仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
自らを『鳴海ソウキチ』、そして『仮面ライダースカル』と名乗った壮年の男。
その腰にはキリヒコと同じ型のベルトを巻いている。
夜闇の中、白い格好が際立っていて、只者ではない雰囲気を醸し出していた。
士に負けず堂々とした佇まいである。
「変身」
落ち着いた様子でそう言うと、手にしたメモリをベルト中央のスロットへ素早く差し込んだ。
スマートで淀みの無い動きである。
すると、旋律と共にその姿を骸骨のような姿へと変えてみせる。
「これが……仮面ライダースカル」
一連の流れを見ていた士は気が付くとそう呟いていた。
初めて目にしたのに、その存在を何故か知っているような気がする。
失われた記憶の中で、彼と出会ったことがあったのだろうか。
鳴海ソウキチは士をチラリと見やった。
「……思い出した。何処かで見たことがあると思ったが、お前はあの時の若者か」
「……俺を知っているのか?」
思わず士は聞き返した。
やはり、この鳴海ソウキチという男とは面識があったようである。
もしかすると、何か情報が得られるかも知れない。
「一度だけ会ったことがある。とは言っても、遠くから見かけただけで言葉を交わしたことも無いがな」
鳴海ソウキチのその言葉に、士は抱いた希望を即座に打ち砕かれていた。
自身の失われた記憶についての手掛かりかと思っていただけに、流石の士も残念な顔を隠せない。
「……そうか」
そう言うのが精一杯であった。
士の様子を見て、鳴海ソウキチは何かしら察したようであったが、特にそのことについて言及しようとはしない。
「……後は俺に任せて貰えないだろうか?」
少ししてから、鳴海ソウキチが口を開いた。
明らかに年下である士に対し、頭まで下げている。
「奴は俺の世界の人間だ。決着はこの俺の手でつけたい」
「……どうやらそいつとは因縁があるらしいな?」
「ああ。そのようなものだ」
「……………………」
士は無言で立ち上がると、珍しく言われた通りに見守る姿勢を取った。
彼もまた鳴海ソウキチの佇まいから何かを感じ取ったのだろう。
ベルトに手をやって自らの変身を解く。
「……有難う」
そう言うと、鳴海ソウキチはすぐに視線を目の前の敵──園藤キリヒコへと向けた。
当のキリヒコは、新たな闖入者を前にしても、未だ余裕のある態度を見せている。
「あなたが風都で噂になっている骸骨男ですか。こうして直接お会いするのは初めて……ですかね?」
キリヒコはそう言うと、ベルトからメモリを引き抜き、元の姿へと戻った。
胸に手を当て、わざとらしく大仰そうに頭を下げてみせる。
「初めまして、仮面ライダースカル。私、園藤キリヒコと申します。ミュージアムの幹部をやらせて頂いております。そして……」
キリヒコは再びメモリをベルトのスロットに差してその姿を変えた。
「こちらが仮面ライダーナスカと申します。あなたと同じ仮面ライダーです。以後、お見知りおきを」
「……そうか、覚えておく。……この街を泣かせる悪党の名をな」
鳴海ソウキチはそう言い放つと、改めて頭にスッと白い帽子を乗せた。
と、伏せるように顔を俯ける。
「……一つ、俺は元の世界でお前のような悪党を野放しにしてしまっていた」
「……………………?」
一体、何を言い出すのか。
そう言いたげなキリヒコを尻目に鳴海ソウキチは続ける。
「二つ、その結果、この街へガイアメモリを呼び寄せてしまった」
「……………………」
「三つ、多くの人が苦しめられ、この街を泣かせてしまった」
そこまで言うと、鳴海ソウキチは再び視線をキリヒコの顔へと向け、その手を突き出す。
「さあ、俺は罪を数えたぞ?……お前もお前の罪を数えろ!」
鳴海ソウキチの言葉にキリヒコはフッと笑い声で返す。
「罪ですって?……私はただ望む者に望むものを提供した。それだけですよ?それの何処が罪なのでしょうか?教えて頂きたいものですね」
