仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス   作:海東

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プロローグ

学園都市。

名前の通り学生の街であり、総人口の約八割を学生が占めている。

ここは何処よりも科学技術が発展しており、外の世界と比較しても二十年から三十年は先を行っていると言われていた。

また、超能力開発にも力を入れていて、超能力を使う学生たちも多く存在する特異な街であった。

 

 

──物語はこの街を舞台に始まりを告げる。

 

 

「今日のご飯は唐揚げ唐揚げ嬉しいな~♪」

 

修道服を来た可愛らしい少女がそう歌いながらスキップ気味に歩く。

そのすぐ後ろをツンツンとした髪の高校生ぐらいの学生服を着た少年が見守るように歩いていた。

 

「おーい、インデックスー。そんな風に歩いてると裾踏んで転ぶぞー」

「むむっ。私はそんな子供じゃないんだよ。とうま!」

 

インデックスと呼ばれた少女がムッとすると、とうまと呼ばれた少年──上条当麻(かみじょう とうま)が「ハハハ」と笑った。

修道服の少女と学生服の少年。一見して特殊な組み合わせではあるが、そのやり取りや雰囲気から、彼らの間には決して小さくない絆があることが窺い知れる。

二人は歩幅を同じに彼らの家路へと向かっていた。

 

「……ん?ねえ、とうまとうまー!」

 

前方に何かを発見したインデックスが声を掛ける。

 

「どうした~、インデックス?」

「あそこに人が倒れているんだよ!」

「人……だって?」

 

上条はインデックスの指が差す方向へ視線を向ける。

道の端、草葉の陰、あまり目立たない場所。

そこには一人の青年が傷だらけで倒れていた。

 

「ええええええぇぇぇぇ!?」

 

思わず大きな声を上げた上条はすぐに周囲を見回す。

今の時間帯、この道は人通りも少ないので、彼の存在に気が付いたのはどうやら自分たちだけのようであった。

よく見ると、胸が僅かに上下に動いている。

どうやら死んではいないようだが、すぐに助けなければ彼の命に危険が及ぶかも知れない。

上条は救急車を呼ぼうとしたが、携帯電話を落としたようで連絡手段が無い。

病院までは遠く、背負って運ぶのは難しい。

幸い自宅はすぐそこなので、取り敢えずは自室へ運んで応急処置を行うのがこの場合最善の策だろう。

そう考えて青年を抱え起こそうした時に、上条は一瞬躊躇する。

 

(……こ、これって、もしかしなくてもヤバくないか?)

 

こんな場所で傷だらけで倒れてるというのは、明らかに普通ではない。

関わってしまえば、確実に何かとてつもない出来事に巻き込まれてしまう可能性は高いだろう。

彼はそうして幾つもの事件に関わっては、生傷絶えぬ日々を送っていたので、思わず防衛本能が働いたのであった。

だが、そうは思いつつも、上条は青年を見捨ててこの場を去るということは出来なかった。

それが彼の人間としての性質であり、優しさであったからだ。

 

もしも、この場に上条一人だったら、迷わずに彼を運び込んでいただろう。

しかし、今はすぐ側にインデックスがいる。

上条はインデックスを巻き込みたくないと、動きが止まってしまっていた。

 

「とうま!!」

 

上条がそうして思案していると、インデックスが彼の名を呼んだ。

何処か叱るような響きである。

 

「……まさか、困ってる人を見捨てて行こうと考えてるとか無いんだよね?」

「でも、インデックスさん。この人、絶対に普通の人じゃないですよ?何か事件に巻き込まれるかも……」

「……へ~。とうまって、女の子が困ってたら何があっても助けるのに、男の人は簡単に見捨てちゃうんだ?」

「ぐっ……」

 

確かに、上条は過去に助けが必要な少女たちへ手を差し伸べたことが多々ある。

本人的には男女で差別しているつもりは無いが、端から見ればそんな風に見られても仕方ないのかも知れない。

 

「……とうま。困っている人へは誰であろうと手を差し伸べる。それが神の教えなんだよ」

 

