艦隊これくしょん 〜諦めない心〜   作:橆諳髃

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これより、艦隊これくしょん〜諦めない心〜の最終話をお送りします。

少し間が空きましたが、どうにか書き終わりました。

それでは最終話後編……ご覧下さい。


最終話後編 諦めない心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人の軽い取っ組み合いがあった翌日……時刻は午前9時半を回っていた。

 

安騎尭は元帥からの特別任務通り万全の体制を整えていた。服装は黒い提督服で、これは完全オリジナルのオーダーメイドだ。

 

腰には日本刀を2振り下げており、1本は普通の日本刀よりも長く、刃幅も大きい。色は闇よりも深い黒色で、持つところは黒い包帯のようなもので巻いている。そして大きな特徴は柄がないことだ。代わりに平仮名のくの様に曲折している。

 

もう片方の日本刀は脇差ぐらいの長さで、刃の幅も普通だ。しかしながら色は雪の様に真っ白で、それは刀身も同じだ。持つところは黒い刀同様に白い包帯が長々と巻かれてある。そして柄は複雑な形をしていて、七芒星ととても珍しく、普通の刀には見られないものだ。

 

そして、昨日夕張に渡されたものを着けていた。それは、黒いハンドグローブと黒い短めのブーツだ。このグローブとブーツには、ある特殊な加工が施されていた。それは、どんな衝撃にも耐えれるもので、使った分だけ攻撃力が上がるというものだった。そしてこの2つにはもう1つ特徴がある。それは精霊の力を伝えやすいというものだ。これは夕張の安騎尭に対する気配りだ。

 

夕張達艦娘は、安騎尭が契約する精霊達とはほぼ関係はない。しかし、これまでの任務で安騎尭や安騎尭が契約している精霊には助けられた。それは1回や2回だけではない。だからこその気遣いである。

 

そして安騎尭はハンドグローブとブーツを装着したのを確認し、自分の腰にも2振りの刀が備わっていることも確認して提督室から海にせり出している堤防に向かった。

 

外に出て堤防に向かう。するとそこには、安騎尭が提督を務める鎮守府に所属する全艦娘達が並んでいた。まず安騎尭に声をかけたのは長門だった。

 

「提督……」

「おいおいどうした、そんな顔して。いつものキリッとした顔はどうしたんだ?」

「そんなの当たり前だ。私達にここまで構ってくれた提督はいない。それに、私はこの鎮守府が好きでな……こう思わせてくれたのは他でもない提督なのだぞ? そんな提督がいなくなるというのは、寂しいと私でも思う」

「……そうか。君がそんな風に思っているとは思わなかった。悪かったな……」

「いや、私も中々素直にはなれなかったから仕方の無いことだ。なぁ、提督……」

「どうした?」

「また、この鎮守府に戻ってくれるか? その時は、私も提督に素直に振る舞いたいんだ」

「あぁ、分かった。俺は再びここに戻ってくるよ」

「約束だぞ。楽しみにしてるからな」

 

長門はそう言って元の位置に着く。次に来たのは扶桑姉妹だ。

 

「扶桑、山城」

「……提督……私はまだ何も……」

「そうです。お姉様も私も、貴方にはまだ何もできていないのに……」

「良いんだよ。俺は、自分が信じた道を行っただけだ。君たち姉妹も、自分だけの道を進んで欲しい」

「……はい……これからも私達は姉妹で頑張っていきます。そして、私達は貴方に何もできていないと考えています。だから私達は、貴方が戻ってくる場所を守ります。提督が私達にしてくれたように……」

「あぁ、お願いするよ」

 

扶桑姉妹は泣きそうな顔になりながら戻る。次に安騎尭に話したのは赤城と加賀だ。

 

「提督‼︎」

「提督……」

 

2人は安騎尭に抱き付いた。

 

「私は……提督がいてくれたから今ここにいます」

「私も、提督がいなかったらこんなに楽しい生活を送れなかったわ……」

「そんな提督を私は好きになりました……でも私は提督の事をまだ何も知れてません……」

「私も、まだまだ貴方のことを知りたいわ」

「だから……」

「また……帰って来てください。約束です」

「あぁ、約束だ」

 

赤城と加賀は離れる。次に来たのは深海棲艦組だった。

 

「提督……私達は、あなたのおかげで間違いを起こさずに済みました」

「そうだね。提督がいなかったら、多分また僕達は海の暗い底に落ちてただろうし……」

「だな。結果的に私達は提督に助けられ、そしてこんな幸せな日々を暮らせている。海の底に落ちた私達がこんなにも幸せで良いのかと思うがな……」

「ヲッヲッ!」

 

ル級、レ級、タ級、ヲ級が順に言った。

 

「何はともあれ……だ。提督、私達はあなたに一生かけても返せないという恩を感じている」

「一生返せないって……それは流石に言い過ぎじゃないか?」

「いや、言い過ぎではないさ。現に私達は、今もこうして幸せに暮らせているんだ。ただ……提督がここからいなくなるのは寂しいな」

「だからまた帰ってきてよ、提督!」

「私達もあなたの帰りを待っている」

「ヲッヲッヲッ‼︎」

 

そして深海棲艦組も離れた。次に安騎尭の元に来て抱き付いたのは雷と電だ。その2人の後ろからは暁と響が付いてきていた。

 

