仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス   作:海東

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第10話 虎穴虎子

「はい、終わったよ」

 

メガネを掛けた白衣の青年が軽い口調で治療の終わりを告げた。

静雄は全身に包帯を巻きながらも、何処かうざったそうに「ったく、大袈裟なんだよ……」と呟く。

それを見ていた鳴海ソウキチとセルティも一先ずホッとしていた。

 

彼らはセルティの案内で、彼女が今住んでいる家にいる。

白衣の青年──岸谷新羅(きしたに しんら)と名乗った──が、傷付いた静雄を治療してくれたのであった。

彼は医者ではあるが、正規の医者ではなく、訳あって普通の病院へ行けない者などを密かに診るのが彼の主な仕事だという。

静雄とも面識があるようで、ドーパントにやられてボロボロになった彼へ手際よく治療を施した。

一仕事終えた新羅は、ソファーにドカッと座り込んで大きく息を吐く。

 

「……それにしても吃驚したよ。セルティが知らない男の人と一緒に帰って来たショックも覚めやらぬ内に、大怪我した静雄が運ばれて来たんだもん。もう頭の中が混乱しちゃって大変だったよ」

「すまないな。こんな夜分遅くに駆け込んでしまって」

 

鳴海ソウキチは帽子を取ると、新羅に向かって頭を下げた。

礼儀正しく、とても紳士的な振る舞い。

そんな彼の顔を新羅はまじまじと見つめる。

 

「……………………」

「……自分の顔に何か?」

「おたく……、本当にセルティとは何でも無いんでしょうね?」

「彼女とは会ったばかりだ」

「本当に?」

「…………ッ!」

 

新羅が疑いの目で鳴海ソウキチを問い質していると、セルティがテーブルをバンッと叩いた。

その音に森羅はビクッとなる。

 

「あ……。べ、別に君が浮気したとか、そういう風に思ってるわけじゃないんだよ!ただ、セルティ程魅力的な女性を目の前にしたら、普通の男性はまず惚れちゃうからね!この人が君に惚れていないか確認したんだ!も、もし惚れちゃってたら、言ってやるつもりだったんだ!セルティは僕の彼女だって……あ、痛っ!」

 

慌ててセルティに弁解をする新羅であったが、その途中で彼女から拳の一撃を貰っていた。

拳を擦りながら恥ずかしそうに新羅へ背を向けるセルティを見て、鳴海ソウキチは微かに笑みを浮かべる。

 

「あなたが彼女を大事に思っているのはよく分かる。俺は人の大事な伴侶に手を出すような真似はしないから安心して欲しい。……それに、自分には既に大事な人がいるので」

「そ、そう?なら、いいんだけどね!」

 

森羅は一先ず安心したかのようにずれた眼鏡を直した。

それを見て鳴海ソウキチは誤解が解けたことを確認すると、静雄の方へ顔を向ける。

 

「大丈夫か、静雄?」

「……ったく、何でもねえってさっきから言ってんだろ。いい加減しつけえぞオッサン」

 

静雄は上着のボタンを止めているところであった。

まるで親にでも言うかのように少しうざったいような表情をしている。

 

「そうやって軽口が叩けるならもう大丈夫だな」

 

鳴海ソウキチは軽く頷くと、玄関の方へと歩き出す。

 

「……何処行くんだ?」

静雄が尋ねると、鳴海ソウキチは背を向けたまま顔を少しだけ彼らの方へと向けた。

 

「探しに行く。この街を泣かせる奴を、な」

「……待てよ」

 

再び玄関まで行こうとする鳴海ソウキチを静雄が呼び止めた。

鳴海ソウキチは先程と同じように振り向く。

 

「何だ?」

「俺も、連れて行け」

「なっ!?」

 

驚きの声を上げたのは新羅であった。

 

「静雄!医者として言わして貰うけど、今の君は普通なら絶対安静もいいところなんだよ?骨にヒビだって入っているかも知れない。いくら君が普通の人より頑丈だからって、そんな無茶はさせられないよ!」

「……るせえ。俺はもう平気だ」

 

