そして今週からテストに入るという事で、またあきそうです。
まぁ、それはそれとして、ご覧下さい。
祝勝会が終わって少し経った。安騎尭はいつものように書類を片付けていた。
討伐任務で使った資材、新しくこの鎮守府に配属することになった赤城と加賀の報告書などだ。
しかしながら安騎尭の作業する速さは元から早いためにそれもすぐに片付いてしまった。後することと言えば、午後に送られる海軍本部からの書類ぐらいである。それに付け加え、艦娘達から何らかの事に誘われたらそれに付き合うつもりだ。
そう、安騎尭の日常はこれまでとは少しも変わっていない。ただ変わった事があったとすると……。
「あの……提督……」
「ん? どうした?」
「いや、大したことじゃないんだけど……今日は私が秘書艦になっても良いのかなって……」
「いや、別に良いだろう? それにこれはクジ引きで決めた事だ。誰も文句は言わないさ。それに榛名もそう決めて良いと言っていただろう?」
「そ、そうだけど……」
変わった事というのは、秘書艦の事についてだった。この約2ヶ月間は初めて安騎尭が提督に着任したとあって榛名が秘書艦をしていたが、祝勝会が行われていた時に足柄が酒に少し酔った勢いで「私も秘書艦したいー‼︎」と言ったのがきっかけで、他の艦娘達も秘書艦をしたいと言い始めた。それで日毎に秘書艦を変えようという事になり、1日の終わり……夕食後にくじ引きをして秘書艦を決めようという事になった。勿論、深海棲艦達もその中に入っている。そして、祝勝会後に行われたクジ引きで決まったのが夕張である。
「でも私……自信なくて……」
「自信が無い……か。なら、どうしたら自信を出してくれるかな?」
「えっ? えーっと……」
夕張は安騎尭の問いにどう答えたら良いのか迷った。自分で自信が無いと言った事は紛れも無い事実なのだが、どうしたら自信が出ると言われても困ってしまう。そして夕張がそのまま答えられないでいると……。
「よし、なら質問を変えよう。俺に何かして欲しい事はないか?」
「えぇ⁈ て、提督に⁉︎」
「あぁ、俺に出来得ることならやろう。何でもは無理だが……」
安騎尭がそういったことに対し、夕張は先ほどと同じく考えた。しかし、前の問いの様に長くは考え込まずに安騎尭の方に顔を向けた。
「な、なら……今日1日は、私の頼み事を聞いて欲しい……かな……」
(は、恥ずかしいっ……)
夕張は頬を赤くしながら言った。指をもじもじと絡ませ、体は僅かながらも揺れる。この一言は、夕張にとっては実に勇気のいる行動だった。
side 夕張
この鎮守府に新しく提督が配属されると知らされた時は、その提督に対して何の興味も湧かなかった。当然提督の名前は知らないし、顔も分からない。何たって、ただ新任の提督が来るという事を知らされただけだし、噂だとこの前養成学校を卒業したばかりだっていう情報しか知らされなかった。
でもそんな事は些細な事で、真面目に提督業をしてくれるなら私は文句は言わない。前任のと比べるとマシかぐらいに思えたならそれで良いと思った。
新任提督着任当日、私達はいきなり大広間の部屋に呼び出された。新任の提督が挨拶するとかで呼び出されたけど……。
それで艦娘の大体が集まった時に部屋の扉が開いた。そこから入ってきたのは若い男の人と、金剛型の榛名という艦娘だった。どうして海軍では名の知れた艦娘がその男の人と一緒に入ってくるのか私は分からなかった。そんな疑問に一瞬ふけっていると、長門がいきなり男の人に砲弾をぶちかましていたわ。その行動には正直驚いたわ……。
でも、それよりも驚く事があったの。その長門の砲弾を、男の人は驚いた様子もなく素手で弾き返したの‼︎ 砲弾は偶々開いていた窓から出て行った。それから何事も無かったかのように、男の人は新しく着任した提督だって紹介した。
提督が着任してから約2ヶ月くらい経ったけど、なんか前までの生活が嘘みたいに感じられてしまうわ。昔はただ提督の言うことばかり聞いて、戦いに赴いては生きる事に必死だった。それがとても辛かった。
今でも戦いに赴く事はあっても、昔のように辛くは感じない。だってそこには、最前線で指揮してくれる提督がいるから。遠征の時は流石に提督も一緒に付いて行ってはくれないけど、重要な任務の時はいっつも最前線で指揮して戦ってるの。そんな姿が、私はかっこいいと思った。