「提督ー‼︎」

「うぅ……提督がいなくなるのは寂しいのです……」

「でも……私達は提督が帰って来てくれると信じているよ」

「当然よ‼︎ 何より私の事をまだレディーとして扱ってくれて無いわ! 次に会う時は絶対にレディーとして扱ってもらうんだから‼︎ だから」

「「「「行ってらっしゃい! 提督‼︎」」」」

「あぁ、行ってきます!」

 

そして離れていく暁4姉妹。

 

「提督さん、提督に食べて貰いたいものがまだ沢山あります。それに……提督に教えてもらいたい事も沢山ありましたのに……」

「俺から教わる事?」

「えぇ……料理のメニューとか味付けとか……その他にも色々とあったのですが……」

「そうか。でも俺は、鳳翔の料理はとても美味しいものだし、俺の料理よりも美味いと思ってたから……特に教える事なんて無いなって思ってたんだけど。それに鳳翔がここに就任してから食堂はほぼ任せきりだったしな……お世話になったの言葉しか言いようが無いよ」

「いいえ……私も、提督に沢山お世話になりました。ですから、提督が帰ってきたら今よりも美味しいものを作って待ってますからね」

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

エプロンをつけた鳳翔は、提督の手を包みながらそう言った。まるで旅立つ息子を思う母親の如くだ。

 

鳳翔が離れた後、今度は足柄が顔を俯けながら近寄って来る。安騎尭も、足柄が悲しんでいる事を察して近づくが、それよりも先に足柄が安騎尭を包むように抱き込む。

 

「……足柄」

「……お姉ちゃんって……呼んで……」

「うん……お姉ちゃん」

 

安騎尭がそう呼ぶと、足柄は更に強く安騎尭を抱き締めた。気付くと、足柄は涙を流していた。

 

「本当は……提督の事を笑顔で送り出したかったけど……別れるとなると悲しくて……」

「それが、その感情が普通なんだよ。笑いたい時に笑って、イラついたら怒って、そして悲しくなったら泣く。そんなの、当たり前のことなんだよ。だから、泣いても大丈夫。それに俺は、そう思ってくれる事が凄く嬉しいよ。後さ……これが最後ってわけじゃ無いよ」

「えっ……」

「前にも言ったと思う。俺は、この世界に未練がまだ沢山あるんだ。だから、例え俺がここからいなくなっても、また会える。いや、また会いに来るから。だから、大丈夫だよ。お姉ちゃん」

「っ⁉︎ うん……うん! お姉ちゃん、待ってるからね。ずっと、ずっと弟くんが帰ってくる事……待ってるからね! だから、もう少しだけこのままでいさせて……」

 

足柄は安騎尭をしばらくの間抱きしめる。安騎尭は何も言わず、足柄の背に自分の両腕を回した。そして足柄が安騎尭を離すと、安騎尭もそれと同時に腕を離した。

 

「行ってらっしゃい……提督」

「あぁ、行って来ます」

 

安騎尭が再び足柄を見た時には、既に涙を流している顔はなく、代わりに綺麗な微笑みを浮かべた足柄がいた。

 

「提督!」

「夕張……って、どうしたその手に持ってるものは?」

 

次に夕張が安騎尭の元に駆け寄って来る。手には大きな白い布で覆われているものを持っていた。

 

「その……ね。これを提督に使って欲しいなって思って……」

 

そう言いながら夕張は覆っていた布を剥がし、安騎尭に使って欲しい物を見せた。

 

「これは……」

 

それは、大きな大剣と片手銃だった。大剣の方は、夕黒よりも刀身は長くて分厚い。それにもかかわらず、刃先は薄い。触れただけで何でも斬れそうだ。そして鍔も変わっていた。普通は鍔は1つだけしか無い。それはどの刀や剣にも言える事だろう。しかし、この大剣は鍔を複数持っていた。数は3つ、それが重なるようになっていた。そして形も普通のものとは違い、歯車のような形をしていた。

 

片手銃の方は、リボルバー式だった。撃鉄もデザインは歯車を模していた。色は安騎尭のイメージカラーに合わせたのか、黒色を基調としていた。しかしながらこれには弾は入っていなかった。

 

「今日に間に合って良かったわ。でも自分としては満足した出来では無いの。だから提督に渡すのも躊躇ったんだけど……」

「そうなのか? 俺から見たらよくできている様に見える。持って見ても良いかな?」

「それは勿論だけど……」

 

安騎尭は夕張から大剣と片手銃を受け取る。大剣の方は外見から見て分かる通り、両手で持たないと持つ事は難しい。しかし安騎尭はそれを軽々と片手で持ち、軽く振ってみる。振るたびに、刃が空気を裂く音がする。安騎尭からの評価はというと、夕黒並びに張雪並に良い剣という認識だった。

 

次に片手銃を見てみる。鏡の様に磨かれた表面に、細く綺麗な模様、撃鉄に限っては芸術品の様だ。それでありながら、簡単な事では壊れない柔軟さと強靭さを兼ね備えてある。試しに安騎尭は撃鉄を引いて引き金を引く。弾は入っていないために銃弾は飛ばないが、その場にカチッと綺麗な音が鳴った。

 

「あぁ……銃は久々に持ったが、これがどれだけ良いものかってのは普通に分かる。この大剣も中々のものだ。それで気になるんだけど、この銃の弾はどうすれば良いんだ?」

「その……少し言いにくいんだけど……それには弾は無いの」

「えっ? 弾は無いのか?」

「それなんだけど……提督さ。この前何で自分が素手で戦うのかって話してたじゃ無い。だから本当は飛び道具を作るつもりは無かったの。でも提督が少しでも安全に戦えるならと思って……だから銃の方も作ったの」