その格好に恥じぬインデックスの聖職者としての言葉。

それを聞いて、上条は決心する。

 

「……分かった分かった。助けますよ。助けりゃいいんでしょ!?」

「流石とうまなんだよ!」

 

インデックスはそう言って破顔した。

その一方で上条は暗い顔で呟く。

 

「不幸だ……」

 

 

 

 

──全てを壊し、全てを繋ぐ破壊と創造の物語が今、幕を開ける。

 

 

 

 

「つかさー!ご飯なんだよー!」

「また、もやし料理か?」

「居候が文句言うな!これでも上条さんが丹誠込めて、毎日味付けを変えて少しでも飽きないように工夫してるのに、その苦労もちょっとは理解して欲しいでございますよ」

 

上条は出来たばかりのもやしの炒めもの(キムチ味)をテーブルの上に置くと、小皿を三つ並べた。

匂いにつられたインデックスは真っ先に席に着いており、つかさと呼ばれた青年もかったるそうに席に着く。

全員揃ったのを確認すると、上条は手を合わせた。

 

「さて、いただきま……」

 

最後まで言い終わらぬ内にインデックスとつかさと呼ばれた青年はもやしの炒めものへ箸をつけていた。

 

「……って、二人とも作った人間差し置いて勝手に食うとはどういう了見でせうか!?」

「こういうのは早い者勝ちだろ?」

「はむはむ……美味しいんだよ!」

 

二人が悪びれる様子も無くそう言うのを聞いて、上条はがっくりとうな垂れた。

そうしている間にも、もやしの炒めものはどんどん二人の胃袋へと消えていく。

上条は気を取り直し、全てが無くなってしまう前にと箸をつけた。

 

「もぐもぐ……。なあ、あんた……えーと、門矢士(かどや つかさ)……だっけ?」

 

もやしを口に入れながら上条は尋ねる。

士は視線をもやしの炒めものから上条へと移した。

 

「何だ?いきなり改まって」

「その……、記憶の方なんだけどさ」

「…………………………」

 

士はじっと上条の顔を見つめている。

「……まだ、何も思い出せてはいない」

 

少ししてから、士はそう言って箸をテーブルの上に置くと、何処か遠くを見つめるような目をした。

上条たちに助けられ、彼らの部屋へと運ばれた士は、目を覚ました時に自身が記憶喪失であるということに気付いた。

唯一覚えていたのは、門矢士という名前と何かを為さなければならないという使命感だけであった。

その後、救急車を呼ぼうとする上条を止め、傷が治るまで彼の部屋へ居候することを強引に決め、今に至る。

 

「門矢士という名前だって本当に俺の名前かどうか……それさえ疑わしい」

「……そうか」

 

上条はそう言うに止めた。

彼も士の言葉に思うところがあったのだ。

実は、彼にも過去の記憶が無い。

自分が何故記憶を失ったのかも覚えてはいないが、それにインデックスが関わっていることを何となくだが察していた。

だが、そのことでインデックスを恨んではいないし、そのことで彼女に苦しんでもらいたくも無い。

インデックスには常に笑顔でいてもらいたい。

だから記憶を失ったことは一切表に出してはいなかった。

こうして見ず知らずの青年の居候を許可したのも、自分と同じ境遇の士に何処となく同情したからかも知れない。

 

「なあ、門矢。ずっと……は無理だけどさ、その……記憶がある程度回復するまでならここにいてもいいからさ」

「何だ、突然?」

「本当なんだよ。今日のとうまは少し気持ち悪いかも!」

 

士とインデックスが二人して怪訝な顔で上条のことを見る。

 

「……仏心を見せた私が間違いでした」

 

思わず上条はハァと溜め息を吐いた。

 

「……ま、暫くここに居るってんなら、いい加減もやし以外の飯が食いたいな」

「そうなんだよ!もやしばっかりじゃ飽き飽きなんだよ!」

「……あんたら自分たちが居候ってこと理解してますぅ?」

 

上条は再び大きな溜め息を吐いた。

 