(だからかな……私が提督の事を好きになったのは……)
勿論、それだけで好きになったわけじゃないわ。最初は工廠の設備を整えてもらった時。自分の身体を顧みずに錆びたパーツを直してくれた。本部に送れば良いだけなのに彼はそうしなかった。提督は「前任提督のやらかしたツケを清算する」って言ってた。でも私は、そんな事はしないでも良いんじゃないかって思ったの。だって前任は前任でしょ? ツケはそいつがしないと意味がないって思う。それでも提督の意思は変わらないようで、私は馬鹿正直な人だなって思ったの。
(まぁ、そんな馬鹿正直な提督の事が私は好きになったんだけどね)
それからというもの、私の頭の中から提督が離れない。何をしている時でも提督の事が頭の中に浮かんでくる。朝昼夕に食堂にいる時も、提督の姿を探したりしてる。それで見つけた時は、何だかホッとする。それだけじゃない。提督を見かけた時にホッとするのもそうだけど、提督が笑った顔、何か考え事をしている顔、真剣な顔、あまりないけど怒った顔、それら全部私は大好き。ただ泣いた時の顔は見たことないかな。見てみたいって思うけど……。
(多分提督も泣いた顔は榛名さんにしか見せないんだろうな……)
こんな事を思うと何だかちょっぴり寂しいような、そんな感じになる。でも、提督と榛名さんはお似合いだし、長年連れ添ってきたパートナーって感じだし、私が入る隙は無いって普通に思えてくる。だから私は遠くから提督を見れていればそれで良いって思ってるの。まぁ、会話は日常生活の中で何回かやってるけどね。
それなのに……。
(何で私は提督の秘書艦やってるの⁉︎ 嬉しいんは嬉しいんだけどさ‼︎)
昨日の祝勝会でクジ引きをして私が当たりを引いちゃったから今日1日秘書艦をやる事になったんだけど、なにせやったことも無いし……。それでぎこちなくしていると提督の方から話しかけてきて、「何かして欲しいことは無いか?」って言われたわ。それに対しては答えれたけど、答えた後はものすごく恥ずかしい……。
そうやって目をギュッと閉じていると、私の頭の上に何か温かくて柔らかいものが置かれた。目を開くと、提督が私の頭に手を置いていて、そしてゆっくりと撫でてくれていたわ。
(あぁ……この感触……凄く好き……)
思わずうっとりして目をまた閉じた事は言うまでも無い。
side end
夕張の頭に手を置いて撫でたら、夕張は目を閉じて嬉しそうにしていた。言うなれば猫を撫でている様な、今はそんな気分だな。それで手を夕張の頭から離すと、夕張は残念そうな顔をした。まぁ、さっきの答えを言おうか。
「今日1日夕張の言う事を聞く事についてだが……良いぜ。まぁ何でもは期待しないように」
「えっ? 良いの?」
「勿論だ。それにな、俺は君達の事を既に家族だと思っている。だから今日1日じゃなくて、普通の日常生活でも、俺にやって欲しい事があったら言ってくれ。まぁさっきも言ったように、何でもは無理だけどな」
「ほ、本当に? ……嬉しい」
夕張は顔を赤くして喜んでいた。あぁ……やっぱりこういうのを見てると何だかこっちも嬉しくなるね。榛名の時も勿論そうだが、こう相手が嬉しくしているのを見るとこっちも嬉しくなるし、俄然やる気も湧いてくる。
「あっ! そうだったわ‼︎ 私提督に渡す物があるの‼︎」
「俺に?」
「うん‼︎ 少し待ってて‼︎」
そう言って夕張は提督室から勢いよく飛び出していった。それにしても俺に渡す物って何だ? まぁ後で分かるか。
それから2、3分して夕張が帰ってきた。そして手には布で包まれた長い物があった。
「その……これ開けてみて」
「えっ……あ、あぁ」
俺は夕張からそれを渡されて、包んであった布を取る。そこには2振りの日本刀があった。
「提督さ……出撃の時にいつも何も持たずに素手で戦うじゃない? だから……」
俺の身を案じてかそう言ってくれた。確かに素手で戦うってのは誰しもできる事ではあるが、そもそも深海棲艦に素手で戦えるのは艦娘ぐらいだ。というより人間が深海棲艦に素手で勝てるわけがない。艦娘にもそれは適用されるだろう。
だが俺はそれを可能としている。精霊と契約したために身体能力が向上しているのは当然だが、体を鍛えていないという訳ではない。寧ろ長年鍛えてここまでになった。そして深海棲艦相手に素手で戦える事ができた。
