side ???
「その荷物持とうか?」
いま私の目の前に目標がいる。その目標は、この世界で唯一水上に受ける男の人。その力を持っている故に、私達艦娘同様、もしくはそれ以上の戦闘力を持つと言われている人間と言われているようです。私は実際に見た事はありませんでしたが、多分この人がそうでしょう。
でも、私が聞いた目標の特徴と食い違う部分があります。確か提督は……
『その目標は確かに戦闘力は高いが、残忍な性格だ。しかし仕事はきちんとこなす。それ故海軍本部も手を付けられないほどの問題児だ。外見も厳ついので、奴に会ったら気をつけたまえ。まぁ、それを分かっていて君に相手をこちらまで誘い出してもらうのだがね。ケッケッケッ』
そんな事を言っていました。でも全然違いますね……。そもそも全然厳つい顔をしていません。それに残忍と言うより優しい性格のような……それとも、その外見に騙されるなという事でしょうか?
「あの〜……」
「えっ? あっ、はい!」
「君が持ってる荷物重そうだから、君の所属する鎮守府まで持って行こうか?」
「い、いえ! そんな事をして貰わなくても……」
(わっ、私のバカ〜‼︎ そんな事言ったら相手を誘い出せないじゃない‼︎)
「いや、どう見ても重そうだしさ。ほら、貸して」
「……で、では、お願いします……」
そう言って私はドラム缶を目標に渡しました。すると、私の体が浮く感覚がしました。膝まで浸かっていた海水も、今ではすっかり定位置の足裏にありました。
「やっぱりこの資材が重かったんだな。それにしても女の子1人にこの量を持たせるとは……少し話し合わないといけないか……」
……提督がそう言うのも何となくわかった気がします。提督が言った意味、それは艦娘に対してではなく、提督に対して残忍な性格という意味ですね。まぁ、艦娘に対しては優しいようです。
「さて、とりあえずこの資材を鎮守府に運ばないとな。えぇっと、扶桑で良かったか?」
「はい、合っていますよ」
「申し訳ないが、道案内を頼めるだろうか?」
「分かりました。では、ご案内します」
そして私は、目標を鎮守府に案内した。
side out
俺は扶桑の荷物を持って鎮守府に案内されていた。そういえばこの荷物、中身は一体何なんだ? 液体ではなさそうだし……でなければボーキか鉄鋼、それか弾薬か?
(だがこのドラム缶の中にはそれらの類も入ってはいない。これは持ってみての感覚だが、液体の類でないのは分かった。なら答えは固体の1つしか絞られないが、このドラム缶の中には固体が複数入っているような感じでもない。ならこの中身は一体なんだ?)
そう考えながら移動していると、目の前に鎮守府が見えた。それにしても、結構近代的な建物だ。結構綺麗なところだし、これなら艦娘達も安心して暮らせるだろう。とそう思っていたところで、いきなり振動が起こった。それも海底からで、複数の駆動音が聞こえる。そして俺の目の前に現れたのは、機械でできた複数の柱だ。柱の1番上には、2門の砲台が設置してある。そして砲台はこちらの方を向いていた。
「……これは一体なんだ?」
俺がそう言葉を発した時……
『ケッケッケッ……まんまと罠にはまってくれたね。我らが敵の脩鴑安騎尭‼︎』
鎮守府側から拡声器を使っての声が聞こえた。それにしても声から察するにこいつは陰険なように見える。実際に見ているわけではないが、そう思えてしまう。
『早速で悪いが、君には消えてもらう事にしよう』
そう聞こえると、柱から砲弾が次々と俺の方に向かって撃ち込まれる。俺は直撃コースの砲弾を手で弾く。
『ケッケッケッ。流石は人外だな〜』
「……テメェ……自分の部下がここにもいるにも関わらず撃つのか?」