 

 

「……じゃあ、学校行ってくるから、二人で留守番頼むな」

「うん!分かったんだよ!」

 

インデックスがリビングから身を乗り出し、玄関の方へ声を掛けた。

 

パシャッ

 

その時、何処からかシャッター音が鳴る。

靴を履こうとする上条当麻の姿を、士が手に持ったマゼンダカラーのトイカメラで撮っていた。

上条は振り返ると、士に不思議そうな顔で尋ねる。

 

「なあ、時々そうやって写真撮ってるけど、門矢はカメラマンか何かだったのか?」

「……さあな。時々、こうして無性に写真を撮りたくなる。でもって、手元にはカメラがある。なら、撮るだろ?」

「……そういうもんですかね?」

 

そう言って上条は玄関の扉をガチャリと開いた。

 

「じゃあ、行って来るな!」

「行ってらっしゃーい!」

 

インデックスは笑顔で上条を見送るが、彼の姿が見えなくなると、少し寂しそうな表情をした。

 

上条が学校へ行くと、部屋の中は意外と静かなものであった。

インデックスが楽しみにしているテレビアニメ『超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)』の放映時刻はまだ先で、この時間は特にやることもなく暇なのである。

 

「つかさー」

 

インデックスは部屋の隅に座り込んでいる士へと話し掛ける。

何時もは一人で留守番をしていたので、こうして誰かがいるというのを彼女は意外と悪くは思っていなかった。

 

「つかさの持ってるそれ。何?目を覚ましてから、いつもそればかり見ているんだよ?」

「……さあ、な。だが、これを見ていると何かを思い出せそうでな」

 

士はそう言いながらカードを一枚一枚見ていた。

カードには鎧のようなものを纏い、仮面のようなものを被っている人らしきものが描かれている。

中には、見たこともない武器や乗り物のようなものが描かれているのもあった。

 

「ふーん。……魔術のカードとも違うし、こんなの見たこと無いかも」

「……ダメだ。何も思い出せない」

 

士は落胆したように言った。

頭の中が、まるで霧がかかったみたいにもやもやしているようである。

何か大事なことを忘れているような気がしてならない。

気分を変えようと、士は立ち上がり玄関の方へ歩いた。

インデックスはお菓子を頬張りながら尋ねる。

 

「あむあむ……何処へ行くの?」

「散歩だ。部屋の中に引き篭もっていても気分が滅入るだけだしな」

「留守番は?」

「ここのセキュリティはそれなりなんだろ?俺らがいなくても別にどうってことないだろ。仮に盗みに入られても盗られて困るものも無いだろうしな」

「そっか……じゃあ、私も行くんだよ!」

 

インデックスも立ち上がると、とてとてと士の後を追って行く。

どうやら彼女も留守番に飽きてきた様子であった。

二人は上条の家を出ると、そのまま特に目的も無くぶらつき始める。

街中を巡回する清掃ロボットなど、最先端科学技術の粋を集めたこの街は目に入るもの全てが物珍しい。

記憶の無い士にとっても、その差異は何となく理解出来た。

 

(……ここは、俺の世界じゃ無いな)

 

ふと、士はそんなことを考えた。

街ならともかく、世界が違うとはどういうことだろうか。

自分の言葉ながら疑問に思う。

 

やがて学園都市を一望出来る場所まで来ると、士はその風景を写真に収めようとトイカメラを覗き込んだ。

 

「…………?」

 

レンズ越しに遠くの方で何かオーロラのようなものが見えた。

自然現象にしては、あまりに不自然な存在感を示している。

やがてオーロラは方々で発生し始め、瞬く間に学園都市全体を飲み込もうとしていた。

 

「!つかさ!あれは一体何なんだよ!?」

 

インデックスもこの異常事態に気付くと、身を乗り出して目を凝らす。

すると、学園都市の象徴でもある風力発電用の風車が次々とオーロラに飲み込まれて消滅して行った。

 

「何なんだ?一体、何が起きてやがる?」

 