「……………………」
「大体、この街を泣かせたと仰いますが、直接的にこの街を泣かせているのは、この街の連中でしょ?私に罪などあろう筈もありません」
「……………………」
「ククク……本当にどうしようもない連中ですよ。この街の人間にはクズしかいない」
「……なるほど。お前という人間がよく分かった」
鳴海ソウキチは吐き捨てるように言った。
と、素早く腰にぶら下げていたスカルマグナムを取り出し、それをキリヒコへ向けてトリガーを引く。
その動きには一切の迷いがない。
銃口から発射されたエネルギーの弾がキリヒコを捉える。
「フッ」
超加速により、キリヒコは鳴海ソウキチの攻撃を交わした。
瞬時に元の位置へ戻った為、傍目から見るとスカルマグナムの弾がキリヒコの体をすり抜けたように見えたことであろう。
「どんな攻撃も、当たらなければ意味はありません」
「……………………」
鳴海ソウキチはスカルマグナムの銃口をキリヒコへ向けたまま、ただ無言で見つめている。
と、次の瞬間、鳴海ソウキチのすぐ目の前にキリヒコの姿が現れた。
「!?」
「遅いですね!」
キリヒコは手に持っていた剣を鳴海ソウキチに向けて素早く振り下ろした。
鳴海ソウキチの胸部から火花が飛び散る。
「くっ!」
僅かに後ずさりながらもカウンター気味に蹴りを放つが、それは虚しく空を切った。
直後、死角から再び斬撃が鳴海ソウキチを襲う。
「っ……!」
「どうしました?私を許さないのでは無かったのですか?」
キリヒコは余裕の態度を崩さぬまま鳴海ソウキチへと話し掛けた。
わざとらしく隙を見せてはいるが、攻撃をしても例の超加速で交わされてしまうのは想像に難くない。
だからこそ、鳴海ソウキチは慎重に相手の様子を伺っていた。
それを見てキリヒコは薄く笑う。
「やれやれ。攻めなければ、勝つことなど到底不可能ですよ?そう。こんな風に、ね!」
そう言い放った瞬間、その場からキリヒコの姿が消えた。
直後に鳴海ソウキチは全身から余計な力を抜く。
その彼の背後へ回ったキリヒコは、勝ちを確信したのかニヤリと笑いながら剣を振り下ろした。
剣先が体に触れると同時に、鳴海ソウキチはスカルマグナムを背後へ向けてトリガーを引く。
「何っ!?」
不意の一撃。
それを腹部へ受けたキリヒコは思わずよろめく。
この瞬間を待っていたかのように、鳴海ソウキチは追撃の飛び蹴りをキリヒコへ向けて放った。
打点の高い蹴りであったが、キリヒコはすぐに超加速でその場から離れる。
鳴海ソウキチの蹴りはまたも空を切ってしまった。
蹴り終わった後、鳴海ソウキチがその場にうずくまってしまう。
髑髏の仮面に隠れて表情は見えないが、先程から受け続けてきたキリヒコの斬撃が効いていたのだろう。
キリヒコは再び姿を表すと、スカルマグナムの一撃を受けた箇所をさすりながら鳴海ソウキチへと近付いていく。
「……まさか相討ちを狙うとは迂闊でした。ですが、その手は何度も使えないでしょう。それだけのダメージは与えた筈です」
「……だろうな」
鳴海ソウキチはフッと笑った。
予想外のリアクションにキリヒコは若干イラついた様子を見せる。
「……何が可笑しいのです?」
「お前の言っていることは確かだ。このままでは俺の方が先に死ぬだろうな」
「ならば……」
「だが、それがどうした?俺は最期まで……命尽きるまで戦う。ただそれだけだ」
鳴海ソウキチはそう言ってゆっくりと立ち上がってみせると、堂々と仁王立ちして視線を真っ直ぐキリヒコへと向けた。
その純然たる佇まいに、とうとうキリヒコの苛立ちが頂点に達する。
「……いちいち腹が立つ男だ!なら、望み通り殺してやる!」
怒りによってキリヒコの口調が変わっていた。
恐らくはこちらが本性なのだろう。
剣を構え、攻撃態勢に入る。
と、その時キリヒコの頭上が影に覆われた。
「!?」
キリヒコはすぐにその場から影の外へと避難する。
と、次の瞬間、それが大きな音を立ててキリヒコのいた場所へと落ちてきた。