静雄はそう言って、もう何ともないという風に立ち上がってみせた。

だが、僅かに足を引き摺るなど、それが強がりであることは明々白々である。

 

「静雄……誤魔化そうとしても、お前の体は正直だ」

 

鳴海ソウキチが冷静にそう言うと、静雄は舌打ちした。

更に鳴海ソウキチは言葉を続ける。

 

「俺に任せてお前は休んでろ。この街は俺が何とかする」

「うるせえ!」

 

静雄は声を張り上げた。

 

「奴らにここまでコケにされて、この街まで好きにさせて、その解決まで他人任せで……それで、てめえは絶対安静だから指くわえて黙って見てろだあ?ふざけんじゃねえぞ!」

 

吐き出すようにそう言うと、静雄はテーブルを思い切り殴りつけた。

テーブルはあっけなく真っ二つに割れる。

 

「ああ!」

 

家主である新羅が悲痛な声を上げたのを余所に静雄はキッと鳴海ソウキチを睨み付けた。

一方で、鳴海ソウキチはただじっと静雄の目を見つめている。

呆気に取られた表情でその様子を見ていた新羅とは対照的に、セルティはPDAをカタカタと操作していた。

文字を全て打ち終えると、それを鳴海ソウキチに見せる。

 

『静雄はこうなったらもう止められない。静雄が無茶をしないよう私が見ているから連れて行くだけ連れて行ってはくれないか?』

「…………………………」

 

鳴海ソウキチは押し黙ったまま、再び静雄を見つめた。

まるで、平和島静雄という人物を見極めているかのように。

暫くそうした後、一息吐いてから口を開く。

 

「お前の覚悟は分かった。なら、一言だけ言っておく。……俺の足だけは引っ張るな」

「…………………………!!」

 

真剣な眼差しの鳴海ソウキチを見て、静雄は彼が本気でこの街を救おうとしているのだと悟った。

思わず拳にぐっと力を入れる。

 

「……分かった。オッサンには絶対に迷惑を掛けねえ。約束する」

「フッ、いい目だ。なら、ついて来い」

 

鳴海ソウキチは僅かに笑顔を見せた。

 

 

 

「……最初に言っておくが」

 

そう前置きした上で門田は話を始める。

 

「俺らは別に奴ら……『EXE』についてそんなに多くのことを知っているわけじゃあない。今のように幅を利かすようになる前の奴らについては正直分からない。存在自体はしていたんだろうが、表には全く出て来なかった。いや、出ていても誰も気付かなかったのかも知れない。そのくらい奴らの組織的な規模は小さかった」

「黄巾族やブルースクウェアと比べれば小物もいいところッスね」

 

遊馬崎がそう付け加えると、門田も頷く。

 

「……だが、奴らは変わった。あのメモリを手に入れてからは、な」

「正直、連中がどういう経緯でそのメモリを手に入れたかについてはよく分かっていないんスよ」

「ただ、あのメモリを使い始めてからこの街の勢力図は大きく変わったのは確かだ。大して喧嘩の強くない奴でも、あのメモリで変身しちまうと、見た目通りの化け物になっちまう。『EXE』に入ればどんな奴でも強くなる。そんな風に言われ始めると大して時間も掛からない内に奴らは膨大な数になっていった。今やこの街だけじゃなく、下手したら日本で一番の集団になってるかも知れねえ」

「うちらのリーダーもあいつらには無闇に手を出すなって言ってるしねー」

 

スマホを弄りながら狩沢が口を挟んできた。

士は首を傾げる。

 

「リーダーって、この門田って男じゃないのか?」

「いや、『ダラーズ』のリーダーは俺じゃない」

 

士が門田を目で指し示しながら尋ねると、彼は僅かに首を横に振ってそれを否定した。

 

「ねえねえ、その『だらーず』って何なの?」

 

今度はインデックスが小首を傾げながら尋ねた。

「『ダラーズ』は俺らが所属するチームの名前だ。リーダーは、その発足者……だ」

「ん?変な間があったな」

「……いや、何でも無い」

 

士が目ざとく尋ねると、門田はそれだけ答えた。

 

「リーダーはたまに携帯にメールで私たちに指示を出すの」

 