目の前の光景を前に士は茫然と見ていることしか出来ないでいた。

しかし、妙に胸のざわつきを感じる。

これが初めてでは無いという確信めいた感覚が彼の中で芽生えた。

 

「……とうま。とうまは!?とうまは大丈夫なの!?」

 

その時、インデックスが声を上げた。

士はハッとなる。

 

「あいつの学校は何処だ!?」

「えっと……確か……」

 

インデックスは以前、上条に内緒で学校まで付いて行った時の道筋を思い出そうとした。

それと同時に士は突然走り出す。

まるで何かに呼ばれたかのようであった。

少しして、けたたましい排気音と共に一台のバイクがインデックスの目の前に止まる。

 

「わああ!!な、何なんだよ!?」

「後ろに乗れ!インデックス!ちんたら歩いていたら間に合わない!」

 

そう言って来たのはヘルメットを被った士であった。

何時の間にか大きなバイクに乗っている。

 

「つかさ!?何でつかさがそんなのに乗っているの!?」

「いいから、早く乗れ!」

「う、うん!」

 

有無をも言わさない士の剣幕に押されてインデックスは彼の後ろに乗る。

 

「全速力で行く。しっかり掴まってろよ!」

「え、ちょっと、ま……キャアアアア」

 

士がアクセル全開でバイクを走らせると、インデックスは振り落とされないよう必死に彼の腰へしがみ付いた。

二人は疾風のような速度で街中を進んで行く。

周りを見ると、突然の異常現象に学園都市の住人たちはパニックに陥っていた。

なるべく人通りの少ない道を選んではバイクを更に飛ばす。

 

「あいつの学校までの場所は分かったか?」

「う、うん!ここを真っ直ぐでいいと思う!」

「分かった!」

 

士は更に速度を上げようとする。

と、その時、突如目の前に巨大なオーロラが現れた。

 

「なっ!?」

「危ない!!」

 

士は急ブレーキをかけるが、オーロラの向かって来る速度の方が早い。

まるで津波のように二人を飲み込もうとしていた。

 

「くっ!?」

 

思わず目を閉ざす二人。

何らかのダメージを想像し、共に身構えた。

 

しかし、いくら待ってもそれが二人の身に訪れることは無かった。

 

 

「……………………?」

 

不思議に思った士が目を開くと、驚きの光景が目の前に広がっていた。

士とインデックス以外の全てが止まっている。

目の前のオーロラは勿論、逃げ惑う人々たちもがまるでマネキンのように動かない。

文字通り世界が静止していた。

 

「何だ……?皆、止まって……?」

「……魔術、じゃないみたいだね」

 

インデックスが周囲を不思議そうに見回す一方で、士は妙な既視感を覚えていた。

この光景、決して初めてではない。

 

「何がどうなっているんだ……?」

「……これは僕の力です」

 

突如、何者かが士の質問に答えた。

士とインデックスは共に声のする方を振り向くと、そこには一人の茶髪の青年が立っていた。

青年は中性的な顔立ちで何処か陰のある表情をしている。

 

「お久し振りです。……いえ、この場合は初めまして、の方が相応しいですかね?」

 

静止した世界の中で、青年は士たちへ歩み寄って来る。

一歩一歩ゆっくりと、まるで値踏みでもするかのように。

士は怪訝な顔で尋ねる。

 

「お前は一体誰だ?」

「……やはり覚えていませんか」

 

青年は少しがっかりしたような表情で俯いてみせた。

 

「では、お答えするとしましょう。僕の名は紅渡(くれない わたる)。かつてはあなたの協力者。そして、かつてはあなたの敵。……今はどちらでもありません」

「紅渡……だと?」

 

初めて見た人間、初めて聞いた名前。

その筈なのに、彼とは何処かで会ったようにしか士は思えないでいた。

紅渡はそんな士の表情を見ながら、次のように尋ねる。

 

「……突然ですが、僕から一つ質問があります。光夏海。光栄次郎。小野寺ユウスケ。海東大樹。これらの名前に覚えはありますか?」

 

