それではどうぞ。
「な、なぁ……足柄……」
「……お姉さんよ」
「えっ?」
「私の事、お姉さんって呼んでくれないと返事しないわ。勿論、私と2人きりの時だけ呼んでくれれば良いの」
今の俺の状態は……多分察してくれているとは思うが、未だに足柄の胸の中に抱かれている状態だ。それも、最初よりも抱きつきは強くなって、頭も優しく撫でられ続けている。確かに嬉しいことに変わりはないが……そろそろ業務に戻らなくてはならない。だが……。
(足柄の事をお姉さんと言わない限り、何も変わりそうにないし……仕方がない)
「お……お姉……さん」
「……」
どうやらはっきり言わないと返事をしてくれないようだ。こちとらお姉さんという単語を言うのが恥ずかしいというのに……。こうなったら恥とかどうとか言ってられないな。
「ね、姉さん」
「な、何かしら?」
足柄が反応してくれた。顔を上目で見てみると、足柄の顔が真っ赤になっていた。自分からお姉さんと呼んでと言ったくせに、いざ言うとこんな風に顔を赤くする。可愛いのは確かなことであるが、今は仕事をしないとな。
「もうそろそろ仕事の続きをしないか? こういう事は、まぁ俺が忙しくない限りできるしさ。だから、早く仕事とか終わらせて、後はゆっくりと休もうよ」
「そ……そうね。確かにそうよね。早くやる事済ませてやった方が、その後は……」
足柄の「その後は」に続く言葉は聞き取れなかったが、顔を見るとなんか考えているようで……。
(というより考えてる顔しか見えない……)
まっ、足柄も離してくれたし、早速本部から来た書類を片付けようか。
その後安騎尭と足柄は本部から届いた書類を片付けた。安騎尭はいつも通りの作業スピードであったが、足柄に至っては午前中よりも早くなっていた。しかしながらミスはなかった。
その後は足柄と一緒に食堂に行き、一緒の席に座る。すると……。
「こんばんは、安騎尭。隣に座っても良いですか?」
「おぉ、榛名か。あぁ、良いよ」
「ありがとうございます。では」
そう言って榛名は俺の右に座ってくる。一方の足柄は俺の左に座っているために、俺は榛名と足柄に挟まれた形で座っていた。
「足柄さん、今日安騎尭の秘書艦をしてみてどうでしたか?」
「え? そ、そうね。秘書艦を初めてやったから、失敗したらどうしようかって心配してたけど、上手くできたみたいで安心したわ。それに、分からないところは提督に聞いてできたし、提督の教え方がとても分かりやすかったから、難しい事もできたの。今度秘書艦をする時も、今日以上に頑張りたいわ!」
「そうですか‼︎ それは何よりです。それとですね、もう1つ聞いておきたい事があるんです」
「あら? 何かしら?」
「正直に言って欲しいんですけど、安騎尭の事を、足柄さんはどう思います?」
「て、提督の事を⁈ う〜ん……そうね……」
そんな会話を聞きながら、俺は頼んだ醤油ラーメンの麺を啜っていた。なんで醤油ラーメンかっていうと……今はそんな気分だからだ。誰だってあると思うが、今日は唐揚げ食べたいなとか、ラーメンが食べたいなとか、そう思う時があるだろ? それと同じようなもんだ。
まぁそれはさておき、俺がラーメンを啜っていると、足柄が榛名からの問いに答えた。
「そうね。私は提督の事、好きよ。大好きよ! それも異性としてね」
「そんなんですか。足柄さんも、安騎尭の事が好きなんですね」
「えぇ、大好きよ。確かに榛名とは、提督と過ごした時間とか全然違うし、提督の事をよく知っているのも榛名だとは私も思うわ。でも、この提督を好きだって気持ちは……誰にも負けたくないの」
「……そうですよね。やっぱり恋をして、自分の好きな人を他の人も好きだと知ると、その人に負けたくないって気持ちになりますよね」