「そうか。なんか、気を遣わせてしまって悪いな……」

「良いのよ。だって……提督の為だもの」

 

夕張は目を閉じながらそう言った。彼女も安騎尭と別れるのは寂しいのだろう。体を震わせながらも何とか泣かない様に何とか顔を微笑ませていた。

 

「それでね……その武器の使い方なんだけど、この大剣と片手銃はセットなの。大剣の鍔の下辺りに、窪みがあるでしょ?」

「あぁ……これの事だな?」

「うん、それで合ってるわ。その部分に、片手銃を連結できる仕組みを作っておいたの。そうしたら、剣を振りながら銃でも攻撃できるってわけ。まぁそうしなくても、剣は剣で、銃は銃での単体攻撃は可能にしてるから。銃は小さくて頼りないかもしれないけど……」

「……いや、頼りなくない。それに多分夕張は、俺が実弾を使って戦わないだろうからと思って、弾は作らなかったんだろ?」

「うん、その通りよ。だって、私が今まで見てきた提督の戦い方には、確かに実弾を利用して戦うものもあったわ。でも、それは敵が撃ってきた砲弾や私達の放った砲弾だけ。提督自身は、実弾を1回も使用してなかった。だから提督に実弾なんていらない。そんな冷たい攻撃なんて、提督には似合わない。私は今もこれからもこう思う。提督が戦場で与える攻撃は、どれも暖かさを持ってるって……」

「夕張……ありがとう。でも俺は、正直言うとそこまで考えて戦場で戦ってたわけじゃない。ただ、自分の大切な人を守りたいがために振るってただけだ。これを暖かさと呼べるかどうかなんて……」

「ううん。それが、その想いが、提督の優しさと暖かさなんだなって私思うの。だからね、提督」

 

夕張は安騎尭に近づき、そして抱きつく。

 

「それを、忘れないで欲しい。この世界からいなくなっても……ずっとずっとその仲間や大切な人を守る想いを持っていて。忘れたら、承知しないんだから」

「……あぁ。忘れない」

「うん……」

 

そして夕張も安騎尭から離れていく。そして安騎尭も歩を進めた。その行き先にいた人物……それは、安騎尭がここまで来るのをずっと小さな頃から支えていた人物。嬉しい時も悲しい時も起こった時も泣いた時も喧嘩した時も、いつでも安騎尭の側から離れず支えていた。安騎尭にとっては家族同然であり、そして、安騎尭が生まれて初めて恋をした人物だった。

 

「安騎尭……」

「榛名……」

 

安騎尭と榛名は互いに見つめ返す。そして徐々に2人の間は縮まり、お互いが密着するぐらいの距離になった。

 

「榛名……俺、伝えたいことがあるんだ……」

「安騎尭……榛名も安騎尭に伝えたいことがあります」

 

そしてお互いはそこで言葉を区切る。そして、互いが同時に口を開いた。

 

「俺(榛名)は、貴女(貴方)の事が好きです。だから、俺(安騎尭)が帰ってくるのを待っててくれるか? (待っています)」

 

言い終わると同時に抱き合い、キスをした。それも、久々のディープキスだった。周りに他の子達がいるのもお構いなく、安騎尭達は自分達の存在と愛を確かめ合った。それから数分後、2人は唇を離した。

 

「榛名は……安騎尭にさよならを言いません。だってこれは、永遠の別れではありませんから」

「あぁ、その通りだ。これは永遠の別れじゃない。俺は、またここに戻ってくる。例え何年かかったとしても、俺は帰って来る」

「えぇ、榛名は安騎尭の帰りを待ってますね。何年、何十年、貴方の帰りを待っています」

「あぁ、分かった。それでさ榛名。俺がこの世界からいなくなっている間、この鎮守府を任せていいか?」

「榛名が……この鎮守府を?」

「あぁ。でも、もちろん1人でじゃない。皆で一緒にだ。そしてこの話は、元帥にもしてる。俺が離れた後は、この鎮守府は一時的に元帥持ちとなるが、それも俺が離れている間だけだ。だから、俺がまたここに戻ったら、また君達の提督になる。そしたら、また一緒に暮らそう」

「……えぇ……えぇ……また、一緒に暮らしましょう。その為にも、榛名は安騎尭が帰ってくる場所を守ってます。誰にも、この居場所は奪わせませんから。ですから、帰ってくる時は、元気な姿で帰って来てください。約束ですよ?」

「あぁ、約束だ!」

 

そうして安騎尭と榛名はまたキスをした。

 

「行ってきます」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

安騎尭はそう言い、榛名はそう返す。そして安騎尭はせり出している堤防の先に立つ。

 

「皆……出てきてくれ」

 

安騎尭が1人でにそう言った。すると安騎尭の周りに、安騎尭が今まで契約してきた精霊達が姿を現した。

 

「お呼びでしょうか? 我が主」

「今日も一段とカッコいいです。ご主人様」

「それにしても、まだ戦場ではないようだが……用がないなら早々に帰るぞ」

「まぁまぁそう言わないでよ。それに自分の主人にその一言は、ぼくはないと思うな〜」

「だがなぁ……」

「しっ! 雑談はそこまでにしましょう。主が何か言いたがってるわ」

 

精霊達が安騎尭の方に体を向かせる。安騎尭の周りを精霊達が囲んでいるという構図だ。

 

「皆……俺が想っている事……分かるな?」

 

