それではご覧ください。
足柄が秘書艦になった翌日、俺は遠征に出ていた。今回の遠征は、それほど遠くは無いものの、危険海域に認定されているほどのものだったために、俺も一緒についていく事にした。俺自身遠征任務に出た事は無いから良い経験になると思っている。
まぁ、今回の俺の役目は危険海域の簡単な偵察と荷物持ちと言ったところか。まぁ、艦娘達だけに負担はかけさせたく無いから良い事ではあるが。
因みに今回の秘書艦は榛名だ。俺は昨日の夕食の事については、どうにか醤油ラーメンを完食したところだけしか覚えていない。というかうろ覚えだが……。
その理由はというと……もうお察しだろうが、榛名と足柄の事を俺がお姉さんと言った事がきっかけだ。最初は足柄にそう呼んで欲しいと言われたから言ったが、それを榛名も見ていたがために、結果的にだが榛名の事もお姉さんと呼ばざるを得ない状況になってしまった。自業自独と言われても仕方が無いのは確かだが……。
「提督……その、大丈夫だろうか?」
俺が昨日の事を思い出していると、隣から俺を心配してくれる声が聞こえた。それは今一緒に遠征に出ているル級からだった。
因みに今回の遠征メンバーは、先も言ったようにル級、それから俺の鎮守府に所属している他の深海棲艦のタ級、レ級、ヲ級の3人、軽空母の鳳翔と軽巡の夕張だった。
何故今回深海棲艦組をメンバーに組み入れたかというと、4人とも鎮守府の生活に慣れてきたし、施設内の掃除だけでは飽きてくるだろうと判断したからだ。そういう訳で今回はお試しも兼ねての遠征となっている。尚この事を俺が提案した時、皆も賛成してくれていた。後は海軍本部にこの事を報告するだけだ。まぁ大半が反対するだろうが、それでもめげずにやっていくつもりだ。それで査察が入って同行する事になろうとも、粘り強くやっていこうと思っている。
彼女達には負担をかけさせるが、これも将来の為だ。将来人と深海棲艦が何の禍根もなく幸せに暮らせる世界を作るために……そんな世界が来るかなんて俺にも分からない。でも、今よりも幸の多い世界であるって俺は信じてる。
「ん? あぁ、まぁ大丈夫だと言っておくよ。ありがとうな、ル級」
「い、いや、大した事は……そのないのだが……」
「でも俺の身を気遣ってくれてのことだろう? 俺はそれが嬉しいんだよ」
「そ、そうか? それなら、気遣った甲斐があったというものだ……」
ル級は顔を少し赤くしてからそう言った。彼女達と一緒に暮らしてまだ少しくらいしか経ってはいないが、色んな表情を見るようになった。笑った顔だったり、恥ずかしがっている顔だったり、はしゃいでいたりとそんな感じで。だから俺は彼女達のそんな表情を見れて嬉しく思う。
未だに深海棲艦達にも恨みという感情が多い者達がいるっていうのは分かっているが、俺はその子達も彼女達のように恨み以外の感情を知って欲しいなと思っている。その為にはまだまだ行動に移して行かないとな。
「提督! あの辺りに資源が一杯あるわよ‼︎」
夕張がそう言ってこちらに来る。この中だと夕張が1番身軽だなと考え、資源がありそうなところを探させていた。それにしても見つけるのが俺の予想よりも早かったな。
「ありがとう。早かったじゃないか」
「そんな事ないわ! 提督の指示した通りに探しただけだもの。それでね提督。その……頭撫でて欲しいな……って思ってて。ダメ……かな?」
夕張が頬を赤く染めながらそう言ってくる。断るなんて事は、俺の中には無い。
「あぁ、良いぞ。それに、俺に素直に甘えてくれるのは凄く嬉しいからな」
そう言いながら夕張の頭を撫でた。
「うふふ……提督の頭ナデナデ凄く気持ち良いわ……。それに……」
夕張は安騎尭に抱きつく。いきなりの事で安騎尭も撫でる手が止まった。抱きついている夕張はというと、安騎尭に頬擦りしていた。
「あぁ……こんなに近くに提督が……」スリスリ
「ゆ、夕張?」
「スンスン……はぁ……提督の匂いも……好き……」スリスリ
……俺としては、艦娘達が俺に素直に接してくれるのは物凄く嬉しい。だがこんなに素直になってるのは予想外の事で……。
(嬉しいは嬉しいんだがな……。なんか後で榛名もやってと言うだろうな……)
ここだけの話、榛名は他の艦娘達にやった事を自分にもやってと言う。昨日の足柄の時みたく、自分の頭も撫でてと言うだろう。何で榛名がそう言うか分かるというと……。
「はぁ……提督……」スリスリ
夕張が俺に頬擦りしているからである。これだけスリスリされると夕張の匂いが俺の服につく。それで榛名が俺の近くに来たら……。
