それに今回の話は「ん?」となってしまうかもしれません。
文才の能力が無いのは分かっていますが、それを承知でご覧いただけたらと思います。
それではどうぞ。
パチンッ‼︎
部屋に響き渡る音……その音は、頬を平手でたたく音だった。叩かれた相手は扶桑であり、叩いた者は、今回安騎尭の秘書艦である榛名だった。
榛名の表情は、いつものようなおっとりとした優しく慈愛に満ちた顔では無く、少しの怒りを見せていた。
「……あなたは自分が何をしたか、分かっていますね? 榛名があなたを叩いたのは、榛名の大切な人を危険に晒したからです。それに、あなた自身も攻撃を加えました。あなたが大切な人を人質にされてやむ得なかったのは、榛名にも分かります。ですが、だからと言って許されるわけではありません。あなたを助けた安騎尭は、何も言わず、逆に優しい言葉をかけて許すでしょう。でも榛名は許しません。安騎尭は榛名にとって、世界で1番大切な人です。あなたにとって、妹が1番大切なのと同じ事です」
「……はい。本当に、申し訳ありませんでした……」
扶桑は榛名に向かって頭を下げて謝る。
「私に頭を下げるのは間違っています。頭を下げて謝るのなら、榛名ではなく安騎尭に謝ってください」
そう榛名が入ったと同時に提督室のドアが開いた。
「榛名、そこまでにしてやってくれ」
「安騎尭‼︎」
そこには、先ほどの戦闘で来ていた黒服から普段の提督服に着替えていた。
「安騎尭! 傷は、身体の具合は大丈夫ですか⁉︎」
榛名は安騎尭の元まで素早く移動し、安騎尭の身体にどこか悪いところが無いか触る。その様子に安騎尭は苦笑するしかなかった。
「あぁ、大丈夫だよ榛名。傷の方も治ったし、体調も良好だ。それと……」
安騎尭は榛名の背中と首の方に手を回した。
「わわっ⁈ 安騎尭⁉︎」
「また……心配をかけた。ごめん」
「安騎尭……うぅっ……」
そう言葉をかけられた榛名は、安騎尭の胸の中で涙を流して泣いた。そんな榛名を安騎尭は強く抱きしめた。
「扶桑」
「は……はぃ」
「そんな顔をしないでくれ。別に俺の方から何も言うつもりは無いよ。何よりさっき榛名にきつく言われていたようだからさ。それに、俺は君の事を非難するつもりは無い。人質に取られたら、俺も仕方ないと思うからね」
安騎尭は扶桑に対して笑顔を向けながら言った。
「後は君達姉妹の処遇についてだけど、君達が次に所属したい鎮守府があるなら言って欲しい。俺が上層部に掛け合って、君達の希望が通る様に掛け合ってみるから」
「……なら、私の……私達の希望を言っていいですか?」
「あぁ、勿論だ」
「分かりました。私達が希望する事、それは……」
「……本当にそれで良いんだな?」
「はい。お願いします」
扶桑は、真剣な眼差しで安騎尭に言った。
side ???
いつものように各鎮守府から届く書類を確認し終えて一息ついていたところだった。私はポケットから煙草を取り出し、ライターで火を付けて一服した。
「提督、煙草は吸っても良いですが……」
「分かっている。1日1本、それ以上は吸わん」
私の秘書艦である大和とそんな会話をしていたところ、私の携帯が鳴った。
「提督、お電話のようですが?」
「うむ……ほぅ、信頼のおける部下からのようだ」
「というのは……彼からですか?」
「そうだ。もしもし、私だ」
『もしもし、脩鴑です。今回もですが、元帥にお話が』
「うむ、大体の予想はつく。今回艦娘にとって不衛生に運営されていた鎮守府を叩いた件についてと、扶桑山城姉妹を君の鎮守府に所属させる件についてだろう?」
『はは、やはり元帥にとっては何もかもお見通しですか』
「なに、長年の勘というやつだよ。まず君が叩いた鎮守府についてだが、直属の部下に調べさせている。後々今回の事に加担していた者どもも出てくるだろうが、その時は容赦なしに牢屋へぶち込むとしよう」
『私もその考えには同意です。奴らには苦しんで更生してもらいます』
「うむ、こちらもそのつもりだ。君にはまた苦労をかけさせるが」
『なにを仰るかと思えば、そんな事は当然ですよ。それに私は、この世の中が人間と艦娘、また深海棲艦ともに平和に暮らせる世を作りたいと思っているんです。まだ当分先になりそうですけど』