『はぁ? 君は何を言っているのかね? 艦娘は深海棲艦と戦うための兵器、即ち道具に過ぎぬよ。ケッケッケッ‼︎ まさか君はそんな事も分からないのかね‼︎』
「……」
安騎尭はそれには無言で通す。それは、安騎尭自信がそいつと話しても何もならないと判断したからである。実際その判断は正しいのだろう。安騎尭と拡声器を使って声を発信している提督との艦娘に対する見方が違う。だから安騎尭は何を言っても無駄だと思った。
『ケッケッケッ、それより扶桑よ。何をしているのかね? 早く君も目標を攻撃したまえ』
「……そんなの……できません……」
『何を血迷ったことを言っているのかね? 君、自分の妹がどうなっても良いのかね?』
「うっ……」
扶桑は、安騎尭を攻撃するかどうか戸惑った。確かに提督の命令に従えば、人質に取られている妹は解放される。しかし、この目標が悪い人には見えなかった。逆に優しい人に見えていた。そんな人を攻撃すれば、今の自分の心が崩壊してしまう。
そんな瀬戸際に立たされた扶桑に、安騎尭が優しく声をかけた。
「扶桑、俺を攻撃しろ」
「えっ……」
「君の妹さんが人質に取られているのなら、俺は君と君の妹を取る。だから遠慮することなんてねぇよ。攻撃しろ」
「そんな……そうしたら貴方が……」
「見ず知らずの俺の心配をするより自分と君の妹の心配をしろ‼︎ 俺はどうにでもなるから。さぁ、早く‼︎」
「うぅっ……うわぁ‼︎」
ドドン‼︎ と扶桑が安騎尭に砲弾を撃ち込む。安騎尭は手で弾こうとせずに扶桑の砲弾を受けた。その砲弾は確実に安騎尭の体に当たる。
『ケッケッケッ、その調子だ扶桑。さぁ、私の方も最後にしよう。全砲門、照準、撃て‼︎』
柱からも砲弾が撃たれ、それも安騎尭に当たる。それも何十発もだ。そして安騎尭は爆煙に包まれた。
『ケーッケッケッケッケ‼︎ これで邪魔者はいなくなった‼︎ これで海軍は我が手中に収めたも同然よ‼︎ 扶桑よ、ご苦労であったな』
「……妹を……返して……」
『ケッケッケッ、良かろう。ただし、貴様が妹と会うのは天国であろうな』
「……えっ?」
『まずは貴様を妹の目の前で轟沈させ、その後妹にも同じように轟沈してもらう事にした。ほれ、感動の妹との対面だ』
『お、お姉様‼︎』
「山城‼︎」
『さぁ、それではまず君から天国に逝きなさい。照準合わせ、撃て‼︎』
『お姉様ァ‼︎』
「山城ォ‼︎」
柱から砲弾が撃たれる。その砲弾は扶桑の元に向かう。扶桑と山城は、互いに手を伸ばしあっていた。それは届く事のない距離だったが、そうせざるを得なかった。
そして扶桑の目と鼻の先に砲弾が迫っていた。扶桑はここで終わる事を悟り、最後に青い空を見上げた。そして思ったことは……
(あぁ……私の心もあの青い空のようだったら……)
そして扶桑は砲弾が直撃し、扶桑も爆煙に覆われた。
『ケッケッケッ‼︎ さて、最後は君の番だ。大人しく従ってもらおう』
『お姉様……』
『何をしておるかね? あそこで君の姉も待っている。早く行きたまえ……?』
そうして提督(ここからはゲス提督と表記)は爆煙に包まれた扶桑の方を見た。しかしそこには無傷の扶桑がいた。服は煤けて少し黒くなっていたが、外傷はなかった。
『なっ……何故だ⁉︎ 確かに砲弾は直撃したは……は⁈』
そこでゲス提督が見た光景は、腕を組んで仁王立ちで立っている安騎尭の姿だった。上に着ていた軍服はなくなり、体からは血が流れていたが、それでも五体満足立っていた。
『ばっ、馬鹿なっ‼︎ 人間が砲弾を食らって生きているはずが⁉︎』
「その答えを教えてやるよ」
『なにっ⁈』
「それは……俺が既に普通の人間じゃねぇからだよ。それに、意志の篭っていない攻撃など、全くもって効かない。それより……」
そこで安騎尭は一旦言葉を切り、俯く。そして再び顔を上げた時は、目が真っ赤に染まっていた。