狩沢はスマホのディスプレイを士たちに向け、そのメールを見せた。

文章が丁寧で、この手のチームのリーダーっぽく無い。

 

「まあ、そんなやたら滅多に指示を出して来たりはしないッスけどね。『ダラーズ』は基本的にメンバーが自発的に活動してる集団ッスから」

「そ。うちらはたまにこうして集まって、街の自警団みたいなことやってるわけ」

「……だが、奴らだけはリーダーもお手上げらしくてな。一言『危険なことだけはしないで欲しい』とだけ指示した。俺らも出来る限りのことをやろうとはしているんだが、奴らに絡まれそうになってる奴を助けるので精一杯なのが現状だ」

 

門田が顔に悔しさを滲ませながら言った。

他の三人も表情には出していないものの、彼と同じ気持ちなのだろう。

重い沈黙で同調しているようである。

 

「……仮にそいつらを全員倒したところで、第二第三のそいつらが出て来るだけだろうな」

 

士は呟くように言った。

それを聞いて門田が少しムッとした表情になる。

 

「だから、諦めろ……って、そう言いたいのか?」

「そうじゃない。何とかしたかったら、元を叩くしかない。奴らじゃなくて、奴らを変貌させたそのメモリをな」

「……そんなことが出来るのか?」

「さあ、な」

「何だそりゃ!」

 

門田が少し呆れたように言った。

 

「メモリの出処とか知ってて言ったんじゃ無いのかよ!?」

「この世界に来たばかりなのに知るわけが無いだろ。まあ、どちらにせよ何とかしてやるつもりだから大船に乗ったつもりでいろ」

「いられるか!」

 

いまいち根拠の分からない自信を持つ士に対して、門田も思わず突っ込みを入れる。

 

「……まあ、お前が悪い奴じゃなさそうなのは何となく分かった。俺たちに出来ることがあったら何でも言ってくれ」

「そうか。なら、早速だが、お前たちはそのメモリについて何か心当たりは無いのか?」

「残念だが、あのメモリに関しては本当に心当たりが無いんだ」

「……あ!私、あるかも!」

 

そう言葉を発したのは狩沢であった。

何かを思い出したかのように手をポンと叩く。

 

「心当たりがあるならすぐに話せ!」

「つかさ、それは人にものを尋ねる態度じゃないと思うんだよ」

 

士が狩沢に詰め寄ると、インデックスがそう突っ込んだ。

それでも士は不遜な態度を崩そうとはしない。

ハァとインデックスは溜め息を吐いた。

狩沢はと言うと、こめかみ手をやって、記憶の中からその情報を引っ張り出そうとしている。

 

「えーと、ネットで見かけただけなんだけど、変な男が怪物に変身出来るメモリを売ってるって話でね」

「変な男?」

「何かセールスマンみたいな感じで、ケースに入ったメモリを売っているらしくて、その取引場所が露西亜寿司だって、噂になってるんだ」

「怪しいな。そいつが全ての元凶かも知れない」

「でも、あくまで噂だからさー」

「まあ、確かにネットの噂なんて九割がデマッスからねえ」

「一割でも可能性があるならそれで充分だ。何も無いよりはマシだしな。じゃあ、その露西亜寿司って場所まで連れて行ってくれるか?」

「別にいいが、また奴らに出くわすかも知れないぞ?」

「その時はまた返り討ちにすればいい。それだけのことだろ?」

 

士は何も問題はないという風に言ってのけた。

そのあまりに自信満々な立ち振る舞いに、ある意味で門田は感心する。

 

「……分かった。おい、渡草。悪いが引き返して露西亜寿司まで行ってくれ」

「ええ、マジで行くのかよ?本当に敵の親玉がいたらどうするんだ?」

「その時はこいつが何とかしてくれるらしい。それに、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うだろ?」

「……と言ってもなあ」

 

あくまで噂とはいえ、いきなり元凶の元へ行くのは、渡草も流石にあまり乗り気では無いようであった。

少し渋ったような顔でこちらを見ている。

 

「……分かった」

 

しかし、門田の真剣な表情を見ると、仕方ないといった感じで頷いた。

 

