榛名さんと会って数日が経った。傷の方も今では完全に治って、体を鍛える毎日……
ただ、すぐに成果は出る事はない。それを毎日する事でやっと自分の力になり始める。
榛名さんの方も、傷は癒えて、今では家事全般をしてくれている。
朝昼晩のご飯を作るのもそうだし、掃除や洗濯もこなしてくれていた。
僕が体を鍛えている時も、離れた所で見てくれている。
簡単に言ってしまえば、いつも行動を一緒にしていると言ったところだ。
明美さんはというと、前まではご飯を作ってくれていたけど、今では材料を持ってくるだけとなってしまった。
それでも、話したりはしているし、最初は榛名さんとは少し遠慮がちに話していたところもあったけど、今では普通に笑って話してくれている。
そんな毎日が続くのはいいのだけど……榛名さんと初日に出会ってからというもの、お風呂に入るのも一緒で、はたまた寝るのも同じベットで寝ている。
まぁ、自分がまだ子供と同じ体形であるからどうにか狭いという思いはないけど……未だに慣れないところもあって恥ずかしいと思っている。
そんな毎日ではあるけれども、楽しくは過ごせている。ただ、気がかりなのは今の所2つほどある。
1つは、榛名さんは艦娘であって、ずっとここにいるわけにはいかないということ。
色々と話は聞いたけれども、榛名さんはある鎮守府に配属されていて、嵐の日は他の艦娘と一緒に任務にあたっていたという。
その任務からの帰り道、運悪く嵐が発生し、隊列も上手く敷けないほどの悪天候だったらしい。
それで皆と散り散りになり、気付けばここにいたという。
そんなこともあって、本人はいつここから去ってしまうのかなんて言わないが、それでも僕はずっとこのままではいけないとも思う。
だから、榛名さんが鎮守府に帰るときは、僕も一緒に同行する。それが責任だと思うから、今僕は鍛えている。
浜辺を端から端まで何往復もする。最初は1日に10往復がやっとだったけど、今はその倍をなんとか走れていた。
僕がやめると、見守っていた榛名さんが近づいてきてタオルを渡してくれる。
「安騎尭さん、今日もお疲れ様です。なんだか日に日に成長していってるようで、榛名はなんだか自分の様に嬉しく感じます」
自分としてはまだまだだと思ってはいるけれど、こう言ってもらえるとなんだか嬉しい。
自分のためにもと思って始めたことではあるけれども、なんだかんだ言って、こうやって言われることが嬉しいとも思っているから、毎日続ける事が出来ているのかもしれないと思った。
そこから風呂に入った後は夕食になった。
この時も一緒に入って、背中とか頭を洗ってくれる。
普通に自分でもできるんだけど……でも自分でやる時よりも気持ちよく感じられて、こんな事を思っている自分でもどこか甘えているところがあるんだと思う。
ご飯はというと、とても美味しかった。明美さんに引けを取らないほどだ。
それに、今まで殆ど1人で食べてきたし、寂しいなとは少し思ったりしたけれども、今は榛名さんと一緒に食べているし、会話もするから、寂しいなんて思いは今はなかった。
そしてここでもう1つ、気がかりがある。
それは寝る時、それも、ここ最近になっての事だった。
榛名さんと寝るのは、恥ずかしい気もするけれど、内心とても嬉しくて、前に榛名さんが言ったように、僕が弟になった気分だ。それで榛名さんが優しいお姉さんで、甘えることがこんなにも嬉しいということを知った。
なら何が気がかりなのか?
それは、僕が眠ってからのことだ。
毎回毎回同じ夢を見るようになった。
隣では、僕を抱いて寝ている榛名さんがいて、僕もそれに抱きついて寝ている。
榛名さんからは、女性特有のいい匂いがして、それに加えて頭を撫でられながらだからすぐに眠りに落ちてしまう。
最初は心地よく眠れているのだが、それも最初だけで、途中からは違った。
今日もそうだった。僕はいつの間にか別の空間にいた。
地面は透き通った水が張られていて、僕はその上に立っている。その時に波紋とかはたたない。
空も白に近い青で、この世のものとは思えないほど美しかった。
でも異色な部分もある。所々に金色の大きな歯車が突き刺さっているのだ。それも何事もなく回っている。
そんな時、目の前に1人の老人がいた。
金色の浮いた玉座のようなものに座っている。
外見は、髪は凄く長くて髭も長い。どちらも白色で、肌も白かった。そして丸眼鏡をかけている。
着ているものは、黒い布のようなもので、なんなのかは分からなかった。
これは、いつも夢に出る。
そして、老人が僕に話しかけてくる。
『わた……なはマ……ェル……しの声がとど……だろうか……』
いつもこうやって始まる。声は所々掠れていて、ほぼ読み取れないけど、その老人は構わず続ける。
『今せ……は危機にひ……いる……このま……はせか……ろびてしまう……勇気ある……どうか……いを救って……そして……いるせい……も救ってほし……』
ここでいつも夢は途切れる。その老人が何を言いたいのか、今の僕には分からないけど……でも、この先……そう遠くない先に嫌なことが起こる気がした。
そして起きた時は、目の前に榛名さんの顔があって、笑顔でおはようと言ってくる。
僕もそれに笑顔でおはようと言って答える。
考えられない充実した毎日だけど、この幸せな日も、多分続かないことになることは……頭の片隅で予想していた。