「えぇ。それに、提督の事を好きな艦娘は他にもいるでしょう? だから、提督に振り向いてもらえるようにもっと自分を磨いていくわ! 戦場でも恋でもどっちともね」
その答えはとても前向きのものに思えた。最初来た時は、当然の事ながらそんな前向きな事を、艦娘達から聞こえなかった。前の屑提督のせいで自分の事に自信を持ったり、楽しい感情を持つ余裕がなかったせいだって分かってる。それがここ最近になって艦娘達の意識が変わった。昔の自分と変わるために、今を楽しく生きるために。それが……俺は嬉しい。
「やっぱり皆さん変わりましたよね。最初よりも皆さん自分の目標を持つようになって……」
「それは当然よ! だって、こんな有能で優しい提督がそばにいてくれるんだもの。変わらない方がおかしいわよ‼︎」
「だそうですよ安騎尭。いえ、ここは弟君と呼んだ方が良いですかね? お・と・う・と・くん?」
「っ⁉︎ ゴフッ! ガハッ……」
「て、提督⁈ 大丈夫⁉︎」
麺を啜っていると、耳元で榛名がその単語を発してきた。それを聞いた時に、喉に麺が詰まってむせてしまった。足柄はそれを見て優しく俺の背中をさすってくれた。逆に榛名は俺の様子を見て笑っていた。
(榛名の奴……まさかさっきの俺と足柄のやり取りを見ていたのか? というかそうとしか思えない。まぁ、俺と離れて寂しいっていう思いも分かってるし……。それにさっきの榛名の言い方、すごくドキッとしたし……)
「あれぇ〜? どうしたんですか安騎尭? 顔が赤いですよ?」
「そ、そんなの‼︎」
「そんなの?」
「は、榛名が急にそんなこと言うから……」
「そんなことって、なんですか?」
榛名は笑いながらそう聞いてくる。こうなると完全に榛名のペースだな。さて、どうやって切り抜けるか……。そうだ……あれを使ってみるか。
「は……じゃなくて、お、お姉ちゃんが俺の事いじるから……」
「っ⁈ お、お姉ちゃん⁈」
俺が榛名の事をお姉ちゃんと言ったら、榛名はすぐに顔を赤くした。
「は、はははは榛名が安騎尭のお姉さん⁉︎ 榛名が……安騎尭のお姉さん……」
それを繰り返して榛名は俯いた。よし、どうにか榛名のペースは崩した。だがこれがいけなかった。急に俺の左腕に柔らかい感触が襲った。
「提督、私の事はお姉ちゃんと呼んでくれないの?」
「え⁈ ええっと……」
「さっきのように私の事……お・ね・え・ちゃんって、呼んでくれないの?」
足柄は俺の左腕を抱き寄せ、それだけでなくさっき榛名が言ったように俺の耳元で囁いてきた。それも物凄く色っぽい……。齢18の俺には刺激が強いとでも言おうか。いや、これ以上の事をしてきた記憶はあるが……。
それにさっきまで俯いていた榛名も、それを聞いて対抗心が出たのか、俺の右腕に抱き付いてきた。
「安騎尭……私の事も、そう呼んでくれて構わないんですよ? お・ね・え・ちゃんって」
「うぉ⁈」
榛名も俺の耳元で囁いてきたが、その距離が近い! 耳と唇が当たるか当たらないくらいに近かった。
「それで、どうなの? 言ってくれるの? 言ってくれないの?」
「安騎尭……榛名お姉ちゃんに甘えても良いんですよ?」
2人の顔が目の前に映った。どちらとも上目遣いで見てきた。
(だ、だから俺はそんな顔に弱いんだよ‼︎ ……も、もうどうにでもなれ‼︎)
「お……お姉ちゃん……」
「うふふ、やっぱり可愛いわね。提督は……」
「もっとお姉ちゃんに甘えてくださいね。弟君♡」
そして俺は榛名と足柄に頭とか顔とか撫でられまくったり、お姉ちゃんと言ってとねだられたりとなんか色々と大変だった。その後からは、意識が無くなったかして覚えていない。
(でもま、俺としては榛名や足柄の可愛い面が見れて良いんだがな……)
多分そんな事を思いながら意識を失ったんだろうな。
艦種は違いますが、安騎尭に姉(仮)が2人出来ました。
さて、次はどんな話を書いていこうか……と思うこの頃です。
ではまたの機会に。