安騎尭が精霊たちに問う。その問いに最初に答えたのはウンディーネだった。

 

「はい、ご主人様。この世界と離れる事が、とても寂しくて辛い……そういう想いを私は感じます」

「僕もだよ〜」

 

ノームがウンディーネの答えに賛同した。

 

「しかし、こうも想っているでしょう。嬉しいと……こんなにも沢山の人に出会えて嬉しいと……」

「我もその想いに同感だ。主様は、この出会いをかけがいのないものと感じている。そして……こうやって旅立ちを見守ってくれる者達がいる事も、とても喜んでおいでのようだ」

 

ヴェリウスとイフリートがそう答える。

 

「そしてまた……ご主人様はこの世界を救えるという事をとても嬉しくお想いでありますね」

「$%°#%¥€°##¥」

 

セルシウスがそう言い、ヴォルトに至っては何を言っているか分からなかったが、多分賛同したのだろう。

 

「とりあえずは……まぁやるべき事を果たそう。一応の我が主よ」

「もぅ〜クロノスは本当に素直じゃないんだから」

「お、オリジンっ⁈ くっ……ま、まぁ……私も一応は主の力は理解しているさ。その力をどこでどう使うかも……な」

「はぁ〜……君はやっぱり素直じゃないな……クロノス」

 

クロノスとオリジンがそういう雑談をする。

 

「まぁまぁ……そこまでにしておきましょう。さてご主人様、そろそろ行きましょう」

 

レムがそう言って取り仕切る。そして皆の視線が安騎尭に向いた。安騎尭は目を閉じた状態から目を開く。その瞳の色は、綺麗な赤色になっていた。

 

「あぁ……行こう。この世界の歪みを絶ちに。そして……」

 

安騎尭が右手を上に掲げた。

 

「この世界に幸せと……何よりも俺にとっての大切な人達が幸せに暮らせるように……皆、俺に力を貸してくれ‼︎」

「「「はい‼︎ 我ら(私達)の力、主(ご主人様)のために‼︎」」」

 

精霊達も安騎尭と同じように自分の右手を掲げ、そして精霊達は各々のイメージカラーの小さな球体になり、安騎尭の中に入っていった。精霊の力を借り受けた安騎尭は尋常じゃないほどのオーラを纏っていた。安騎尭は一度自分の手を握って開いての動作をし、何かを確かめた。その後、自分を見送ってくれる皆の方に体を向けた。

 

「皆……しばらくの間、俺はこの鎮守府からもこの世界からも離れる。だけど、一生帰ってこない訳じゃない。また帰ってくる。いつになるかは分からない。それでもまた帰ってくるから。だからそれまで皆……この鎮守府の事、頼んだ。……もうそろそろ時間だ。じゃあ、行ってきます‼︎」

「「「行ってらっしゃい! 提督‼︎」」」

 

そう言葉を交わした後、艦娘達は堤防の両端に一列に並び、自分達の武装を展開した。

 

「これより、提督の出発式をとり行う! 各砲門、一斉射……撃て‼︎」

 

長門の合図により、艦娘達の砲塔は安騎尭が飛ぶ方向の空高くに向きそして砲弾を打ち上げた。それと同時に安騎尭は飛び立った。

 

自分の為すべき事をするために。そして……自分の大切な人たちが幸せに暮らせる世界にするために。

 

 

 

 

side 元帥

 

 

 

「もうそろそろ作戦決行時間ですね……」

「あぁ……そうだな」

 

海軍本部の元帥室に、机に肘をつき、手を重ねてその上に顎を乗せた元帥と、その傍らに立つ大和がいた

 

「彼は大丈夫でしょうか?」

 

大和は心配そうに元帥に聞くが、元帥はその質問に笑って答えた。

 

「あの男は、こんな事では命は落とさんよ。彼に大切な者がい続ける限りな。さて、我々もこう悠長にしているしている暇はないぞ。彼の鎮守府に赴く」

「はい、元帥」

 

そうして元帥は直属の部下に留守を任せ、大和と一緒に安騎尭の任されていた鎮守府に向かった。

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

自分の鎮守府から飛び立ち、安騎尭は目的がいる海域に既に到着していた。そこで安騎尭は気付いた。本来ならば鳴りはしない砲撃の音に。

 

(これは極秘任務のはずで、元帥は俺にしか任せないと言った。これの意味は、今回の任務が深海怨によるもので、観測している限りでは艦娘達では太刀打ちができないと判断したからだ。だからここに砲撃音が鳴るはずがない。となると……)

 

安騎尭は自分で導いた答えを頭の片隅に置きながら目的対象を探す。砲撃音がどんどんと大きくなってきた。その方向に近づくにつれて、黒い雲が濃くなっていった。そして、遂に目標を捉えた。

 

「……思っていた以上にでかいな……」

 

今回の任務も深海怨の討伐であったが、その大きさは安騎尭の想像以上だった。しかし……

 

「それでも烏合の衆がただ集まってでかくなったようにしか見えないな……」

 

安騎尭からすればそうとしか見えなかった。そして安騎尭の目に、もう1体影が見えた。それはどうやら深海棲艦のようで……

 

「あれは……南方棲鬼か!」

 

どうやら深海怨と戦っているのは南方棲鬼のようだ。しかし、一方的に押されているように見える。ここは

 

「普通に助ける‼︎」

 

安騎尭は南方棲鬼の方に一直線に飛んだ。

 

 

 

 

side 南方棲鬼

 

 

「クッ……モハヤ、ココマデナノ?」

 

私は……いきなり現れた黒い物体に襲われた。私の周りにいた部下達は瞬く間に沈み……私だけになった。今はどうにかしのいでいるけど、それも時間の問題だ。相手からの砲弾も、私を捉え始めている。それに、私も避けるのがやっと……。そう考え込んでいたせいか、目の前に相手からの砲弾が真っ直ぐに飛んできた。もうダメだと、私にも分かった。

 

(アァ……ココマデネ。マタ……生マレ変ワレルカシラ……)

 

そう思って目を瞑った。海の冷たくて暗い底に沈むのだろうとそう思った。そんな時……

 

「させるわけねぇだろうがぁ‼︎」

 

そんな声がした。目を開けると、そこには黒い服を着た男の人がいた……?