アスファルトの表面を砕いたそれは何処にでもある自動販売機であった。
「……何故、こんなものが?」
キリヒコが振り返ると、そこには一人の男が女性に支えられながら立っていた。
それは興奮した様子でキリヒコを睨み付ける平和島静雄とそれを支えるセルティ・ストゥルルソンであった。
「……ねぇぞ」
呟くように静雄が言った。
そしてすぐにドスの聞いた声を限界以上に張り上げる。
「ふざけてんじゃねえぞテメェ!!」
静雄の気迫にキリヒコの意識が思わず彼の方へと向いた。
その瞬間を鳴海ソウキチは見逃さない。
『スカル』
『マキシマムドライブ』
ベルトのメモリを抜くと素早くスカルマグナムへと差し込み、銃口をキリヒコへ向けて狙いを定める。
一連の動きはとてもスムーズであった。
千載一遇のチャンス。
鳴海ソウキチは迷わず引き金を引こうとする。
「!!」
だが、その時、鳴海ソウキチの動きが一瞬だけ止まってしまった。
彼の体に蓄積されたダメージ、それが僅かに動きを鈍らせる。
その一瞬の遅れが致命的であった。
「くっ!!」
何とか引き金を引き、スカルマグナムシュートを放つ。
だが、その一撃は気配に気付いたキリヒコの超加速によって避けられてしまった。
鳴海ソウキチはガクッと膝をつく。
「……………………」
「ハァ、ハァ……」
「……外したか」
「あ、危ないところだった。もしも直撃していたら流石の私もやばかったでしょう。ククク、最後にして最大のチャンスを逃しましたね?」
「……そうでもないみたいだぜ?」
そう言ったのは、先程から二人の戦いを見ていた士であった。
「何を……うっ!」
途端にキリヒコがよろめき始めた。
見ると、ベルトにバチバチと電流が走っている。
「こ、これは……!?」
「どうやらオッサンの一撃を避けきれなかったみたいだな?」
「なっ!?」
すると、キリヒコの姿が元のセールスマン風の優男の姿へと戻る。
「くっ、まさかベルトを掠めていたなど……」
「どうする?これでもうお前はライダーに変身は出来ない。形勢は逆転したぜ?」
「……………………」
キリヒコは一瞬、恐ろしい形相で士を睨み付けた。
そして、先程までベルトに突き刺していたメモリを手に取ると、口元を思い切り歪める。
「ライダーに変身出来ない?形勢は逆転?…………ククク、ならばぁ!!」
声を荒げたキリヒコはメモリを自分の体へと突き刺して見せた。
次の瞬間、彼の姿が再び変わる。
今度の姿は先程までの青い仮面ライダー風ではなく、全身に橙色を帯びた古代の戦士のようであった。
キリヒコは高らかに笑い声をあげる。
「ベルトなど無くとも死に損ないの貴様等を捻り潰すことくらい容易いことだ!!思い知れ、ナスカメモリの力をおおおおおお!!」
彼の言う通り、鳴海ソウキチは膝をつき、静雄も立っているのがやっとであった。
二人が満身創痍であることは目に見えて明らかである。
「……ようやく俺の出番か」
士がそう言って前へ出て来た。
ベルトを手に持ち、キリヒコのことを睨み付ける。
「やれやれ。主役が登場するには絶好過ぎるタイミングって奴だな」
「目障りなガキめ。だが、貴様の始末は後だ」
「何?」
「まずは……貴様からだ!!!!」
キリヒコは静雄たちの方を振り返った。
静雄とセルティが同時に身構える。
「チッ……!」
「…………!」
と、静雄が思わず鳴海ソウキチのように地面へ膝をついた。
先程、自動販売機を投げつけるという人間離れした技を見せた静雄であったが、どうやら無理が祟った様子である。
キリヒコはニヤリと笑い剣を構えた。
例の超加速が健在であれば、士が変身しても彼らを助けるのには間に合わない。
「死ねええええええ!!!!」
「静雄ッッッッ!!!!」
と、その時、この場に一台のワゴンが全速力で突っ込んできた。
「何ぃっ!?」
突然のことで回避し損ねたのか、キリヒコはそのワゴンに轢かれて地面を転がる。
「ぐっ……!またも邪魔者か!?」
「……………………!!」