「すまないな、渡草」

「……別にいいさ。短い付き合いじゃないしな」

 

門田と渡草は互いに微かに笑みを浮かべた。

それを何処か熱い視線で狩沢が見つめている。

こうして一行はその場からUターンして、露西亜寿司の方へとワゴンを走らせた。

 

 

 

同時刻。

 

街灯も無い暗い路地裏を一人の青年が歩いていた。

長身で少しパーマがかった髪の青年は暫く歩いた後、突然その場に立ち止まる。

 

「……いい加減、こそこそと僕をつけ回すのは止めたまえ。僕はしつこいのは大嫌いなんだ」

「……おかしいなあ」

 

暗闇の中から若い男の声で返事が返って来た。

と、青年の後ろから、黒いフード付きのコートを着た男が姿を現す。

 

「俺の尾行にあっさり気が付くなんて、おたくやっぱりただ者じゃないでしょ?」

 

男は口の端を歪ませながら言った。

その表情はまるで面白い玩具を見つけた子供のように好奇心に満ちている。

青年はゆっくり振り返る。

「君は確か……折原臨也(おりはら いざや)、だったかな?」

「おや?俺のことをご存知で?」

 

自身の名前を呼ばれたことで男は意外そうな顔をしてみせた。

だが、その態度にはまだ何処か余裕がある。

 

「……いやー、有名人ってのはこういう時辛いねー。俺はアンタのこと知らないのにさあ」

「君に興味はない。が、君の持っているものには興味がある」

「俺の持っているもの?」

「……セルティ・ストゥルルソンの首」

「……何故、それを知っている?」

 

折原臨也と呼ばれた男の表情が明らかに変わり、先程までの余裕ぶった態度は見られない。

対照的に余裕ぶった態度を崩さない青年は指で鉄砲を作ると、それを男に向けて撃つポーズを取る。

 

「僕はお宝のことは何でも知っているのさ」

「へー。……で、おたくは一体何処の誰なの?」

 

男が尋ねると、青年は何処からかカードを取り出してそれを見せる。

 

「通りすがりの仮面ライダー……ってところかな?」

「仮面……ライダー?」

「……知らないというのは悲しいね」

 

青年はそう言うとカードを仕舞い、再び男に背を向けて素早く歩き出した。

 

「!おい、お前……」

 

男が呼び止める間もなく青年の姿は闇の中へと消えた。

まるで瞬間移動でもしたかのように、瞬時にその場からいなくなる。

男は暫くその場に立ち尽くしていたが、突然「ククク」と笑い出した。

 

「……やっぱり人間って素晴らしいよ。まだまだ俺の知らないような奴がいっぱいいる。だから俺は人間を観察することを止められない」

 

誰に言うでも無くそう呟くと男は踵を返し、元来た道を引き返していった。

 

 

 

「……で、オッサン。今何処に向かってんだよ?」

 

バイクの上でセルティの腰にしっかりとしがみ付きながら静雄が尋ねた。

かなりのスピードを出している為、声量が自然と大きくなり怒鳴りつけているような感じになっている。

 

「……俺はな」

 

鳴海ソウキチはチラッと静雄を見た後に答えた。

 

「この街に来てガイアメモリのことを知った後、独自に連中のことを調べていた。そして、ある店に出没するという情報を聞きつけた」

「ある店?」

「ついてくれば分かる」

「そうかよ。……で、連中ってのは、あいつらのことか?確か『EXE』だったか?」

「いや、違う。『ミュージアム』についてだ」

「『ミュージアム』……ああ、あの野郎が言ってたアレか」

「『ミュージアム』は俺の世界にいた組織の名前だ」

「あん?組織?」

 

静雄が聞き返すと、鳴海ソウキチは声のトーンを少し落として言った。

「……信じては貰えないかも知れないが、俺はこの世界の人間じゃない」

「あん?そいつはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味だ。俺はこの『池袋』という街を知らない。お前たちも『風都』を知らなかっただろ?」

「だからって別世界の人間だってか?そんなこと信じろって言われても無理に決まってんだろ」

「確かにな。だが、お前も見ただろ?ガイアメモリの力で変身した連中や俺のことを。あんなもの、今までお前たちの身近にあったか?」

「いや、無いけどよ……」

「あの連中が使用していたメモリも俺の世界のものだ」

 