 

(エッ……人⁈)

 

次の瞬間、私に向かっていた砲弾が、私の前に立っている人に弾かれた。それもいとも簡単に……。

 

「大丈夫か?」

 

その男の人は、私に振り向いてそう言ってきた。それも、笑った顔で……

 

「ここは危ない。早くこの海域から離脱しろ」

 

そう言ってくる。しかしこの海域は私が収める場でもある。だから簡単には離れられない。それに……

 

「ソンナコト……了承ハデキナイ。ソレニ、人間ノイウコトモ信用ナラナイ」

「……そうか。分かった。無理にここから離れろなんて言わない。だから、危なくなったら退避してくれよ?」

「エッ?」

 

この男の人は……なんと言ったのだろう? 私の言い分を受け入れたという事なのか? それに何故だろう? 他の人間どもの言い分がどれも同じものに聞こえるというのに、この男の言葉だけはまったく別に聞こえる。

 

(ソシテ人間デアルノニ、敵デアル私ノ心配ヲスルナンテ……コノ人ハ……)

 

「一応忠告はしておいたよ。じゃあ俺は行くよ」

 

そう言って男の人は目の前のデカブツに向かっていった。

 

「アノ者ハ……一体……」

 

そう思った瞬間、私の胸に何か熱い感情が宿った気がした。

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

俺は南方棲鬼を攻撃から守った後、深海怨に向かって飛んでいった。深海怨も俺を敵と認識して砲弾を向けてくる。まぁ俺にはどうって事なかったけど……。だって普通に手で弾けるし……と思ったら砲撃が止んだ。

 

すると、砲弾を飛ばしていた深海怨の砲塔が細くなっていた。細くなり終わると、砲塔の発射口辺りが緑色に光る。

 

(……嫌な予感がするな)

 

その嫌な予感は当たった。深海怨が俺に向けてレーザーを放ってきたのである。

 

「うわっと……危ねえな。でもま、対策は十分にできる」

 

俺は背に担いでいた大剣を片手で持つ。もちろんこれは先程夕張から渡された物だ。

 

「さて……早速試させてもらうぜ‼︎」

 

俺は大剣を持って深海怨に向かう。深海怨の方も、こっちに向けて一斉にレーザーを撃ってきた。俺はそれを大剣で薙ぎ払うように振るう。大剣の刃にレーザーが当たったのがわかる。それと同時にレーザーが斬れる感覚もした。

 

「流石は夕張の作った剣だ。本当にいい仕事をしてくれる」

 

そう思いながらレーザーに合わせて剣を振るった。深海怨のレーザーは全て安騎尭に斬られる。

 

「まだまだこの斬れ味を試しては見たいけど……そろそろその攻撃にも飽きたから、まずはその砲塔……潰させてもらう‼︎」

 

そして一気に深海怨の元まで駆け寄ると、安騎尭は大剣を両手で構えた。

 

「行くぜ‼︎ この攻撃に対処できるんなら対処してみな‼︎」

 

そう言った瞬間安騎尭の姿が消えた。かと思えば今度は反対側に移っていた。それと同時に、何門か砲塔が斬られていた。その間にも安騎尭は現れては消え現れては消えを繰り返して砲塔に斬っていった。

 

「はっ! ていっ!」

「せいっ! であっ!」

 

見る見るうちに砲塔が減っていく。

 

「この乱舞……お前の砲塔が全て斬れるまで終わらないぜ‼︎」

 

深海怨はどうにか対処しようと新しく腕を生やして安騎尭に叩き込もうとするが、安騎尭が速すぎてついて行けず逆に斬られて終わる。

 

「破壊するは殺戮の如く‼︎ 斬って舞うは乱舞の如く‼︎ 止めれるものなら止めてみせろ‼︎ まぁ……お前には無理だろうが……な」

 

尚も斬るスピードは上がっていた。そして途端に赤い光が深海怨の周りを舞い始めた。それは、安騎尭の大剣が放つもので、スピードが速くなるごとにその色も赤く赤く染まっていった。そしてそれが赤く染まりきると、安騎尭が深海怨の前に姿を現した。

 

「さて……本番はここからだ‼︎」

 

そして安騎尭が深海怨目掛けて飛んで行く。そして大剣による連撃を加える。

 

「おぉぉぉぉっ‼︎ 斬って斬って斬りまくる! 殺劇舞荒剣‼︎ これで……沈め‼︎」

 

めちゃくちゃに斬った後、技の最後を段上からの振り落しで決める。その一撃を加えた時、深海怨が体勢を崩した。

 

「これでもまだまだか……まっ、こっちもまだまだ動けるが⁉︎」

 

途端に上から砲弾の雨が降ってくる。それを安騎尭は回避した。

 

「へぇ……上にも砲塔があるか。なら……」

「ぶっ叩くしかねぇよな‼︎」

 

安騎尭はそこから跳躍をした。

 

上空から安騎尭は深海怨を見る。中心に大きな目玉があり、その周りに砲塔が備え付けられていた。

 

「そんな所に目があるのか……まぁ、潰すけどな」

 

そこで安騎尭は片手銃を取り出し、深海怨に向ける。だが思い出して欲しい。夕張は弾を作ってはいないと言った。ならどうやって安騎尭はその銃を使うというのか?

