、安騎尭からすれば家族のようなものだが、その家族には後悔して欲しくない。その想いから最後の言葉を発したのだ。
「さて、これでしんみりした話はおしまいにして、この後は待ちに待った祝勝会だ‼︎ 18:00から始めるから、皆遅れずに食堂へ集合するように‼︎ 以上、解散‼︎」
安騎尭はそう言ってその部屋を後にし、榛名も安騎尭の後ろから付いて行った。
そこから少し歩いた時、榛名は安騎尭に言葉を投げかけた。
「全く、安騎尭も強引に終わらせますね」
「それは俺も悪いとは思っているさ」
「ふふふ、でも……そこも安騎尭らしいところではありますよね」
そう言って榛名は安騎尭の前に来て安騎尭の頰を両手で包む。
「安騎尭……キス……しても良いですか?」
「……あぁ、良いぜ」
「安騎尭……チュ……」
榛名は安騎尭の顔に自分の顔を近づけそして口づけをする。一瞬という短い時間ではないものの、2秒くらいで榛名は安騎尭から顔を離した。
「……もう良いのか?」
「はい。今は……ですけど」
「そうか。なら続きは、祝勝会が終わった後にするか?」
「はい。それと、今日も一緒に寝て良いですか?」
「勿論。良いとも」
安騎尭は榛名の肩に手をやって抱き寄せ、榛名は安騎尭の肩に頭を乗せた。
その後は祝勝会が行われた。安騎尭の事に関しては残念という想いが艦娘達の胸の中にある。しかし、それ以上に最後に安騎尭が言った言葉が胸の内に強く響いていた。自分が後悔しないように、やりたい事はやる。当たり前のはずなのに、その言葉が強く印象に残っていた。だから艦娘達は思った。この提督に一生付いていきたいと。例え提督がこの世界から去ったとしても、自分達が付いて行くのはこの提督だけだと。
そんな思いもあり、祝勝会は大いに盛り上がり、その雰囲気は祝勝会が終わっても続いた。