セルティはその隙に静雄を抱えると、黒い影のようなもの出現させた。
それは瞬時にバイクのような形に変わっていく。
セルティはそれに静雄を乗せ、自らも跨るとエンジンを蒸かした。
「……………………」
彼女はヘルメットを士の方へと向け、僅かに見つめた後に素早くこの場から離れて行った。
まるで、士に何かを託したかのようである。
士は突如この場へ突っ込んで来たワゴンの方へ視線を向けた。
見覚えのあるワゴン。
それを見て士は呟く。
「……門田、か?」
その言葉に返事をするようにワゴンの窓が開いた。
そこから顔を出して来たのは、やはり門田であった。
「大丈夫か、門矢!?」
「俺は大丈夫だ。だが何でお前がここに?」
「この街の危機にただ指を咥えて見ているだけってのが性に合わなくてな。それに……」
門田は視線を後部座席の方へ向けた。
「この子たっての願いだからな。男として断る訳にはいかねえだろ?」
「つかさー!」
インデックスが顔を出して士に呼び掛ける。
「……もう!やっぱり私がいなくちゃダメだね!」
「……フン。言ってろ」
そう言い捨てる士の顔は何処か微笑んでいた。
「ふざけるな!!」
と、その時、まるでダメージなど無かったかのようにキリヒコがすっと立ち上がった。
その表情は怒りに満ちている。
紳士的な態度をあまり崩さなかった彼も、これだけ邪魔をされれば、流石に我慢も限界といったところであろう。
「貴様ら全員、皆殺しだ!!そこの死にぞこないも含めてなあ!!」
最早、言葉を選ぶということもなく、汚い言葉を吐き捨てている。
全身から殺意が迸っているのが、傍から見ても分かるようであった。
士はそんなキリヒコを見つめながら、ゆっくりと口を開く。
「……一つ」
「ああ?」
キリヒコの視線が突如言葉を発した士へと再度向けられた。
士もその視線を真っ直ぐに受けながら言葉を続ける。
「俺はあいつ……インデックスの世界を破壊した」
士はバンの中にいるインデックスへチラッと視線を向けた。
当のインデックスは心配そうに士のことを見つめている。
「何ですか、いきなり?」
キリヒコの物言いは何時の間にか慇懃無礼なものへ戻っていた。
士は無視して続ける。
「二つ、シャナの世界を破壊しかけた」
「だから一体……」
「三つ、そして今、この世界を破壊の危機に陥れている……」
士はそこまで言うと、未だ膝をついている鳴海ソウキチの方へ顔を向けた。
「……俺も罪を数えたぜ、オッサン」
「坊主……」
士と鳴海ソウキチは互いに頷き合った。
その後、士は視線をキリヒコへと向け直す。
「俺には記憶が無い。だから、紅渡とかいう奴の言う通り、世界の破壊が本当に俺のせいなのかどうかは分からない」
「あなたは一体、何が言いたいんですか?」
「だが、だからと言って、今破壊されようとしているこの世界を見て、そのまま見て見ぬフリをするつもりも無い」
「……何を言っているのかさっぱり分かりませんね」
「お前はさっき言ってたな?『ただ望む者に望むものを提供した、それだけだ』『街を泣かせてるのは、この街の連中だ』って」
「ええ、言いました。それがどうかしましたか?」
「確かに、この街を混乱に陥れたのは、この街に住む悪意ある連中だ」
「ええ。ですから本当の悪はこの街の人間なんですよ。そう言っているじゃないですか!」
「だが、そんな街を守りたいと思う人間がいる。世界が異なっても守ってやりたいと願っている人間もいる。その想いがある限り、この街は何時だってやり直すことが出来る!」
「……………………」
「他人の悪意を利用するお前の様な奴こそ真の悪で、真っ先に排除されるべき存在なんだよ!」
「……言ってくれるな」
キリヒコは再び乱暴な口調に戻る。
「貴様は……貴様は一体、何なんだ!?」
士は「フッ」と笑うと、カードを一枚取り出し、それを見せ付けるように翳した。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」