それらの名前を聞いた瞬間、士は心の何処か引っ掛かりのようなものを感じていた。

だが、やはり何も思い出すことは出来ない。

 

「……残念だが、覚えは無いな。そいつらがどうかしたのか?」

「……なるほど。どうやら記憶を失ったというのは本当みたいですね」

 

紅渡は残念そうに首を振った。

今度は士の方から彼へ質問をする。

 

「お前は一体何者だ?俺のことを知っているような口振りだが、どうして俺のことを知っているんだ?それと、知っているなら教えてくれ。俺は一体何者だ?」

「……残念ですが時間がありません。その全てに答えることは出来かねます」

 

紅渡はそう告げた後、指をパチリと鳴らした。

すると、周りの風景がガラッと変化する。

学園都市から、まるで宇宙のような空間へと三人は立っていた。

 

「な、何なんだこれは!?」

「わ、わけが分からないんだよ!?」

 

突然の変化に戸惑う二人を無視して、紅渡は士へと向き直る。

 

「門矢士……。いえ、こう呼んだ方がいいですかね?……『仮面ライダーディケイド』」

「仮面ライダー……ディケイド?」

 

その呼び名に士はハッとなった。

胸がざわつき、体の奥底が熱くなる。

間違いなく士はその言葉とその意味を全身で知っていた。

 

「ねえ!!」

 

今まで黙って紅渡の話を聞いていたインデックスが溜まらず声を上げる。

 

「あのオーロラは何なの?とうまはどうなったの!?」

「……そうですね。あなたもあの世界の住人として知る権利はあるでしょう」

 

紅渡はその視線を士からインデックスへと移す。

 

「まず、上条当麻ですが……。彼は無事です」

「本当!?本当なの!?」

「ええ。彼は友人たちと共にオーロラから逃れています」

 

インデックスは僅かに安堵の表情を浮かべた。

 

「次にこの世界を覆うオーロラについてですが……、あれは世界の崩壊を示しています」

「世界の……崩壊!?」

 

二人は同時に声を上げた。

 

「何で?何でこの世界が崩壊しなくちゃいけないんだよ?」

 

インデックスがそのことについて尋ねると、紅渡は視線を士へと向けた。

 

「率直に言いましょう。あなたの世界が崩壊してしまったのは彼が……ディケイドがいたからです」

「なっ……!?」

「え……!?」

 

士とインデックスは紅渡の言葉に絶句する。

 

「つかさが……私たちの世界を?」

「俺が……こいつの世界を?」

 

二人のショックはとても大きかった。

互いに思わず無言になってしまう。

 

「そうです。そして、それを救えるのもまたディケイドしかいません」

 

愕然とする二人を見ながら紅渡はそう告げる。

 

「俺が……救う?」

 

士は茫然自失気味に呟いた。

突然、多くの情報を突きつけられ、彼は未だ困惑の中にいる。

インデックスにいたっては狼狽したまま士と紅渡の顔を交互に見やるだけであった。

そんな二人の心情を無視する形で紅渡は言葉を続ける。

 

「あなたは……いえ、あなたたちはこれから様々な世界を渡り、旅をしなければなりません」

「世界を渡る……?旅……?」

「はい。そしてあなたは見つけなければならない。何故、再び記憶を失わなければならなかったのかを」

「ちょっと待て。お前は一体、何を言っているんだ?」

 

紅渡は士の言葉には返答せず、何処からかバックルとカードホルダーを取り出した。

そして、無言でそれらを士に手渡す。

 

「……これは何だ?」

「これらはあなたのものです」

「俺の……?」

「そう、このバックルの名はディケイドライバー。あなたがディケイドになる為に必要なもの」

「ディケイ……ドライバー……」

 

実際に手に持った時のその感触に士は何処か懐かしさを覚えた。

 