 

そんな疑問が過るだろう。だがそれは杞憂に終わる。安騎尭は撃鉄を指にかけてあげ、そして次の瞬間には引き金を引いていた。弾がない状態では、ただ撃鉄の音だけが響くはずだった……。

 

しかし実際は銃口から煙が上がっていた。そして深海怨も苦しそうにしていた。深海怨の方を見ると、一部の砲塔が凍り付いていた。

 

「まずはその砲塔を潰す‼︎」

 

安騎尭は続けて引き金を引いた。青い銃弾が深海怨の砲塔に当たり、凍りつかせる。深海怨の方も黙っているままではなく、安騎尭に向けて残った砲塔を向けて砲弾を撃つ。しかしそれも安騎尭の銃によって無力化された。

 

「始めて実践で銃を撃ったが、ここまで滑らかに撃てるとは……いや、これも夕張の腕が良いからだな。さて、砲塔も全部凍ったな。それじゃ、こっからも本番だ‼︎」

 

右手に大剣を持ち、左手に銃を持つ。そしてまず銃の方を深海怨に向けた。その銃は、赤色に輝いていた。

 

「目ぇかっぽじってよく見てな‼︎」

 

凍っている砲塔に向けて炎の銃弾を飛ばす。そして砲塔を全て壊した。それでも銃声は鳴り終わらない。

 

「これがおたくの最後の光景だ‼︎」

 

安騎尭が放った銃弾は深海怨の目に当たる。当たるごとに深海怨は苦しむ。その間に安騎尭は大剣に片手銃を連結する。すると、元から赤かった大剣が眩い光を放った。それを安騎尭は両手で持ち、まるでナイフで上から下に突き刺す前の姿勢になる。そして深海怨目掛けて向かう。刺す場所は、安騎尭が銃で狙っていた目の部分だ。

 

「エクスペンダブルブライド‼︎」

 

深海怨の目に突き刺した瞬間、爆炎が辺りを包み込んだ。その爆炎は深海怨の目を吹き飛ばし、使い物にはならなくなった。

 

安騎尭はその爆炎を利用し、深海怨の前に着水した。その時に安騎尭は目を閉じていた。

 

「……聞こえる。君たちの叫びが……」

 

それは、深海怨から発せられる悲痛な叫びだった。

 

〈苦しぃ……〉

〈苦しいよ……〉

〈誰か……助けて……〉

〈親父……お袋……怖いよ……死にたくないよ……〉

〈助けて……助けて……〉

 

「……あぁ、今君達を助けてやる。だから……安心しろ」

 

〈〈〈ありがとう。優しいお兄さん〉〉〉

 

その声が聞こえると、深海怨から白い粒子が出て行く。

 

[ぐあぁ〜……力が……力が抜けていくぅ……]

 

「お前らも正直恨みばかりで疲れたろ? だからここで終わらせる。この一撃で終わらせるから、安心して行け」

 

(それでこの一撃で、俺はこの世界と少しの間お別れだな)

 

安騎尭の顔が少し寂しげの表情を見せた。しかしそれも一瞬で、元の顔に戻る。深海怨の方はというと、腕を新たに生やして暴れていた。その腕は海を叩き、津波を引き起こしていた。それでも安騎尭は平気で立つ。

 

安騎尭は大剣と片手銃を収め、その代わりに腰に差していた夕黒と張雪を抜いていた。

 

「俺は、この攻撃に全てをかける‼︎」

 

そう言った瞬間、夕黒と張雪が眩い光を放った。その色は、全てを浄化してしまいそうな白だった。安騎尭は暴れている深海棲艦の腕を交わして懐に入る。そして自分の間合いに完全に入った時、凄まじい闘気を放ち夕黒と張雪での連撃を叩き込む。

 

「はぁぁぁぁぁっ‼︎ 響け‼︎」(俺の想い‼︎)

「届け‼︎」(俺の願い‼︎)

「全てを貫く‼︎」(俺の大切な人達が)

「刃とかせ‼︎」(この世界で幸せに暮らせるように‼︎ 届け‼︎)

「ロストフォンドライブ‼︎」

 

最後に安騎尭が放った一撃は、上から下への振り下ろしだった。その時、眩い光が放出される。それは深海怨を呑み込むほどの光だった。

 

その光が収まった時には、既に深海怨の姿はそこに無かった。そして安騎尭もそれと同時に体が薄くなる。

 

「あぁ……もう俺は行ってしまうのか……。最後にもう一度……榛名の顔を、皆の顔を見れると思ったけど……でもま、これで良い」

 

その間にも安騎尭の体は薄くなり、黄色い光の粒子が空へと飛び立つ。

 

「皆……しばらくの間お別れだけど……元気でな……」

 

それを最後に安騎尭の姿は無くなった。その瞬間鎮守府を強い風が叩く。それを感じ取った榛名は、悲しい顔をして涙を流したが、空を見上げて微笑んだ。

 