「いや、君のその思想、大した者だ。まだ18になったばかりだというのにしっかりしておる。私も君のその願い、応援させてもらうとしよう。それと扶桑と山城の件は私が許可を出しておく」
『ありがたきお言葉です。それでは、私の方は失礼致します』
「うむ、励めよ」
『はっ‼︎』
そして私は通話を切った。
「提督、なんだか嬉しそうですね」
「そう見えるか?」
「えぇ、まるで孫との会話を楽しんでいるように見えました」
「……そうさな。私もそう思うよ。さて、ここらで休憩は終わりとしよう。大和、残りの仕事を片付けに行くとしよう」
「はい‼︎」
元帥の言葉に大和は笑顔を浮かべながら返事をした。
side out
元帥に電話をかけた。用件は、今回のブラック鎮守府についての事と、扶桑と山城についての今後の処遇だった。前者の方は、元帥の部下が調べに行っているようだ。
扶桑たちを助けた後、俺は直ぐさま今回の事を元帥に報告をした。そしてその場を扶桑達と後にして、さっきもまた元帥に確認の連絡と扶桑達の処遇についてを電話で話した。本当は電話で報告する事はいけない事であるが、俺は元帥から特別に許されていた。
なんで許されているのかは自分も分からないが、まぁ良いとしようか。
それでさっきの鎮守府についてと扶桑達については決着はついた。鎮守府に関してはあちらが持ち、扶桑達に関しては俺の鎮守府に所属する事になった。
そう決まって携帯をポケットにしまった。その瞬間……
「っぐ⁈」
俺は突然激しい頭痛に見舞われた。それは耐える事も出来ないような痛みで、俺は頭を抱えてうずくまった。そうして痛みに何とか耐えようとした時、頭に声が響いた。
〈精霊を従えし者よ……時は近いぞ。この世界の混沌が現れるのは……〉
その声は、俺が榛名と初めて会って数日が経った日に見た夢の中の人そっくりだった。あの時は小さかったから、あやふやにしか憶えていない……。だがこれではっきりした。俺は、この声の人と約束をした事を……
(やっと思い出した。俺が……この世界の歪みを正し救う。そして……)
「俺が……精霊の世界に赴き、統べる事……」
〈お主と交わした約束……何年何千年と忘れる事は無かった。ようやっと思い出したか〉
「あの時は、あんたの姿はかすみ、声もノイズが走った様にうまく聞き取れなかった。でも、今ならはっきり分かる。あんたの世界がどんな風になってるかも……」
〈……幼かったお主に、こんな事を押し付け……申し訳なく思う。だが私の声を聴いてくれたのは……まだ幼く、純粋な心を持ったお主しかいなかった〉
「そんなの仕方がないじゃねえか。俺しかその声を聴けなかったんならな。それに、俺があんたの声を聴いていなければ、今の幸せな生活は無かったよ」
〈しかし、お主はまだ人生の4分の1も歩んではいない。それなのに……どうして私を責めない?〉
「そんなの当たり前だろ?」
安騎尭は頭痛の痛みに慣れたのか、うずくまった状態から立ち上がった。そして清々しい顔をしながら言った。
「誰であろうと、苦しんでいるなら見捨てない。俺にも出来る範囲での事しかできないし、実際に見ないと何で苦しんでいるのか分からない。でも俺はあんたの苦しみを頭越しに知った。そして見た。それであんたが、俺にしか頼れないんだったら、俺はあんたを助けてやるよ。今の幸せを少し手放すかもしれないが、これは俺が決めた事だ。例え俺の好きな人にどう言われても、曲げねぇ」
〈……随分強くなったものだ。あんなに幼かったお主が今はこれほどとは……。しかし良いのか? こちらの世界に来れば、2度と元の世界には戻れぬのだぞ?〉
「そんな事は、あんた達だけの常識だ。俺はそんな常識になんて従わない。逆にそんな薄っぺらい事なんて俺がぶっ潰してやるよ! こっちには、まだ未練が有り余るほどあるんでね‼︎」
〈……クックックッ……ワッハッハッハ‼︎ 気に入ったぞ‼︎ 精霊を従える者よ! そんなお主をこの精霊界で迎える事を、私は心待ちにしているぞ‼︎〉
そうしてその声を聴いた途端に体は軽くなった。頭痛も治まった様だ。
「あぁ。待ってやがれ。必ずそっちも救いに行ってやるよ!」
安騎尭は闘志に燃えた顔をして言っていた。その発言を提督室のドアの隙間から榛名が覗いていた。
「安騎尭……貴方との別れは、近いのですね……」
目から涙を流しながらそう呟き、提督室の前を後にした。