「何だ……?俺はこれを知っている……?」

「……どうやら完全に記憶を失ったというわけでは無いみたいですね。そして、このカードホルダーの名はライドブッカー。カードは持っていますね?」

「カード?……持っているけど、それがどうした?」

「そうですか。それは良かった。決してカードを無くしてはいけません。そのカードはディケイドの力の源。そして、あなたがあなたであることの証なのですから」

「俺が俺であることの証……だと?」

「……そろそろ時間のようです」

 

紅渡がそう言うと、突然目の前が光り始める。

まるでこの空間を塗り潰すかのように強い光であった。

 

「!?おい、待て!!まだお前には聞きたいことが……」

「この世界の崩壊は、僕と僕の仲間たちが食い止めます。ですので、あなたたちは旅を」

「待てって!!」

「では、旅の終わりにまた会いましょう」

「ぐっ……!?」

 

紅渡が言い終えるや否や、二人の目の前が白くなる。

彼らのいた空間は完全に光に包まれ、そして消滅した。

 

 

 

気が付くと二人は街の中にぽつんと立っていた。

様々な人々が行き交い、周囲から話し声が聞こえて来る。

 

「……学園都市に戻ったのか?」

 

士は周囲を見回した。

先程の異常現象がまるで嘘だったかのように、平和な街の姿がそこにはあった。

だが、違和感が士の脳裏を支配する。

 

「何か違う街へ来たみたいなんだよ……」

 

インデックスも士と同様の印象を受けたようであった。

 

「……そう言えば、街の設備も学園都市に比べたらワンランク下ってところだな」

 

よく見れば、学園都市では当たり前の光景だった清掃ロボットを一台も見ない。

今二人のいる街は決して旧い街並みという訳では無かったものの、学園都市があまりに近未来的過ぎたので、比較すると所々差異が感じられた。

 

「あれ?つかさ、いつの間にそんな服に着替えたの?」

 

インデックスに指摘されたので確かめてみると、士は何時の間にか上下にジャージを着込んでいた。

 

「……お前もか」

「え?あ、本当だ」

 

一方のインデックスも何時も着用している修道服ではなく、何処かの学校の女子制服になっていた。

 

「世界を……渡ったのか?」

 

誰に言うでも無く士はそう呟くと、首からぶら下げたトイカメラを構えてシャッターを切った。

その姿を見て、インデックスは士へ声を掛ける。

 

「写真なんか撮ってどうするの?」

「……さあな。だが、この世界の風景を残したい。と、急に思ったんだ」

 

記憶を失う前の自分がそうだったのだろうか。

士はふとそんなことを思った。

 

「……それで、つかさ。一体これからどうするんだよ?」

 

不安そうな面持ちでインデックスが尋ねてきた。

彼女の顔を見ると、先程の紅渡の言葉が嫌でも思い出される。

 

 

──あなたの世界が崩壊してしまったのは彼が……ディケイドがいたからです。

 

 

その言葉にどれ程の真実味があるかは定かではない。

もしかしたら、全くの出鱈目かも知れない。

だが、士はインデックスの顔を真正面から見ることが出来なかった。

それは紛れも無い罪悪感であった。

 

「……ま、なるようにしかならないだろ」

 

そんな思いを振り払うかのように士は言った。

 

「俺たちが動かなくても、世界の方から俺たちに動きかけてくる。そういうもんだろ?」

「もー!つかさはちょっと楽天的過ぎるかも!」

 

そう言ってインデックスが唇を尖らせる。

表情豊かな彼女の様子は普段と変わらないように見えた。

先程、あれだけのことがあったのに、それでもいつも通りに士へと接している。

まだ幼いであろう彼女のそんな気遣いが士の心を僅かに救ってくれていた。

 

(お前の方が辛いくせに、無理しやがって……!)

 

照れ臭いのを誤魔化そうと士はカメラのシャッターを切ろうとした。

 

 

その時、突然世界が赤色に包まれた。

まるで血のような、世界の終わりを連想させる赤であった。

二人は身構える。

 

「こ、今度は一体何なの!?」

「!!誰か来るぞ!?」

 

何かが二人の前に急接近してきた。

それは身の丈の倍以上もある、全身骸の異形の怪物であった。

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