それは、自分の愛した者が安心して旅立てるように……そして、また会う日まで元気でいるように……そう願いながら、榛名は空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

side 精霊界

 

 

 

「……いよいよか」

 

1人の初老の男性が、金色の浮く玉座に座りながらある人物を待っていた。その人物……それは……

 

「来たか……精霊を集いし者、脩鴑安騎尭よ」

 

男性がそう言った瞬間、目の前に金色の粒子が集い出す。それはやがて人の形をなしていき、そして光が消えた。そこには、目を閉じて立つ安騎尭の姿があった。少し経ち、安騎尭は目を覚ます。

 

「……ここは?」

「起きたか、脩鴑安騎尭。ここは精霊界じゃよ」

「ここが……精霊界……」

 

安騎尭の視界には、所々にヒビが入り、赤く染まった空が広がっていた。

 

「すまないの……本当ならば、お主のような若者を呼ぶ事などあってはならなかったのじゃ。それにお主は大切な者とも離れ離れになってしまった……。本当にすまぬ……」

 

男性は安騎尭に向かって謝罪をする。

 

「なら……1発殴っても良いか?」

 

安騎尭は怒気をはらんで男性に言う。

 

「うむ……お主が望むなら、わしは1発でも2発でも殴られよう」

 

男性は目を瞑り安騎尭が殴るのを今か今かと待つ。しかし……

 

「すまないが、冗談だ。マクスウェル」

「冗談……とな?」

「あぁ。確かに大切な者とも離れるのは、寂しくもあるし悲しいよ。でも、彼女達が崩れ去る世界と一緒にいなくなるのはもっと嫌なんだ。だからさ……逆に俺はあんたに感謝してるんだ。だからお礼を言わせてくれ。俺に力を、皆を守れる力を与えてくれてありがとう」

 

安騎尭はマクスウェルに向けて綺麗なお辞儀をした。それにはマクスウェルも驚く。確かに優しい青年に見えはしたが、それでも恨みは少なからず持っているだろうと思った。しかし、それは全く違ったようだった。

 

「わしは……こんなに素直で優しい青年に辛い思いをさせてしまった……。それなのにこの青年は……わしに侮蔑の言葉を一言も言わず、逆に感謝するとは……」

「そんなの当たり前だ。俺はこの力がなければ、ずっとあの小屋で暮らしてただろうさ。だから感謝するのは当たり前だ」

「そうか……あいわかった。ならばわしももはや気にすまいて」

「あぁ、それで良い。それで、この世界を救うにはどうすれば良い?」

 

安騎尭はマクスウェルに世界を救う方法を問う。するとマクスウェルは手を差し出してきた。

 

「その方法……それは、わしと契約をすることじゃ。勿論、お主がわしの主人になるのじゃ」

「俺が、あんたの主人に? 何故だ?」

「実はな……恥ずかしいながら今のわしにはもうほとんど精霊の源……精霊力とも魔力とも呼ばれるものだが、それが無いのじゃ。原因は、世界の歪みによって生じた軋轢をなんとか修正しようとした結果、予想以上に使ってしまったことじゃ。1つ2つの修正ならまだしも、それが複数と重なってしまったために、この精霊界にも軋轢が生じてしまった。わしは精霊界を維持するのがやっとになった。そもそも、この精霊界がなければ、この精霊界と繋がる世界全体が滅んでしまうからの……。じゃから……」

「だから複数の世界に呼びかけて、自分の主人となる者を探した……と?」

「その通りじゃ。少々話が長くなってしまったようじゃ。それでじゃ、わしと契約をしてくれんか? 脩鴑安騎尭」

「……そんなの、とっくのとうに答えは出てる。俺は、あんたと契約する。それでもってあんたの主人になって、この世界を修復する。まぁ俺なんかがなって良いかなんて分からないんだけどさ……」

「いや、お主にはその資格が十分にある。それに、わしも願ったり叶ったりじゃ。こんなにも優しい者がわしの主人になるのだから」

「そうか……なら、契約しよう。俺と、契約してくれるか? マクスウェル」

「うむ。このマクスウェル、あなた様に仕えようぞ!」

 

安騎尭とマクスウェルが契約の証として互いの手を取り合う。その瞬間から、安騎尭はマクスウェルの主人となった。

 

(こっ……これは‼︎ なんという魔力だ⁉︎ しかも、ただの魔力ではない……。魔力には使用者の意思が宿ると言われるが……まさかこれ程に強く、そしてこれ程に優しい……精霊達が付いて行くのもうなづける……)

 

「マクスウェル? どうした?」

「いや、何でもない。それではわしはこの精霊界の修復に取り掛かるとしよう」

「1人で平気か? 結構な力を使うんだろ? なら俺も」

「いいやいいや、主人さまはそのままでいてくだされ。それに、わしの失ったはずの魔力は、既に主人さまから授かったが故です。ですから、どうぞそのままでいてくだされ」

「そ、そうか。なら、マクスウェルに任せるよ」

「承知。では……はぁっ‼︎」

 

マクスウェルが両手を広げて魔力を解き放った。それは精霊界全体を覆うほどの光で、安騎尭も思わず目を瞑る。その光が収まった時、安騎尭は目を開いた。安騎尭の目に映ったもの……それは、先ほどの光景とは全く違うものとなっていた。ヒビが入っていた空間は既になく、赤に染まった空も今は綺麗な青色になっていた。地面の感触も、今は柔らかい水の上に立っているかのようだった。そして所々に歯車が埋まり、回っている風景がそこにはあった。