鳴海ソウキチはヘルメットの下で申し訳なさそうな顔をした。

 

「すまんな……。迷惑を掛けてしまって」

「別にオッサンが悪いわけじゃねえだろ?悪いのは悪用してるあいつらとそれを売りつけてるその『ミュージアム』って組織の奴だ。オッサンが気に病む必要はねえよ」

「そう言ってくれると助かる」

「ところでよ、オッサンも変身してたけど、あいつらとは何か違ってたな。あれは何でだ?」

「特殊なメモリとドライバーを使っているからだ。それのお陰で俺はメモリの毒素の影響を受けていない」

「んなもん、どうやって?」

「……知り合いに連中と繋がりのある者がいてな。彼女の協力の下、俺は奴らの陰謀を阻止している。このメモリとドライバーもその彼女が俺へ託したものだ」

「そうなのか。よく分かんねえけどよ」

「……そろそろか」

 

鳴海ソウキチの目に工事現場が入って来た。

バイクのスピードを落としてから暫く走っていると、すこし怪しげな外観の店が見える。

その店が目的地である露西亜寿司であった。

 

「ロシアズシー。ウマイヨー、ヤスイヨー」

 

店の前で大柄な黒人の男が片言の日本語でチラシを配っている。

 

「ここが露西亜寿司か。この辺に来たことはあるが、あの店に入ったことは無かったな」

「露西亜寿司かよ。こんなところにいるってのか?」

「……入るぞ」

 

そう言って鳴海ソウキチはバイクを止めた。

セルティもそれに続くように乗っていたバイクを止める。

三人は、そのまま店の前まで歩いた。

彼らの姿を目に止めた黒人の男が気さくに声を掛けて来る。

 

「オー、シズオ。ヨク来タネー。スシ食ッテクカ?」

「悪ぃが、今日は客として来たんじゃねえんだ」

「ドウユウコトダ?」

「それは俺から説明させて貰おうか……」

 

鳴海ソウキチがこれまでの経緯を黒人の男に掻い摘んで話した。

無論、隠すべき部分は隠し、伝えるべき部分は詳しく。

 

「オー、ナルホド、ソウユウコトカ。実ハ、ソノ話ノ男、モウスグ店ニ来ルネ」

「本当か?」

「サイモン、嘘ツカナイ。ソノ男、イツモコノクライノ時間ニ店ヘ来ル」

「……なら、その男が来るまで店の中で待ってても大丈夫か?」

「ソレハ大丈夫ダ。ドウセナラ何カ食ウカ?」

「……頂こう」

「毎度アリ」

 

黒人の男は指でOKサインを作り、三人を店の中へ入れた。

露西亜寿司の中は普通の寿司屋とは趣が異なっているようで、日本風のお馴染みの寿司屋という趣ではない。

外国人がやっている寿司屋ということがよく分かるようであった。

三人はサイモンという男に案内され、奥の座席へ向かう。

途中、鳴海ソウキチは一人の青年と目が合うと、その場に立ち止まった。

静雄が不思議そうな顔で尋ねる。

 

「……?オッサン、何してんだ?」

「………………………………」

 

鳴海ソウキチは青年の顔をじっと見ていた。

青年もまた鳴海ソウキチの顔をじっと見ている。

暫くそうしていたが、やがてどちらとも無く視線を外した。

案内された奥の座席に座ると同時に、セルティが鳴海ソウキチへPDAを見せる。

 

『さっきの男と知り合いなのか?』

「……いや、いい面構えをしているなと思っただけだ」

 

それだけ言うと、鳴海ソウキチはそのまま黙り込んでしまった。

セルティと静雄はそれ以上は何を言うでもなく、彼と同様に沈黙する。

 

それから十数分後。

店の中にスーツ姿の男が入って来るのが見えた。

その手にはジュラルミンケースが提げられている。

男の姿を一瞥し、鳴海ソウキチは確信したように口を開く。

 

「間違いない……。奴は『ミュージアム』の人間だ」

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