「安騎尭……他の子を抱きましたね? 私も……抱いて下さい」
そんな事が何回もあった。それで何分間にもわたって榛名に頬擦りされる。その度に榛名から甘い香りがして、ついつい俺も顔を赤くしてしまう。
「安騎尭照れてますね〜? 可愛いです♡」
と、榛名に頬擦りされる度そう言われる。もう赤面ものだ……。
まぁ、今までにそう言う事が何回もあったから今回もそうされるだろう。
「そ、それよりも、早く資材を積んで帰ろう」
「「「はい‼︎」」」
抱きつく夕張をどうにか離して、資材搬入用のドラム缶に資材を詰め込んでいく。夕張は残念そうな顔をしていたが、それは仕方ないという事で……。
「さて、これぐらいでいいか」
そして俺達は資材を積み終わり、この海域を後にする。
「う〜ん……少し重いかしら」
「重いか? なら俺がそれを持とう」
「えっ? でも提督、1つ持ってるじゃない。しかも私の物よりも多く入れてるようだし……」
「これぐらい俺にとっては余裕だ。ほら、遠慮するな」
「あっ、ちょっ……」
安騎尭は夕張のドラム缶を片手で持ち上げる。
「こけても知らないわよ?」
「その時は俺が責任を持って落としたやつを拾うよ。じゃあ鎮守府まで戻るぞ。各自複縦陣で周囲を警戒しつつこの海域を離脱する」
「「「はい‼︎」」」
そして安騎尭達はその海域から離脱する。離脱する間は深海棲艦や深海怨との遭遇もなく順調に進んでいた。そしてもう少しで鎮守府に戻るところまで来た時……
「ヲッ! ヲッ!」
「ん? どうしたヲ級?」
「ヲッ! ヲッ!」
ヲ級が指を差しながら何かを伝えようとしていた。ヲ級が指を指す方向を見ると、1人の艦娘が膝まで海に浸かりながら移動していた。黒髪で長く、頭には艦種を模したヘッドバンドを付けていた。服装は巫女服のような感じだ。そして搭載されてある武装は、遠くから見ても戦艦級のものだと分かるくらいだった。
艦娘が膝まで海に付けているという状況は、中破以降の状態であるという事だ。しかし、その艦娘はどこも損傷している様には見えなかった。ただ一部分を除いては……
「ねぇ、あれって絶対重量オーバーじゃない?」
「確かにそうねぇ。戦艦クラスでもあれだけの武器は積めないだろうし、それにあのドラム缶の中に入ってる資材が1番の原因だと思うのですが……」
「……少し待ってろ」
「えっ? 提督? ってきゃっ⁉︎」
安騎尭はその場を直ぐに飛び去って鎮守府の方に向かって行った。そして僅か数秒後、安騎尭は夕張達の元に飛んで戻って来た。その時には安騎尭が持っていたドラム缶は無くなっていた。
「皆すまないが、このまま資材を持って鎮守府の方に戻っていてくれ。俺はあの艦娘を手伝って来る」
「……多分引き止めても提督は行くんでしょ?」
「……あぁ、それはすまないと思っている」
「まぁ良いわ。その代わり、今度私のお願い事聞いて欲しいな」
「分かった。それじゃ夕張、鎮守府までよろしく頼むぞ」
「任せてよ! それじゃ皆、鎮守府まで戻るわよ‼︎」
そうして夕張達は鎮守府に戻って行った。そして安騎尭は膝まで海につけて移動している艦娘の元に向かった。
side ???
「ケッケッケッ……君の役目は分かったかね?」
「……はい」
「それならよろしい。では早速行ってきてもらおうか。邪魔者を排除しに……ね」
「……」
私は提督から言い渡された任務の内容を思い出していました。この海域で目標を待ち伏せし、目標が近寄ってきたら自分の所属する鎮守府まで連れて行き、そこで目標を撃破するという事でした。
しかし私は、そう簡単に目標は現れないだろうと思っています。確かに提督は、目標は今日この海域を通ると言っていましたが、この海域がどれ程広いのかご存じないのでしょうか? そんな事はないと思いますが、とにかく滅茶苦茶に思えました。それに……
(本当は私はこんな事……したくないのに……)
私はそう思いながら頭上に広がる綺麗な青い空を見上げました。
「あぁ……空はこんなにも青いのに……」
(空はこんなにも青いのに……私の心は……)
そう思っている時でした。
「なぁ、その荷物重そうだから俺が持とうか?」
「え?」
声がした方を向くと、そこには黒い服を着た男の人が優しい顔をしながら立っていました。
『これから言う目標の特徴をよく叩き込んでおく事だ。君が私の鎮守府に誘う相手……その特徴は……』
(この世界で唯一水上に立てる男……!)
私は……目標に出会ってしまった。