 

「これでこの世界の修復は完了しましたぞ。“精霊神様”」

「ん? 精霊神?」

「はい、精霊神とは、多くの精霊を従えて世界を守る者の事を表します。それは、誰しもがなれる可能性のあるものです。しかしながら、逆になろうと思ってなれるものでもない。強く、正しい信念がなければなれませぬ。そして我が主人様は、その両方を持っている。それに付け加え、私でさえも契約をこなしてしまった。並のものでは私と契約する事は困難……それを主人様は容易にやってなされた。そんな主人様には、精霊神という名が相応しく思います」

「それは……昔の伝承にもあるものなのか? その精霊神というのは」

「精霊は何千何万年も前から存在はするが、精霊神はその精霊の祖となっていると言われている。それは何千万年前にまで遡りましょう。それほどの古い伝承だと、わしらには伝えられておる。昔の精霊神様もそうであったと……。そしてそれ以来精霊神様は現れていませぬ。その精霊神様がいなくなられてからは、その代行をわしらマクスウェルがやって来ました。しかしながらわしも歳をとりすぎた。もうそろそろ次のマクスウェルを生み出し、任せようと。そう思っていた矢先に、度重なる世界の歪みが現れ、代わろうにも変われず、最悪の場合世界が崩壊するところであった。そんな中あなた様が現れて下さった。そして、この世界を救って下さった。そんなあなた様を精霊神と呼ばずして何と呼ぼう?」

 

マクスウェルは長らくそう語った。安騎尭はそれに圧倒されたが、最後まで聞くと笑っていた。

 

「まぁ……精霊神とかどうとかっていうのはともかくとしてさ、俺は……この世界を救えて良かったって思ってる。それに……俺はまたあの世界に未練があるからさ……だから」

「最後まで言わなくても良いですじゃ。あなた様の想い、契約した時に一緒に流れ込んできたが故に分かっております。またあの世界に帰りたいと願っておいでじゃ。それは……前例が無いために難しい。しかしながら、出来ないという道理は無いはずですじゃ」

「そうか……あぁ。俺はそれだけを聞けただけで、今は満足だ。いつ帰れるかは分からないけどさ……」

 

安騎尭は精霊界の空を眺める。そして、微笑みながら言った。

 

「榛名……皆……俺は、また君たちの世界に帰るから」

 

その言葉をマクスウェルは静かに聞いていた。

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー1年後ーーーーー

 

 

 

安騎尭がこの世界からいなくなって1年の月日が経った。安騎尭が任されていた鎮守府は今も健在で、艦娘達も元気で暮らしていた。ただ変わったのは、今の鎮守府を取り仕切っているのが元帥だということだけで、他は何も変わらない。そしてもう1つ変わった事がある。それは……

 

「榛名、体調はどう?」

「はい、特に問題はありませんよ。足柄さん」

「全く……榛名がまさかあんな事になるなんて思わなかったわよ」

「私もです……でも、嬉しいです」

 

榛名はとても嬉しそうにしていた。その理由……それは……

 

「それにしても、この子の寝顔……可愛いわよね」

「そうですね。本当に可愛いです。寝顔は本当に安騎尭にそっくりです」

「……うゆ?」

「あら、起こしてしまったかしら?」

「どうやらそのようですね」

 

榛名は隣に寝ていた赤児を抱いた。そうされた赤児は、安心してまた眠りに着いた。

 

「はぁ……本当に可愛いわ……」

「えぇ……本当に。安騎尭には……感謝しても仕切れないです。だって……私が寂しくしないように、この子を授けてくれましたから……」

 

榛名は赤児をの頭を優しく撫でながら言った。

 

安騎尭が去って1年、榛名は新しい命を授かった。その命は、今もすくすくと育っていっている。

 

「安騎尭……また貴方に会う事を、楽しみにしていますから」

 

榛名は窓から見える青い空を見ながら、そう呟いた。




最終話後編、完結です。

長かった気もしますし、短かった気もします。これまでこの作品を読んで下さった皆様には感謝しています。

文章としては、あまり良く無いと自分でも思いますが、それでも書けたことに満足はしています。

そして、今回最終話を書かせていただきましたが、一応の区切りとして書いただけであり、まだ書きたい話もあるので、このまま継続して書きたいと思います。

さてここで今回出てきた技の解説をします。

殺劇舞荒剣

テイルズの作中で出てくる奥義の1つです。キャラクターによって攻撃手段が変わり、今回安騎尭がやったように剣でめちゃくちゃに斬る場合もあれば、自らの拳で滅多打ちにする事もあります。今回はどっちの攻撃にしようか迷いましたが、今回は剣でやろうと思い、書きました。

エクスペンダブルブライド

テイルズオブエクシリアでアルヴィンというキャラがする奥義です。攻撃の仕方は、文章中に書いた通りとなっています。分かりにくければ、You Tube などで検索してみてください。

ロストフォンドライブ

テイルズオブジアビスで主人公のルークがやる2つ目の奥義です。これもYou Tubeなどで検索してみてください。(分かりにくかった場合)

さて、解説はこんな所です。

まぁそれはそれとして、上記にも記した通り、作品は続けて書こうと思っています。なので、読者からの希望にも応えた作品も書いていこうと思っています。こんな作品を書いて欲しいと言う方は、是非感想などにお寄せ下さい。

それでは……またの機会に。

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