でもここで疑問に思うだろう。何で態々素手でやるのか? と。理由は簡単だ。深海棲艦達の恨み、悲しみ、辛かった事を直接感じるためだ。そこに武器の間接的な手段を用いてしまえば、彼女達の想いが分からなくなってしまう。だから俺はあえて武器を持たずに素手で戦っていた。まぁその間接的な手段は銃火器などの遠距離武器に限られる。刀や槍などの近接武器であれば、武器越しにでも相手の想いは伝わる。
ただし、その武器が深海棲艦の攻撃に耐え得る強度を持っていればの話だ。そんな武器は早々ある訳でもないし、作るのにも特殊な加工や技術、時間、それに作成者の努力が必須になってくるだろう。
だが目の前のものは見た瞬間にわかる。
(これは……中々のものだ)
2振りの日本刀は鞘に収められてはいるが、それでもこの刀が凄いという事が分かる。いや、分かってしまう。
「……鞘から出しても良いか?」
「えぇ、勿論よ」
夕張から一応許可をもらい、まずは長い刀から抜いてみる。その刀は、まるで包丁のように刀身の幅が広かった。そして黒よりも更に深く濃い黒で、まるで見た者を引き込むような物だった。持つところは包帯のような黒い布で巻かれていた。そして何と言っても特徴的なのが、鍔がない事だ。その代わりに本来鍔がある筈の所はくの字に曲がっていた。それも鋭く。
次に脇差くらいの刀を鞘から抜いた。刀身は普通の脇差と比べても同じくらいだ。そして色は白かった。何にも負けない様な白さ。美しいとしか思えなかった。そしてこっちにはちゃんと鍔がある。しかしその形は珍しかった。七芒星の形をしていて、所々にも細かい細工がしてある。持つところには、先程の黒い刀と同じ様に白い布で巻かれていた。
「どう……かしら」
「……」
「て、提督?」
「ん? あ、あぁ……ついつい見惚れていた」
「そ、そう? 喜んでもらえてるかな?」
「あぁ勿論だ。というより、こんな刀見た事ないな。名前は付いてあるのか?」
「その刀の? いや、付いてないけど……」
「なら、俺が今ここで付けて良いか?」
「えっ⁈ 名前付けてくれるの⁉︎」
「当然だろ? それに、夕張がこんな良い物を作ってくれたんだ。名前が無いとなんか失礼に思えちまうしよ。そうだな……名前名前……」
安騎尭はそこから少し考え、そして……。
「よし決めた。黒い方は夕黒〈ゆうこく〉で、白い方は雪張〈せつは〉だ」
「名前の由来は?」
「由来? まぁシンプルなんだが、夕黒の方は、刀身が黒い。それも見た物を魅了する様なな。俺も見た時、その刀身のあまりの深い黒に魅入った。だから夕黒って名付けた。それで雪張はこれもシンプルで、雪の様に白い刀身、それに付け加えて鍔の加工も雪の結晶の様に細かくて美しい。だから雪張だ。なんの捻りもなくて申し訳ないんだが……」
「ううん。私もそれで良いなって思うわ」
「そうか? まぁそれでもう1つこの名前にした理由がある」
「もう1つ?」
「あぁ。もう1つだ。俺はこの刀に……夕張、君の名前を使いたかった」
「えっ……あっ!」
「まぁ、嫌じゃなければ良いんだがな……」
「……ゃないわ」
「えっ?」
「嫌じゃないわ! それに……とても嬉しい‼︎」
「うおっと⁈」
夕張は安騎尭に勢いよく抱き付いた。それも安騎尭の手に刀があるにも関わらずだ。幸い刀身は上を向いていたから良かった。安騎尭は夕張の行動に驚きはしたが、一旦落ち着いて刀を鞘に仕舞う。そして夕張を抱きしめ返す。
「ありがとな、夕張」
「良いの。私も提督が貰ってくれて嬉しいし。それで、ね。いきなり悪いと思うけど……頼み事、聞いてくれる?」
「あぁ、良いぞ」
「なら……私と……キスして」
「……あぁ」
そして安騎尭は夕張の頬を手で包み、顔を近づけて夕張の唇に自分の唇を押し当てた。
「チュ……」
その時間は短いものだったが、夕張は満足そうに微笑んでいた。
「提督……これからもよろしくね」
「あぁ、こちらこそだ」
刀の切れ味なども書きたかったのですが、キリの良いところで終わらせておきます。
尚、刀の形はBLEACHの斬月などにそっくりじゃないかなと自分でも書いていて思いました。
しかしながら、私の想像では斬月より大きくはありません。普通に日本刀より少し長くて大きい程度です。
それではまた会いましょう。