「テメェ散々と好き勝手言ってたな? この姉妹に対して。そしてお前は艦娘達を道具と言った。俺はその時点で貴様を牢屋送りに決めた。本当は地獄に送りたいが、それをしないだけ慈悲があると思え。まぁ……それはともかくとしてだが……落とし前はきっちり付けてもらうぜ」
そして安騎尭は、いま契約している全精霊を呼び出した。
「来い‼︎ イフリート! ウンディーネ! ノーム! シルフ! ルナ! シャドウ! レム! ヴォルト! セルシウス! クロノス! ヴェリウス! オリジン!」
「「「はい‼︎ 我が主‼︎」」」
安騎尭の周りに複数の精霊が姿を現した。
「お前達……この俺の怒り……感じ取れているか?」
「はい、ご主人様。あの者を叩き潰したいのですね?」
「そうだ」
「私達もあの者の所業を見ていましたが、もう我慢なりません‼︎ それに、私のご主人様にここまで痛めつけた者など、放るわけがありません‼︎」
「そうだね〜。僕も流石にカンカンだよ〜」
「我が主が受けた痛みの何倍の痛みをあ奴に与えましょう‼︎」
「%°#°○*||\^%##‼︎」
「それにしても1度にこんなに呼び出すとは珍しいな。一応の主よ」
「まぁまぁそう言わないでよクロノス。ご主人の怒りを察すれば普通じゃない?」
「まぁそうだな」
「でもこんだけ集めたって事は……あれをするつもりじゃね?」
「あれ⁉︎ あれってもしかして……」
「そんな事したらご主人様の体に負担が‼︎」
「そんな事は承知だ‼︎」
安騎尭がそう叫ぶと、精霊達は静かになった。
「俺はあのゲスを叩きのめす。たとえそれで俺に負担がかかってもだ! その負担よりも、あの姉妹の方がもっと苦しい思いをしている。今もだ‼︎ だから皆……俺に力を貸してくれ‼︎」
安騎尭が右手を高く掲げる。そして精霊達もそれに呼応して手を掲げた。
「はい‼︎ 我ら(私達)の力、主(ご主人様)のために‼︎」
精霊達は安騎尭に自分達の力を譲渡した。そして安騎尭の体は莫大なオーラに包まれた。
「リミットオーバー‼︎」
安騎尭の体に纏っていたオーラが更に強大なものになった。そして安騎尭は右の腕を振る。次の瞬間、柱が全て壊れた。
『なっ……なんだと⁉︎』
ゲス提督がそう驚いていた時には、隣にいたはずの山城が安騎尭の手によって助け出されていた。
『いっ、いつのまに⁉︎』
「貴様が犯した事はたった1つ……」
安騎尭が人差し指を立てながら言った。
「艦娘達をただの道具として扱った、それだけだ」
『何を訳の分からないことを‼︎ こうなればもう貴様らごと地獄に送ってくれる‼︎』
ゲス提督がそう言うと、鎮守府が動き出した。そして最終的には蟹の形になった。
『これでぇっ‼︎』
蟹のハサミが安騎尭達を襲う……が、それは安騎尭の手だけによって止められた。そしてそのハサミは握り潰された。
安騎尭はそのハサミを握りつぶしたと同時に空高く上がっていた。
「その愚……我が怒りをもって罰する‼︎」
安騎尭は空中で静止しながら両手を頭上にあげる。そこに莫大なエネルギーが集まり、やがて大きな剣の形になった。
「これがテメェの罰だ‼︎ 天精‼︎ 光翔斬‼︎」
安騎尭が巨大な剣を蟹に向けて振るった。蟹は残ったアームでどうにかガードしようとするが、その抵抗は雀の涙にもならず、ゲス提督の悲鳴とともに崩れ去った。
それを見ていた扶桑姉妹は……
「山城……」
「お姉様……これで私達は自由ですよね?」
「えぇ……えぇ! 私達は……もう無理強いをされなくて済むのよ‼︎」
「ずっとお姉様と一緒にいれるよね?」
「えぇ! ずっと一緒‼︎ 山城!」
その場には、涙を流しながら抱き合っている姉妹と、それを微笑ましく見ている安騎尭の姿があった。